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 結局、随員として文官さん(細かい役職は聞いたけれど、興味が無いので記憶してるだけで意識の向こう側にぽいした。ワタシには不必要な情報だ)が3人ほどと、ライナーさんとラウラとワタシの6人でウォール王国に向かうことが決定した。勅使としてはあまりにもコンパクトすぎるらしいが、今回目的が目的なので、身軽に動くためにも少ない方が便利です。そもそもワタシ、向こうに着いたらライナーさんとラウラ以外連れ回すつもりないしな。

 そのことを正面切って告げてみたら、文官さん達は笑顔で答えてくれた。そらもう素敵な笑顔だった。ただ、どなたも全員仕事大好きワーカーホリックの片鱗が見え隠れしてて、ユリウスさんが選んだメンツだもんな、と納得してしまった。


「ご心配なく。我々が邪魔になるであることは理解しております」

「ミュー様はご自由にお動きください。我々も本分を果たしておきます」

「この機会に、ウォール王国との関係をより良くしたいので」

「交渉の腕の見せ所だと宰相にも申しつけられておりますから」

「むしろ、今回同行させて頂いてありがとうございます。手間が省けました」

「「ですのでどうぞ、我らのことはお気になさらずに!」」


 これを素晴らしい連携を感じさせるテンポで、キラキラした顔で言ってのけてくれたので、この人達マジで仕事大好きワーカーホリックの芽がしっかりと備わってるなと思いました。仕事するの楽しいって感じでした。具体的に交渉で何をするのかをあえて聞きませんでした。聞いたら面倒そうだったので。なお、ワタシを勅使として送るという名目があるために、彼らが国境を越える事に対して許可があっさり下りたとか。前から行きたがってたそうなので、逆に感謝されているらしい。……まぁ、お互いの利害の一致なら、おkですよね。うん。

 そんなわけで、やってまいりました、ウォール王国。いつもの格好に、流石に国王様にお会いするのだからということで、今回はジャケットもプラスされています。ジャケットも勿論黒ですがな。ライナーさんや文官さんたちはいつもの制服。ラウラは、相変わらずの厨二病魔女スタイルでした。が、見た目が可愛い幼女なので、微笑ましく見られているだけのようです。……ギリギリセーフか。

 なお、もしかしたら公式の場にお呼ばれする可能性も考えて、厨二病レッツゴーな、新年会用に作った件の第一礼装モーニングも持ってきてはいる。持ってきてるけど、着たくは無い。コレを着なきゃいけないような場面に出くわさないことを祈っている。そもそもあの衣装は、覇王様と色違いお揃いペアルックするからインパクトあるのであって、ワタシ単品ではあまり意味が無いと思うのだ。

 


 それはともかく、お城に足を踏み入れた次の瞬間から、面倒くさい今回の駆除対象ラスボスに遭遇しましたけど、ナニコレ?



 眼前では、妙に偉そうにふんぞり返ってるおっさんが一人。年齢的には、オクタビオさんよりも年下っぽいので、まぁ、三十路から四十路の間ぐらいじゃね?ライナーさんが三十路半ばだけど、彼は二十代で通る美貌してるので、まぁ、三十路半ばぐらいじゃねーかな、と思っておこうか。着てる衣装は豪華で、顔の造作とかも悪くないんだけど、小物感半端無い。どっかの皇弟みたいですね、わかります。

 衛兵さんに案内されて、これからお出迎え担当のオクタビオさんかセバスティアンさんと合流する予定だったのに、それを遮ってまで現れて、何か偉そうにしています。明らかにこちらを見下しています。そーか、そーか、お前にとって、ガエリア帝国は見下しておkな国と言うことか。一応ワタシ、今回は皇帝陛下の勅使兼名代って感じでここに来てるんだがなぁ、ヲイ?


