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 ハヤシライスを美味しく食べ終わった真綾まあやさんとりょうくんは、久しぶりに食べた馴染みのある料理にどこか嬉しそうだった。二人で旅をしてここまで来たらしい。凄いな、それ。異世界人二人で旅とか、どうやって無事に生き延びたのか聞いてみたい。アレか?実は二人とも戦えるのか?!


「戦えねーよ」

「戦うのは無理ねぇ」

「じゃあ、どうやって無事に旅出来たんですか?」

「遼くんの能力のおかげかしら?」

「いや、姉ちゃんの能力のおかげだろ?」


 問いかけたワタシの前で、二人はそれぞれお互いを褒めた。赤の他人とはいえ、この世界に召喚されてから半年近く、二人で力を合わせて生きてきたそうな。そりゃ仲良くなるよねぇ。なお、この二人もワタシと同じように、言語理解というか翻訳機能というかは付いているようでした。……しかもさ、ワタシと違って、文字も書けたらしいよ、最初から。ワタシがポンコツ過ぎる件について!

 てか、能力って、何ぞ?お二人まさか、まさか、チートを所持しているとか、そういう、アレ、です、か……?ワタシが望んでも手に入らなかったチートを、持って、いらっしゃる、と?



「俺、危機感知能力が高くなってるから、危ないところには近寄らないようにしてきてた」

「私、材料さえあれば薬を簡単に作れる能力を手に入れているので、それで体調不良は治してきたの」



 がっでむ!

 カミサマ!何でワタシにはそういう素敵な能力与えてくれなかったんですか!?チート!ワタシもチート欲しかったぁあああ!遼くんの危険感知とか、すっげー格好良いじゃないですか!?つまりそれって、「待って。…嫌な予感がするから、こっちから行こう」とか出来るんでしょ!?ズルイ!格好良い!

 それに、真綾さんの薬が簡単に作れる能力って、やりようにやったらめっちゃお金儲け出来るよね!危ないことは遼くんの感知で避けて、路銀は真綾さんの作るお薬で稼ぐとか出来るんじゃないの!?何この連携技コンボ!同時召喚された日本人コンビってだけでも羨ましいのに、チートまで持ってて、しかも二人で連携したらめっちゃ強そうとか、ズルイ!

 ワタシも、ワタシもチート欲しかったぁああああああ!


「ミュー様、ミュー様には予言があるじゃないですか」

「アレはただの知識なので、チートじゃないんですぅうう!」

「ミュー様にはその、素晴らしい記憶力があるじゃありませんか」

「それはむしろ元の世界にいた時になら喜んで活用するけど、こっちで欲しかったチートじゃないのぉおおお!」


 ライナーさんとユリアーネちゃんが慰めてくれるけど、ワタシは全然嬉しくない。嬉しくないの!予言云々はただのやり込んだゲーム知識であって、ワタシがオタクであることの証明でしか無い。記憶力チートと脳内検索辞書に関しては、もう本当に、何で元の世界で手に入らなかったんだ!としか思えない。これがあったらテストとか楽勝だっただろうに。

 でも、この、魔法があって魔物がいるような世界で、ワタシが欲しかったチートはそれじゃないの。なまじゲームを知ってるから、そういう風に戦える方向のチートが欲しかったの!ワタシだって、チートで無双でヒャッハーしたかったもん!

 ズルイぃと呻いていたら、困ったような真綾さんが頭撫でてくれた。……待って、真綾さん。ワタシ、あの、女子大生って言ったよね?その、子供にするような態度ストップ。だって真綾さん、どう見ても三十前でしょ。そこまで年齢変わらないと思うの!


