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「何を考えてんですかぁああああ!」


 陣営中に響き渡るかのような罵声が、ワタシを襲った。襲ってくるのを予測してたので、両手で耳を塞いでやり過ごしたけど、やり過ごしたことがバレてすっごい睨まれた。いやだって、ガードするでしょ。耳がおかしくなるじゃん。塞いでるのにめっちゃ聞こえるぐらい叫んだだろ。むしろお前の喉が大丈夫か、エーレンフリート。

 まぁね、こいつが怒るのは予測してたけどね。だって、こいつ、陛下至上主義じゃないですか。いくらダメージが存在しないからって、覇王様めがけて爆発呪文ぶっ放したら、怒るに決まってるよね。アーダルベルトが全然気にしてなくても、二発目以降はむしろ早よ寄越せって催促された結果だって言っても、こいつの怒りが収まることはあるまい。それがエーレンフリートだ。


「ちょっとしたお茶目じゃん。そもそも、アディもアンタも、あの程度の爆発呪文でどうこうならんでしょ?」

「……ミュー様、ちょっと俺と付き合って頂けますか」

「全力でお断りする!今のアンタ、出会った頃と同じぐらい殺気ダダ漏れだから!」

「当たり前です!普段の言動も大概ですが、陛下に向かって爆発呪文を放つなどと…!」

「一発目はワタシのお茶目だが、二発目以降はアディが寄越せと言ったんだ。ワタシは悪くない」


 一応事実を指摘してみたけれど、エーレンフリートは全然聞いてくれなかった。デスヨネー。ちょっとアーダルベルト、暴れて小腹空いたからって鳥の丸焼き囓ってないで、少しは援護射撃しろよ。ワタシを責めるエーレンフリートをどうにか出来るの、アンタだけでしょ。ライナーさんなんか、いつものことと放置しちゃってるんだから。


「エレン、別に俺は気にしてないから、お前も叫ぶな」

「ですが陛下!」

「実際、見た目は派手でも威力はほぼ無いに等しかった。それに、敵の動揺も引き出せた」

「陛下!」

「エレン、同じ事を何度も言わせるな」

「……ッ!」


 面倒になったらしいアーダルベルトが、ちょっと真面目な顔して、低い声で告げた瞬間、それまで怒髪天突いてた狼が、耳も尻尾もぺたんってなる勢いで落ち込んだ。その場に蹲ってショック受けてる。……なぁ、エーレンフリート?お前とワタシとアーダルベルトのこのやりとり、何回目だっけ?似たようなことを繰り返し続けてるんだから、いい加減に学習しようね、そこの狼さんや。アンタもしかして鳥頭なのか?

 ライナーさんの方を見たら、生温い視線でエーレンフリートを見ていた。あ、やっぱりライナーさんも同じ事を考えてましたよね?だって、今更じゃないか。ワタシが覇王様に対して適当でぞんざいなのはいつものこと。それに目くじら立てて噛み付いた後、アーダルベルトに怒られるのまでがセット。そろそろ学習してくれないと、これ、ただのコントにしかならんよ、エーレンフリート?


「ミュー殿、魔導具の調子はどうじゃ?」

「割と順調。連発しても壊れないし、発動に影響も無かったよ」

「ふむふむ。では、それを元に正規品を作るかの。正規品は魔力で威力の調整が出来るようにせんとな」

「そうだね。この、爆発してるけど単にもくもくしてるだけ、みたいなのじゃ威力足りなくて武装にならんしね」


 真顔で呟いたら、ラウラもこくりと頷いた。一応、試作品だからってので威力は低くしてあるんだと。暴発の危険性が無いとは言えないからね。でも、連発しても特に問題なかったから、威力が反映される正規品作ってみてね。今度はそれを試運転テストするぞー。

 あ、勿論それをするときは、ちゃんとラウラとかの対処できるヒトがいる場所でしますよ。当たり前じゃないですか。いくらワタシだって、それぐらいの分別はありますよ。……まぁ、的にちょうど良さそうな赤毛の獅子がいるので、付き合って貰おうかなと考えなくはないですが。だって、アーダルベルトに対して効果あったら、それってマジで最強の武器になりませんかね?


