4章 うっかり《予言》で隣国へ
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地獄の宴だった新年会も終わり、ワタシはまったりとした日々を過ごしていた。シュテファンと戯れつつ料理のレパートリーを増やしたり、アーダルベルトに強制的に馬に乗せられて――一応乗馬も出来るようになったけど、あの阿呆の速度にはついていけないので、結局拉致られるのです――あちこち散策に付き合わされたり、健康のために中庭のウォーキングを続けたり、文字の書き取りを必死で頑張って覚えたり、という日常。
……アレ?まったりどこ行った?何気にハードな項目混ざってね?
まぁ、そんなこんなで、今日も中庭でウォーキングしてたんですよ。アーダルベルトに話したら、運動着を作ったら良いと言ってくれたので、デザイナーさんにジャージっぽいの作って貰って。多少生地が違うけど、概ね似たような感じで、動きやすい衣装にしてくれた。今はまだ寒いのでジャージですが、夏用は半袖半ズボンを要求しておいた。
あ、今は2月です。一ヶ月があっという間に過ぎちゃったねーとか思ってたんですよ。でも、まぁ、とりあえず日常だったし、大きな事件も面倒なことも起らなかったし。平和平和と思ってたんですよ。ワタシもアーダルベルトも、他の皆さんも。
その反動なのか、今現在ワタシの目の前にいる巨大鳥について、誰か説明してくれと思うのですが。
えぇ、巨大鳥なんです。
ここ、ガエリア王城の中庭なんですけどね。信じられないぐらい大きな鳥が、突然頭上から降りてきまして。私の姿を認めたのか、ただの偶然なのかは知りませんが、中庭に降りたって、ワタシをじっと見てるんです。……喰われたり、しないよね?
当然ながら、ライナーさんがワタシを庇うように前に立っています。ですが、相手は巨大鳥。ライナーさん一人でどうこうできる相手ではないと思われます。……だってこれ、「よっしゃ!仲間と一狩り行こうぜ☆」なゲームに出てくるモンスターサイズですよ。その大きさに驚くと同時に、そんなモンが普通に降り立てる広さの中庭を所有しているという事実に驚きです。無駄に広いもんな。
……というかね、ワタシ、この巨大鳥、知ってる気がするんですわ。個人的な知り合いじゃなくて、ゲームで遭遇したモンスター系ということで。
「……山の主じゃ、ね……?」
ぼそりと呟いたら、ライナーさんがぎょっとしたようにワタシを見た。えぇ、そういう反応になりますよね、ライナーさん。ワタシもそう思います。というか、何でこいつがこんな所にいるのか教えて欲しい。
山の主とは、そのまんま、山を支配する存在のことです。大抵巨大鳥なので、巨大鳥=山の主という考え方になっても無理は無い。彼らは基本的に温厚。
で、山の主にも特徴はある。今目の前にいる巨大鳥は、グライフだ。国によってはグリフォンとかグリフィンとか呼ばれる存在。鷲あるいは鷹の翼と上半身、ライオンの下半身をもつ生物で、まぁ、それだけで十分、バケモノの片鱗を感じることはできるだろう。それに加えてこいつは、賢い。喋ることこそ出来ないが、こちらの言葉を理解できる知能があるのだ。よって、侮辱した瞬間にぶっ殺されそうになる。きゃー、怖い。
さて、このグライフという巨大鳥。どこの山の主かと言えば、お答えしましょう。…………アロッサ山なんだよ!
トルファイ村のお隣にある山の、主様ですよ!何でこんなとこにいるんだよ!山の主って本来、
じぃっとワタシを見てくる巨大鳥。その瞳にはちゃんとした理性と知性が宿っていて、何らかの意思を感じさせる。だがしかし、ワタシには彼の意思がわからぬ!むしろ怖いんですけど!ライナーさんも警戒一直線で、一触即発。このままだと、どう考えても衛兵が大量にやってきて、ドンパチ始めそうになる危険性有り!
ノー!それはワタシとしてもありがたくない!こんなところで怪獣大決戦みたいなのいらないんで!非戦闘員のワタシの傍にそういう危険性はいらんのだ!断固として拒否する!むしろとっとと巣に戻れ!
「ミュー様!」
その時だった。巨大鳥から、私の名前を呼ぶ子供の声がしたのだ。ライナーさんと二人で顔を見合わせる。巨大鳥はワタシをじっと見ているだけで、何の動きもしていない。だが声は、明らかに巨大鳥から聞こえてきたのだ。……え?ドウイウコト?
そうこうしているうちに、巨大鳥の背中、首の後ろ辺りから、ナニカがぴょんっと飛び降りてきた。ナニカ、否、子供だ。
「や、ヤン君……?」
「ミュー様!ミュー様、村を、みんなを助けてください!」
恐る恐る名前を呼んだワタシに、少年は突撃をしてきた。そのまま、どすっという音がするほどの勢いで抱きつかれて、思わず息が詰まる。倒れそうになったのを、ライナーさんがそっと支えてくれた。ありがとうございます、ライナーさん。あと、ヤン君、君、ワタシが非力だというのを理解してくれ。子供とは言え、君は獣人なのだ。しかも虎だぞ。ワタシより今の時点で既にパワーあるんだからな、君!
必死に私の名前を呼びながら、村を助けてと叫んでいるのは、ヤン君。トルファイ村の村長の孫。以前にちょこっと顔を合わせた程度で、こうやってわざわざワタシを訪ねにやってくるような間柄では、ない。ないのだけれど……?
