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 ……とても素晴らしい空の旅(※シートベルトが存在しない超速飛行)の末にたどり着いたのはトルファイ村。……ではなくて、村が見下ろせるアロッサ山の頂上だった。まぁ、直接村に降りたら、大騒ぎになるよね。うん。



 ……っていうか、ワタシはマジで墜落死の危険性と戦ってたんですけど!!!



 ヤン君、自分が普通にグリーの背中に乗って飛ぶのに慣れてるからって、こっちにもそれを求めるのどうかと思う!そりゃ、獣人ベスティ組は大丈夫でしょうよ!ライナーさんもエーレンフリートも、いつもよりかっちり武装して、予備の剣まで持ってるくせに、平然と巨大鳥の背中にしがみついてたしね。それも雑談しながら!だが、ワタシはそんな腕力など無いので、無理ゲーなんですよ!

 あ?その状態でお前どうして無事だったって?そんなもん、アーダルベルトの片腕にがっちりホールドされて、腹に抱え込むみたいに抱き込まれてたからに決まってるじゃ無いですか!飛び上がる寸前までは自分でしがみつこうとしてたけど、途中でヤバイと気づいて即座に隣のヤツに縋りましたよ!ワタシは墜落死したくなかったんだ!

 なお、その覇王様、ワタシ一人を抱えてるとは思えないほど平然と、普通に、巨大鳥の背中に座ってましたけどね。バランス感覚オカシクね?むしろ、ワタシを抱えてなかったら、こいつ普通にグリーの背中に仁王立ちしてたんじゃね?とは思った。昔見た漫画で、鳥を移動手段にしてるキャラがやってた感じで。……この規格外覇王様め!


「……村に何者かがいるのはわかるな」

「流石にこの距離ですと、鎧や紋章などの判別までは叶いませんね」

「関所は通らずに、山を抜けて村に降り立ったのでしょうか」


 ……なぁ、山頂から村を見下ろして、当たり前みたいに会話するの止めない?んでもって、ヤン君も普通に頷いてるところを見ると、獣人って視力も良いの?もう、ありとあらゆる身体能力がワタシ達人間とは異なるってことでおkなの?ワタシには、辛うじて村の建物が判別できるレベルなんですけど!

 あとね、グリー。アーダルベルト達は放置してるくせに、興味深そうにワタシを翼でつんつんするの止めて。伝説のバケモノ級モンスターであるグライフだという自覚を持ってくれ。ワタシのような小娘に興味を持ったところで何もない。あと、餌も持ってないし、ワタシは美味しくないからな!


「……何かワタシに言いたいことでもあるのかね、グリーさんや。言っておくが、ワタシはヤン君と違うので、君の言葉はわからんよ?」

《そうでもなかろう、異界の者よ》

「ッ!?ちょ、まっ!?」

《ふむ。やはりな。異界からの召喚者は、この世界の住人よりも我らと波長が合うらしい》

「しれっと重大事項を暴露すんなし!」


 翼でつんつんしてたと思ったグリーが、真っ直ぐとワタシを見ながら念話テレパシーをしてきた。ワタシ、そういうことに慣れてないんで、勘弁してください!あと、しれっと言ったけど、ワタシが召喚者だって理解してた?!何でわかった?!ワタシは別に、中身と黒髪黒目はともかく、他はこの世界の人間とそんなに変わらんはずだぞ!?

 あわあわしながらもツッコミを入れたワタシの頭を、ぐわしっと掴む大きな掌。……振り返らなくてもわかる。これはアーダルベルトの掌だ。怒ってるわけじゃなく、ただ、「何が起ったのか詳しく教えろ」という意思表示に過ぎない。いつものことだ。わかっている。


 わかってるけど、ワタシだってこんなことになるなんて思わなかったんだよ!


 だって、普通に考えよう?魔物使いテイマーであろうヤン君はともかくとして、チート能力など持っていないワタシが、まさか、巨大鳥グライフから念話を用いて話しかけられるとか、誰が思う!?ワタシは思わんかったわ!


