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「そうだ。シュテファンに会いに行こう……!」


 佳境に入り、鬼のように詰め込まれるダンスの練習に疲れたワタシは、息抜きにシュテファンを襲撃することにした。そして彼に、美味しいおやつを作って貰うのだ!今日は女官長が忙しいので、ダンスの練習は一日お休みなのです。いや、自分で復習はするけどね。相手役のライナーさんはワタシの専属護衛なので、常に一緒に行動してるし。

 でも、ちょっと疲れたので、癒やしを求めたって良いじゃないですか……。ワタシの好きな食べ物を作ってくれるシュテファンは、それだけじゃなく、優しい笑顔のエルフなので、もう色々と癒やされますからな。心が。煩悩が。そしてお腹も満たされる。素晴らしいじゃ無いですか。シュテファン一人でとても大活躍です。主にワタシのテンションアップに。

 そんなワタシの気まぐれに、ライナーさんはいつものように付き合ってくれます。背後を歩くライナーさんに見守られ、ワタシは台所に向かいます。美味しいおやつをゲットしよう。んで、ライナーさんと食べよう。余分があったら、後でアーダルベルトに持って行ってあげよう。

 ちゃんと仕事している覇王様に対して、ワタシがよくやる陣中見舞いは、シュテファンに作って貰った食べ物を運ぶという方法だ。それを口実に無理矢理休憩を取らせるのも可能です。どやぁ。


 いや、アーダルベルトもユリウスさんも仕事が大好きワーカーホリックすぎて、休憩忘れるんですわ。


 そんなわけで、おやつの差し入れで陣中見舞いに突撃して、一緒に食べたり食べるの見てたりする間は、きちんと休憩になります。適度に休憩を挟まないと、思考回路も判断力も鈍るからね。ワタシ間違ってないよ。あと、ツェツィーリアさんが褒めてくれたから、継続して良いと思って、定期的にやらかしてるよ。誰にも怒られてないから、きっとコレは正しい行動なのです!


「シュテファンー、何か美味しいのあるー?」


 ひょこっと顔を覗かせたら、シュテファンは瞬きをした後にいつもの笑顔を向けてくれました。あぁ、癒やされる。外見10代後半ハイティーンのエルフの美少年とか、ただの癒やしです。しかもシュテファンの笑顔は優しい笑顔だ。心が洗われるようです。ありがとう。


「ミュー様、お疲れ様です。今日はダンスの練習はお休みと伺いましたけど?」

「うん。だから、何か美味しいの食べたくて、久しぶりに台所のぞきに来た!」


 威張ることじゃないのはわかってるけど、マジでここ最近ダンス+礼儀作法の練習で忙しすぎて、ワタシ、台所に顔を出せなかったんですよね。顔を出せないと言うことは、希望の料理を伝えるのが苦労するってことですよ。まぁ、ダンスの合間の休憩には、シュテファンお手製のおやつがたくさん並ぶんですけどね!

 きょろきょろと台所の中を覗きながら入っていく。ライナーさんは外で待ってます。料理番さん達が緊張するからね。シュテファンと並んで材料を見物しながら、美味しそうなモノを物色したい。……そして、ワタシは見つけてしまった。立派なカタチと大きさをした、素晴らしい物体を!



 秋の味覚の王道、サツマイモ発見~!



「シュテファン、あのサツマイモ食べよう!めっちゃ美味しそう!焼き芋にぴったりだ!」

「サツマイモ……?あぁ、あの先日新しく手に入った野菜のことですか?ミュー様は、アレをご存じなんですか?」

「…………え゛?」


 ごろりと転がっているサツマイモを指さして、ワタシは嬉々として訴えた。だってどこからどう見ても、日本で見たことあるサツマイモなんですよ。秋になったら軽トラでおっちゃんが、「いしやーきいも-、おいもー」とか鳴らしながら売ってる焼き芋の材料の、アレにしか見えないんですよ。それなのに、ワタシのその発言にシュテファンは驚いたような顔をして、更に言えば、料理番さんたちもこっちを凝視していた。何ですと?

 え?だって、ここにあるってことは、仕入れたんでしょ?仕入れたって事は、これが食用だって知ってて、ちゃんと料理できるってことじゃないの?サツマイモさんはジャガイモさんと同じく優秀なお芋さんだと思ってるんですが、違うんですか?……ワタシ、もしかして、また、面倒くさい状況を作り出しまし、た……?


