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 何だかんだで休戦協定は結ばれたようです。……今、ワタシの目の前で。

 なぁ、何でワタシ連れてきたん?ワタシ、こんな大事な会合の場所に連れてこられるの、心臓がドキドキしすぎてて嫌です。むぐぅ。いつもの白ブラウス+黒ベスト+黒スラックスという、上半身は女子、下半身が男子という意味不明な格好をしているので、初対面の皆様方に高確率で《少年》として認識されているようです。しかも覇王様が、性別スルーで「俺の参謀だ」という端的な説明しかしてくれなかった。てめぇ、この野郎。

 相手方は、大統領と軍の総司令官とその他諸々何人かいらっしゃるようです。流石人種のるつぼと名高いキャラベル共和国。大統領は人間、軍の総司令官はドワーフ、秘書っぽいお姉さんはエルフで、側近なのか護衛なのかわからん人たちは獣人ベスティの猫科のようです。混沌としてるけど、まぁ、キャラベル共和国ではそんなもんだろう。いやー、眼鏡の似合うエルフのお姉さん、素敵です。知的美人ぐっじょぶ。お近づきになりたい。

 何も喋らず、ワタシは大人しく、置物のようにしてましたよ?いやだって、軍事機密とか知らんし、政治的配慮とか知らんし、外交の心得なんて、ナニソレ美味しいの?ぐらいの認識ですよ。そんなワタシに何が出来る。むしろ何でこの場に連れてきた。お前いい加減、ワタシを連れ回すクセをどうにかしろ、アーダルベルト。お目見えいらんし。キャラベルの大統領とお話とかしたくないし。


 だって、キャラベルの大統領に対して、ワタシ「この阿呆、とっとと帰れ」ぐらいしか思ってないよ。


 っていうか、あの、真面目な空気の会議に紛れ込むより、後方支援組と一緒に本日のおやつ堪能してる方が嬉しいです。ちくせう。シュテファンがキャラベル側から掻っ払った(というか、アルノーが一部だけでも持ち帰ってくれた)食材で、美味しいもの作ってくれると言ってたのに……。ワタシのおやつ……。

 つーわけで、何か真面目に話してる内容は右から左にすり抜けていきます。ワタシには意味が無い。関係無い。むしろどうでも良いです。アディ、ワタシがここにいる意味がわからない。今回、別にワタシそこまで大がかりな《予言》は口にしてないよね?いや、キャラベル共和国の内情は口にしたけど、それ、斥候の情報をすりあわせたらわかることじゃん?ワタシを引っ張り出す意味がわからん。

 

「では、資材として竹を」

「それでは分量は」


 何か真面目な話してる。あぁ、賠償金の代わりに資材寄越せってなったのか。へー、キャラベル共和国、竹あるんだ。竹藪あるのかな?っていうか、竹があるなら、筍あるよね?今四月だし、筍シーズンじゃないっすかね?筍、ください。筍、食べたい。思い出したら凄く食べたくなった。筍ご飯寄越せェエエエエ!


「ミュー、ぶつぶつ煩い。あと、何を必死に目で訴えてるんだ」

「筍食いたい……」

「タケノコ?なんだそれは?」

「何って、筍は筍じゃん。竹があるなら筍あるでしょ。四月シーズンでしょ。筍貰って。賠償金の代わりに竹貰うなら、筍も貰って。ワタシが食べる」


 じぃっと見上げておねだりしてみました。もとい、畳み掛けるような口調ですので、これ明らかに脅迫とかに近いイメージだと思いますが。でもガエリア帝国に竹無かったんで。それはつまり筍も存在しないと言うことで。もう食べられないと思っていた筍が、キャラベル共和国にあるとしたら、是非ともゲットして貰いたいです。賠償金の代わりにたっぷり貰ってくれ。旬の筍はマジで美味い。

 筑前煮とかも良いよね。筍ご飯と、新鮮ならお刺身も美味しいけどそれは無理かもしれないな。すまし汁に入れても美味しいし、すき焼きに放り込んでも美味。てんぷらも美味しいし、えーと、白味噌あるのは確認したから、味噌炊き!あぁ、筍料理が目に浮かぶです。食べたい、食べたい。早よ貰えし。



 と言う風に自分の欲求に浸っていたら、がしっと頭を掴まれました。嫌な予感MAXぅうう!



