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「この度は、突然の来訪をお許し下さって、ありがとうございます」
「ははは、堅苦しい挨拶は抜きにしよう。旅の話を聞かせて貰えるとありがたいな」
「それぐらいでしたら、喜んで」
などという、実に和やかな会話を皮切りに、コーラシュ王国第一王子リヒャルト殿下と、我らがガエリア皇帝アーダルベルト陛下の会談は始まった。否、会談っていう名目にしてるだけで、実際はめっちゃ普通に世間話してるだけでしたー。おやつ食べながらの和やかな雑談。
なお、同席者はワタシ(何故か覇王様の隣の席が固定されております。何でや。王子様の正面に座るとか心臓に悪い)と、護衛のライナーさんとエーレンフリート。あと、向こう側の護衛の代表で、フェルディナント。護衛三人はそれぞれ背後に控えております。
……と、言いたいのですが、ちょっと違う。護衛三人、隣のテーブルでめっちゃ普通にお茶しております。フェルディナントの顔がまだ硬いのですが、ライナーさんとエーレンフリートはめっちゃ素。普通。何でかと言えば、今がお茶の時間だからです。お客様がお見えになったからと言って、休憩タイムであるお茶の時間はなくなりません。まがお。
……それは良いんだけど、他国の王子様&その護衛騎士に出すお茶菓子が、ポテチってどうなん????
めっちゃ普通にポテチ。ぱりぱりぱりぱりという、あの軽やかな音が室内に響いております。ワタシがちまちま食べてんのは、オーソドックスな塩味。アーダルベルトが食べてるのは、ブラックペッパー味。ライナーさんは厚切りポテトの塩味をご所望。エーレンフリートは、厚切り固揚げの塩味をもしゃってる。……で、リヒャルト王子とフェルディナントには、シンプルイズベストっつーことで、ワタシと同じ普通の塩味ポテチ。
……なぁ、良いの?王子様に出すお茶菓子じゃなくね?もっとこう、贅を尽くしたおやつ差し出すべきじゃねーの?ワタシはポテチ大好きですけど、これめっちゃジャンクフード!王子様のもてなしに使うようなおやつ違う-!
と思ってるのは、どうやらワタシだけのようです。何故に。アーダルベルトは普通に食ってるし、ライナーさんとエーレンフリートもいつも通り。なおかつ、フェルディナントに自分たちのを試食させてる始末。……で、コーラシュ王国組が、ど真剣な顔でポテチ食べてるというシュールな光景。何故に。
「……驚きました」
しばらくぱりぱりポテチを食べていたリヒャルト王子が、何かめっちゃ神妙な顔で呟きました。美形がそういう顔をすると、イケメン度アップですね。素晴らしい。眼福です。……それなのに、それほどきゃっきゃ出来ない自分に、美形を見慣れてしまったんだという弊害を理解しました。ワタシの周りの皆さんの、顔面偏差値が、無駄に、無駄に、高すぎる件について!眼が肥えちゃったよ!
覇王様を筆頭に、どう考えてもイケメンしかいなかった!タイプは違うけどね!でもほら、ライナーさんとエーレンフリートは普通に若い美形だし、シュテファンはかわいい系美少年オーラ出てるし!ユリウスさんなんて、イケオジナイスミドルですよ!?……ヴェルナーも、黙っていれば、猫被ってれば、優しげな美貌の持ち主であるのは事実だ。アルノーは、まぁ、ワイルドおっさんというカテゴリでおkだろう。
そういう風に考えると、平凡顔しか周囲にいなかったワタシの眼が、無駄に肥えてしまった事実を理解して貰えると思います。おかげで、キラキラ正統派王子様なリヒャルト王子の美形っぷりを見ても、めっちゃ冷静でいられました。……なんか釈然としない。
「ジャガイモに、このような食し方があったのですね」
しみじみとした呟きであった。……え?ポテチになんでそんな感動してるの?ワタシには意味がわからんので、覇王様、説明ぷりーず!
「ジャガイモはコーラシュ王国の特産品だ」
「麦の育ちにくい我が国において、主食となっております」
「……へー。じゃあ、ジャガイモ料理色々あるの?」
わくわくとしながら問いかけた。……なお、口調がいつも通りなのは、既になんちゃって敬語に慣れてないというのを理解してくれたリヒャルト王子御自ら、普通の口調で良いですよと言ってくれたせいだ。ありがとう。ワタシ、偉いヒトと話すの苦手だけど、口調が普通で良いなら、ちょっとは気楽です。
ワタシはこの世界の料理がどういうものか、興味があって問いかけただけなのですが。なのに、首を捻られたのはどうしてですか。美味しいモノを探して何が悪いのですか。解せぬ。
「ジャガイモは主食ですから、茹でるか焼くかして食べていますが……?」
「ミュー、コーラシュ王国でのジャガイモの使い方は、基本的にパンと同じだ」
「…………え゛」
覇王様が補足してくれたけど、思わず眼が点になった。いやいやいや、確かに茹でても焼いても蒸しても美味いけど!ジャガイモさんはそれだけじゃないですよね!?炒めたり煮たり、色んな料理に加工して使いますよね?!何でそんな、丸ごと茹でましたオンリーです、みたいな顔してんの、王子様ぁああ?!
納得がいかん。ジャガイモさんが可哀想です。ワタシ、ポテトサラダもコロッケも、マッシュポテトも好きなんですが。肉じゃがも美味ですよね。あと、ジャーマンポテトも良い。フライドポテトも素晴らしいですけど。それに、ビシソワーズとか最高じゃないっすか。あと、ガレットとかも。それに、シチューやカレーに入れるのも良いと思……、あ、シチューはともかく、カレーってこの世界に存在するのか?
