6章 ウォール王国のお家騒動?

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 決意を新たにしたワタシですけど、だからって別に日常が何か変わるわけでもなく、日々の過ごし方はあんまり変わらないというか、いつも通りです。

 うむ。今日もシュテファンの作ってくれるおやつはマジで美味しい。軽食も美味。そういや、キャラベル共和国より無事に筍届きましたので、ヒャッハーしながら皆でいただきました。湯がいてから寄越せと申しつけておいたので、水に浸かって届けられました。ありがとう。刺身は無理だけど、湯がいてあるからえぐみないので、色々と美味しく頂きました。

 筍ご飯も筑前煮も美味しかった。それに、キノコと一緒にパスタの具材にしたのも美味でした。最初は「コレ食べられるの?」みたいな顔をしていた料理番の皆さんですが、いつものごとく、ワタシがシュテファンをこき使ってアレコレやり始めると、普通に馴染みました。ありがとう、シュテファン。ワタシの言うこと聞いてくれる君は、ある意味で中継役として素晴らしい功績を果たしています。

 とりあえず、筍は食材としてインプットされた模様。今後とも美味しい筍料理をお願いします。ワタシ、個人的にはすき焼きに入ってる筍超好きなんで、今度すき焼きお願いします。じゅるり。甘辛い味を吸い込んだ筍、マジで美味です。大きく切っちゃ嫌よ。筍はスライスな感じで。あ、出汁であっさり目に煮た筍を天ぷらにするのも美味なんで、それもよろ!

 つー感じで、筍美味しいを主張した後に、いつもの日常とちょっと違う場所へ。ガエリア王城内の書庫へ向かいまする。識字率の低いこの世界に、図書館なんて物体は存在しない。その代わり、お城の中に超巨大な書庫がある、らしい。いや、行ったこと無かったんで。だって、書庫の建物、普段使ってる場所と別の場所にあるんだもん。特に用事無かったからな……。

 とりあえず、ライナーさんを背後に従えつつ、てけてけと書庫へ。惜しむらくは、書庫なので飲食厳禁ってところでしょうか。適当な時間に戻ってきて、シュテファンに軽食頼んでお茶休憩にしよう。あと、いつものごとくおやつ突撃しないと、まぁたあの仕事大好きワーカーホリック達がぶっ通しで仕事してるだろうしな。ツェリさん、ワタシ、ちゃんとおやつ突撃やってますよ!偉い?偉いよね!


「ミュー様、書庫へは何をしに?」

「いや、イゾラ熱についての記述が無いかと思って」


 お医者さん達が何か知らないかどうかは、既にユリウスさんが調べてくれました。が、結果は惨敗。そらそうだ。そもそも、ゲーム中でもイゾラ熱っていう名称が出てくるのは、ディスク2も後半に差し掛かった頃。つーかぶっちゃけ、後の歴史書に以下略みたいな感じの描かれ方でしたからな。こう、『当時は彼の病が何であるかは誰にも知られることは無かった。後世、世界が広がると同時に覇王の命を奪ったのはイゾラ熱ではないかという説が語られるようになった』みたいなアレ。つまり、確証は無いんだけど。

 ただ、症状その他を分析したら、圧倒的にイゾラ熱に軍配が上がるという状況。んなわけで、ワタシはイゾラ熱についての情報を集めるわけですよ。正直、ゲーム中では覇王様がそれで死んだ、ぐらいしか重要視されてないしな。……だって、後半の主人公は獣人ベスティじゃねーし。イゾラ熱、感染力は弱いみたいで、結局、覇王様とその身の回りの世話をしてた面々が罹患して死んだぐらいで、国に広がったわけじゃないし。

 まぁ、帝国中にぶわーっと広がったら、それこそ阿鼻叫喚だし、滅亡が秒読みになって、他国が攻め込んでくる前に滅んでそうだけど。獣人限定で特効みたいな病気、鬼ですね。獣人以外も住んでるとはいえ、この国、メインの種族獣人だからなぁ……。発祥の地とされる大陸で獣人がいないのは、多分、医療技術が今よりもっと低い時代に感染しまくって、全滅したんじゃね?と個人的には思ってる。