「あの、そもそもアレ、サツマイモで合ってる?」

「料理長、合ってますか?」

「合っています。遠方からやってきた商人が仕入れてきた野菜だそうです。この辺りでは見かけませんので、どうやって調理するかを相談していたところですが」


 キラリ、と料理長の目が光った。止めて。止めよう。そのワタシに対する過剰な期待は。あと、熊の獣人ベスティの貴方が目を光らせたら、マジで怖いので勘弁してください、料理長!……料理長は料理が大好きな職人気質のおやっさんタイプで、決して中身が恐ろしいわけでも寡黙なわけでもないけれど、熊ってのはそれだけで威圧感あるから、無理!

 というか、お願いなので、料理番さんたちはワタシを凝視するの止めてください。何でや。そもそも、購入したなら調理方法とか聞いてたんじゃないのか。何でワタシを見るんだ。ワタシはただ、この美味しそうなサツマイモさんで、焼き芋を作りたかっただけです。昔懐かしい、落ち葉に埋めて作る感じの焼き芋がしたかっただけなんや……。


「ミュー様は、こちらのサツマイモを食されたことがあるのですか?」

「……ありますけど」

「では、主にどのような料理に使われていますか?」

「どのようにって…。サツマイモは芋なんだから、ジャガイモとかカボチャとかと同じ感じで料理したら大丈夫だと思いますけど。サツマイモは火を入れたら甘くなるけど」


 真剣な顔で問われたので、とりあえず知ってる感じのことを伝える。

 いやあのね?異世界に来て、サツマイモはどんなモノか、なんてプレゼンするとか誰が考えるんですか。ワタシは考えなかったぞ。ワタシの意見を聞いて、料理番さん達は何かぼそぼそと会話をしている。焼くか煮るか炒めるか、みたいな話をしている。いや、サツマイモさんは結構万能なので、割とどんな調理方法でもおkですが?揚げても美味いし。

 おかずにもおやつにもなるサツマイモさんは素晴らしいと思う。あと、焼き芋さんはワタシの中で主食扱いなので、サツマイモさんは万能選手だと思ってる。……まぁ、汎用性の高さではジャガイモさんに軍配が上がると思うけどねぇ。どっちも好きです。

 とりあえずシュテファン、これ、焼き芋にしたいんだけど。


「その焼き芋というのは、どうやって作るのですか?」

「芋に金属の串をぶっ刺して、落ち葉の山を燃やして、火が消えた頃合いに中に放り込んで余熱で調理する。以上」

「……野営料理みたいな感じですね」

「庭掃除で溜まった落ち葉でおやつが作れる一石二鳥だよ!」


 少なくとも、我が家における焼き芋とは、庭の落ち葉を一生懸命掃除した後に与えられる、ご褒美みたいなものだった。というか、途中から気がついたら、むしろ焼き芋をするために落ち葉をかき集めていた。掃除が主体じゃ無くなった時に、祖父ちゃんたちは色々と思うところがあったみたいだけど、ワタシ達孫一同はそれが楽しかったので良いじゃ無いか。…祖父ちゃんの家は田舎で、庭が無駄に広かったのです。

 そういう料理ならば中庭で、と料理長に言われたので、篭にサツマイモと金属の串(主に肉とか魚を焼くときに使っていたらしいが、サイズがちょうど良いので拝借した)を入れて、中庭に向かう。なお、そのサツマイモがそこそこ入った重い篭は、台所を出るまではワタシが持っていたのですが、一歩外に出た瞬間にライナーさんに奪われました。女性に重いものを運ばせるわけにはいきません、らしい。おぉ、ワタシ、そんな風に女性扱いされたの始めてなので、ビックリですわ。

 え?シュテファン?シュテファンは、火種とかできあがった焼き芋を入れるお皿とかの、細々したものを持ってますよ。そっちの方が軽いかも知れないけれど、落して割るかも知れない可能性のあるものは、ワタシは持たない。腐っても王城です。食器一つだって値段はオカシイので、ワタシは持ちたくありませぬ。

 そして、中庭の一角、アーダルベルトがバーベキューやらかす時に使っている場所で、落ち葉を積み上げて火を熾す。勿論やるのはシュテファンです。ワタシは見ているだけだ。だってワタシ、魔法使えないし。シュテファンは、火種に魔法で火を付けて、落ち葉の中に放り込んで、燃やし始めている。魔法って便利で良いね。ワタシも使いたかった…!


「ミュー様、火が消えましたよ」

「よし!じゃあ、この金属の串をさしたサツマイモさんを、その中へ!しばらく放置!」

「具体的にどれくらいですか?」

「…………わかんにゃい。とりあえず、火が通るまで?でも、焼くと焦げるから、こう、おき火でじっくりじわじわと火を通さないとダメだって」


 うろ覚えの知識ですが、多分間違ってないです。え?作ったことあるんだろうって?違う違う。ワタシの仕事は、主に落ち葉を大量に集めることだから。火を付けるのも、サツマイモを放り込むのも、祖父ちゃんの仕事だったんだよ。子供に火は危ないってことでね。……従兄弟たちはマッチを面白がって、火を付けようとして火傷して、すっげー怒られてましたからな!


