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 とりあえず、ワタシの偽物がいるという点だけは無視してしまえば、何が起こっているのかをワタシは知っている。『ブレイブ・ファンタジア』の中でその話が少しだけ出てきている。アーダルベルトは関与しない。後半の主人公くんも関与しない。これは、サブクエストなどの類でもない。単純に、隣国で起こった事件として、伝聞で知ることになる。

 ただし、結構詳しい伝聞である。隣国の問題だというのにそこまで詳しく情報が入っているのは、指輪の盗難事件にガエリア帝国が関与しているからだ。指輪事件の後に面倒なことが起こってたんだぜ☆みたいな感じである。……正直、何でそんなイベント付け加えたん?と首を捻っていたが、今回は感謝しておこう。制作者のお遊びかもしれんが、おかげで今、ワタシは結構助かっている。

 阿呆の王の叔父君さんが、この間の盗難事件の失敗をあえて自分のチャンスにしてしまおうと画策している、というダメダメすぎる展開。そもそも、企てたのが自分のくせに、それを防いだのが自分だと言い切っちゃう辺り、頭悪すぎて笑うしかない。だがしかし、ヤツが主犯だと国の上層部はほぼほぼ理解していても、証拠が揃ってないのでどうにも出来ないっぽい。

 ……つーか、とっとと処罰しちゃえば良いのに~。テオドールの時も思ったけど、王様の邪魔をするだけの迷惑な王族なんて、継承権奪ってどっかに閉じ込めるとか吹っ飛ばすとかしないとダメくね?それぐらいやっちゃっておkだと思うのに、出来ない理由がウォールにもあるんかな?ガエリアでそれやらないのは、アーダルベルトが弟に甘すぎるお兄ちゃんだからである。そこもワタシ納得してないけどな。今度テオドールがなんかやらかしたら、徹底的にぶっ潰しちゃる。


「なー、アディ」

「今度は何を企んでる」

「別に企んでねーし。……ワタシ、ウォール王国に遊びに行っても良いかな」

「……ほー?」


 にへらっと笑って問いかけたら、アーダルベルトが目を細めて笑った。うむ。流石我が悪友である。ワタシが何を言いたいのか、何をしたいのか、即座に察してくれたらしい。以心伝心って素晴らしいね!

 解ってないのか、ウォール組はきょとんとしている。ははは、セバスティアンさんもオクタビオさんも、心配しなくて大丈夫です。別に、そちらに嫌がらせするわけではございませぬ。むしろワタシは、お手伝いするつもり満々である!そう、たまにはちゃんと働こうと思っているだけで、悪巧みではないよ!



 まぁ、下心はあるがな!



 下心というか、皮算用というか?この面倒くさい状況を解決するのをお手伝いした暁には、ウォール国王のこちらへの心象は良くなるのではないかという感じ。弱みを握るというか、恩を売ってしまおうと考えているのは事実です。……いやだって、仲良くしておきたいじゃないですか。五年後にナニカが起きるのを防ぐためにも、周辺諸国に恩を売って友好的にしておくのは悪いことじゃない。

 

「この間はお忍びだったしな。今回は勅使として行くか?」

「良いねー。王様にもちゃんとご挨拶しておいた方が良いよね?」

「丁度ここに宰相補佐殿と聖騎士団長殿がいるからな。後日伺うと伝言をお願いするか」

「そうだね。王様によろしくお願いします!」


 笑顔でゴリ押しするワタシ達二人に、ウォール組は目を白黒させている。ごめん。これがワタシ達のいつもの感じです。細かい外交とかワタシには無理なので、とりあえず要求だけ押し通させて貰います。ワタシ、そちらに遊びに行きたいだけですので。遊びに行って、ついでに揉め事が起こってるの面白がって首突っ込んで、その流れで色々と《うっかり口を滑らせて》助言をさせて貰うつもりですので!

