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「よもや、大司教に真っ正面から喧嘩を売るとはのぉ…」


 呆れてるのか、それとも面白がっているのか解らない口調で呟いたのは、ラウラだった。今日のワタシは、外見幼女ロリババアの厨二病魔導士のところで、魔導具の相談である。この間、ウォール王国で試運転テストを行った試作品の改良に余念がない。…何しろ、認識した敵意や悪意にしか反応しないからね。勝手に発動してくれないと、ワタシの身の安全が保証されたとは言えんではないか。

 とはいえ、魔法や魔導具に関する知識なんぞさっぱりなので、ゲームとかラノベとか漫画とかのサブカルから摂取したイメージを伝えるに留めているのですけれど。……恐るべきは、そのざくっとしたイメージを伝える事で、発想の転換を行っているのか、確実に理想の魔導具へと近づけていくラウラを筆頭にした魔導士達の実力である。……ただし、この厨二病魔導士ラウラに従っているだけあって、皆様それなりに個性豊かというか、研究熱心すぎて色々アウトだったりするのは、お約束だ。そこはツッコミ入れちゃいけないんだと言い聞かせている。


「え?だってラウラ、あのジジイが言ってたのマジ意味解らないし、絶対に赦さぬって感じの内容だったよ?アディも同感だったし、何よりユリウスさんが超褒めてくれたよ!?頭撫でてニコニコ笑ってたよ!?」

「……いや、そりゃ、その内容じゃったら、ユリウス殿は怒るじゃろうが」

「っていうか、闇属性ってレア?」

「いや?そこらにおるぞ。ただまぁ、魔法を使うモノ以外には、属性適正なんぞ、さほど影響はないからのう。一般人ならなおのこと」

「……そこはさ、非戦闘員って言わない?」

「この国のどこに非戦闘員で通るような虚弱な存在がおるんじゃ。お主ぐらいじゃろ」

「うぐ……ッ!」


 ひ、否定できなかった。何しろ、獣人ベスティが基本なガエリア帝国だと、普段農業やら林業やらで身を立てている村人さんたちが、農具片手に下級の魔物を追い払っちゃう世界である。勿論、一人でじゃないけど。複数だけど。それでも、一般人が魔物を退治できちゃうぐらいスペック高いのは、獣人だからだ。他の国の一般人に、そんなこと出来ない。間違っちゃいけない。何気にこの国は、戦闘民族の集団かと思うほど、基準ラインがおかしいのだから。

 まぁ、そんな状況だと解っているので、ワタシも魔導具早よ作れって感じで入り浸ってるんですが。護衛がいるとしても、自衛手段を手にするのは悪いことじゃないよね?だからラウラ、早くワタシの身の安全の為に、完全な自然発動オートモードの防御系魔導具開発してください。かしこ。

 なお、ライナーさんは近衛兵の打ち合わせがあるとかで、ワタシの護衛をラウラに任せてそちらに出向いておられます。まぁ、厨二病魔導士ラウラの牙城とも言えるこの塔に襲撃するような阿呆はおるまい。まず、扉開けて中に入るところからスタート。あとは、あちこちに罠があるのでご注意。ついでに、敵対者と見なしたら、魔導士の皆さんが攻撃してくるので気をつけて!な塔だぞ。普通に危ないよ、ここ。


「現在試行錯誤中じゃ。そうそう簡単にできるか、馬鹿者」

「へーい」

「任意発動の魔導具とて、ワシじゃからこそ条件付けが可能だったんじゃぞ」

「わかってる、わかってる。ラウラが超有能な魔導士だってのは、勿論知ってるから」


 まぁ、その超有能な魔導士様、魔導具開発を部下にさせつつ、自分はワタシと一緒にポテチ摘まんでるけどな。ジャンクフード系が食べたくなったので、シュテファンにお願いして、ポテチ作って貰いました。本当はここに炭酸飲料がセットなら完璧なんだけど、炭酸はなかったらしい。…確か、重曹とクエン酸で作れたよな?と思ってたので、今度シュテファンに聞いてみよう。素材があれば作れる。まるでゲームの錬金術のようですね。ワタシの錬金釜は勿論シュテファンです。