「随分と貧相な小僧が来たものよ。彼の国はその程度の使者しか立てられぬのか?」


 正面から喧嘩売られたので、買っても良いかと視線を周囲に向けたら、ウォール組はあわあわしてるけど、ガエリア組は全員小さく頷いてくれました。文官さん達、笑顔なのに目が「ミュー様、思う存分やってください。むしろ我らでぶっ潰したいです」ってなってる。ライナーさんは微笑みの奥で絶対零度の殺気を封じ込めつつ、ワタシの手綱を放棄した模様。ラウラは、何も考えてない子供を装いつつ、指先がちらちら動いているのは、魔法ぶっ放すつもりだろうか。それはやめれ。

 まぁ、良い。仲間の同意は得られましたので、ちょっくらぶちかましましょうか。何かあったら、オクタビオさんとかセバスティアンさんに事後処理して貰おう。ワタシは公式な使者としてやってきているのだ。それに対するこの扱い、マジでこのおっさんバカじゃね?としか思えませんので。向こうが先に喧嘩を売ってきたので、それを買うのはワタシの権利だ。異論は認めぬ。


「黙れ、下郎」

「……ッ、な、何だと?!」

「黙れと申したのだ。貴君こそ何様のつもりか。ワタシははガエリア帝国皇帝、アーダルベルト・ガエリオス陛下の名代としてこの場に参った。一国の勅使に対する、それがウォール王国の総意と判断しても宜しいか?」

「貴様のような小僧が、何を……!」

「先ほどから、小僧小僧と随分と失礼な物言いをされる。ワタシは皇帝アーダルベルトの参謀を務める身。他国の、ましてや王ですらない人間に侮られるいわれは存在せぬ」

 

 こういうプライド高そうなおっさんは、真っ向から攻撃されるのに慣れてないと思ってやってみたら、思いの外効果があったようです。いやー、わかりやすいほどに顔真っ赤にして、頭に血が上っているようですねぇ。けっ。お前みたいな小物に用事はねーやい。ぶっ潰しに来てやったんだ。感謝しやがれ。

 ……なお、ワタシの斜め後ろに立っているライナーさんから、驚いたような視線が突き刺さるのですが、無視の方向で。他の皆さんも、「え?誰?ミュー様?」みたいな反応するの止めてください。大丈夫です。別に頭ぶつけたわけでも、ここに来る前に特別なレッスン受けたわけでもありません。これはただの、漫画やゲームなどからゲットした知識で適当にハッタリかましてる、厨二病の一種みたいな感じです。

 最初はこう、貴婦人系で行こうかと思ったんですが、止めました。だって、ワタシの外見がどう見繕っても男の子にしか見えないでしょうからね。それなら、いっそこう、キリッとスパッとした感じの男前系口調で言ってみようと思いました。なお、鬱陶しいゴミだと思ってるので、おっさんを見る目が冷たいのは通常運転です。このただの害悪が。

 更におっさんが何かを言いつのろうとした瞬間、大理石の床を早足で歩く足音が聞こえた。視線をそちらに向けるのと、足音の主が声を上げるのがほぼ同時だった。


「ルーベン殿、これはいったい何の騒ぎですかな?」

「……おぉ、オクタビ」

「お久しぶりです、オクタビオ聖騎士団長殿。先日は貴国でもお世話になったというのに、わざわざ我が国までお越し頂き、真にありがとうございます。……お言葉に甘えて、ご挨拶に参りました」

「ミュー殿……。出迎えが遅れてしまい、申し訳ございませぬ。わざわざの来訪、痛み入ります。道中不都合などございませんでしたか?」

「不都合というならば、今。……こちらの御仁はどなたでしょうか?顔を合わせた途端に侮辱されたのですが、それをウォール王国の総意と取っても宜しいか?」


 味方をゲットしようとしただろうおっさんを遮って、ワタシが口を開いた。立て板に水のようにまくしたて、相手が口を挟む隙を与えない。オクタビオさんはワタシの口調と態度に一瞬眉を寄せたけれど、すぐさま何かを察してくれたのか、仕事出来る聖騎士団長様モードで応対してくれた。……おっさん、アンタちゃんとキリッと出来るんじゃねぇか。この間は思いっきりフランクだったくせに。


「ルーベン殿が何か無礼を?……ですが、それを我が国の総意と取って頂くのは困ります。詳しいお話は陛下の元で、宜しいでしょうか?」

「承知しました。元よりワタシは国王陛下にお目通り願うために参った身。……初対面でいきなり侮辱するような下郎に用はありません」


 にっこり笑顔で言ってやれば、ルーベンという名前らしいおっさんは顔を真っ赤にしてわなわな震えていた。だがしかし、ワタシは気にしない。ワタシの態度に慣れてるガエリア組も気にしない。んでもって、オクタビオさんは、おっさんに見えない場所でぐっじょぶと言いたげに親指を立てていた。うむ、相変わらずお茶目だな、オクタビオさんや。