 んでもってとりあえず、適度に放置して、三人で喋りつつ、時々中身を確認して、できあがりました、焼き芋!


 金属の串は熱くなっているので、軍手のような厚手のミトン(鍋つかみだと思うんだけど、それにしては頑丈でグローブっぽいので、別の用途かもしれない)でシュテファンがサツマイモを取り出している。試しに半分に割ってみたら綺麗に火が通っていたので、持ってきていたお皿にのせて貰いました。

 えーっと、ワタシとライナーさんの分と、アーダルベルトとエーレンフリートの分。あと、執務室にいるかもしれないから、ユリウスさんの分も。合計五本をお皿にのせて、ライナーさんに持って貰います。残った数本は、シュテファンに進呈。料理番さんたちと食べてください。…そして、美味しいお料理に役立ててください。


「それじゃシュテファン、ワタシコレ持ってアディの所行ってくるから!」

「はい。こちらは皆でありがたく頂きますね」

「いや、そもそもそのサツマイモ、そっちにあったものだからね?」


 まるでワタシが何かを与えたように言われましたが、違うって。思いっきり誤解だろ、シュテファン。それでも、とりあえずできたての焼き芋をアーダルベルトに届ける方が優先されるので、ワタシはライナーさんと二人で執務室に向かいます。きっと、執務室には仕事が大好きワーカーホリックな人たちしかいないでしょうからな!

 

「アディ-!陣中見舞いだぞー!」


 ノックはしたけど返事は待たず。ばぁん!という効果音がしそうな勢いでドアを開けたら、室内には予想通りの仕事が大好きワーカーホリックトリオがいました。……まぁ、ワタシの背後で焼き芋の入ったお皿持ってるライナーさんも、十分そのお仲間ですけどね。ただ、ワタシが無理矢理休憩に巻き込むので、彼はこの三人ほどではあるまい。


「……お前、ノックをするのは良いが、返事がある前にドアを開けるのはどうなんだ?」

「だって、どうせ入るし。そして、強制的に休憩のお時間だぞ!さぁ、焼き芋を食せ!」

「ヤキイモ?」

「そのまんま、焼いた芋。なお、芋はサツマイモなので、甘いよ!おやつだよ!」


 首を捻るアーダルベルトと暢気に会話をしていますが、その背後ではエーレンフリートの冷えた瞳がワタシを見ています。大丈夫。気にしないフリするから。なのでお前もそろそろそれを止めなさい。またアーダルベルトに怒られて凹むぞ?

 んでもって、ユリウスさんは仕事にならないと悟ったのか、さっさと書類を片付け始めています。毎度のことで申し訳ない。あと、貴方も強制的に休憩に巻き込まれるので、大人しく焼き芋食ってくださいね?


「……私は他にも仕事があるのですが」

「適度な休憩は大切です。あと、このサツマイモは初めて買った食材らしいので、是非とも味見をしてください」

「ミュー、これ、芋なのに甘いぞ」

「もう食ったのか?!しかも一口で半分いっちゃうのかよ!お前相変わらず大食いだな!」


 もっしゃもっしゃと焼き芋をお食べになっている覇王様は、その手にちょこっと残った焼き芋を手に、不思議そうな顔でした。お前の一口、本当に大きいですね!あと、一人一本なんで、ワタシの焼き芋を狙おうとするでない!取るな!ワタシが食べたくて作ったんだ!

 ライナーさんとエーレンフリートも仲良く食べている。二人並んでほのぼのと食べているので、放置しておこう。あ、お好みでバター、塩、マヨネーズ、蜂蜜など、好きなモノかけてくださいね。ワタシは何もかけないのが好みですがな。


「サツマイモは火を入れたら甘くなる芋だよ。美味しいだろ?」

「……あぁ。ユリウス、我が国で栽培できるか調べろ。甘味が手に入りにくい庶民にも、手軽に楽しめる甘味になるかもしれん」

「承知しました」

「いや、今は休憩時間なんで、大人しく休憩しろよ。仕事の話は中止ー!」


 ぺしぺしとアーダルベルトの肩を叩くけれど、何かスイッチ入ったらしいので、焼き芋食べならが二人は延々と仕事の話をしていた。この野郎。ワタシがせっかく休憩を(強制的に)取って貰おうとしているのに……!

 まぁ、焼き芋がお気に召したのなら、良いですよ。サツマイモが栽培できるなら、サツマイモの料理も広がるだろうし。おかずも良いけど、スイーツも良いよね。パイとかスイートポテトとか食べたいなー。今度頼んでみよう。とりあえず、焼き芋美味です。懐かしい味です。うまうま。


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