 それにしても、ポテトチップスはマジでうまうまである。できるだけ薄くスライスして欲しいとお願いしたら、ちゃんとスライサーあったみたいで、ぺらっぺらのお芋にしてから揚げてくれた。今食べてるのはただの塩味。シュテファンが他の味付けを試行錯誤すると言ってくれてたので、お願いしておいた。なお、何でそうなったかは、某お菓子メーカーのポテチの味の種類の多さを伝えたら、料理番さん達がやる気満々で燃えちゃったからである。お手軽おやつで味のバリエーションが無限大とか、料理番魂が燃えたらしい。よくわからん。

 そういや、ふと思ったことがあるんだけど、魔導具って、明らかに戦闘補助系のモノしか存在しないんだよね。何で?


「……何でも何も、そもそも、魔導具はそういうものじゃ」

「え?でも、ラウラが作ったコンロが厨房にあるじゃん」

「アレは、火属性魔法の応用じゃ」

「いやだから、そういう感じで、日常生活にお役立ちするような魔導具作らないの?って疑問なんだけど」

「「…………」」


 素朴な疑問を口にしたら、ラウラを含めて室内にいた魔導士が絶句した。え?何で?ワタシの疑問、そんなにおかしかったかなぁ……?だって、魔法って言う便利な力があるし、それを魔法が苦手なヒトでも使えるように道具化した魔導具なんてものもあるんでしょ?科学発展して便利になったように、魔導具もそういう方向に発展すると思ってたのに……。……違うの?


「……いや、お主の発想が良くわからんのじゃが…?」

「えー?だってほら、風魔法封じ込めて、熱いときにスイッチ入れたら冷風が出る魔導具とか作ったら、超快適じゃん。どこもかしこも、王城みたいに部屋ごとに魔法で温度調整されてるわけじゃないし」

「「…………」」


 脳裏に扇風機を思い描きながら告げたのだけれど、何か皆して固まってる。え。…?ワタシ、何か間違えた?いやでも、扇風機欲しくないですかね?そろそろ夏に近づいているわけでして、日差しが強い日とかは暑いじゃん。扇風機は夏の風物詩の一つだよ!

 固まっているラウラをつついて正気に戻そうとしたら、背後から盛大な拍手が聞こえた。思わず振り返ると、そこにいたのは、どっからどー見てもエルフにしか見えない、美形のお兄ちゃん。


「素晴らしい!流石ミュー様です!魔導具はヒトの役に立ってこそ!戦わぬ人々に使われる道具を生み出すことが出来れば、我々は国民の生活により役立てると言うことですね!」


 めっちゃ大喜びしてるのは、このヒトだけだった。白に近い金髪に、薄い翠の瞳に、長い耳と色白の肌という、どこからどう見てもエルフにしか見えないお兄さんは、トレードマークの単眼鏡モノクルを室内の光でキラリと反射させながら、ワタシを見ていた。テンションがちょっとおかしい。いや、この部屋にいる魔導士は、基本的に全員テンションがおかしいけど。

 なお、この部屋にいない、どっちかというと戦闘向きとか研究職っぽいノリの魔導士さんたちは、もうちょっとマトモだ。この部屋の関係者だけ、変人人口が高すぎる。それもこれも、ラウラが趣味と実益を兼ねてやらかしてる魔導具開発の、暴走ノンストップ的なノリについてこれる、皆様各方面にぶっ飛んでいるヒトたちだからだ。

 ただし、このお兄さん、今のテンションはおかしいけれど、普段は普通だ。というか、性格は普通なんだけど、能力が色々とアレなせいで、変人枠にカテゴリーされちゃってる系だったりする。


「やかましいぞ、なんちゃってエルフ」

「ラウラ様、その呼び名は止めてくださいと何度も申し上げたでしょう!?」

「いや、お主はなんちゃってエルフじゃろうが。見た目エルフのくせに、底辺魔力じゃし」

「仕方ないでしょう!親父の血が出てるんですから!」


 可愛い笑顔でディスってくる上司に対して、お兄さんは本気で叫んでいた。うん。彼が悪いわけじゃないもんな。ただちょっと、受け継いだ血筋的能力が悪かっただけで。可哀想な感じがする。

