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「タコパー、タコパー。タッコッパー!」


 ひゃっほいとワタシが小躍りるんるんで鼻歌なんか歌っちゃってるのは、鋳物職人のお爺さんから、フライパン型たこ焼き器をめでたくゲットしたからであります。数が必要になるので、複数作って貰いました。たこ焼きは一人で作るのは大変です。シュテファンにも手伝って貰わないと。……え?タコから逃げてるのにって?大丈夫。シュテファンはそろそろ慣れてきてる。

 そんなわけで、頭に疑問符ハテナマーク浮かべてるシュテファンを傍らに、相変わらずゲテモノを見る目でタコを遠巻きに見ている料理番さん達をスルーして、ワタシはたこ焼きを作ることに決めたのであります。タコパをしたいと思ったので。ここで大量に作って、別室に運んで、奇特にも参加してくれるという人たちに振る舞うと言うだけ。なお、中身がタコとは言ってない。一切説明していない。したらきっと誰も来ない。食べてから判断して貰おう。だって、食わず嫌いは良くないと思うの。

 実際、アーダルベルトは食えるって認識してから、全然気にせずタコ食べるし。それを間近で見てた+アーダルベルトに勧められて、エーレンフリートも普通に食べるようになったし。ライナーさんは割と早い段階で食べてた。何しろ、ワタシが隣で食べまくってたので。ユリウスさんはまだ微妙な顔をしてるけど、食べてることについては何も言わなかった。だっから、うにょうにょの姿を想像するから食べにくいだけで、調理しちゃえば全然気にならないと思うんだよね!

 とはいえ、見た目からタコを連想するヒトも少なからずいるわけで。それならば、タコと解らぬようにしてしまえば良いのだ。というか、たこ焼きはタコ苦手なヒトでも食べられるという素晴らしい料理だし。おやつに良し、食事に良しの大阪人のソウルフードだよね。ワタシ大阪違うけど、たこ焼き好きですよ。

 流石にまだタコを切るのは苦手っぽいシュテファンに、生地の用意をお願いしといた。出汁と小麦粉と卵で簡単にできるからな。あと、我が家はちょっとだけ牛乳も入れる派でした。水じゃ無くてあえて出汁。出汁は大切です。関西人は出汁を大切にします。でないと味が変わる。具材はキャベツと紅ショウガとタコでシンプルに。天かす入れたり、仕上げに油で揚げたこ焼きっぽくするのもあるけど、今回はオーソドックスにふわふわのたこ焼きを目指そう。

 下処理をして茹でたタコを、容赦なくぶつ切りにしていくワタシ。隣でシュテファンは黙々と生地と具材の用意をしていた。玉にならないように混ぜるの大変だよね。頑張って。それに比べたら、タコをぶつ切りにするのなんて簡単簡単。……いい加減、いい大人な料理番さん達も、タコに怯えるの止めよう?こいつただの食材だから。


「ミュー様、それで作り方は?」

「熱したたこ焼き器の穴に、半分ぐらい生地を入れて、具材を入れて、また生地を満タンまで入れる」

「はい、入れました」

「後は、生地が固まるまでちょっと待つ」


 何事も初チャレンジです。失敗しても気にしない。まずは味見を兼ねて、フライパン一枚分、たこ焼き10個ほどです。……いや、ワタシの手で持てるサイズをお願いしたからね。鉄製のフライパンって重いやん。

 生地に火が通ってきたなと思ったら、串でくるくるひっくり返して、まん丸の形を整える。……流石に、たこ焼き用の千枚通しは無かった。串で代用してるけど、今度千枚通しをたこ焼き用に調整して貰おう。

 久しぶりだから失敗するかと思ったけど、案外上手に出来ました。できたてのたこ焼きをお皿の上に乗せ、ソースとマヨネーズ、鰹節に青のりでトッピング!まずはオーソドックスなたこ焼きさんを食べよう。……個人的には、醤油とか梅だれとかポン酢とか天つゆとかも好きです。何も付けないのも好きだけど。

 熱々をはふはふしながら食べる。美味しい。シュテファンもおっかなびっくり食べている。……何気に初タコだね、シュテファン。でも、見た目にタコが無いから、まだ食べやすくない?できたては熱いから火傷に気をつけてね?


