8章 オタク腐女子、本気出す
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「ミュー様、専属の侍女を付けたいと思うのですけれど」
「全力でお断り申し上げます!」
大司教一派のごたごたからしばらく経ちました。ワタシは、特に大きなイベントもなかったので、平和に過ごしています。……あちこちで討伐対象の魔物やら盗賊団やらが出てくるイベントについては、ちゃんと場所と日時をアーダルベルトに伝えた結果、騎士団やらそこらの冒険者やらが退治しているとのこと。ゲームでは覇王様御自らぶっ潰しに走り回ってたけど、よく考えなくても、そんなことしなくても情報流して潰して貰えば良いもんね。うん、やっぱりゲームはゲームだった。
んでもって、そんな平和を満喫している昼下がり、夏の日差しは暑いので、冷たい飲み物で喉を潤してきたときに、女官長のツェツィーリアさんがやってきて、笑顔で先ほどの台詞である。思わず条件反射で全力で叫んでしまいましたが、ワタシは何も悪くはありません。侍女とか女官とかの皆さん苦手です。だって、皆さん脳みそお花畑なんだもん!!
あのヒト達目敏く、ワタシの右手に指輪がハマッてるの確認して、妄想に拍車かけてるから!!
そりゃね?これが魔導具だって言えないのよ?だって、超レアな魔導具だもの。国宝級だもの。実は指輪じゃなくて、
どこの誰だ!結婚指輪とか言い出したのぉおおおおお!右手に付けてんだろうがぁああああ!
そういうのは左手!左手の薬指なら意味があると思うけど、右手はただのお洒落!ワタシの場合は、外すことを赦されてないので、これはむしろ手錠とかと同じ!首輪に等しい!なのにそれを説明できないので、侍女や女官の皆さんの妄想はエスカレートして、脳みそお花畑が絶好調で、めっちゃ笑顔で見られるんですけど、理不尽!いらない!面倒くさい!
その状況で専属の侍女?いりません。いりませんから、女官長。だってワタシ、別に貴族様じゃないもの。身支度自分でできるし。わざわざ専属の侍女さんを付けて貰う理由がわかりません。もとい、いらないです。まがお。
「ミュー様、ヒトの話は最後まで聞いてからにしてくださいませ」
「ヤダ!ワタシ、脳みそお花畑と四六時中付き合うの無理です!」
「ですから、その脳みそお花畑対策です」
「……へ?」
首がちぎれるぐらいの勢いで左右に振っていたら、がしっとツェツィーリアさんに両頬を掴まれました。うぐぐ、流石、虎と猫のハーフ。たおやかな見た目の女性だというのに、めっちゃ力強い。ちくしょう。
っていうか、ツェリさん、今、何言った?脳みそお花畑対策?その、ツェリさんの後ろにいる、15、6歳ぐらいのウサギのお嬢さんが?
「こちらのユリアーネは、半月ほど前から侍女として奉公に来ている娘です」
「ミュー様、お初にお目にかかります。ユリアーネ・イドゥンと申します。どうぞ、ユーリとお呼びください」
「……えーっと、ご丁寧にどうも?んで、ツェリさん、彼女がどういう対策で?」
「侍女、女官の若手の中で、唯一、脳みそお花畑では無い娘です」
「え?ナニソレ、凄いね!こんにちは、ユーリちゃん。今後もよろしく仲良くしてください!」
「え、えぇえ?!」
掌を返してるとか言わないで下さい。ワタシが誰より解ってる。でもでも、ワタシと年齢の近い、10代から20代の皆様は、完全に脳みそお花畑なんですよ!マトモに会話が通じる侍女や女官さんって、基本的に年配のヒトが多かった。その中で、同年代で、話が通じそうな子とか、状況を把握してくれてる子とか、ワタシには女神にしか見えないからね!
