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 さて、ワタシがこんなにも拘るコーラシュ王国のリヒャルト王子と護衛騎士フェルディナントさんの未来。それは、『ブレイブ・ファンタジア5』の後半に起きるイベントに関係があります。ぶっちゃけ、後半の主人公君のターンにならないと、コーラシュ王国には入らないので。んで、そのイベントは何かと言えば、コーラシュ王国が魔物の大群に襲われるというイベント。

 別にそこは良い。いや、良くないんだけど。魔物の大量発生とか、王都が陥落して大変とか、そういうイベントではあります。その場に居合わせて、けれどたった一人の力でどうにか出来るわけもなく、主人公君が無力に打ち拉がれつつも、できる限りのことを頑張るシーンは感動でもありました。一人でも多く助けようと頑張る姿は、ヒーローって感じであります。

 んで、このコーラシュ王国のピンチでもあるイベント、実は、ゲーム後半の中では一番ファンに騒がれまくったイベントです。何がどう騒がれたかと言えば、「スタッフ!こんな救いの無い展開を用意するんじゃねぇええええ!」という怒りです。怒りでございます。アーダルベルトが死んだのと同じぐらいに、というわけでもないけれど、それに似たぐらいにファンは荒れた。荒れまくった。



 このイベント、いわゆる悲恋イベントなんです。



 どこでどう悲恋になるのかと言われたら、既に国王であったリヒャルトと、変わらず側近で護衛騎士として傍に佇み続けたフェルディナントの、悲恋。……え?意味解らないって?うん、初見だと意味が解らないというか、何でそんなことに?っていう疑問だと思うので、詳しく説明をいたします。

 面倒くさいのは、フェルディナントの設定。

 ルーレッシュ侯爵家は代々王族の側近を輩出してきた家柄。年齢が近い者が、王族の騎士として傍に仕えるのが一族代々の習わしです。その代わり、政治的なことには口を挟まない。ただただ、ひたすらに王の騎士として、盾であり剣で在り続ける。それが、ルーレッシュ侯爵家。

 それだけなら、別に問題無い。幼少時から気心知れた、親友にして側近として、フェルディナントはリヒャルトの隣にいるだけだ。更に面倒くさくなるのは、このルーレッシュ家、時々、性別の存在しない子供が生まれるという家系なのです。何が原因かは不明。ただ、成人するまでは無性体として過ごし、成人したときに男女のどちらかを選ぶというアレ。んでもって、フェルディナントが、なんとそのレア度高い無性体として生まれてきてしまいました。



 うん?それで何で悲恋になるって?



 いや、嫡子だったフェルディナントは、男になるように育てられてましてね。本人も自分は男だっていう自意識で育ってたんですよ。ところがどっこい、思春期迎えた頃から、傍らの主君に淡い恋心を抱いちゃうとかいうお約束。でも、当人も周囲も男だって認識なので、口に出来るわけも無くぐっと我慢の耐え抜く子。何しろ、リヒャルトには男子だって言ってるし。今更いきなり、女子にもなれますとか言えなかったっぽい。

 ここで更に面倒くさいのが、実はリヒャルトもフェルディナントが好きだったというアレ。各国放浪嫁探しをやっちゃうぐらいの女ったらしとして評判になってましたが、実はその原因は、傍らの護衛騎士に恋い焦がれてる自分の気持ちを誤魔化すため。きっと気の迷いだと。見目が麗しい幼馴染みに、勘違いしているだけだと。それを振り払うためにちょっと派手にやらかします、王子様。

 そんなこんなで子供の時代は見事にすれ違い。実は両思いだったのに、お互い言い出せないままに大人になりました。フェルディナントは独身のまま。リヒャルトは家柄の釣り合う国内の貴族の娘を妻に迎え国王に。そんなこんなで在位期間がしばらく過ぎての、魔物の大量発生による王都陥落。

