20

 アーダルベルトに担がれて連れて行かれた先は、ワタシの部屋でした。

 でも、入った瞬間に広がった光景は、明らかにワタシの部屋じゃ無い。なんだこの、ファッションショーを始めましょう!みたいな感じの光景は。着替えをするための試着室っぽい、カーテンで区切られた空間。等身大のマネキンっぽい洋服立てや、ハンガーの数々には無数の服。髪飾りやブローチなどの小物も大量に揃えられています。

 あの、コレなぁに?


「……アディ?」

「お前の衣装の仕上げだ」

「…………待て。ワタシは確かに服を所望したが、動きやすいものを希望しただけであって、こんなリアルファッションショーな状況を求めた覚えはない」

「……それについては、あいつが悪い……」

「……は?」


 あいつ、とアーダルベルトが示した先にいるのは、女官長と侍女たちと、もう一人。今まで会ったことが無い女子が一人。女子。女子と言うより、幼女。典型的な魔女スタイルだが、外見年齢がどう見ても7歳ぐらいなので、大きな帽子も長いマントも、小さな身体をすっぽり隠す。より一層にパワーアップしている、ロリコンホイホイようじょというイキモノだった。


「……待て。待て、アディ。まさか、ワタシの衣装に、アレが関わってるのか?」

「…………戦闘能力の低いお前を考慮したデザイナーが、アレに魔力を練り込んで防御性能の高い服を作って貰った、らしい」

「待て……。アレが噛んでくるということは、ワタシの服のデザイン、ちょ、ま……ッ!」


 明後日の方向を見るアーダルベルトの腕を引っ掴んで、揺さぶってみた。お前、目をそらすな!これはドウイウコトだ?!何で、あの女がワタシの衣装に関わっているんだよ!あの魔女スタイル見たらわかるだろ!?あの女はリアル厨二病患者で、それも末期患者なんだぞ!?ワタシ、厨二病は眺めるぐらいしか嗜みは無いの!厨二病オーラ出てる衣装は着たくない!

 二人で小声でわーわーやってたら、件の幼女がこっちに気づいた。気づくな。そして今すぐ消えてくれ。あと、ワタシの衣装に魔力練り込んで防御力上げてくれたのはお礼言うけど、お前、デザインに絡んで無いだろうなぁあああああああ!


「初めましてじゃのぉ、ミュー殿。ワシはラウラという魔導士じゃ」

「……初めまして。ワタシの衣装に魔力を練り込んで下さったようで、ありがとうございます。ところで聞きますが、ワタシの衣装のデザインに口出ししてねぇだろうな、この厨二病の外見幼女ロリババア!」

「……何じゃ、口の悪い娘っこじゃのう。デザインには殆ど口は出しとらんわ。色ぐらいじゃ」

「色!?アンタが口出ししたってことは、もれなく黒か紫か紺色に金か銀の縫い取りとかの、絶好調厨二病カラーじゃねぇの!?」

「イカス作品になっとるぞ☆」

「アディぃぃいいいいいい!」


 ニヤリと笑う幼女。見た目は幼女。中身はババアだ。

 ラウラは妖精族の魔導士。妖精族の寿命は人間よりも圧倒的に長く、エルフのそれ以上。んでもって、その為に外見の成長も、そらもう、遅い。遅すぎるぐらい、遅い。見た目は幼女のラウラも、実年齢は普通に三桁行ってるらしい。当人曰く、ユリウスさんよりは若い、とのこと。待て。ナイスミドルのイケオジエルフ宰相と比べんな。比較対象間違ってるわ。

 妖精なので、耳が尖ってるのと、普段はしまわれているが、背中に透明の羽根がある。あと、全体的に小柄。それだけなら、実にキュートな生物だ。ワタシも喜んで、愛でよう。だがしかし、ゲームの時から思っていたけれど、厨二病拗らせた外見幼女ロリババアの魔導士なんて、誰も愛でられない。愛でる気が起きない。でも腕は凄腕。


「何でこいつに関わらせた?!」

「俺も知らぬ間に、デザイナーと手を組んでやがったんだ」

「皇帝権限で止めろよ!」

「止めようとしたら、仕事サボるとか言いやがった」

「ラウラぁあああああああ!」


 思わずワタシは怒鳴った。

 相手が年上だろうが何だろうが、関係ない。そんな職権乱用で暴走する迷惑な外見幼女ロリババアなんて、必要ない!ゲームの時から思っていたけど、本気でマジで、迷惑な厨二病こじらせやがって!というか、何でワタシの衣装に厨二病要素入れたん?いらんやろ!