「村を助けてって、ドウイウコト?」
「村に、人間の騎士団が来て……!よくわからないけど、何かを探してて、こっちの話きいてくれなくて…!」
「……人間の、騎士団……?…………ライナーさん、これ、マズくないっすか?」
「マズイどころではありませんね。おそらく今頃この騒ぎが陛下の耳にも入っているでしょうから、お越しになるのを待ちましょう」
「うい」
必死すぎる少年は気づいていないようだが、これ、マズイことですよ。だって、このガエリア帝国は獣人の国。人間の騎士団など、存在しない。すなわち、その騎士団というのは、騎士団を語る犯罪者共か、或いはもう一つ。……人間達の国である隣国、ウォール王国の騎士団である可能性が、あるのである。
なお、両国の国境は、アロッサ山だ。山の西側がガエリア帝国。東側がウォール王国。ただし、アロッサ山には最強無敵の巨大鳥であるグライフの山の主様がいらっしゃるので、駐屯兵とかいない。国境は自然に任されている。……というかな、関所とか作ろうとしたら、山の主様がキレるから。山の麓にそれぞれ関所があるぐらいだよ。小さいのが。
まぁ、難しいことはアーダルベルトが来て判断して貰おうじゃないか。下手しなくてもコレ、国際問題じゃね?ワタシの一存でどうこうできる範囲じゃねーっす。
と言うかワタシは、それよりもっと気になることが、あるんだが。
「ヤン君、君は、山の主様と仲良しなのかな?」
「グリーのこと?グリーは友達だよ?」
「……ともだ、ち…?」
呆気に取られるワタシの横で、ライナーさんもぽかんとしていた。どうやってモンスターと友達になったんだね、少年。まだ10歳ぐらいだと思ってるんだが、それでモンスター手懐けたの?何をやったの?
「祖父ちゃんが、陛下に知らせに行けって。大人は村から出られないし、村の馬じゃお城まで時間がかかるし……。だから祖父ちゃんが、俺に、グリーに助けて貰って、行ってこいって言ったんだ。……ミュー様、村を助けてっ!」
「あー、うん。落ち着け、落ち着け。もうすぐきっとアディが来るから」
よしよしとヤン君の頭を撫でつつ、村長さんの英断にびっくりした。あの巨大鳥を馬代わりに使うのか。というか村長さん、自分の孫が山の主と仲良しという事実を普通に受け入れてたのか。もっと驚くべきことじゃないの?ねぇ、これ、トルファイ村だと普通なの!?
というか、もしかしてこの子、アレなんじゃない?山の主様手懐けてるし、しかも友達だって言ってるし、確実にソッチだと思うんだが。よし、聞いてみよう。
「ヤン君、君、もしかして
「……
「ミュー様?!まさかこの少年が、伝説に名高い
「いや、その可能性が捨てられないなーと思って。普通のモンスターなら、幼少期から一緒に過ごしてて仲良しでも可能かも知れないけど、流石に、山の主を友達に出来るのって、
ライナーさんが驚愕してるけど、だって、そうとしか思えないんですが。この世界において、
ワタシの言葉を理解しているのか、巨大鳥ことグライフのグリーは、満足そうに笑っていた。いや、目が笑ってるんですわ。微笑んでるというか。そもそも、この巨大鳥、恐ろしげな見た目をしているのに、ヤン君をすっごい優しく見てるわけで。……簡単に言えば、保護者っぽい。
なお、
「おい、俺はこんな巨大鳥を客として招いた覚えはないぞ」
「この状況でその台詞が出てくるお前をワタシは尊敬するぞ」
「で、どういう状況だ?」
「トルファイ村の村長の孫のヤン君が、オトモダチである山の主の巨大鳥さんに連れられて、アンタに重要事項を伝えに来てる。……トルファイ村に、人間の騎士団がやってきてるらしい、よ?」
「………………ほぉ?」
端的に説明したワタシの言葉に、アーダルベルトはにやりと笑った。まぁ、恐ろしい笑顔ですね、獅子の覇王様。阿呆なことやらかしてくれてる集団に向けて、排除対象としてロックオンしたわけですね?だが別に、誰も止めはしないぞ。さっさとトルファイ村へ行ってこい。ワタシは留守番する。
「お前も来い」
「嫌だー!ワタシは何も知らぬ!何も知らぬのだ!連れて行っても役に立たないだろ!むしろ非力なワタシが戦闘に巻き込まれたらどうしてくれる!」
「その時は俺が護ってやるから安心しろ。ライナー、馬の準備をさせろ」
「承知しました」
待って、ライナーさん!ワタシを見捨てようとしないで!そのまま去って行こうとするライナーさんを止めるように、ワタシの腕の中のヤン君が声を上げた。……この状況で喋れるとは、将来的に大物になりそうな気配がするよ、少年。
「あの、村までなら、グリーが運んでくれます!」
「「…………は?」」
ぽかんとしたワタシ達の前で、その通りだと言いたげに巨大鳥が甲高い声で鳴いた。え?それで良いのか、山の主?お前、山の主としての誇りどこやった?この状況だと、確実にワタシ達の足扱いだぞ?それで良いのか、グライフ!お前は伝説に名を残すぐらいのバケモノ級モンスターだという自覚は無いのか!?
……あぁ、そんな誇りより、ヤン君が可愛いんだな。わかった。お前確実に
「ならば、お言葉に甘えるか。俺とミュー、それと、ライナーにエレンの四人ぐらいなら、問題ないか?」
「大丈夫です。グリーは力が強いですから!」
「それでは頼むぞ、山の主殿」
アーダルベルトの言葉に、グリーは了承を示すように鳴いた。ライナーさんとエーレンフリートは、武装を整えるために走って行った。アーダルベルトは、ヤン君から詳しい話を聞いている。そして、ワタシは。
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