 その時に、その身を挺して国王と王妃を護ったのは、もちろんのこと、護衛騎士として傍近くにいたフェルディナント。己の傷も顧みず、ただただ王と王妃を守り続け、援軍が到着する頃には敵は倒せど彼の人は瀕死。もはや助かるまいという状況で、リヒャルト王は自らの騎士の手を取り、涙を流し、その献身に心を震わせる。

 そして、死に瀕したからこそ、捨てることの出来なかった恋心を、思わず吐露してしまうフェルディナント。墓場まで持って行くつもりだった恋心。叶うはずのなかった淡い初恋。それでも、リヒャルトが結婚しても、子供が生まれても、変わらず愛し続けた愚かさは、フェルディナントの一途な気持ち。

 んでもって、そんな想いを死の淵で告げられたら、リヒャルトも隠しておけなかった自分の気持ち。背後に王妃がいるのも、子供達がいるのも解っているけれど、それでも口にせざるを得なかった。間違っているのだと己に言い聞かせ続けても、それでも心惹かれたのはただ一人、愛しい自らの騎士だけなのだと。その言葉にフェルディナントは目を見張り、死の淵で幸せそうに笑って、それだけで十分と微笑んで、リヒャルトの無事と幸福だけを祈って死んで逝く。

 これはそういう、悲恋イベント。


――ずっと、……ずっと、お慕い申し上げて、おりました……。

――フェル……?

――私は、ルーレッシュ家の異形の業を継ぎました。生まれ落ちたその時に性別を持たず、けれど男子として育てられた。

――それ、は……。

――男子であるべきでした。男子であるはずでした。……幼きあの日、陛下に恋をするまでは。

――……ッ!

――愚かにも、女の己を捨てられず、ただただ、貴方をお慕い申し上げておりました。

――……俺もだ。

――……陛下?

――誤りであると、そう解りながらも、お前に惹かれた。お前だけに心惹かれた。我が騎士、我が友。……ただ一人、我が心を奪ったのは、お前だ、フェルディナント……ッ。


 いやー、正直ね?声優さんの演技は最高だったし、CGも大変麗しかったですよ?腐女子のワタシとしては、イケメンとイケメンでうはうはだったのは事実ですよ。文句はねぇです。つーか、フェルディナントの声優さん、実は女の人だったってのは、皆もビックリした話。ハスキーボイスの女性を起用することで、男女どちらでもイケル設定だったとか。

 それはおいといて。

 つまり、こんな風に、全然救いの無い悲恋とか、マジで勘弁なのですよ。この後コーラシュ王国がどうなったのかは、ゲームではあまり語られない。とりあえず、無事に復興は出来たっぽい。

 でもね?

 最愛の騎士を喪った国王陛下の哀しみとか、眼前で非常事態とは言え、本気で愛してるのはお前じゃない宣言された王妃様とか、それを目撃しちゃった子供達とか考えたら、色々アウトじゃないですか?コーラシュ王国に幸運が訪れるとか絶対に思えないよ。思えないわ!



 そんなわけですので、ワタシとしては、是が非でも運命をねじ曲げて、平和な未来をゲットしたい所存です。



 つーか、ぶっちゃけた話、フェルディナント好きなんで、リヒャルトとくっつけてあげたいです。マル。この時間軸だったら二人とも成人前だし、そうなるとフェルディナントはまだ性別を固定してない筈。ならば、ワタシが介入することで、幸せな未来へ導くことが可能に違いない!


「……つまり、お前はその護衛騎士が本当は女?もしくは女になれる?というのを伝える事によって、二人の間を取り持ちたいと?」

「うい!」

「他人の恋路に首を突っ込むのはどうかと思うが」

「破滅が待ってると解っているので、ワタシは全力で妨害したいの!幸せな二人が見たい!」


 ファンの情熱を舐めるんじゃねぇぞ、覇王様!ゲームのキャラとはいえ、彼らを愛しているのだ。幸せになって欲しいと思うのは普通じゃないか。このイベントに関しては、ブラックレターやら抗議メールやらが制作会社に送られまくったのですよ?だって、一切の救済が存在しない!ひどすぎるわ!