「ミュー?」

「……あのな、アディ。ワタシ、どうも、グリーの念話、受け止められる感じに波長は合うらしい」

「……は?」

魔物使いテイマーとかじゃないんだけど、召喚者は波長が合いやすいんだって。んで、声かけてきた」

「……よし。ならお前が通訳だ。詳しい状況を聞こう」

「おぃいいいい!即座にヒトを活用する手段を講じようとすんなよなぁああああ?!ちったぁ驚けやぁあああ!」


 あまりにも平然と言われた言葉に、ワタシはべしべしとアーダルベルトの胸板を叩いた。……ワタシは、叩いたつもりだ。ヤツにとってはくすぐったいだけかもしれんが。

 だって、ライナーさんとエーレンフリートはビックリしてるんだ。ヤン君は嬉しそうにしてるので、お仲間発見とか思ってるのかもしれんが。…ヤン君、それは違う。君は魔物使いテイマーで、ワタシはただ波長が合って念話が受け取れるだけだ。そこを間違えてはいけない。君と同じようにモンスターを手懐けるとか、ワタシには無理だからね!?


「現在村にいるのは、ウォール王国の騎士か?」

《おそらくそうだろう。関所を通らずに、山を通過していった。特に山に害をなそうとしなかったゆえ放置したが、まさか村を襲うとはな……》

「多分そうだって。大人しかったから放置してたら、関所通らないで山から下りたって。で、トルファイ村に危害加えそうなせいでちょっと怒ってる」

「ふむ。今のところ、村人に被害は出ているのか?」

《直接的には出ていない。だが、奴らは妙に威圧的に出て、何かを探しているようだ。或いは、何かを持ち逃げした誰かを探しているのかもしれん》

「被害は無し。ただし、騎士達は威圧的。何か、或いは何かを持ち逃げした誰かを探してるっぽい」

「ふむ……。なるほどな。村人に被害が無いのならば、俺が顔を出しても、村人を人質に取られる心配は無いか」


 当たり前みたいな態度のアーダルベルトは、色々と考えているらしい。グリーも考えてるらしい。だけどな、お前等、ワタシを勝手に通訳にすんな?っていうか、通訳ならワタシじゃ無くてヤン君でも良くね!?グリーとの会話にも、ヤン君の方が慣れてるだろ!?


「子供に通訳させてどうする。ミュー、行くぞ」

《何かあればヤンを通じて我を呼べ。不届き者は叩き潰してやろう》

「アディ、早く行こう!この物騒なグライフが殺る気モードになってるから!あいつらとっとと村から追い出して、村に平穏を与えて上げよう!」


 にんまり笑う感じのグリーにぞっとしたワタシは、アーダルベルトの腕を掴んで引っ張った。だって、こいつマジで本気で、騎士団壊滅させるつもりじゃね?……それも、ヤン君の村に害を成す存在だから、っていうそれだけの理由でだ。理不尽すぎるというか、愛が深すぎるというか、怖い!…まぁ、自分が見逃した結果こうなったっていう風に思ってるなら、責任感じて自分の手でぶっ殺すになったのかもしれんが。

 なお、山から下りるのは、グリーが麓まで送ってくれた。ワタシはまた、アーダルベルトに抱えて貰いました。急降下すんの危ないと思うんだけどな!ヤン君は全然気にしてないけど、ワタシは気にしたい!獣人の基準ラインってマジで怖すぎるんですけど……!


 で、トルファイ村にたどり着いたら、騎士団らしき集団と男三人がにらみ合いを始めました!


 ヤン君~、君は危ないから、お姉さんと一緒に背後に隠れていようねー。大丈夫だ。細かいことは気にしなくても良い。例え相手が飛び道具を使ってきたとしても、奴らの動体視力なら難なく見切って、下手したら相手に打ち返すだろうから。心配はいらぬさ!

 アーダルベルトの背後からこっそり見た感じでは、騎士団らしき集団は、オール人間。獣人の国ガエリアでは、人間の集団ってだけで目立つよね。それなのに、ご丁寧に完全に騎士服着ちゃってるんですけど。それ、超目立つ身分証だよな。確かに村人への威圧にはなるかもしれんが、お前等、外交問題って知ってるか?知らんのか?