 発祥の地とされる大陸に、行ければ早いんだけどね。獣人以外で遠征隊作って、情報取りに行けばおkなんだけど。……場所は知ってる。地図を見せて貰えたら、だいたいの方角を示すことは出来るだろう。けれど、行くのは不可能だ。あの場所は現在の航海技術ではたどり着けない場所にある。それならなんでイゾラ熱がこっちに広がってるのか謎だ。もしかしたら、覇王様に移る感染源はもうちょっとこっち寄りの場所からなのかも知れない。その辺も調べたい。

 あ?何で行けないか?……船が、通れないのですよ。海を越えて行かないといけないのに、どうしても越えられない海域があるんですよ。通称、悪魔の大渦。ハハハ、RPGゲームをやったことある方々なら、どう言うのか想像つくんじゃありませんかね?ぐるぐる渦巻きがマップにあって、そこを船が通ることが出来ないポイント。まさにリアルにそれですわ。うっかり近づいたら船が破壊されるっていう寸法。……なら、何でそこの病気がこっち側に広がってんのかって話だけどな。

 ……最終局面ぐらいになったら、行けるんだけどなぁ……。5のラストバトルの場所、あの辺だし。その頃なら、主人公ご一行が手に入れてる船も強化されて、諸々の状況が緩和されてて、大渦なんかへっちゃらだぜ☆なノリで乗り越えて行けるんだけど、今は無理ー!どう足掻いたって無理なんだよ!ちくしょう!


「ライナーさん、医術書の類は当たっても意味ないと思うんで、異郷秘話みたいな感じの本の探索をお願いします」

「その方が確実ですか?」

「というか、医術書はお医者さん達がもう調べてるだろうから、違う方面からで。明らかにイゾラ熱は余所から入ってきた病気ですから、そっち系で」

「承知しました。……今日は思いつきで来られましたが、明日からは陛下に頼んで人手を増やして頂きましょうね。…………そうでないと、書庫の本を読み終わるのに、十年はかかりますよ」

「ういー……」


 えぇ、まったくもってその通りですわ、ライナーさん。ワタシもまさか、ここの書庫がこんな巨大物体だとは思わなかった。お城が大きいから、建物そんなに大きくないかなとか思ってたけど、実際中に入ってみたらそんなこと無かった!普通に、博物館ぐらいのサイズだった!しかも塔レベルで上から下までレッツゴーだよ!ただ、分類はきっちりされているので、助かりますが。二人でやろうと思ったら、不眠不休で頑張っても十年はかかる。マジで。ワタシが考え無しで本当に悪かった。

 とりあえず、分類項目を確認しつつ、旅行記とか地理っぽいのが置いてそうな棚へと向かいます。……個人的には、物語系に凄く心惹かれるけどな。神話とか英雄端とか、普通にオタク女子としては気になるじゃ無いですか。この世界のお話ってどんなんかな~みたいに。でもまぁ、仕事優先なので、真面目にてけてけ歩きます。

 見上げた先には、脚立を使っても届かないんじゃね?みたいな高さの棚が……。なぁ、建物大きいんだし、棚はこう、ほどほどの高さにしておけって誰か言わなかったの?何でこんな高いの?上の方の段なんて、ワタシ、どう足掻いても脚立に乗っても届かない高さなんですケド!?

 仕方ないので、手の届く高さの棚から、本を見繕います。異郷秘話系をメインに探す。文字が読めて本当に助かると思ったのは、今日が初めてだ。これで一から文字を勉強しなきゃいけないとかだったら、流石にワタシも心が折れてたと思う。手に取った本は、古びた本だった。意図して、古そうな本を選んだ。その方が、昔々の物語のように、遠い異郷の話を描いていると思ったからだ。

 ページをめくっても、目当ての情報にはぶつからない。それぐらいはわかっている。それでも、一枚、一枚と古びたページをめくる。手触りが普通の紙と違う気がした。これは多分、羊皮紙とかなんじゃないだろうか。ちょっとごわごわしてる。それだけ古い時代の本だと思うと、少し怖々触る羽目になるけれど。

 いやだって、文化財レベルの本に触れるのとか、怖くないですかね?一応、この書庫の中にある本は多少風化しても壊れないんだとか。正確には、書庫の中にある間は絶対に壊れない、という感じらしい。泥棒避けみたいな感じで、一度中に入れた本は、外に出した途端に崩れると聞いている。……誰だ、そんな面倒くさい仕組み作ったの。貸し出し厳禁のレベルが高すぎるわ。


「……ミュー様、そろそろ一度休憩にされませんか。陽が随分と傾いて参りました」

「……え?」


 静かにライナーさんに言われて、驚いたように顔を上げた。視線の先、窓から差し込む日差しは、徐々に夕焼けへと変化していた。い、いつの間にこんな時間に?しまった!今日のおやつ突撃まだやってない!