 あと、眼前でこんな濃厚なシーン見せられた主人公君(10代)が可哀想ってのもあった。まだ色々恋愛に夢を見たいお年頃だろうに、めっちゃ濃いの見せられたよね?不憫。頑張れ、君には可愛いヒロインがついてるから、道を踏み外す心配はあるめぇ。

 むぐむぐと必死に訴えるワタシと、呆れ混じりの覇王様。近衛兵ズは相変わらずの大人しく沈黙。もとい、エーレンフリートは豆乳ドーナツもしゃってました。ライナーさんはその隣で紅茶飲んでた。なお、ユリアーネちゃんは給仕をしつつ、笑顔で立っています。口を挟むつもりは無いらしい。ある意味で侍女教育は完璧にされてねーかな?


「つまり、本来は相愛であるリヒャルト王子とフェルディナント殿を取り持つことで、未来を幸福にと言うお考えですか?」

「……うい?その通りですが、どうかしました?ユリウスさん」


 正直、宰相閣下が興味を示される案件ではないと思いましたけど。こてんと首を傾げるワタシと、同じように不思議そうな覇王様。そんなワタシ達の前で、ユリウスさんはにこやかに微笑んでみせた。素晴らしい笑顔です。とてもとても素晴らしい、イケオジのナイスミドルエルフの美貌を完璧に生かした、最高の微笑みです。



 

 背後に、何か悪巧みしてそうなオーラが見え隠れしていなければね!




 えーっと、ユリウスさん?何かこう、オーラが見えてるんですが……?凄腕の宰相閣下にとって、何か良い外交材料でも見えたんですか?ワタシにはわかりませんし、わかりたくもないということなんですが。


「この件を上手くまとめましたら、コーラシュ王国は我が国に敵対する意思は無くなるのでは?」

「……あ」

「少なくとも、リヒャルト王子が即位され、王妃がフェルディナント殿になるとすれば、お二人の仲を取り持った我らガエリア帝国を裏切るような真似はなさらないかと」


 にこやかな微笑みが怖い。嫌だー、ワタシはただ、善意で、もとい自分の萌えに従って頑張ろうと思っただけなのに、宰相閣下が政治的意味を見出しちゃったー。マジでこのヒト有能過ぎんだろうがー。

 どうすんの?と視線で問いかけた覇王様が、軽く頭を抱えてた。……うん、ごめん。ワタシの思いつきの発言が、めっちゃ外交問題に関係しそうな方向へ突っ走ったのは、申し訳ないと思う。でも、ワタシそこまで考えてなかったから。ただ、二人に幸せになって欲しかっただけだから。それを外交に結びつけたの、ユリウスさんだから!ワタシ悪くないよ!


「……まぁ、人助けではあるか」

「うん、人助けだよ、アディ!政治的意味云々は放置して、人助けしよう!」

「……ミュー」

「ワタシが元凶だけど、政治的云々言い出したのはユリウスさんだから、そっちはユリウスさんにやってもらって!」


 ぶんぶんと首を左右に振って無実を訴えた。ワタシは悪くないです。ワタシは悪くないのです!

 はぁ、と盛大にため息をつきながらも、覇王様はちょいちょいと指先でワタシを呼ぶ。何?と首を捻りつつ近づいたら、ぺしりと額を叩かれました。痛くないけど、ひどいです。ふてくされた顔をしても、覇王様は反省してないようです。ちっ。


「とりあえず、具体的にどうするかを考えるぞ。あと、お前はもう少し考えてから発言しろ」

「してるよ!?」

「なら、その倍は吟味してから発言しろ」

「無茶言うなよ!」



 お馬鹿な子扱いされたんですけど、こやつ本当にワタシに対してひどくないですかね?!


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