69


「ところで、ワタシを刺した神父さん、どうなってんの?」


 空腹も満たされたところで、気になったことを問いかけたら、周囲が沈黙しました。え?何?もしかして、既に処刑首ちょんぱされたとかいう話ですか!?嫌ですよ、そんなの!ワタシのせいで誰かが処刑とかまっぴらだし、まず第一に、あの神父さん、絶対に主犯じゃ無い!実行犯ではあるけど、主犯じゃ無いと思うの!情状酌量の余地があるタイプだと思う!


「落ち着け。とりあえず牢屋に放り込んで事情聴取をしているが、ほぼ黙秘だ」

「あ、生きてた。良かった。うっかり処刑されてたらワタシの精神衛生上宜しくない」

「そう言うだろうと思って、処分はお前が気づいてからにすることになった」

「ありがとう、アディ」


 うむ、流石は悪友というところでしょうか。ワタシの思考回路などお見通しみたいですね。素晴らしい。流石です。そういう気遣いは大歓迎ですよ、覇王様。ありがたや、ありがたや。

 周囲が「えー……」と言いたげな顔をしていました。え?何で?皆さん何でそんなに好戦的なの。あの神父さんは確かにワタシを刺したかもしれんけど、ワタシも怪我で寝込んでたけど、でもあの、理由は聞いてからの方が良いと思うの。刺されたお前が言うなって?いやいや、刺されたワタシだから、言うんですって。

 だって、あの神父さん。


「あのヒト、タコパに来てたんだよねぇ……」


 ぼそりと呟いたら、一同の視線がワタシに集中した。いや、事実ですよ?記憶探ってみたら、あの神父さんいましたもん。皆がおっかなびっくり食べてる中で、一人ニコニコ微笑みながら普通にたこ焼き食ってたし、タコ平気なのか聞いたら、「こんな調理方法があるとは知りませんでした」って普通に会話してくれたよ。あと、昔飢餓で死にそうだったときにタコ食べてみたけど、調理法が下手だったからすごく不味かったとも言ってた。割と柔軟な思考の神父さんだよ。


 つまり、だからこそ、彼がワタシを敵視する理由が、わからん。


 いや、そもそも、敵視はされてないと思う。あのタコパでのやりとりが演技だったとしたら、主演男優賞モノですがな。でもあの神父さんはそういう腹芸が出来るタイプじゃ無いと思う。だから、何か理由があったんだと思う。だって、彼、ワタシに謝ったしな?


「小娘、貴様どこまで暢気なんだ」

「うひゃ!?ヴェルナー?!」


 絶対零度みたいな感じの声が聞こえて顔が引きつった。声も引きつった。無表情の腹黒眼鏡登場です。いやー!黙ってたらロップイヤーの美青年なのに、無表情怖い!しかもオーラがめっちゃ怒ってる。こ、ここはやはり、最強の盾アーダルベルトを利用しなければならぬ!つーわけだから、アーダルベルト、ワタシの盾になってくれ!


「どこの世界に国主を盾にする参謀がいるんだ、この阿呆が」

「痛い、痛い!ギリギリやめて!ワタシ病み上がりだもん!」

「やかましい。単純な体力低下だけだろうが。傷は完璧に治した」

「だからって頭ギリギリして良い理由にならんだろ!?アディ、助けろし!」


 盾にしたはずなのにアーダルベルトはさして役に立たず、伸びてきたヴェルナーの腕に頭ギリギリされております。痛い、痛いよ、マジで。傷は治ってても、一週間眠ってたワタシの体力は推して知るべしだと思うな!?そりゃ、ご飯食べてある程度復活はしてるけど!それでも、頭ギリギリする理由にはならないと思う!

 っていうか、お前さっさと助けろよ、悪友だろ!?


「いや、楽しそうだったからな」

「楽しくねぇよ!?」

「誰も遊んでなんかいねぇわ!」


 真顔でアーダルベルトが答えた瞬間、ワタシとヴェルナーが同時に叫んだ。変なところでズレを発揮するんじゃありません、覇王様!お前にも常識が欠けてると最近思うわ!まったくもう。

 つーか、ヴェルナー、入ってきたときから本性炸裂だけど、ここにいるメンツならおkってことなの?なお、今室内にいるのは、ワタシ、アーダルベルト、ラウラ、近衛兵ズ、ツェリさんだったりします。女官長様もオッケイと思わなかったぜ、腹黒神父様?


「こいつの本性を知ってるのは、旅の仲間とここにいる面々以外では、後は宰相ぐらいか。……あぁ、教会にも一人いたな。これの本性を知りつつ、的確に補佐することで周囲の被害を食い止めようとしているのが」

「何そのとても美味しい存在。お兄さんか?お姉さんか?それともおっさんか!?」


 思わず食いついてしまいましたが、ワタシは悪くない。腐女子としては、そこは食いつかなくては!ロップイヤーの腹黒眼鏡神父の傍に、それを知った上で的確にフォローする常識人がいてくれるだとぉ!?年齢性別によって好みは分かれるが、なんて美味しそうな関係性なんだ!早く教えろし!


「何でそんな食いつき方するんだ……。……確か、ヴェルナーより10ほど年下の男じゃなかったか?」

「あのバカのことはどうでも良い。俺にとっては、小娘の暢気の方が重要案件だ」

「そこは忘れてくれてても良かったかな!?」


 ベッドの上なので逃げ場所はありませんが、ぶんぶんと首を左右に振って訴えた。いやだって、ほら、終わりよければ全て良しってことにしとかない?あ、そういやヴェルナーが治療してくれたんだっけ?ありがとう。


「ちっとも心がこもってないぞ、小娘」

「いや、込めてます。感謝してます。……ところでさ、ヴェルナー的に、今回の黒幕の目星ついてんの?」


 常に下克上レッツゴーを狙っている腹黒眼鏡。君ならきっと、今回の事件のあらましも把握しとるんじゃないかね?むしろ、何か察してたから、ワタシに忠告してたとかじゃないのかとか、色々勘繰りたくなるんですが。だってヴェルナーは腹黒眼鏡だし!