「その希少な髪と瞳を際立たせる、素晴らしい出来映えじゃぞ」

「信じられるか……ッ!」

「そうそう。お主は普段アクセサリーは付けんようじゃが、アミュレットの類も用意してやったのでな。自衛のためにいくつか付けておけよ」

「聞けよ!そんな厨二病満載のアクセサリーとかいらんから!」


 ずらりと並べられたアクセサリーは、レッツゴー厨二病だった。ただし、ゴスロリ系だった。うん、自分が幼女だから身につけられない、ゴスロリ系を一気に押し込んで来やがったな、この外見幼女ロリババア

 あのね?ゴシックロリータが似合うのは、金髪碧眼の美少女とか、巨乳とか、メイドルックが似合いそうな美脚の持ち主とか、そういう人種ですよ。全てに置いて平均点+ズボン穿いてるだけで性別に疑問符抱かれてるようなワタシに、着こなせると思うか?あと、着たくない。

 ワタシがラウラと喧嘩をしてる間に、女官長さんたちの準備が出来たらしい。にっこり笑顔で試着室と化しているカーテンの向こう側に連行された。待って、女官長。ワタシまだ、あの外見幼女ロリババアと決着付けてないから!


「ご安心下さいませ、ミュー様」

「……何が……?」

「ラウラ様のご趣味が一般人からかけ離れているのは、皆が承知しております。ですので、なるべく普通のものを用意しております」

「……女官長」

「陛下の参謀となられている御方に、そこまで奇天烈な衣装など着せられません」


 きっぱりと言い切った女官長に、思わず感謝した。素晴らしい。流石仕事出来るお姉さんは違うわ。いやもういい年のおばちゃんなんだけど。きびきびとしてるし、実際の年齢よりむっちゃ若く見えるんだよね。仕事生きがいで頑張ってる女史は本気で格好良いです。……行儀悪いことするとすっげー怒られるけどな!

 で、その女官長さんがギリギリセーフを出した衣装は、本気でマトモだった。すごい。あの厨二病の外見幼女ロリババアが絡んでるのに、普通にマトモな衣装だった。女官長もデザイナーさんも凄い。仕事出来るヒトにマジで感謝した。あの外見幼女ロリババアもちゃんと仕事したら良いのに。



 ワタシに用意されていたのは、白いブラウスに黒のベスト、黒のスラックスだった。普通。



「……おぉ、普通だった。女官長、デザイナーさん、ありがとうございます」


 めっちゃ心の底からお礼を言った。確かに黒だけど、変な縫い取りも特に見当たらなかった。強いて言うなら、ベストの胸元に、国の紋章である吠える獅子の横顔が縫い取られてたぐらいだろうか。それぐらいは許容範囲です。大丈夫。

 白いブラウスはシルクだった。怖い。値段聞きたくない。襟はちょっとフリルだった。女子をイメージしたのだろうか。袖の部分には金のカフスボタンがあった。でも、特に目立たない、小さなボタン。あと、よく見ると、白い布地に白い糸でアラベスクみたいな文様が縫い取られてた。職人技凄い。

 スラックスには特にこれといった特徴は見当たらなかった。強いて言うなら、添え付けのベルトの金具が、ちょこっとだけゴシックっぽい。でも、ベルトの金具は、ベスト着てしまえば見えないので、セーフ。ゴシックとお洒落の間ぐらいのデザインなので、大丈夫です。うん。

 あ、スラックスの裾に、黒い糸で縫い取りがしてある。これもアラベスクっぽい。そうか。そういう飾りは、目立たないように同色の糸でやってくれてるんだ。ありがとうございます。

 ベストはまぁ、スーツの下とかに着るタイプのアレですね。ちょっと肩とかが細く作ってあって、胸元のV字が随分と深いやつ。ブラウスの銀色のボタンが見えるようになってる。それ以外は、胸元のポケットに獅子の紋章が縫われている以外は、至ってシンプル。

