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ドナドナされてやってきました、ウォール王国。……来たくなかったけどな!
アロッサ山を歩いて越えるという苦行は、心優しいライナーさんが姫抱っこしてくれることでクリアしました。エーレンフリートの目が色々と冷たかったですが、気にしません。今はこの二人だけがワタシの味方。いつも頼りになる覇王様がいないというのは非常に不安です。うぐぅ、アーダルベルトの阿呆。帰ったら覚えてやがれ。
なお、ワタシは動きやすいジャージ風運動着+幅広の帽子という、一見すると農家スタイルにしか見えない格好です。……仕方ないじゃ無いですか!ウォーキングしてるときにヤン君がやってきたせいで、いつもの衣装に着替える暇が無かったんだから!あと、帽子はヤン君のお母さんがくれました。被ってた方が良いと言われました。
目立つ黒髪を隠す+髪を帽子に隠してしまえば少年に見えるので、正体を隠せるだろう、という優しさに涙が出そうですね!
ねぇ、帽子被って髪の毛隠したぐらいで、ワタシ、少年に見えるの?確かに着てるのはジャージ風だけど。身体の凹凸は少ないけど。童顔だけど。ねぇ、それでもワタシ、髪の毛長いのが見えなかったら、それだけで、少年に、見えちゃう、の……?
しかもね、目立たないためとはいえ、ワタシ、ライナーさんを「お兄ちゃん」と呼ぶポジションですよ。だがしかし、妹ではないのだ。ワタシのポジションは、冒険者×2なライナーさんとエーレンフリートが旅先で拾った、少年Aという設定なのです。…………何で、ワタシが少年やねん!この配役を考えてくれやがったアーダルベルトは、ぶん殴りたい。
とはいえまぁ、仕方ないことです。ここはウォール王国の港町、フェルガの街。アロッサ山からはちょっと離れてます。普通に人間の足だったら数日かかるんじゃないですかね?騎士団の皆さんはアロッサ山のふもとから馬。こちらも馬かと思いきや、ライナーさんとエーレンフリート、普通に走りやがりましたぜ?
どうも、彼らに無駄に借りを作りたくなかったようで。街までの距離を聞いて、途中で休憩がてら他の街で水分補給することも聞いたら、あとは普通に走りました。
ってなわけですので、港町に入って一番はやはり、怪しまれないように目をキラキラさせる子供のフリをしましょうか。何で少年ポジションなのかは、
「わー、港町だー!お兄ちゃん、お兄ちゃん、お船が見たい!」
「こらこら、その前にまずは宿屋を取ることが先決だろ。それに、ここまで一緒に旅をしてくれた騎士団の皆さんにお礼は?」
「あ、騎士団のおっちゃん、兄ちゃん、ありがとう!」
にぱっと笑って告げてやれば、騎士団の面々が顔を引きつらせた。ワタシのわざとらしい演技によるものか、それとも「おっちゃん&兄ちゃん」呼びに騎士としてのプライドが以下略だったのかは、知らぬ。旅の必需品である携帯食料や回復アイテム諸々が入った袋を肩に担いでいたエーレンフリートが、ちらりとそんな騎士団の皆さんを見ていた。見ていたが、何も言わなかった。……どうもこいつは、アーダルベルトが絡まなければ、無口に分類される方らしい。普段饒舌なのでそんなこと思いもしなかったよ…。
目立つ騎士団の皆さんとの関係を邪推される前に、「旅先で出会ってこの街まで同行してくれた」ということだと先制パンチで周囲に伝えておきます。ライナーさん、なかなかに見事ですね。よどみないですね。普段にこにこ笑ってるお兄さんモードしか知りませんが、何気に腹芸得意ですか?相棒がそういうの苦手そうなので、担当は貴方ですかね?
なお、エーレンフリートはボロを出さない代わりに、必要最低限しか喋らない。……まぁ、むしろこいつ未だに、アーダルベルトの傍を離れなければならなかった状況に沈んでるだけなんですが。お前、本当にアーダルベルト好きね?んでもって、ワタシのことどうでも良いのね?扱い軽すぎね?!色々気遣ってくれてるの、ライナーさんだけなんだけど!?
「いやいや、坊主、優しい兄ちゃん達で良かったな」
「うん!」
「それじゃ、また何か困ったことがあったら、おっちゃんに頼めよ?」
「じゃあ、おっちゃん、街の案内して!」
「こら、騎士団の皆さんに迷惑だろう?」
「えー、だってお兄ちゃん!お船見たいし、美味しいご飯のお店とか、綺麗な宿屋とか、知ってるなら教えて欲しいよ?」
今までありがとう&この後もちょっとだけ一緒に行動してください、という意味合いの会話。何でワタシがこんな阿呆な役回りをせにゃならんのだと思ったけど、獣人のライナーさんとエーレンフリートに非友好的な視線が突き刺さるこの国で、気にせず無邪気に行動できるのは人間のワタシだけなのでした。……だから、ドナドナされるの嫌だったのに……!
わざと子供っぽく振る舞えば、周囲の視線も微笑ましいイキモノを見るようなものに変化していく。見慣れない旅人に対するものであってもそれなりに警戒心がありながらも棘がないのは、この街が港町だからだ。港町は外国から色んな人が入ってくるから、警戒しつつも彼らを受け入れないと生活が成り立たないしね。
……この国は、人間の国だ。その為か、獣人に対しては非友好的なのですよ。別にいきなり攻撃されたりはしないけど、視線があまり優しくは無いよね。ライナーさんもエーレンフリートも全然気にしてないみたいだけど、ワタシはちょっと気にするわ。だって、ワタシは人間だけど、所属は多分、ガエリア帝国っすよ。大きな括りで見たら、獣人の仲間だよ。バレたらワタシも冷たい目で見られるのだろうか……?