「まぁ、姉ちゃんの年齢の話は置いといて、……ねーちゃん、王都で顔利いたりするか?」

「うん?ワタシは顔利かないけど、めっちゃ顔利く相棒がいるから、捜し物とか調べ物なら、手伝えるよ?」

「……ミュー様、顔利くっていうレベルじゃ無いと思いますが?」

「え?そうかな?使えるモノは何でも使えば良いと思うんだけど?」

「……えぇ、えぇ、今更なのはわかっております」

「ライナーさん?」


 何でそんな、残念な子を見るみたいな顔でワタシを見るんですか、ライナーさん?あ、ユーリちゃんも視線逸らしてる。待って?ワタシ別に、本当のことを言っただけだと思うの!ワタシには特に情報網とか知り合いとかいないけど、アーダルベルトに頼んだら多分何とかしてくれるじゃない?同郷の人のためにツテを使おうとして何が悪いの?解せぬ!

 まぁ、気を取り直そう。で、君はワタシに何を願うのかな、遼くんや。ワタシ、同じ日本人のためなら色々頑張るよ?


「召喚師に知り合いいねぇか?」

「いない」

「……そっか」

「いないけど、聞いたら凄腕を探し出してくれそうな相棒がいるから、理由を教えて?」

「俺が、元の世界に戻るために、召喚師の協力が必要なんだよ」

「……はい?」


 真面目な顔で言った遼くんに、ワタシは瞬きを繰り返した。元の世界に戻る?え?戻れるの?でも、遼くん達を召喚した召喚師であるところのお爺さんは、もう死んじゃったんだよね?送還できるのは召喚した存在だけだって話じゃなかったっけ?


「私達を召喚した人は、異世界人の話を聞いて研究するのが趣味のような方で、終わったらちゃんと送還して下さるつもりだったんです」

「けど、爺さんも年だったからな。俺達を送還する前に死んじまった。その代わり、召喚に用いた術式を記した書物を残してくれたんだ。それがあれば、ある程度の腕の召喚師なら送還が出来るだろうって」

「……うわー、お爺さんすげぇ。っつーことは、魔法系の管轄だから、アディよりむしろラウラか」


 呼んでちゃんと送り還すところまで考えてるとか、割と良い人に召喚されたんだな、この二人。羨ましい。未だにどこの誰に何のために呼ばれたのか全然わからないワタシとは大違いだ。……てか、そうか。召喚者本人じゃ無くても、術式が解っていれば、送還できるのか。そりゃ羨ましい。素晴らしい限りだ。


 ……ワタシの、ワタシの帰還の目処が微塵も立たない件について!!!!!


 いや、戻らないけど。今の段階じゃ、後味悪すぎて戻れないけど!アーダルベルトの死亡フラグをへし折るまでは絶対に戻らないけど!だけど、戻れるけど戻らないのと、戻れないのでは、意味が違う!意味が違いすぎるよ。ちくしょう。カミサマはワタシに対してだけサドだと思う。


「ユーリちゃん」

「はい」

「悪いけど、一足先に戻って、ラウラに面会取り付けといて。二人連れて戻るから」

「承知いたしました。……それでは皆様、お先に失礼いたします」


 ぺこりとお手本通りのお辞儀をして、ユリアーネちゃんはお店から出て行った。……なお、外に出た次の瞬間、ダッシュしたので、ウサギ獣人ベスティの脚力を生かして伝令の任務を遂行してくれることだろう。……てか、本当に早いな。もう見えないんすけど。てか、あのスピードやばくない?


「ですから、ウサギは脚力が強いと申し上げました」

「ですね。アレで蹴られたら死ねる気がする」

「急所に入れば魔物も一発でしょうねぇ」

「うっわー」


 状況が良くわからなくて首捻ってる遼くんと真綾さんをそっちのけで、ワタシとライナーさんはのほほんと会話を交わした。とりあえず、二人は食後の飲み物飲んじゃってください。それ終わったら戻るから。


「ねーちゃん」

「何?」

「戻るって、どこに?てか、さっきのウサギの姉ちゃん、どこ行ったの?」

「ユーリちゃんには、ラウラって言うワタシの知り合いの凄腕魔導士のとこに言って貰った。詳しい話はそいつに聞こう。召喚術も魔法の管轄だって言ってたから」

「いや、そういうんじゃなくて」

「うん?」


 何やら遼くんとの間で会話が噛み合っていない。アレ?ワタシはちゃんと聞かれたことに答えたつもりなんだけど?