 アーダルベルトの瞳の色と良く似た鮮やかな赤のリボンタイは、ちょっとゆったりめに結んでくれた。ピアス穴は空いてないので、小ぶりのイヤリング(シルバーの台座にリボンタイと同じ赤い石が埋まってる)が付けられる。これはアミュレットらしいので、出来ればなるべく付けておいて欲しいとか。うい。身を守る防具なら、諦めて装備します。

 靴は、革靴は却下!と叫んだので、表面に皮を縫いつけた布靴になっている。コレも色は黒。カタチはローファーみたいな感じだけど、かかとにヒールは殆どない。ぺた靴だ。すみません。これも我が儘言いました。完全にオーダーメイドです。ごめん。ワタシ、ヒールのある靴だったら、色々泣く。

 靴下は真っ白。ただし、ワンポイントで黒いアラベスク紋章が刻まれてる。…………さっきから飾りがひたすらアラベスク文様なのは、あの外見幼女ロリババアの趣味ですか?視線で問いかけたら、そうですと言いたげに頷かれた。そうか。今のブームはアラベスクなのか、あの外見幼女ロリババア


「髪型はどうされますか?」

「このまんまで良いです」


 女官長の問いかけに、素直に答えた。ワタシの髪型は、いつも首の後ろで一つ括りにするだけ。侍女さんたちは、結い上げたり編み込んだりしたがるんだけど、そういうの頭皮が引っ張れるし、うっかりひっかけて崩したら怖いので、苦手なんです。そういうわけで、単純に括るだけ。

 ちょっと物足りなさそうな面々に、コレが良い、とごり押ししておいた。そうしないと、ワタシ、このままだと髪飾りにもアミュレットの類付けられる。頭が重いの嫌です。

 その代わりのように、ブレスレットと指輪の類を装着するんで、諦めてくだせぇ。


「出来たか?」

「うーい」


 カーテンの向こうからアーダルベルトが呼ぶので、ひょこっと顔だけだしておkを伝えた。んで、そのまま外に出る。ブラウスの襟がフリルなのと、リボンタイが赤いこと。アクセサリーをそれなりに付けていることを除いてしまえば、男装と言われても無理の無い格好だった。でも、ワタシにはこれが動きやすい。ロングスカート無理っす!ヒールの靴も無理っす!


「ふむ。似合うな」

「そう?」

「子供で凹凸がない分、相変わらず性別が迷子だが」

「お前ちょぉぉぉおっとお話しねぇか?」


 褒めたと思った次の瞬間に、すっげー失礼なことを言うの止めませんか、ねぇ?!

 思わず胸ぐらつかみかかる勢いで近づいたら、ぽす、と頭を撫でられました。いや、ワタシ今、怒ってるんで。物凄く怒ってるんで、そんな頭ぽんぽんされたぐらいでは機嫌は直りません。くらぁ、聞いてんのか、そこの覇王!


「礼を言う」

「……はい?」


 いきなり何ですか。話の流れが読めませんが。


「テオドールが、マトモに会話に応じてくれた。幾ばくか話も出来た」

「……あ、そう」

「お前のおかげだ」

「いや、それは多分気のせい」


 きっぱりはっきり否定しておこう。ワタシは、過剰な期待などいらぬのだ。そういった物は不必要だ。アーダルベルト、そこは間違えちゃいけない。ワタシは何もしていないのだ!

 そう力説したら、苦笑された。笑うなよ。一般人のワタシに出来ることなんて少ないからな。ちょっと愚痴って八つ当たりしたぐらいで、テオドールが心を入れ替えたとかあり得ないでしょ。あいつが何か感じたとしたら、それはきっと、今まで頑張ってきたアーダルベルトとか、カスパルのおかげだ。そうに決まってる。


「またお前に助けられたな。トルファイ村に続き、今回も無用な死傷者を出さずにすんだ」

「うーん、むしろ何も起きない日常が欲しい」

「ははは。そうだな。俺もそう思う」

「アディも?」

「当たり前だ。ただでさえ国主なんぞ多忙だ。余計な騒動はいらん」

「ダヨネ-」


 それでも、これでしばらくは落ち着くだろう。ワタシはホッとしていた。クーデターは未遂に終わった。その後始末も終わった。少なくとも今年の間は、大きなイベントは無いだろう。多分。無かったと思う。

 つーか、なにも起きるな。たまには平和が欲しい。



 そんなワタシの祈りがカミサマに届いたかどうかは、まだ、わからぬのであります。


 

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