がしっと手を握ったら、ユリアーネちゃんはびっくりした顔をしていたけれど、振り払われはしなかった。……まぁ、皆さんの認識では、ワタシの方が身分が上とかになるんだろうけど。ウサギのお嬢さん、可愛いです。ウサギと言ったら白兎をイメージするかもしれないけれど、彼女は茶色。アイボリーっぽい柔らかな色合いのお耳が、ぴくぴく動いていて可愛いです。頭髪もそれと一緒で、柔らかな茶色。邪魔にならないようになのか、三つ編みお下げが可愛いです。
「っていうか、そんな逸材がいてくれたとは思いませんでした」
「正直、私もそのような娘がいるとは思いませんでしたが、真です。ユリアーネは、陛下とミュー様のご関係をきっちり理解しております」
「え、もうそれだけでワタシ、ユーリちゃんを手放す理由が無いんですけど、ツェリさん」
「更に、彼女はウサギですので、大変耳が宜しいです。警戒にもってこいです。あと、戦闘担当の侍女に欲しいと言われるほどに優れた身体能力を持っていますので、多少の警護ならばつとまるかと」
「ほうほう……。って、え?」
何か、途中で凄くオカシイの入らなかった?耳が良いのはウサギだから理解しますけど、その続き!戦闘担当の侍女に欲しいとか、それになれるぐらいの能力とか、警護役とか?!どういうことですか、ツェリさん?!ワタシの護衛、一応ライナーさんいますけど?
「ライナー殿は男性ですので、どうしても傍に居られない時もございましょう?そういう時でも、彼女ならばお側にいることは出来ますから」
「……お、おぅ、そういうこと、ですか……」
にっこり笑ったツェツィーリアさんの顔が、ちょっと怖かったです。おk、わかった。オカンはまだ、この間のワタシぶっ刺し事件を忘れてないと言うことですね。いやでも、あの、貴方とユリウスさんの主導の元で、こんな超レアアイテム装備させられてるんですけど、ワタシ!それでもまだ駄目ですか?護衛担当増やす方向に頑張るぐらいに、アウトですか?
三つ編みお下げのウサギ娘。普通に可愛いユリアーネちゃん。彼女はどう思っているのかと見てみたら、何かめっちゃキラキラした顔をしてたので、ワタシに対して好意的なのは間違いないだろう。もっとも、そうじゃなかったら女官長が連れてくるわけないんだけどさー。
「えーと、専属の侍女って、具体的に何するんですかね?」
「基本的には、ミュー様の身の回りのお世話ですね。……ですから、今まで侍女や女官に頼んでいたことは、全てユリアーネが窓口になります」
「よし、採用です。脳みそお花畑との接触が減るということですね、理解しました。ユーリちゃん、申し訳ないが、ワタシの為に防波堤になってくれ!」
「は、はい!私で宜しければ、精一杯勤めさせて頂きます」
ぴょこんと飛び跳ねる勢いでお辞儀をする姿が、めちゃくちゃ可愛いです。うぉおおお、ウサギ耳、撫でたい-!い、いかん。初対面なのにそんなことをしてはいけない。過度のスキンシップは親しくなってからである。よし、ユリアーネちゃんと仲良くなって、耳を触らせて貰えるように頑張ろう。念願のウサギだしね!
……え?どっかのロップイヤー?あいつは違う。アレをウサギだとはワタシは認めぬ。ウサギってのはこう、愛らし生き物でないといけないと思うの。乗馬の師匠だったお姉さんも、可愛いウサギさんでした。あのロップイヤーは違う。あんなのウサギとは認めない。あんな、下克上レッツゴーの腹黒眼鏡をウサギと認めたら、全国のウサギ好きさんに申し訳が立たない!
「ところで、戦闘担当って何ですか?騎士団とか近衛兵とかに欲しがられたんですか?」
「いいえ。我が城には、侍従、女官、侍女には通常業務のみ行う者と、戦闘を担当する者とがおりますので」
「……は?」
ナンデスト?