「とりあえず、キャラベル共和国の面々もそのタケノコとやらを知らんらしいから、説明しろ」

「何故だ!何故竹が存在する国なのに、筍を知らんのだ!」


 まったくもって解せない反応である。竹があるのに筍を知らないとか、頭沸いてるとしか思わない。何で?筍食べてないの?あんな美味しいのに、どうして食わんのだ!食糧不足なんだろう?!雨後の筍と言うぐらいなんだから、筍は雨の後ににょきにょき生えるし、それを食べれば良いじゃ無い!


「その……、タケノコとは、いったい……?」

「……簡単に言うと、竹の新芽?幼木?みたいなヤツです。育ったら竹になる、茶色い皮に包まれてる状態のアレ」

「あぁ、なるほど。……しかし、食べられるのですか?」


 不思議そうに問いかけてきたのは、キャラベルの大統領だった。お前、大統領のくせに、自国に生えてる食料も把握してないのかよ。筍食えよ。美味しいじゃん。

 とりあえず、育ちきったら竹になるので食えない。今の時期なら掘り起こして食べるのに適している。など色々と伝えた。ついでに、掘り起こしたら速攻湯がかないとえぐみが半端なくて死ぬことも伝えた。あと、足の裏で筍の頭頂部を発見したり、真っ直ぐ生えてるわけじゃないから、周りを抉るように掘るべきだというのも伝えた。

 ……何でワタシは、異世界で筍の採取方法をレクチャーしとるんだ。この間のサツマイモ再びって感じの衝撃だよ。美味しい筍さん、まさか今まで食べて貰えてなかったとは思わなかったよ……。普通に高級食材じゃね、筍?それをスルーとか、この世界の食環境オカシイよ。


「ミュー、とりあえず、簡単な調理法も伝えておけ」

「何で。ワタシはただ、筍寄越せと言いたいだけだ。貰った後はシュテファンに作って貰うから」

「……そうじゃない。……キャラベルの食糧難の対処に、なるかもしれんだろう」


 ぼそりと付け加えられた発言に、その場が静まりかえった。わーい、キャラベル組が絶句してる~。ガエリア組は「あー、陛下だったらそうしますよね-」って顔してる~。予想通り過ぎて笑うしかねぇなあ。相変わらず、何だかんだでお人好しなことで、覇王様?……つーか、雰囲気と戦闘能力の高さだけで覇王呼ばわりされてるけど、本質的には正道を行く仁の王って感じなんだよね、アーダルベルト。全然そうは見えないのが覇王呼びの原因だと思いますが!

 まぁ、そんなことはどうでも良いです。呆気に取られてるキャラベル組なんて、どうでも良いですよね。ワタシが言うことは一つだけだ。


「こーのお人好しが」

「……周辺諸国に揉め事があると、我が国にも影響があるだろう」

「言い訳すんない。ただ単純に、困ってるの見過ごせないだけだし、民が苦しんでるのは他国でも気に入らないだけだろ。やーいやーい、ただのお人好し~」

「ミュー、お前な。ここぞとばかりにヒトをおちょくるな」

「ヤダ。おちょくるネタは見つけたら、ここぞとばかりに弄るのがワタシです。……お前もそうじゃんか」

「……否定はせんな」


 そこは少しは否定しやがれ、アーダルベルト。でも、今の説明で納得したようです。デスヨネー。だって、今のワタシの行動って、普段のアンタの行動と殆ど同じですよ。からかうネタを見つけたから、ついつい面白がってちょっかいかけちゃうアレですよ。時間も場所も選びませんよ。ネタを受信したら行動あるのみです。ははは、キャラベル組の呆然とした顔など、ワタシにはどうでも良いからな!