 このお兄さん、魔導具開発陣の一人で、手先が器用でデザインとか魔導具の元になる金属の加工とかを担当している。魔法を込めたり、条件付けの術式を組み込んだりは一切出来ない。名前は、エッカルトさん。基本的には気の良いヒトで、本人は趣味もマトモなので、ラウラの厨二病絶好調なデザインに猛反対して、一般に普及させる魔導具のデザインは彼が担当しているらしい。……ソレを知ってから、ワタシが試運転テストする試作品のデザインも、今後は彼にお願いすることに決めたのだ。ラウラの厨二病趣味に付き合ってるのは辛い。

 で、エッカルトさんがラウラに「なんちゃってエルフ」とか言われてるのは、彼がハーフエルフだから。単純にハーフなだけなら、多少魔力が低くても別に誰も何も言わなかっただろう。彼の場合、父親がドワーフ、母親がエルフという、種族的相性があまり宜しくない二種のハーフで、なおかつエルフの見た目で中身スペックがドワーフという状態が喜劇の源である。……外見エルフなのに、魔力ドワーフレベルですっかすかで、細身のくせに腕力超あって、ドワーフスペックで手先が超器用という、色々と面白いお兄さんである。


「しかしのぉ、今までそんなこと考えもせんかったから、作ると言ってものぉ」

「じゃあ、ドライヤー作って」

「どらいやー?」

「簡単に言えば、温風が出てきて髪の毛乾かせる道具。こんな感じ」


 机の上のメモ用紙にカリカリとドライヤーの形を書いてみる。ちょっと絵は歪だけど赦して欲しい。ワタシそこまで器用じゃ無い。不思議そうに見ているラウラ達に、持ち手を握って、筒状の先から温風が出てくるようにして、それで濡れた髪を乾かす用の道具、という説明をしてみた。

 果たして。

 男性陣は「ふーん?」ぐらいの反応だったけれど、女性陣は顔を輝かせた。特に髪の毛の長い皆さんが。デスヨネー。毎日毎日タオルで拭いて乾かすの、限度がありますよね-?暖かい季節はともかく、寒い季節泣きたくなるよね。だからほら、今のうちに作り始めて、冬に完成目指そう。頑張れ。


「お主、本当に色んなアイデアを出すのぉ」

「ワタシの世界には科学でこういうの作ってたからね。日常に役立つっていうなら、掃除機もオススメ。吸い込み系の魔法詰め込んで、ゴミを吸い込んでお掃除しちゃったら楽だぞ☆」


 今度の発言には、全員が目を点にして、次の瞬間、天を仰いだり、崩れ落ちたり、何かぶつぶつ言ってたりする。要約すると、「その手があったか!」ということらしい。え?皆さん、魔法のずぼらな使い方しないの?日常に用いようよ。とても便利だと思うんだけど。

 どうも、魔法=戦闘に使うという認識が強すぎて、日常生活に魔法使うとういう発想がない模様。えー。ワタシだったら絶対使うけどな。ライトの代わりに光魔法。水道の代わりに水魔法。火種は勿論火魔法。畑を耕すときに土魔法。お掃除の時には風魔法。色々応用したら、初級魔法でも結構便利そうなのに。変なの~。


「ミュー様、とりあえず、ここにノートがありますので、思いつく限りのアイデアを書き込んでください」

「……エッカルトさん??」

「それを参考にして、日常生活に活用できる魔導具の開発を、本格的に始めたいと思いますので」

「お、おう。わかりました。頑張る」


 真顔で詰め寄られて怖かったので、素直に頷いた。いやだって、エルフ系の美形に真顔で詰め寄られたら、怖いよ。エルフって綺麗な顔してるだけに、表情無かったら人形みたいで超怖いからね。ユリウスさんの怒ってる微笑みは別として、やっぱり笑ってる方が良いです。

 っていうか、何でエッカルトさんそんなに燃えてんですか。ワタシにはよくわからんのですが。いやでもまぁ、役に立てるなら良いっか。巡り巡ってこれ、一般庶民のお役に立つ発明になってくれそうだし。あったら便利な道具で、魔法で性能を代用できそうなものを考えれば良いんだね。頑張る。



 その後、一個書いたら事細かに説明しないと駄目だという状況に陥って、超疲れたワタシでした。



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