なお、ワタシがひたすら「お船が見たい」と言ってるのは、ただの観光目的じゃねーですからね!?
一応、今回の事件の目当ての人物が、この街にいるだろうことは確実なんです。だって、アロッサ山からここに来るまでの街に、いなかったしな。そうなると、もう既にこの街にたどり着いてるだろうし、そうしたら外国へ高飛びするために、港で船を探しているだろうし、ということで。早く探しに行こうよ、騎士団の皆さんや?…………んでもって、ワタシを早く
生温い視線を向けつつも、おっさんは即座に判断したのか、ワタシ達を港の方へと案内してくれるようだ。うむ。理解が早くて非常に助かる。とっとと行くよ。んでもって、馬鹿を捕まえるんだから。
「……で、目標は?」
「いちいち聞かんでください。…が、個人的意見を申し上げれば、出航前のあの船の傍の、樽」
「「……樽?」」
ぼそぼそと小声で会話を交わすおっさんとワタシ。ワタシの保護者よろしく傍に居るのは、ライナーさんとエーレンフリート。その背後を、まばらに他の騎士たちが付いてくる。なお、全員が何気ないフリをしつつも周囲への警戒を怠らず、いつでも反応できるようにしてらっしゃる。流石、近衛兵+騎士団ですね!
ワタシが示した先には、ヒトが入れそうな大きな樽。……いや、言いたいことはわかるよ?何でそんなピンポイントで示すんだとか、何で樽なんだとか、色々と意見はあるだろうしね?でも、仕方ないじゃ無いですか。目当ての人物、出航時間が来るまで、旅券を手にした後は樽の中で隠れてるんだから。……少なくとも、ゲーム『ブレイブ・ファンタジア』ではそうだった。
船を見るために近づいているのを装って、てけてけと歩くワタシ。それを近づきすぎると危ないぞ、などと言いながら追いかけてくるおっさん+獣人二人。幾つも並んでいる樽を、ワタシはじっと見る。数を確認して、左から順番に数えて、五つ目。ごくごく普通のその樽を、げしっと蹴ってみた。
「……ッ!」
ぐわん、と樽が揺れて隣の樽にぶつかって、何度か揺れて、けれど持ち直した。呻くような、息を飲むような声はしたけれど、小さくて、多分ワタシと周囲の三人にしか気づかれていない。おっさんは驚いたように目を見開きつつも、樽を凝視している。ライナーさんはさりげなくワタシの前に出て、エーレンフリートもいつでも反応できるように神経を研ぎ澄ませている。
ワタシは無言で、己が蹴った樽を、示した。
おっさんが頷いて、騎士団が走ってきて、樽を取り囲む。緊迫した空気の中で、樽の蓋が開けられる。そしてそこには、本来入っているだろう積み込み物資では無くて、一人の男が座り込んでいた。中肉中背のこれといった特徴の存在しない男は、突然現れたワタシ達に驚いているようだった。そりゃそうだろうね。いきなり騎士団に引っ立てられたら、誰でもビックリする。でも、樽に隠れていた時点で、後ろ暗いところがあるって言ってるみたいなもんだけど?
「……あれが、目当ての人物ですか?」
「うん。あ、おっちゃん、指輪は上着の内ポケットに、縫い付けるようにしてあると思うよ」
「……何でそんなことまで知ってるんだ……」
「えー?《知ってるから》としか言えないけど」
「……まぁ、良いか。おい、確認しろ」
「はい」
まるで、突然起こった捕り物に驚いている子供のように、ワタシは騎士団のおっさんに対してくっつきながら言葉を綴った。心配するようなライナーさんも隣にいる。エーレンフリートはちょっとだけ距離を取っていた。多分、あの男が逃げようとしたら捕まえようとしてるんだろう。人間には反応できなくても、獣人の彼なら余裕だ。
ほどなくして、男の上着から指輪が発見された。双頭の蛇と赤と青の石が印象的な指輪。装飾品というよりは、宝飾品と呼ぶべきだろう。これは身につけるための指輪じゃ無い。飾るための指輪だ。そう思わせるような、豪奢な指輪だった。
よし、指輪見つかった!これで問題ないよね?!ワタシ、
「……まぁ、日が暮れそうなので、今日はこの街に一泊しますからね」
「……そうっすか……」
「観光しましょう、ね?」
「……うい」
眼前で騎士団と男はぎゃんぎゃん言い合いながら大捕物を繰り広げている。ワタシはそんなの知ったこっちゃないのです。お泊まり決定なんですね。それなら、広いお風呂があるようなお宿が良いです。あと、美味しい港町特有の新鮮な海鮮物が堪能出来る食堂も探して欲しいです。
「何だかんだ言いつつ、観光する気ですか」
「え?だって、もうお泊まり決定なら、開き直ってもよくね?」
「……ちっ、我々だけなら夜通し走って戻るものを…」
「…………ライナーさん、こいつマジで、本当にアディの傍を離れてるの嫌なんですね?」
「申し訳ありません。エレンはそういう男なので、諦めてください」
「うい」
ある意味ぶれないエーレンフリートに拍手をしてやりたかった。お前は本当に、アーダルベルトが好きだね。ワタシもアーダルベルト好きだし、己の身の安全の為にも早く覇王様の元に戻りたいけどな。やっぱり、圧倒的なまでの安心感はあいつの傍だと痛感したから!
「……?」
不意に視線を感じて振り返る。男が、ワタシを睨んでいた。知らんがな。アンタ等のくだらない策略も、ワタシには関係無いんだよ。
……おっさんが、何か色々聞きたそうにしてるので、後で事情聴取されんのかなー、とは思いました。マル。
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