詳しく説明を聞いたら、侍従、女官、侍女の文官系かつ城内にたくさんいる面々の中に、何人かは戦闘特化タイプがいるのだとか。そもそも、それ以外のヒトだって自分の身は自分で守れるのがガエリア王城です。その中で、あえて戦闘特化を作る意味を聞いたら万が一の対策だとか。護衛が側を離れた場合の、貴人の警護。常日頃から王城内にいるので、不審者の迎撃。勿論全体量で見たら数は少ないんだけど、ユリアーネちゃん、そこに誘われるぐらい強かったらしい。……どういうこったよ。可愛いウサギだと思ってたのに。
とはいえ、実家が商人のユリアーネちゃんは、礼儀作法を習うために来てるだけだそうで。任期が終わったら、普通に実家に戻って商人のお父さんを手伝うそうな。そんなこんなんで戦闘侍女にはならずにいたのだけれど、それならとワタシの担当にとツェツィーリアさんが白羽の矢を立てたのだとか。…人生ってどうなるかわからないんだねぇ、ユーリちゃんや。
「ユリアーネを推薦したのは、彼女が庶民だからと言うのもございます」
「はい?」
「庶民の方がミュー様とは感覚が近いでしょうし、年の近い話し相手は必要でございましょう?」
「……ツェリさん……っ」
あぁ、このオカンは本当に色々ちゃんとしてくれてて、涙が出そうです。ぶっちゃけ、これで、話し相手として貴族のご令嬢とか連れてこられても困るのですよ。だって、会話が通じない。ワタシに対お貴族様モードなど搭載されてはいません。そもそも、どう考えてもいつかの
不思議そうに首を捻っているユリアーネちゃんは、裕福な商人の家のお嬢さんだとか。それなら、庶民派代表のワタシと話も合うだろうとの事。マジでツェツィーリアさんが素敵なオカン過ぎて泣けてきます。ありがとうございます、大好きです。
「それでは、私は仕事がありますので、これで失礼いたします。ユリアーネはまだ侍女としては至らぬ部分もありますが、そこはお目こぼしを」
「あ、大丈夫です。むしろワタシの方が色々アウトだろうし」
「そうですわね」
「否定してくれなかった?!」
それでは、と麗しい笑顔で立ち去っていく女官長。ワタシの謙遜というか自虐ネタに対して、めっちゃ笑顔で肯定して去って行かれました。わかってるけど、わかってるけど!ちらりと視線をライナーさんに向けたら、にっこり笑顔でした。いつもの笑顔でした。デスヨネー。今更だったー。
可哀想に、ユリアーネちゃんは、どう対応して良いのか解ってないようだけれど。
「あ、あの、ミュー様」
「うん?何かな?」
「私、これでも幼少時は行商人だった父と一緒に遠方まで出かけていましたので、魔物退治も出来ます。夜盗と戦ったこともありますし、この通りウサギですから気配には敏感です。あと、ほんの少しですけれど魔法も使えますので、どうかよろしくお願いします!」
「……お、おう。了解です。よろしく、ユーリちゃん」
何か、思った以上にハイスペックっぽいぞ、このウサギちゃん。ねぇ?君、外見年齢的に15、6歳ぐらいに見えるんだけど、そんなお嬢さんが魔物とか夜盗とか退治出来ちゃうの?ライナーさんに視線で問いかけたら、不思議そうに首を傾げられた。
「ウサギで、というのは珍しいかも知れませんが、我々
「本当に獣人ぱねぇな!」
「そもそも、エレンなんて、物心つく前から魔物を狩って生活していたそうですよ。あいつは狼ですが」
「マジでか?!流石すぎるわ、エーレンフリート!」
相変わらず、獣人さんたちのスペックがおかしいことに驚愕である。ちっくしょー。そりゃ、人間の中でも運動神経が底辺で、特に修行も何もしてないワタシが、へっぽこ最弱になるのも普通じゃないかよー。こんな可愛いウサギのお嬢さんですら、ワタシより圧倒的に強いのか。流石、獣人。流石、ガエリア帝国。
「そもそも、ウサギは身体能力高いですよ。脚限定なら、我々より上です」
「……あー、確かにウサギ、脚早いもんね」
「早いだけでは無くて、脚力が凄いです。…蹴り技なら、ウサギが一番強いでしょうし」
「……ウサギもぱねぇのね!?」
そんなワタシとライナーさんのやりとりを、ユリアーネちゃんはニコニコ笑って見ていた。よし、わかった。この子、ワタシとアーダルベルトの関係を正確に理解してるのも凄いけど、めっちゃ図太い。或いは、日常的なワタシ達のやりとりを見てて慣れたと見た。まぁ、そういう子だから、ワタシ専属とかにされるんだろうけど。
「とりあえず、これからよろしくね、ユーリちゃん」
「はい、よろしくお願いします」
っつーわけで、めでたくワタシに、専属の侍女さん(護衛も出来る)が付きました!マル!
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