「……そんなことをしてみろ。その前に俺が貴様の首を掻き切ってくれる」

「……聞こえてたのか、エーレンフリート」

「エレン、止めなさい」


 冗談としてお茶目に呟いてたら、耳聡く聞きとがめたらしいエーレンフリートが、殺気バリバリの視線で見てきた。口調が素に戻り、敬語がどこかへ消えました。見た感じ、一気に闇堕ちした雰囲気ですが、通常運転です。いつものエーレンフリートです。ワタシのぼやきも、ライナーさんのツッコミも聞こえていない模様。相当頭にきてるようですが、冗談だっての。

 まったく本当に、冗談と本気の区別もつかないのか。つーか本気でアーダルベルトのことしか見えてないよね。エーレンフリート、視野が狭いって言われない?あ、ライナーさんが常々言ってるんだ?でも広がらないんだ。ライナーさん、お疲れ様です。


「別にダメージ無かったから良いじゃんね?」

「威力が無いの知ってて撃ったんだろ?」

「うん。試運転テストにちょうど良いかと思って。敵も慌てるし、アルノー達の為に陽動してたのもバレなかっただろ?」

「あぁ、微塵も疑う余地がなかったようだな。というか、混乱の極みで大変なことになってたようだが」

「大変だねぇ」


 鳥の丸焼き(二匹目)を食べてるアーダルベルトの隣で、ワタシはしみじみと呟いた。真面目な人間が指揮官だったんだろうか。ちょっとしたお茶目だったのに、あんなに効果があるとは思わなかった。ヒトがゴミのようだ!的ノリで眺めてしまうぐらい、敵さんは右往左往してましたよ。ガエリア帝国側が割と早めに動揺が収まってたのは、アーダルベルトが普通だったからかも知れない。

 もしくは、アレ撃ったのワタシってのをあっさり暴露したのかもしれん。身内の援護射撃(味方も何故か巻き込まれる)という異常事態だろうと、原因が解ってれば怖くないだろうし。何より、全然気にせず敵をぶっ飛ばしてる覇王様が眼前にいれば、動揺してる暇なんてなかっただろうしねぇ。……そうか、総大将が最前線にいるのって、そういう時にも役立つんだな。勉強になった。

 まだ怒り心頭で息巻いてるエーレンフリートは、ライナーさんに襟首引っつかまれて引きずられていった。頭を冷やしに行ったらしい。じたばた暴れながら、「陛下のお側に!」とか「あの馬鹿に鉄槌を!」とか叫んでるけど、ライナーさん全然気にしてなかった。めっちゃ引きずってた。……まさか、頭から冷水ぶっかけるとかはやらないよね、ライナーさん?

 とりあえずひらひらと手を振って二人を見送っておいた。大丈夫だ。今、ワタシの隣には最強の覇王様がいらっしゃる。並の護衛なんかよりよっぽど頼りになる。つーか、誰にも倒せない最強無敵がそこにいるので、護衛とか必要ないんじゃね?ぐらいの気分だ。あぁ、やっぱりこの安心感は凄いねぇ。


「お嬢……」


 低ぅい声が聞こえたのは、その時だった。きょとんとしながらアーダルベルトと二人で振り返ったら、戦場帰りと一目でわかる、若干くたびれた装いでアルノーが立っていた。あ、お帰り。兵糧は無事につぶせたって聞いたよ。おかげで敵さんも戦意喪失してるから、このまま休戦に持ち込もうとしてる感じだって。歩兵遊撃隊、大活躍だね!


「んなこたぁどうでも良いんだよ、お嬢」

「え?どうでも良くなくね?戦争が終わるか終わらないかの瀬戸際だよ。超大事じゃん」

「……んなもん、二の次で構わねぇ。お嬢、何危ないことやってんだ!」

「……お前もか、アルノー」


 背後におどろ線でも背負ってそうな感じでアルノーが叫んだ。五十路のオヤジが、眉間に皺を寄せて、青筋浮かべて、唇引きつらせながらワタシを見ている。エーレンフリートは闇堕ち一歩手前ぐらいのダークモードでキレてたけど、こっちはマジギレって感じのオーラ出してる。ってか、何でアルノーがそんなに怒るの?理由がわからぬ。


「危なくないよ~。試作品だから威力低めだもん。なぁ、アディ?」

「あぁ。実際ダメージ殆ど無かったしな」

「ねー?」


 なお、「ダメージが殆ど無い」のはアーダルベルトのみである。他の人たちは多少なりともダメージはあったそうな。かすり傷程度だったらしいけど。その辺聞くと、やっぱりこの覇王様の鉄壁の防御力すげぇなぁ、と思う。装備品がどうのこうのじゃないよね。持って生まれた能力値がオカシイよね。多分、チャチなナイフとかなら弾くんじゃね?