「……美味しい、ですね」

「でしょー?よし。出汁の配分も良い感じだし、どんどん焼こうね!」

「はい」


 ぽつりとシュテファンが呟いた瞬間、背後で阿鼻叫喚が起きていたようですが、ワタシは知りません。ワタシはシュテファンとたこ焼きを作るのに忙しいんです。タコが怖いとか子供みたいなこと言ってないの!っていうか、こっちを見物するぐらいに暇なら、たこ焼き作るの手伝ってよ!


 とりあえず、途中から何人かの料理番さんたちにも手伝って貰って、大量のたこ焼き完成しました!


 お客さんをお迎えするお部屋に運んで貰います。なお、味付けは何もしない状態で。ソース、マヨネーズ、鰹節、青のり、ねぎ、ポン酢に醤油に天つゆに、と色んな味付けの材料は別に運んで貰って、1カ所に固めて貰っておいた。最初に何も付けないで食べて、その後自分で好きに味付けして貰おうと思ってね!好みって大事!

 今日のために用意して貰ったお部屋には、侍従やメイド、女官さんだけじゃなくて、騎士さんとか文官さんとか色々いました。なお、この人達には、「ワタシの故郷の異世界料理をご馳走したいので、興味ある方は是非どうぞ」としてお誘いしました。タコだと知っているヒトはいない。あと、ワタシが招待した鋳物職人のお爺さんが、思いっきり浮いてる自分に面倒そうな顔して部屋の隅っこにいた。ごめんよ、お爺さん。


「皆さん、どうぞお好きな調味料で食べてくださいね!まだ熱いので、お気を付けて☆」


 笑顔で告げたワタシに、皆さんは頷いた。給仕は料理番の皆さんが手伝ってくれている。…なお、彼らはまだ頑なに食べようとしなかった。シュテファンと相談してたんだけど、ここはもう、総大将である料理長に食わせてしまおうか、という話。そうしたら無害だとわかるだろうし。

 あと、料理のネタ晴らしは皆さんが一個食べ終わってからに決めている。だって、名前がたこ焼きなんだよ。口にしたら一発でバレるわ。だがしかし、食べてしまえばそこで文句も言えまい。タコの美味しさを皆さんに知って欲しいのだ。


「やってるな」

「アレ?アディ、何しに来たの?」


 ざわりと周囲がどよめいたのは、当然のことかも知れない。めっちゃ気楽な様子で現れたアーダルベルトは、もしゃもしゃたこ焼き食べてるワタシとライナーさんとシュテファンの隣にやってきて、じぃっとワタシの手元を見ている。周囲の動揺をスルーしつつ、ワタシはたこ焼きが山のように積まれているテーブルを指さした。セルフサービスだ。自分で取ってこい。ワタシのを見るな。

 しばらく無言のやりとりを終えた後、アーダルベルトは素直にテーブルに向かった。理由は、ワタシの皿の中身が空っぽになったからである。タイミングが良かった。奴の接近に気づいた時には、最後の一個を囓ったところだったので。実に素晴らしいタイミングだ。

 料理番さん達もどよどよしているが、アーダルベルトは気にせずに皿の上にたこ焼きを盛りつけ、とりあえず何も味を付けずに戻ってきた。視線で問われたので、ワタシは醤油とマヨネーズを指さした。さっきワタシが食べてたのはそれだよ。次はポン酢にするつもりだけど。一口でたこ焼きを食べた後、アーダルベルトは醤油とマヨネーズをかけに行った。…いや、別に良いけど、ワタシの真似して楽しい?


「陛下の中で、ミュー様が食べているものは美味しいという認識が成り立っていますからね」

「ライナーさん、それどうなんですかね?ワタシ別にグルメじゃないんだけど」

「好みの問題だと思います。俺はそのまま食べるのも美味しいと思いますけど」

「生地に出汁をちゃんと入れてありますからね!そのままでも美味しいが正義」


 なお、この正義は我が家の家訓めいたものである。ハンバーグ作るときも、下味で種をこねる時に、ケチャップも入れちゃう派の我が家ですからな。何も付けずに食べられるようにするのが基本スタンス。お好み焼きも出汁をきっちり入れて、そのままでも味があるようにするのが基本です。……まぁ、我が家基本的に、薄味なので、下味きっちりしてたら皆それで納得するんだけど。あと、ハンバーグINケチャップに関しては、幼少時にケチャップで口の周りべとべとにしないようにという母さんの配慮でした。

 周囲を見渡してみたら、アーダルベルトの登場には驚いているようだったけど、とりあえず皆さんたこ焼きを食べた模様。鋳物職人のお爺さんも食べてくれたようです。良かった。聞こえる声は概ね好評。よしよし。じゃあ、そろそろネタ晴らし行くかね?