 困惑している彼らに、とりあえずワタシが勅使として遊びに行くことを伝え、国王様への伝言もお願いしました。準備出来たら先触れで、いつお訪ねするかも伝えますんで、その時はよろしくお願いします。忙しいだろう宰相補佐様と聖騎士団長様の手を患わせたくはないですが、出来ればお出迎えは馴染んだ人が良いので、どっちかでお願いします。むしろおっさんが出迎えてくれたら気楽で嬉しいです。マル。


「……承知しました。ですが、来訪の目的はなんとお伝えすれば?」

「この間の事件の時は裏方で勝手してごめんなさい?みたいなのを含めて、国王様にご挨拶って感じでお願いします」

「坊主、陛下に会うのか?」

「え?一応ちゃんとご挨拶してから暗躍した方が良くない?」

「暗躍するの前提か!」

「あ、間違えた。暗躍じゃ無くて、ちょっと《うっかり》色々やらかすだった☆」


 てへぺろ☆って感じでふざけてみたら、セバスティアンさんが頭抱えて唸ってた。うむ。申し訳ない。インテリ眼鏡の真面目さんを困らせたいわけではなかったのだが、ワタシ、真面目が続くの無理なんですよ。向いてないです。基本がこう、阿呆の子ギャグ体質と言いますかね?でもまぁ、オクタビオさんが必死に笑い堪えて変な顔してるんで、こっちには受けたんじゃね?本当に正反対ですね、お二人さん。

 ユリウスさんがやれやれって顔してるけど、別にお咎めはないようです。まぁ、アーダルベルトが許可してるし、それに真っ向から反論するようなヒトじゃないよね。真面目な顔で色々考えてるのは、ワタシの随員を考えてるんでしょうかね。勅使として行くなら、流石にライナーさんと二人ぼっちというわけにもいかんだろうしな……。ワタシとしては、気心知れたメンツで固めて欲しいです、ユリウスさん。侍女とか女官とかいらんですから。

 とりあえず王様への伝言を頼んで、ウォール組にはお帰り願いました。あと、お土産として、先日キャラベル共和国からゲットした筍で作った筍ご飯もプレゼントしておきました。おにぎりにしてあるので、帰りの道中にでもお食べください。いや、その他諸々と試作品の中でも評判の良かったおやつ詰め合わせとかもプレゼントしたけどね。だって、阿呆の叔父君のせいでとばっちり喰らって、わざわざガエリア帝国まで来てるの、不憫に思えたから……。

 んでもって、突発的に発生した「ウォール王国に勅使として赴いて、《うっかり》色々やらかして事件をさくっと解決して、恩を売って来ちゃうぜ!」というミッションの為に、人員編成を考えることになりました。ワタシとライナーさんは固定だけど、他もうちょっと。あと、一応勅使なので、国としてのお土産を何にするかとか考えてるそうです。そっちはワタシわからんので、口を挟むのは同行者の部分だけです。


「エーレンフリートは置いてく方針で」

「そうか?この間立ち回りしたなら、むしろ連れて行った方が牽制になると思うが」

「何日かかるか解らないのに連れて行ったら、陛下欠乏症ストレスで死にそうになると思うから、止めといたげよう」

「……そういうものか?」

「うん」


 いまいちアーダルベルトは理解していないようだが、今のやりとりの間に、エーレンフリートが一喜一憂してたから。基本的なスペックが高いのは理解してるし、最初の頃に比べたらワタシへの距離感も近くなってるけど、長期間アーダルベルトから引き離したら、完全に使い物にならなくなる。むしろそんな時限爆弾抱えたお荷物はいらん。ライナーさんに視線を向けたら、力一杯頷かれたので、ワタシの判断は間違っていない。

 あと、お留守番させといてとワタシが念押しした瞬間に、今まで見たことも無いぐらいに輝かしい笑顔でエーレンフリートがワタシを見てきた。……お前、お前、そういう顔も出来たのか。イケメンの好意100%(ただしnot恋愛感情)の笑顔とか、凄い破壊力ですね。お前普段怒ってるから、そういう爽やかな笑顔できるとか思わなかったよ。そうしてるとマジでイケメンなのに、その笑顔の源は皇帝陛下の傍に居られるっていう職務意識(多分色々と突破しすぎてる)だとか、残念すぎるわー。


「まぁ、勅使として行くなら、この間みたいに刺客が襲ってくることは少ないと思うけどな-」

「とりあえず、ライナーは固定として、魔法系一人連れてくか?文官は数名付けることになるが……」

「文官さんの護衛とかいらんの?」

「安心しろ。うちの文官や侍従は全員何らかの方法で戦える」

「……何でやねん」

「……先祖代々の趣味でな。王城に勤める面々は、少なくとも自分の身を守れる程度の戦力を有していなければならない、という方針なんだ。新人はもれなく騎士団か魔導士部隊で軽く鍛えられる」