「なんだソレは」
「カレーさん存在してなかった?!」
ガッデム!
あんなに素晴らしいカレーさんが、まさか存在していないとは!確かに、そんな予感はしてたんだ!だって、この世界、中世西洋風なんだもん!あくまで風なので、現代の食材とか調味料がゴロゴロしてるところは無視して下さい!……多分ね、ゲーム内の料理システムの為だと思うの。回復アイテム作る感じで、食材とレシピ手に入れたら料理出来たので。最近のゲームではわりと見慣れたシステムですよね。うん。
くっそー……。カレーさんいないのかぁ……。これはちょっと、脳内辞書をフル稼働して、カレーのレシピを思い出そう。んでもって、シュテファンに食材揃えて、作って貰おう。カレーは素晴らしいんだからな。パンにもご飯にも合うし、個人的に醤油出汁で薄めてカレーうどんにするのも絶品だ。カレーパスタもあったな。具材変えたら色々アレンジできるし。うん、頑張ってカレーを作って貰おう。ワタシが食べたい。
「……ミュー」
「はい?」
ワタシがカレーさんに思いを馳せていたら、覇王様がぺしぺしと頭を叩いてきました。何ぞや?と見上げてみれば、指をすいっとリヒャルト王子の方へ。釣られて視線をそちらに向けたら、爽やか正統派イケメン王子様(現在は世界各国嫁探しの旅を実行中なので、若干チャラ男っぽい雰囲気を無理矢理演出中)が、物凄く期待に満ちた瞳でワタシを見ておられました。何でや!
「ジャガイモには、有効な活用方法があるということですか?」
「……いや、有効な活用方法っていうか、色々とアレンジができますよね?っていう話です、が……?」
「その料理を教えて頂くことは、可能ですか?」
「……はいぃ?」
いやいやいや、アンタ、一応嫁探しの旅の途中じゃねーの?何でいきなり、そんな料理に目覚めたみたいな顔してんの!?これ何か意味あるん?レシピ求められてるみたいですけど、ドウイウコト!?
隣の覇王様は、めっちゃ普通にポテチ食べてた。……いや、そこはワタシに対してフォローしようや?お前、一応親友じゃねぇの?ひどくね?
っていうか、レシピ教えろってどういうこと?そういうのはワタシじゃなくて、料理番に言って下さい。シュテファン、シュテファンを呼べー!専門家に聞いてくれー!
「そもそも、お前が口にした料理を、シュテファンが知ってるかどうかも怪しいぞ」
「…………な、ならば、シュテファンに作って貰って、実食するというのが良いんじゃないかな!?ワタシ本職の料理人じゃないもん!」
「まぁ、別段レシピを渡したところで何も困らんからな。後でシュテファンと打ち合わせしておけ」
「打ち合わせ?」
「王子が滞在中の食事はそのジャガイモ料理を色々作れ、と」
「…………シュテファン、ごめん」
思わず拝むような仕草で呟いてしまった。
いやだって、来賓をお出迎えしてのお食事ってさ、絶対にずっと前から献立決まってるよね?それに合わせて食材を調達したりしてるよね?料理番達の戦場だよね?それが大判狂わせになるのって、本当に申し訳ない。申し訳ない。マジごめん、シュテファン。後でちゃんと謝ろう。
っていうか、ガエリアでも普通にジャガイモ食ってたと思うんだけど?ワタシの記憶にある限り、スープに入ってたし、ステーキとかの合わせ野菜にも茹でて使ってたし。じゃがバターも堪能した記憶がありますが?
「煮る、焼く、茹でる、ぐらいしか使っとらんと思うぞ。俺もそんなに詳しくは知らんが」
「……もしや、料理番さんたちが、ポテチにヒャッハーしてたのって、そのせい?」
「手軽に安価で酒のつまみにも子供のおやつにもなる料理なんぞ、料理番が食いつくに決まっとるだろうが」
「マジか……」
なんてこったい。ワタシはただ、懐かしのジャンクフードが食べたかっただけなのに。むぐぅ。ゲームでジャガイモ料理少なかったかなぁ……?ゲームにあった料理レシピ、今度思い出してみよう。んで、それに無かった料理を、シュテファンに作って貰おう。とりあえず、マッシュポテトはあった気がする。ステーキの付け合わせに。……それならポテサラもありそうなのに、ないっぽいんだよなぁ。解せぬ。
ってことは、ワタシ、このおやつタイムが終わったら、シュテファンの所に直行ルートですね。むぐぅ。色々話を聞いて、今後の対応策の参考にしようと思ったのに。じゃあ、そっちはアーダルベルトに任せよう。任せたぞ、悪友よ。
「……何だ?」
「ワタシ、おやつ終わったらシュテファンと色々相談してくるから、
「……まぁ、適当に頼まれてやろう」
「適当言うなし」
ぺしぺしと互いを叩きながら軽口を繰り返していたら、リヒャルト王子が驚いたような顔で我らを見ておりました。……まぁ、そういう反応にも慣れましたですよ?有能で評判の覇王様が、ワタシみたいな小娘と、普通の青少年みたいにじゃれあってるの、異質に見えるんでしょ?でもな、皆さんが思っているより、こやつ、めっちゃお茶目ですけど?悪友モードを舐めちゃいかんの。
そんなわけなので、ワタシには、シュテファンと料理を考えるという任務が追加されたのでありました。ちくせう。
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