「さて、我が国で何をしているのか、聞こうか、ウォール王国の騎士達よ」


 好戦的な覇王様モードで威圧を発しながらアーダルベルトが問いかける。その斜め後ろに、ライナーさんとエーレンフリートが、いつでも剣を抜けるようにしながら佇んでいる。おぉ、格好良い構図だ。願わくば、正面から眺めたい。残念ながら、ワタシには彼らの背中しか見えません-!

 なお、騎士団らしき集団はびびった感じになってる。その背後に村人達がいて、無理矢理集められて尋問されてたんじゃね?みたいな構図だ。ヤン君は村長さんを発見して走り寄ろうとしたけど、ワタシが待てをしたら大人しく止まってくれた。良い子だね、ヤン君。今君があの空間に飛び込むのは危なそうだから、とりあえずお姉さんの隣にいなさい。


「……ガエリアの覇王殿か」

「その通り。……事前の通達も無く国境を越え、我が国の民に無体を働くとは良い度胸だ。何をしている」

「……許可を取らずに訪れたことはお詫び申し上げる。なれど、我らも重大な役目を担っているのです」

「それは貴様等の理屈で有り、我が国においては通用せんな」


 すぱっと相手の言い分を切り捨てるアーダルベルトは、傍目に激おこに見えるだろう。いや、怒ってるよ?こいつ確かに怒ってるけど、別に問答無用でぶっ飛ばすっていう方向じゃ無いからね?好戦的に見せかけて、相手を挑発して、向こうが武器使ってきたら返り討ちにするつもりはあるだろうけど、基本的に話し合いで終わらせようと思ってるよ。……全然見えないけどな。

 しっかし、覇王様相手に踏ん張るほどの重要な任務ってなんだろうなー?ウォール王国の存続に関わるとか、そういう重大イベントでも起こってるんですかね?トルファイ村がその舞台になったことなんて無いから、わからんけど。……というかそもそも、ゲームだとトルファイ村、滅んでるからなぁ……。

 ちょっくら記憶を探ってみる。《トルファイ村で》という部分を除いて、この時間軸で何かイベントが無かったかどうかを、考えてみるのだ。ウォール王国絡みのイベント、あったかなー?アロッサ山越えてわざわざ騎士が、何かを、或いは誰かを、探している。


 ……アレ?ウォールの捜し物って、もしかして……。


「指輪?」

「「……ッ?!」」


 ぼそっと呟いたら、騎士団っぽい人々が驚愕の表情をした。そのまま、すっげー勢いでワタシを見てくる。思わずアーダルベルトの背後にしがみつくみたいにして隠れた。いやだって、ただ注目されるだけならともかく、この人達武器装備してるし。ワタシ非力なので、いきなり攻撃されたら完璧に死ぬ。

 なお、相手の反応から何かを察したらしいアーダルベルトが、ワタシをジト目で見ている。いやいやいや、ワタシ悪くないからね?ちょっと記憶を探ったら、該当しそうな項目を思い出しただけだからね?あくまで可能性であって、確定はしてないからね?!


「お前、今回は何も知らないと言っていなかったか?」

「と、トルファイ村が関わってる事象は知らない!」

「だが、あいつらは確実にお前の一言に反応したぞ」


 ぎりぎりぎりと頭を鷲掴まれて、痛いと訴えても解放されませんでした。

 えぇ、まぁ、そう言いましたよね。今回は何も知らない、と。役に立たないと。だから連れて行かないで、ワタシは留守番をさせてくれ、と。そう言って、文句言いまくって、無理矢理拉致されてここに来た自覚はあります。覚えてるよ、アーダルベルト。

 だが、言い訳はさせて欲しい。ワタシは、本当に、トルファイ村で起こっている事件は知らないのだ!ただし、このウォール王国の騎士達が探しているらしい物体については、想像が出来る。というか、ワタシの記憶が正しければ、それ以外にあり得ない。この世界ではトルファイ村が滅んでないからトルファイ村で起こってるだけで、ワタシの知っているこのイベントは、別の街で起こってただけだ!



 …………やっべー。今回もまた、ワタシのゲーム知識、《予言》扱いされて大騒ぎになるんじゃね?


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