 慌てて本を戻すと、ライナーさんと二人で書庫から王城へと戻る。シュテファンの所へ顔を出して、飲み物と軽くつまめそうなモノを要求したら、果物たっぷりの生ジュースと柔らかい食感のクッキーをくれた。なお、夕飯までもう少しなので食べ過ぎないように、との釘を刺してきたのは料理長である。大丈夫、わかってる。ご飯美味しいから、ちゃんと容量考えてます!

 そしてそのまま休憩セットを持って、アーダルベルトの執務室へと突撃する。予想通り、仕事大好きワーカーホリック達がいたので、強制的に休憩タイムへと持ち込みました。最近はユリウスさんも完全に諦めてるのか、大人しく椅子に座ってくださいます。良きかな、良きかな。

 複数の果物を贅沢に使った生ジュースをご機嫌で飲んでいるワタシに、アーダルベルトが「何をしてたんだ」と問いかけてきた。どうやら、時々中庭を覗いてもワタシがいなかったので、動向が気になってたらしい。まぁ、いつもなら頑張ってウォーキングしてる時間帯だったもんな。


「書庫で文献漁ってた。ライナーさんと二人で」

「そんなことをしていたのか」

「うん。お医者さんが知らないなら、異郷秘話とか地理系の話に載ってないかなと思って。……けど、書庫の広さ舐めてた。アディ、ちょっと人員分けてくれ」


 柔らかい食感のクッキーをもごもごしながらお願いしたら、瞬きを繰り返した後に、わかったと返事をしてくれました。ありがとう、悪友。ワタシ、あの書庫の広さ舐めてたんだ。二人じゃ無理なので、もうちょっと頭数増やしてください。ただし、色々と裏事情は伏せた方が良いと思うから、その辺の判断もよろしく。


「と、いうわけだ。ユリウス、侍従や侍女、女官から使えそうな人間を回してやってくれ」

「承知しました。……詳しい事情は伏せて、ミュー様が捜し物をされているお手伝い、ということで宜しいでしょうか?」

「それが無難だと思うので、お願いします~。ぶっちゃけ、アディの死因解明とか言われたって、誰も信じないだろうし」

「むしろ、ミュー様が口にされたというならば、阿鼻叫喚でしょうね」


 にこやかに微笑みながら、すっごいこと言い放つユリウスさん。相変わらず、なんていうかこう、色々と勝てない感じだわ-。まぁ、これだけしっかりしたヒトが味方としていてくれるって言うのは、それだけ十分ありがたいことだけどね。ちゃんと手伝ってくれそうな面々をお願いします。噂大好き乙女チック思考系は避けて貰えると非常に助かります。


「そこは保証しかねます。侍女、女官の8割はそれですし」

「ユリウスさんヒドイ!アディ、笑うな!ワタシは結構迷惑被ってんだよ!」

「俺は特に何も無いが?」

「そりゃ、皇帝陛下に色々言う侍女や女官がどこにいる!ワタシには話しやすいのか、色々言われるの!」


 以前の抱き枕事件のほとぼりが、実はまだ冷め切ってないんですよ。しかも、噂から逃げるために戦場に避難した筈なのに、何故かそれまで都合良く解釈されてて、頭痛い。ワタシは別に、覇王様を心配してついて行ったわけじゃねぇ。そんな殊勝な感情持ってないし、むしろ、誰がこいつ倒せるとか本気で思ってるからな!?


「大変だな、お前」

「他人事みたいに言うんじゃねぇ、元凶!」



 ぶん殴っても平然としている覇王様に軽く殺意覚えましたけど、ワタシ悪くないですよ、ね?!


 

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