「お前は俺を何だと思ってるんだ」

「痛い、痛い!」

「……まぁ、見当は付いているが」

「マジかよ!じゃあさっさとそっちしょっぴけば良いじゃん!あのお兄さんだけが悪いわけじゃないし!」

「刺されたお前が言・う・な。……俺がいなけりゃ、今頃死んでたぞ」

「マジで!?」


 それは知らなかった。そうか、そうかぁ……。うん、ありがとう、ヴェルナー。流石、ゲーム中で「稀代の天才」とか言われてるだけはある。正直、腹黒に神父とかどうなん?って思うけど、回復魔法の適正が鬼高いんだよねぇ、こいつ。おかげで助かったのか。良かった、良かった。

 また頭ギリギリされそうになったので、ベッドの奥へと引っ込んだ。いやー、無駄に大きなベッドも役に立ちますねぇ。ははは!


「というかヴェルナー、俺はその辺初耳だが?」

「まだ証拠固めが出来てねぇ。万全に整ったら、阿呆をそっくり差し出してやる」

「わかった」


 うむ、流石常日頃から下克上を狙っている男は違いますな。何かもう、準備万端で暗躍してますオーラがすっげーでてるぞ、ヴェルナー。そして誰も止めないんだな。ヴェルナーだしって思ってるワタシもワタシですが、周囲も全員「それなら結論が出るまで待つか」ぐらいのスタンスですよ。え?ナニコレ。これがいつものことなんですか。ヤダ怖い。


「じゃあさ、あのお兄さんには温情お願いね?」

「……小娘」

「だって、悪い人じゃなかったよ。ヴェルナーのおかげでワタシも生きてるし。元気だし」


 正直、刺されたって言っても、あのお兄さんに恨みが沸かないんだよねぇ。だって、どう考えても、無理矢理手駒にされて、実行犯押しつけられただけっぽいし。そんな不憫なヒトに追い打ちかけたくないです、ワタシ。あとねぇ、一般人のワタシにしてみれば、自分のせいで誰かがヒドイ目に遭うのはあまり嬉しくないのです。罰則は必要かも知れんが、情状酌量はアリじゃないかな?

 ……え?お前、テオドールには容赦しなかっただろ?いやいや、あっちは重罪でしょうが。国家転覆ぐらいのレベルじゃ無いですか。クーデター企てた王弟には容赦などいらん。しかも通算5回目ぐらいだっただろ、あいつ。それに比べたら、ワタシみたいな小娘を刺しただけのお兄さんなんて、可愛い可愛い!


「全然可愛くないぞ」

「むしろ同レベルで重罪じゃがのぉ……」

「小娘、お前本当に脳みそ入ってんのか?」


 べちりと頭を叩いてきたのはアーダルベルト。呆れ混じりに嘆息しているのはラウラ。腕を伸ばして再びワタシの頭をギリギリしてきたのは、ヴェルナー。痛いよ!何でそんなに暴力的なんだよ、男二人!……なお、助けを求めようと視線を向けた先では、女官長様は麗しの美貌でにっこり微笑んでおられたけれど、何かオーラが黒かった。近衛兵ズは色々諦めたみたいにワタシから目線を逸らしていた。ちょ、ライナーさんまで?!

 いやいやいや、皆さん何か勝手に大事にしすぎじゃね?ワタシなんて、ただの異世界からの召喚者の小娘じゃん!国の役職に就いているわけでもなし、何か無双できるとかチートモードとかじゃないじゃん!?戦力にもならない、箸にも棒にもかからないただの小娘でしかないですよ!?それなのに、何でそんな反応するの?解せぬ。


「だから小娘、お前いい加減一般人感覚を捨てろ」

「ワタシはただの非力で無力な一般人だよ!?」

「ヲイ、陛下」

「言うな。どう足掻いてもこいつに自覚は芽生えん」

「……ちっ」

「ちょ、アディ!?どういう意味だよ!」


 まさかの悪友が裏切ってくれた!ヒドイ!ワタシは本当に、何も出来ないただの無力な小娘じゃないっすか!…常々、異世界転移のお約束として、物理チートとか魔法チートとかあれば良かったのにと痛感してるというのに。本当にねぇ。今回のことだって、ワタシに戦闘能力系チートがあれば、全然平気だったわけで。…あぁ、ほら、やっぱりワタシ、何も出来ないただの小娘じゃね?

 ね?と笑顔で問いかけたのに、怖い笑顔のヒトと目線を逸らすヒトしかいなかった。なーんーでーぇえええ!?


「と、とりあえず、教会内部のことだし、後はヴェルナーにお任せってことで!」

「小娘」

「あの神父のお兄さんにも、ちゃんとお話聞いてあげてください。以上!ワタシは療養のために寝ます。オヤスミ!」

「それだけ元気があれば療養なんぞいらんだろうが、小娘!」


 言いたいことだけ言って、逃げるようにベッドの上で掛け布団を頭から被りました。ははは、腹黒眼鏡が何かを叫んでいるが、ワタシは知らぬ。ワタシには関係無いのだ。だってワタシは病み上がりなのだから!




 つーわけだから、大人しく寝ようと思うんで、お前いい加減、布団越しにヒトの頭撫で撫ですんの止めなさい、覇王様。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る