「皆さんに本日食べて頂いた料理は、ワタシの故郷の料理で、たこ焼きと言います」



 にっこり笑顔で告げたら、何人かが固まった。意味が解らないようで首を捻っているヒトもいる。中には細かいことを気にしないのか、今の台詞を聞いてもお代わりに手を伸ばす剛の者もいた。…或いは、本気で何か解ってないのかも知れない。なお、料理番さん達は慎ましく視線を逸らしていた。…アンタ等のタコ嫌いも相当だな。

 ライナーさんに合図を送ったら、タコの入った水槽をテーブルの上に置いてくれた。ごめんね、ライナーさん。こんな黒子みたいな真似させて。でも、料理番の皆さん、水槽持つのすら嫌がったんだよね。どんだけタコ怖いんだよ。見た目がグロテスクってことで忌避されてる以外、タコに落ち度は無いよ!


「たこ焼きのメイン食材は、皆様ご存じ、海の悪魔ことタコさんです☆でも、美味しかったですよね?」

「ミュー、だまし討ちと言う状況じゃないのか?」

「え?だって、言ったら誰も食べないじゃん。食わず嫌い良くないよ。タコ美味しいもん。見た目がアレなら、見えなくしたらおkでしょ。実際食べてたんだし」

「まぁ、普通に美味いな、たこ焼き」

「アンタは唐揚げのが好きじゃないの?」

「アレは美味かった」

「そりゃ良かった」


 あっちこっちで動揺が広がっているけれど、まぁ、気にしない。食べたじゃん。美味しかったでしょ?調理方法次第で、好き嫌いはなくせるの典型ですよ!

 だって、別にタコ食べちゃ駄目って法律があるわけでも、誰かが食べると害があると言ったわけでもないんだよ?それはちゃんと調べてみたもん。単純に、タコの見た目がアウトだったみたいで、食べるものと認識してなかっただけなんだよ。それなら、食べれると証明して、徐々にタコを広げれば良いと思う。とりあえず、たこ焼き広げたい。美味しいし。

 お手軽だしね~。おやつにも主食にもなるたこ焼きは良いと思うんだけどな。屋台で売れるし。鋳物職人のお爺さん、年寄りだからショック受けるかと思ったら、めっちゃ普通に「案外食えるもんだな」とか言いながらお代わりしてた。職人さんは神経図太かった。むしろ文官とか侍従の皆さんの方が卒倒しそうだった。精神修行が足りぬぞ、君たち。


「つーわけだからさ、アディ」

「何だ」

「タコも流通に加えて貰えるように、ウォール王国にお願いして欲しい。ワタシはタコ食べたい。あとイカも欲しい」

「……イカというのは、白い悪魔のことか?」

「アレ?そっちも悪魔なの?とりあえず、イカも美味しいから食べたい。イカのシーズンは冬だよね?それまでにお願いして欲しい」

「………まぁ、外交担当に伝えておこう」

「うん」


 タコ食べたらイカも欲しくなりますよね。イカはやっぱりお刺身かな?甘みがあって美味しいよね~。個人的には丸焼きにして輪切りにして、レモンかけて食べるの好きなんだけどな~。イカ飯とかも美味しいし、イカが届くまでにイカ料理のレシピを思い出しておこう。あと、料理番の皆さんの意識改革も頑張ろう。タコから逃げてた彼らなので、この様子だとイカからも逃げそうだ。

 まだショックで動けないヒトも多々いるけど、食べてみたら案外イケるみたいなノリのヒトもいるので、この調子でじわじわとタコを広げていきたいなと思う。……別に、中国人みたいに、猿の脳みそとか赤犬とか食べるワケじゃないんだし、タコとかイカは許容範囲だと思う。というか、何がアウトなのか正直わからん。ワタシは日本人だからねぇ。日本で食べてるものは食べたいんだよ。



 つーわけだから、シュテファン、今後もよろしく頼むよ!


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