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 半信半疑の国王様には悪いが、ワタシはとりあえず自分の目的を果たしたいので、筆記具を要求して、一人カリカリしている。……うん、ワタシ、この世界の文字、書けるようになったんですよ。あの、デザイン性に富みすぎてて、どう考えても実際に使うのに適してなさそうなフラクトゥール文字を、何とか、多少歪でも、書けるようになったんだよ!褒めて!時々誤字脱字があるのはご愛敬だと思って!

 何を書いているかと言うと、今回の事件、あのバカの叔父君は、クーデターを企んでいるので、その協力者の名前だ。国を危険にさらす無能な国王(という風に宣伝してるだけであって、実際王様はちゃんと仕事してるし、この前面倒ごと起こしたのは当の叔父君である。頭沸いてる阿呆としか思えない。)から、権利を自分に移させようとしているのだ。何でそうなるのかは知らぬ。ただ、そういう目的で動いていて、更に、あっちには一応息子がいるので、後継者問題も大丈夫だとか言いたいのかも知れない。巻き込まれる息子くんが実に哀れである。

 今の時点で積極的に叛意を持っていないかもしれない面々も、一応警戒対象としてリストアップしておく。その辺が事細かに情報としてゲット出来ているのは、ある意味好都合だ。…本当マジで、何で制作者はこんな、本編に全然関係無いところのデータを作り込んだんだろうか。主人公達の手持ちアイテム(新聞とか本)はいつでも閲覧できる仕様だったのだけれど、そこにびっしり書かれていたのだ。ワタシの脳内検索辞書が仕事してくれてて、本当に助かる。


「セバスティアンさん、これ、あげます」

「……何のリストですか?」

「あのバカの一派としてクーデター画策しやがる面倒くさい連中の名簿」

「……それは大変助かりますが、根拠は?」

「ワタシが《知ってる》だけなので、裏付けその他はそっちでお願いします。……まぁ、警戒対象が解るだけでも楽になりません?」

「無駄な手間が省けて大変ありがたく思います。……陛下、ご覧ください」


 にっこり笑顔のセバスティアンさんだが、笑顔のこめかみに青筋浮かんでいたので、リストの中に知り合いでもいたのだろうか。ふぁいとだ。頑張ってくれ、宰相補佐殿。ワタシに出来るのは、《知ってる》情報を横流しするだけなので、それをどうやって活用するかは貴方達の仕事です。それ以上踏み込むつもりはございませぬ。

 あとは、敵の武器庫とか隠れ家的なヤツもリストアップしないとなー。地図を見てもわからないので、メモに解る限りの単語で地名や建物の名前などを書き込んでいく。まぁ、単語でも知ってるヒトが見たらわかるんじゃね?書き終わったメモは、すっげー楽しそうな笑顔で待ってるオクタビオさんに渡しておいた。踏み込んで捕縛するのは騎士団のお仕事ですよね~?


「色々と助かる。坊主、ところで、魚はちゃんと食ったか?」

「食べた!ちゃんとお刺身にして、鮮度良いの堪能した。ありがとう!」

「刺身?」

「……生の魚を一口サイズとかに切って、醤油とか塩で食べる感じの。カルパッチョも嫌いじゃないけど、ウチの故郷では刺身で食べるの主流だったから」


 キラっと笑顔で答えておいた。いや、実際美味しかったので。流石、港町からの直送です。美味しかったので、ちょっと交易ルートしっかり確立して、鮮度完璧な状態で(保冷とか場合によっては冷凍保存とか用いて)ゲット出来るようにして欲しい。お刺身美味しいじゃん。嫌いな人には申し訳ないけど、ワタシは好きなので、帰りはお刺身用の魚を買って帰るつもりだ。今回はラウラがいるので、保冷はお手の物だろう。無理と言ってもやってもらう。異論は認めぬ。

 思いつく限りのネタをメモに書いて渡したけれど、他に何か出来ることあるかな?記憶を探って、ふと思い出したことがあるので、王様に問いかけてみた。


「王様、あのバカの息子とは仲良しですか?」

「……いや、従兄弟とはいえ親子ほど年も離れているし、何より叔父上があまり接触させてくれなくてな」

「なら、接触してみるのも一手かと思います。彼は、父親に似ずにマトモに育ってますから」


 そう、それは事実だ。あのバカの血を引いているとは思えないほどに、息子はマトモである。今回の騒動の時も、裏から父親の暴走を止めるために色々頑張って、最後には従兄である国王の為に身を挺して父親を食い止めたという逸話が記されていた。そんな人物ならば、さっさとこちら側に引き込んで、協力体制を築く方がよっぽど建設的だと思う。