 首を捻っているワタシの隣で、ライナーさんが苦笑しながら口を開いた。……えー、毎度毎度、フォローありがとうございます、ライナーさん。護衛役以上のお仕事押しつけてる自覚はあります。感謝してます。今後ともよろしくお願いします。


「お二人には、これより我々と一緒に、城の方にご同行願います」

「「……は?」」

「正確な名乗りが遅れまして申し訳ありません。私の名前はライナー・ハッシュバルト。ハッシュバルト子爵家の者で、近衛兵として皇帝陛下にお仕えしております。現在はこちらのミュー様の専属護衛という立場にありますが」

「……ねーちゃん?」

未結みゆちゃん?」

「「どういうことか説明!!」」

「何でそんな二人とも怒った顔するの!?」


 ライナーさんの丁寧なご説明+自己紹介を聞いた瞬間、二人はぐるっとワタシを見て、めっちゃ大声で叫んだ。しかも怒ってるんですけど。顔が怒ってるんですけど!確かに驚くかも知れないけど、怒らなくても良いじゃないか!目的地がお城なだけだよ!


「えーっと、ワタシの相棒っつーか保護者?っつーか、ワタシを拾って衣食住の保証をしてくれてるのが、この国の皇帝陛下であるアーダルベルト・ガエリオスっていう、獅子の獣人さんです」

「皇帝陛下って、あの皇帝陛下?!」

「待って、未結ちゃん。待って……」

「あ、でもあんまり気にしなくて良いよ。面白い事と美味しいモノが好きなマイペース野郎だから」

「ミュー様…、身も蓋もないこと言わないで下さい」

「いやでも、ライナーさん、事実じゃ無い?」

「……最近は否定できないなと思うことが多くなっております」

「デスヨネー?」


 ライナーさんはちょっと明後日の方を見てぼやいた。いや本当に。あいつ、人が何か食べてたらすぐに横取りしに来るしな。ワタシのおやつ奪い取るとか鬼じゃ無いだろうか。まったく。しかも顔見にいったら「何か面白い話でもしろ」とか無茶ぶりするし。面白い話なんてそうそうないっていうのに。困った男だ。


「……待った。ねーちゃんの保護者がその皇帝陛下で、さっきから気になってたけど、予言とかどうのって言ってたけど」

「うん?」

「……もしかしてもしかしなくても、《ガエリア帝国の予言の力を持つ参謀》って……」

「あ、それワタシ。すっごい大仰な呼び名だよねー」

「ねーちゃん!?」

「別に予言じゃないのにさー。アディの阿呆が、面白がって大仰に広めやがったせいで、噂が一人歩きしてる感じがするわー」


 やれやれと肩を竦めるワタシに対して、遼くんは何故か胡乱げな顔をしている。何故そんな顔を向けられねばならんのだ、少年。ワタシは本当のことしか言ってないのに。雑談でちょいちょい色々話してた初期の頃から、あの野郎人を大げさに持ち上げやがって。おかげで、噂と本物のワタシのギャップに、ライナーさんなんか時々笑ってんだぞ?

 とりあえず、動揺する二人をなだめすかして、お城に連れて行くことが決定しました。道中、遼くんが何度も何度も「ねーちゃんは頭オカシイ」とか「ねーちゃんマジで自覚ないのかよ」とか色々言ってましたが、何のことかよくわからんのでスルーしました。いや、主語をくれ、少年。

 そりゃ、皇帝陛下の知り合いとか言われたら、驚くかも知れんが。だって、アーダルベルトはアーダルベルトなんだもん。あいつ、ワタシにとってはただの悪友だぜ?



「おぉ、遅かったな」




 だからって、忙しいはずの皇帝陛下が、何でワタシ達の到着を城門で待ち構えてるのか、誰か説明をしてくれんか?



 

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