 って思ってたのに、護衛担当で傍に居た近衛兵ズから視線で止めるように訴えが飛んできました。もとい、ライナーさんは「ミュー様、その辺で……」という穏やかな制止ですが、エーレンフリートは「貴様ァ!他国の人間の前で陛下を辱めるとは何事だぁあああ!」ぐらいの殺気が飛んできてます。うん、ライナーさん、横の狼が暴れないように見張りよろしく。ワタシも悪ノリしたのをちょっとは反省するので。


「んじゃ、後でシュテファンと二人で調理方法書いたメモ作って渡す」

「そうしてくれ。……ところで、他に何か食料になりそうなモノは知らんか?」

「いや、そもそもワタシ、キャラベル共和国がどんな国か殆ど知らん」


 これは事実。戦争でドンパチやるけれど、別に直接的な舞台ではないキャラベル共和国を、ワタシが詳しく知る必要が無かったのだ。えーっと、知ってるのは、共和国ってだけあって民主制で大統領がトップってことと、人種のるつぼと呼ばれるほどに多種多様な種族が入り乱れつつも共存してる国ってことだけだ。

 なので、視線でキャラベル組に訴えてみた。情報寄越せ。その中に、ワタシ的に美味な物体があるなら、答えてしんぜよう。……まぁ、旬を外してたら食えないだろうけど。


「我がキャラベル共和国は、山と湖の国と呼ばれております」

「じゃあ、山菜と淡水魚食ってれば良くね?」

「ミュー、それだけじゃ追いついてないんだ」

「じゃあ、山菜に食えるのまだあるんじゃね?筍忘れてたぐらいだし」


 と思いましたが、どうやら山菜はちゃんと普通に食ってるようです。解った。その山菜も寄越せ。ワタシが美味しく食べる。山菜も好きだ!天ぷらも、炊き込みご飯も、煮物も、炒め物も、何でも美味しいよね!ワタシが一番好きなのはわらびである!ゼンマイも好きだよ。あぁ、懐かしいなぁ。早よ食べたい。ちゃんと山菜もください。かしこ。

 他に何かないかと覇王様に言われますが、ワタシ、そこまで色々知ってるわけじゃないやい。……ん?湖の国?湖と言えば、泥に咲くあの美しい花が生息しとらんかね?食ってる?ねぇ、食ってる?もしかして、観賞用で終わってない?


「蓮根は?」

「レンコン?」

「……やっぱり食ってなかったのか。蓮は咲いてますか?泥に咲く淡水の花。その根っこの部分が、蓮根です。食えます」

「「……えぇええ?!」」


 真顔で告げたら、絶叫が返った。ヲイ、ガエリア組も一緒になって驚くんじゃありません。収穫時期は外してると思うけどな。確か、蓮根は秋ぐらいが旬だったと思う。でもとりあえず、蓮根は、食えます。……いや、食用に適してるのと観賞用とあるだろうけど、とりあえず、蓮根は食える。それは事実だ。

 蓮根って便利だよね。野菜としても食べられるけど、すり下ろして小麦粉混ぜたりしたら、蓮根まんじゅうになるし。それにするとこう、主食代わりにもちゃもちゃ食べられて美味しいし。……食いたくなったので、秋になったら蓮根収穫して送ってください。ワタシが食べる。


「お前、本当に食い物に関しては色々知ってるな」

「違わい。ワタシの世界では普通なんだよ。こっちで何で食べてないのか疑問だよ。サツマイモも知らなかったし!」

「風土によって育つ野菜が違うんだ。仕方ないだろう。……まぁ、すぐさま食用にとはいかんだろうが、何かの足しには考えておいてもらいたい」

「お前本当にお人好しだよね」


 撫でくり撫でくりされつつ呟いたら、撫でくりが鷲掴みになりました。……ちっ、照れ隠しにヒトの頭を掴む掌に力を入れるんじゃねぇよ、アーダルベルト。ワタシは本当のことしか言ってないだろうが。

 んでもって、ワタシが口にした《ワタシの世界》という単語で、ワタシが召喚者だと理解したらしいキャラベル組が、驚愕の表情をしていましたが、別にどうでも良いです。……良いんだよな、アーダルベルト?ワタシの素性をバラしたところで問題ないと、そう判断してここに連れてきたんだろう?


「むしろ宣伝しようかと思ったが」

「止めれ。必要以上に命を狙われそうなフラグいらん」

「実際、今回戦になると解ったのはお前のおかげだろ」

「気まぐれな《予言》なんて、当てにしないで貰いたいけどね」


 ひょいと肩をすくめたワタシの頭を、アーダルベルトは再び撫で撫でしてきました。……あぁ、ワタシの頭の位置、アンタが手を置くのに調度良い高さなんですね、解りました。



 まぁとりあえず、キャラベル共和国との戦争が終わって、何よりです。うむ。


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