 名前?そんなものは知らぬ。どうしてそこの情報を省いたのかは知らないけど、ウォール王国についての情報が載ってる新聞(『ブレイブ・ファンタジア』の世界にはひっそりと新聞社が根ざそうとしていた)は、何故か固有名詞は載せてなかったんだ。制作者がそこまで考えてなかったのかもしれない。だがしかし、それならむしろ、ウォール王国のごたごたについての記述もしなくて良くね?と本気で思っていた。が、今はソレが役立っているのでありがたく活用させて頂く所存だ。

 今後、王様達がどう動くかなど、ワタシは知らぬ。ワタシはとりあえず、「自由に動き回って良いよ!」というお許しを頂いたので、ライナーさんとラウラを引き連れてうろちょろするのである。ワタシが動いたら向こうも動きそうだしな。向こうが仕掛けてきたら、この防御系魔導具の試運転テストも出来るだろうし。もしもの時はラウラが何とかしてくれるだろう。むしろ、しろ。その為についてきてるんだし。

 

 んでもって、好き勝手にうろうろしてたら、偽物と遭遇エンカウントしました!

 

 向こうはこっちが誰か解っていないようで、不思議そうに見ていますが、こっちはわかる。いやだって、この状況でワタシ以外の《黒髪黒目の人物》って、件の偽物さん以外にいらっしゃいませんですよね?んでもって、ご丁寧に護衛なのかお目付役なのか知らんけど、身なりの良さそうなヒトが数名ついておりますし?

 ……てか、黒髪黒目の少年だって聞かされてたけど、違うな、コレ。髪は確かに黒髪だけど、妙にくすんだ印象だし、瞳は黒に近い濃紺だ。この世界で完全な黒髪黒目が稀少だって言われて、全然自覚症状無かったけど、こうやって相対したら違いがよくわかる。向こうが驚いてるのもそのせいじゃないだろうか。何せ今のワタシは、首の後ろで髪を結わえたまま、帽子も眼鏡も着用せずに、自分の色をしれっと見せびらかしてる状態だ。

 いやこれ、便利なんで。王様がね、「黒髪黒目の勅使殿の行動を妨げてはならない」みたいな命令を出してくれてるんで。髪も瞳も隠さない方が今のワタシには好都合。……まぁ、もう今更目立つの嫌だと言うわけにもいかんし、ぼちぼち他国に名前も知られてきそうな時期だし、顔売ってきて良いってアーダルベルト言ってたし、という感じです。てへぺろ?


「こんにちは」


 にっこり笑顔で挨拶をしておいた。少年は、驚いたように目を見張っていたけれど、すぐに真っ直ぐな視線でワタシを見てきた。けれど、彼が何かを言おうとして口を開くより早く、庇うように、護るように、傍に居た人々が彼の姿を隠してしまった。……ほほぉ?接触されるのは不利とでも思ったのか?だが、もう遅い。ワタシはとりあえず、そやつを認識したぞ。


「貴殿がルーベン殿の元に身を寄せておられる《黒髪黒目の少年》ですか。是非とも、件の捕り物についての話をお聞かせ願いたいのですが」

「申し訳ございませぬが、主の許可無くクーロ殿を他者と接触させるわけにはいきませぬので……」

「おや?はっきり言わないと解らぬという事ですか?……そこのワタシの偽物と話をさせろ、と申しているのだが」

「……ッ、な、何を……?!」

「ラウラ、彼を招きたい。可能か?」

「お任せあれ」


 視線だけで問いかければ、外見幼女ロリババアは笑顔で答えた。ぱちんと指を鳴らした瞬間、ワタシ達の周囲が結界に包まれる。結界の中にいるのは、ワタシ、ライナーさん、ラウラ、そして、件の偽物である《黒髪黒目の少年》だけだ。結界から追い出された男達が騒いでいるが、悪いが音は聞こえないのである。こういう時は大活躍だな、ラウラ。普段は微妙なのに。