 そのまま何か言いたそうなおっさんを全員で全力スルーして、謁見の間にゴーしました。ワタシが来るのを待っててくれたらしい国王陛下は、三十路ぐらいの優しげな面差しのお兄さんでした。三十路はおじさんじゃないんだなぁ、と最近思う。おじさんは四十路ぐらいからかもしれない。三十路だとまだ外見におじさん要素があんまりない。そう思う。


「ようこそいらっしゃった、ミュー殿。貴殿の来訪を心より歓迎しよう」

「お言葉ありがたく頂戴いたします、陛下。このたびは突然の来訪をお許し頂き、恐悦至極に存じます」


 という感じでとりあえず最初の挨拶のターンを乗り切ったところで、オクタビオさんとセバスティアンさんが周囲に目配せして、ウォール側の文官とか衛兵とかがあっという間に追い出されました。人払い完璧過ぎてワロス。こっちは全員いるけど、気になるって感じで皆さんが去って行くけど、王様の鶴の一声で追い出されてた。うん、アンタ等邪魔なんです。

 ラウラが気を利かせて防音結界張ってくれたところで、肩の力がやっと抜けます。気のせいか、国王様も肩の力抜けたみたいにふにゃってなってる。あ、このヒトも素はお気楽系なんだろうか。それとも、面倒な叔父君のせいで四六時中気を張ってる生活に疲れてるんだろうか。……後者だったら不憫すぎるぞ。


「と、言うわけですので、改めましてこんにちは。この間はご挨拶もしないまま、勝手に好き放題暗躍してすみませんでした。ガエリア帝国で何でか覇王様の参謀とかいうポジションやってます、ミューです」

「うむ。先日は本当に助かった。まさか他国の方が指輪の在処を知っているとは思わなかったが、おかげで大事にならずにすんだ。本当にありがとう」

「で、ワタシの偽物出回ってるらしいんですが、その辺そちらとしてはどうお考えで?」

「…………出来れば叔父上諸共潰したいところだ」


 疲れたような国王様の発言に、セバスティアンさんが力一杯頷いてた。その隣に立っている、多分宰相様なのだろう初老のナイスミドル様も頷いてた。オクタビオさん何か、顔見なくても力一杯頷いてるのが気配でわかる。なるほど。やっぱりあのバカはこの国では排除したい対象なんですね、わかりました。

 そういうことなら、話は早い。元々、二人から多少の話は聞いているのだろう。ワタシの来訪の目的を、さくっとお伝えしようじゃないか。


「では、ぶっ潰すお手伝いをさせていただきます。調度さっき喧嘩売られましたので、それを買う形でぶっ潰しにかかろうかと思います。売られた喧嘩を買ったので、コレはワタシの喧嘩も同然です」

「……重ね重ね、申し訳ない……。まさか叔父上がそこまで愚かとは思わなかった…」

「あ、煽り返しといたんで、お気になさらず。……で、一つ聞きたいのですが、何であの阿呆から継承権取り上げないんです?」


 素朴な疑問を伝えたら、ウォール組から盛大なため息が零れた。おぅおぅ、そこまでがっかり残念案件ですか?それとも、どうにも出来ない以下略なんですか?……あっるぇー?おかしいなぁ?ワタシの知っている限りでは、この事件の後に、あのバカ叔父継承権剥奪されて、流刑に処されてるぞ???


「我が国では、男子にしか継承権が存在しないのだ。そして今、私には王女しかおらぬ」

「……何で男子限定なんですか?」

「我が王家は完全に男系遺伝なのだ。男の血筋にしか、血が継承されないのだよ」


 ほぉ、なるほど。だから、か。

 確かに、そういう理由なら、王族の男子は貴重。男系遺伝なら、姫の子孫の男子という手段が使えないんですね、わかりました。でも、大丈夫です。ご心配なく。


「今、王妃様は懐妊されてますよね?」

「している。……だが、王女を続けて三人産んだことで、次も王女ではないかと言われている」

「多分、大丈夫ですよ。次の子は王子様です。ので、とりあえずあのバカ潰す段取りを整えましょう」


 笑顔で告げたら、きょとんとされた。ガエリア組は気にしないで、「あ、そうなんですね」「じゃあ、お祝いの品の準備をしないといけませんね」「宰相にお伝えしませんと」とか普通の会話してました。うむ、貴方達もワタシの《予言》とか《知ってる》発言に対して慣れが出てますね。今更か。



 だって、この事件の最中に生まれたのが王子様だったって、ちゃんと記されてたから、よっぽどでない限り、その通りになると思うんだけど?


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