「流石に刃物は通るぞ」

「でも、ワタシの非力さでチャチなナイフでえいってやっても、筋肉に力込めたら防げそう」

「……ふむ。出来そうな気がするな。お前相手なら」

「ヒトの非力さを強調するな。ものの例えだろうが、馬鹿」


 べち、と下からアーダルベルトの顎を叩いてみたけれど、まぁ、いつもの通りにダメージ無いよね。知ってた。そんな暢気なワタシ達の前では、アルノーが今すぐ噴火しそうな勢いでお怒りだった。目に見えないはずの感情のオーラが見える感じで。うわぁ、やっぱりめっちゃ怒ってる。何でだよ。


「お嬢」

「だーかーらー、危なくなかったって。アディ達も大丈夫だったし」

「誰がいつ、陛下やその他大勢の心配をした!」

「「……は?」」


 腹の底からアルノーが叫んだ言葉に、ワタシを含めて全員が呆気に取られた。イライラを隠さずに地面を蹴っているオヤジは、ぶつぶつと何かを呟いている。だがしかし、今、聞き捨てならない発言じゃ無かったですか?あの、アンタ一応、仮にも、歩兵遊撃隊の長で、帝国に仕える武官で、アーダルベルトの臣下ですよね?それなのに今、凄い勢いで皇帝陛下の身の安全無視しなかった?!

 

「俺が心配してるのは、お嬢だ。お嬢は人間なんだぞ?試作品の魔導具が暴発したらどうする。敵の目にとまったらどうする。何かあったらどうするつもりだったんだ」

「え、えーっと、アルノー?一応、ワタシに爆発魔法ぶっ放された皇帝陛下の心配しなくて良いの?」

「陛下にそんなもんがいるか。殺しても死なんだろうが」

「アディ、コレ、良いの?」

「……まぁ、一緒に旅したこともあるからなぁ。色々思うところはあるんじゃないか?」


 一貫して「非力な人間であるワタシ」の心配しかしないアルノーに、ちょっと首を捻った。そこは少しぐらい皇帝陛下の心配もしようよ。部下として。それなのに、アーダルベルトはあっさりと流した。なるほど。確かに、元パーティーメンバーだったら、アーダルベルトのハイスペックを間近で見てるよね。爆発魔法の一つや二つ、喰らっても死なないことぐらい知ってるか……。

 でもだからって、部下としてそれどうなん?あ、でも、主人の方が気にしてないからそれで良いのか?えーっと、えーっと、とりあえず、アルノーはワタシの心配をしてくれてるわけだ。非力なワタシが危ない目に遭わないように、と。え?アンタはワタシの保護者か?過保護通り越してね?一応護衛のライナーさん隣にいたけど?


「ライナーに魔法の対処は出来ねぇだろうが」

「うい、そうですね。でもとりあえず、そんな怒らなくても大丈夫だって」

「お嬢」

「えーっと、心配かけてごめんなさい?でもほら、ワタシはちゃんと無事なので、ご安心を」


 にへっと笑って見せたら、諦めたようにアルノーが脱力した。ごめんよ、オヤジ。ワタシ基本的にマイペースだし、脳天気なんだわ。細かいこと気にしてたら生きていけないんだよ。ワタシは、萌えと妄想があれば生きていけるお手軽腐女子なので、真面目さとか常識を求められても困る。

 とりあえず、シュテファン、お疲れのアルノーに甘い物あげてー。別に賄賂じゃないぞ。ただの労りである。お仕事お疲れ様って感じで!……つーわけで、本日のおやつであるチョコクッキー(チョコチップ大量に入れて貰った)を食べて、機嫌治してください。お願いします。



  

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