「……俺を偽物と呼ぶと言うことは、貴方が本物ですか?」

「そう。ワタシが本物。オクタビオさんの手伝いをした《黒髪黒目の少年》は、年齢と性別を混乱させるように少年のフリをしてた、ワタシです。改めましてこんにちは。ワタシはミュー。君は?」

「……クーロ、です。……俺は、処罰を受けるんでしょうか」


 どんよりしたオーラのクーロ少年に、ワタシ達三人は顔を見合わせた。いや、それは無いんじゃね?どう考えても君、外見が条件に合致するとかいう理由で巻き込まれた一般人っぽいもん。むしろワタシがしたいのは、彼をこっちに引き込んで、あのバカ男が阿呆やらかしてたことに追い打ちかけたいだけだ。つーわけで少年、君、寝返らんかね?


「ミュー様、色々と話が直球過ぎます。彼、驚いてますよ」

「えー?だって、回りくどくやるの苦手だし……。あ、それとも君、あのバカ男に弱み握られたりしてる?こういう時のセオリーとしては、病気のお母さんとか妹とかの治療費を盾に脅されてるパターンなんだけど……」

「何で解るんですか!?」

「おぅ……。むしろそこまでセオリー通りすぎると、それはそれで頭痛いよ……」


 あのバカ男改めルーベンと言う名のおっさん、マジでテンプレすぎる暴走してくれてて、頭痛いです。詳しく話を聞いてみたら、クーロ君、下町で病弱な妹と二人で肩を寄せ合って生きてたんだとか。それが何故かいきなり身分の高いヒトに拉致られて、あげくに知りもしない事件の功労者として振る舞えとか無理難題吹っかけられたとか。一般人代表なので礼儀作法とかアウトだし、その世話役という名目であの男共が傍に居て、抜け出すことも出来なかったとか言ってる。可哀想。すごく可哀想すぎる。

 よし、ワタシのするべき事は決まった。こっちにはライナーさん(近衛兵の古株+そもそも覇王様の側近)とラウラ(妖精族の魔力を誇る凄腕魔導士)がついているのだから、大概のことはどうにかできる。というか、きっとどうにかしてくれるでしょう。王様にも許可貰って、この子こっち側に引き込もうっと。


「クーロ君、妹はどこにいるのかわかるかね?」

「ルーベン様のお屋敷です」

「よしわかった。ラウラ、ちょっとかっ攫って来い」

「ふむ。ではクーロと申したな。髪を一本頂戴するぞい」

「は……?……イタッ!?」


 きょとんとしているクーロ君の髪の毛を容赦なく引っこ抜くラウラ。どうやら、髪の毛から魔力情報を取り込んで、目標である彼の妹を探すつもりらしい。普通はそんな離れ業は出来ないけれど、ラウラのスペックなら可能だろう。見た目と言動は色々とアレだが、ラウラは凄腕なのだ。

 ワタシ達の目の前からラウラが消えて、それと同時に結界も解除される。男達にクーロ君が確保される前に、ワタシは彼を自分の背後に庇った。そのワタシの前に、ライナーさんが立つ。武器を手にしていなくたって、獣人ベスティの戦闘員の威圧に、ただのお目付役っぽい人間ごときが勝てるわけも無く、萎縮しているようです。けけけ。

 そうやって騒いでたらオクタビオさんやってきたし、ワタシが「だって偽物さんとお話したいし☆」と我が儘口にしたら、王様が何故か現れちゃって、男達追い払われました。うわーい、王様むしろ、柱の陰からタイミング図ってたとかだったら笑うぞ。

 クーロ君の身柄はオクタビオさんにお任せしておいた。この子は重要参考人だし、おっさんが変なこと考えて手を出してきたら可哀想だから。あと、ワタシと別行動することによって、向こうの攻撃をワタシに集中したいというのもあるけれど。だって、あの子どう考えてもワタシよりドンパチ慣れしてないんだもん。巻き込んだら可哀想に思えた。



 なお、ラウラはきっちり彼の妹を助け出してきたので、兄妹仲良く王城でいつの間にか王妃様に匿われることになってた。王妃様、何でやwww


 

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