「それ、文官とか侍従じゃなくね!?んでもって、その理屈でいくと、侍女や女官、料理番も戦える方向になるよね!?」


 驚いてツッコミ入れたけど、ガエリアの面々の中では、「自衛手段を持ってる」というのと「戦える」というのは別枠なんだとか。つまり、自分の身を自分で守れる程度の能力のヒトは「戦える」とは言わないんだと。「戦える」に該当するのは、戦闘員と同程度の戦力を有してないとダメなんだとか。何だその基準ライン。むっちゃ高すぎるだろ。

 ……あ、でも納得した。だから、シュテファンが料理番の中で唯一「戦える」という枠組みなんだ。他の人も「自衛手段は持ってる」けど、「自衛しつつ誰かを護ったり、敵を迎撃できるだけの戦闘能力を保持している」のがシュテファンのみということか……。シュテファンは魔法系の一族に生まれ育ったエルフだから、普通に今もちょっと鍛錬詰んだら魔導士部隊でエースになれるぐらいなんだと。本人が料理にしか興味ないからスルーしてるらしいけど。

 まぁとりあえず、そういう理由なので、厳密に言えば、護衛が必要なのはワタシだけなのだとか。それなら、勅使とは言えコンパクトにまとめることは出来そうですね。ライナーさんが物理方面を担当してくれるだろうから、魔法系を一人捕まえてくれば、それでおkですね。うむうむ。


「ならば、ワシが自ら同行してやろうかのぉ」

「呼んでねぇよ!」

「ラウラ、いきなり沸くな」


 実に楽しそうに現れた外見幼女ロリババアに、ワタシとアーダルベルトは思わずツッコミを入れた。入れたが、ラウラがこうやって唐突に現れるのは、普通のことらしい。転移魔法テレポートを気軽に使いまくるな、そこの妖精魔導士。基本、王城の中ってのは転移魔法を防ぐ術がかけられてる筈じゃねぇの?何でお前、当たり前みたいに移動手段=転移魔法になってんの?色々と間違ってね?

 っていうか、他の場所はともかく、皇帝陛下の執務室に転移魔法できるの、ダメくね?なぁ、そこんところ大丈夫なの?これ、刺客にバレたらヤバイ案件じゃね?


「安心せい。ワシの魔力以外の転移魔法は発動せん」

「お前何やらかしてんの?ねぇ?一国のお城を私物化するようなことは赦されないと思うんだけど?ねぇ?」

「歩いて移動するのが面倒なんじゃ」

「あのなぁ…」

「ミュー殿、ワシのこの足で、移動するのは大変なんじゃぞ?」

「…………あぁ、うん。それは認める」


 ジト目で言われてしまえば、確かに納得は出来た。ラウラは外見幼女ロリババアなのである。つまり、中身がいくらババアでも、身体は幼女なのだ。歩幅が狭いのもお約束だ。確かに、それで移動するのは不便と思う。思うぐらいにはお城広いしな。ワタシも時々移動が面倒になるし、遅いと言われては覇王様に荷物のように担がれるし、ライナーさんに姫抱っこされるしで、言いたいことはよくわかるけど。


「っていうか、何でラウラ出てくんだよ。関係ないじゃん」

「実はの、防御系の魔導具の試作品が出来てのぉ」

「……ほぉ?それってつまり、この間アルノーがキレてたので、防御系急いで作った感じ?」

「うむ。それで、じゃ。それの試運転テストもして貰いたいが、発動せんかった場合が心配なので、ワシがついていこうと思ってな」

「出先で試運転テストさせようとすんなよ」

「その方が試す機会が多そうじゃろう?」


 可愛い笑顔で言われた発言に、イラッとしたのは事実。事実だけど、確かにそうかもしれんと思ったのも、事実でした。騒動の真ん中に首を突っ込みに行くので、確かに、防御系の魔導具なら発動する機会がありそうですね。無い方が良いんですけど!



 つーわけで、そのままゴリ押しされて、外見幼女ロリババア厨二病魔導士ラウラが同行者に決定しました。ちっ!

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