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カスパルもテオドールもきっちり自白したことで、今回の一件は何とか終わりが見えたらしい。一応、聞き出した限り、爆発物の場所はワタシが記憶していた部分だけだったとか。良かった良かった。彼らのアジトも判明して、とりあえず、武器没収の上で流刑に落ち着いたんだって。勿論、カスパルとテオドールも一緒に。辺境の砦にぽいっとするらしい。
まぁ、結局その辺に落ち着くよね。というか、やっぱりワタシの知ってる通りの結末か。
なお、ゲームでは爆発物の一部は、解除が間に合わずにどかんしちゃう。幸いにも人の少ない部分だったので、死人やけが人は出ていない。それでブチキレたアーダルベルト(と完全に黒微笑モードでプッツンいっちゃったユリウス宰相)が、テオドールに詰め寄って、爆発物の場所を洗いざらい吐かせる、というのがゲーム。それを思えば、今回未然に防げたのは、ワタシ、ちょっと誇っても良くね?
トルファイ村の時は、実働部隊は別のヒトだったし、ワタシはゴロゴロしてるだけだったので。でも、今回のクーデター未遂では、結構良い仕事したくね?未然に防いだし、捕まえたし、爆発物の場所も特定したし、カスパルも説得したし!おぉ、ワタシ今回、ちゃんと仕事出来てる。凄い。ワタシ偉い。ワタシやれば出来る子!
え?自画自賛がもの悲しい?やめて。わかってるから。
何でそんな阿呆な自画自賛をしてるかと言うと、まぁ、誰もワタシのところに来てくれないから、ですよ。アーダルベルトが忙しいのは知ってる。ライナーさんはいつも通り専属護衛してるけど、それ以外の人たちも忙しそうでな。誰も構ってくれんのだ。
というか、最大の理由は、ここ一週間ほど、アーダルベルトとマトモに顔を合わせていない、ということでしょうか。
いや、わかるよ?皇帝陛下は忙しいよね?特に、実弟がクーデター未遂やらかした後始末は大変だろうし。わかってるんだけど、執務室に近づこうとしたら「陛下はお忙しいので邪魔はしないで下さい」っていう意味合いの微笑みで、ユリウスさんとかに阻まれるんですが。近衛兵さんは通してくれようとするけど、ユリウスさんと女官長が通してくれない。あの二人無理。勝てない。怖い。
まぁ、どうせワタシは無駄話をするために、じゃれるために行くだけなので、そういう風に言われちゃうと引き下がるしかないですけど。ライナーさんが慰めてくれるけど、ライナーさんは基本的にワタシ贔屓(でも優先度はアーダルベルトの方が勿論高い)なので、依怙贔屓入ってるのわかるので、素直に頷けない。仕方ないのでシュテファンにおやつ作って貰ってたら、そっちも忙しそうなので、頻繁に行くのはご迷惑そうなので諦めた。
つーわけで、このところワタシは、もっぱら、大人しく自室か中庭でごろごろしている。
……くっ、今回結構頑張ったと思うけど、やっぱりワタシは、無駄飯食らいの引きこもりだった!いや、わかってた。全然役に立てないのはわかってたけど、やっぱりちょっと、悔しいです!
何でこう、異世界転移してんのに、ワタシには召喚補正みたいなのついてないんですか!?普通、こういうのって能力値がチート化してるでしょ!少なくとも、どこかに、チート補正付いてる筈じゃ無いですか?それなのにワタシ、戦闘能力も特殊技能も付加されてないんです。誰だ、こんな状態でワタシを放り込んだのは!責任者出てこーい!
……いや、出てこないの知ってるけど。これで出てくるなら、割と初期の段階で出てきてるはずだ。吹っ飛ばされて数日は、召喚したナニカに心の中でひたすら罵声を浴びせてたので。
「……暇だ」
ぽつりとうっかり呟いてしまった。ごめんね、ライナーさん。気遣うような顔をしないで。むしろワタシは、こんなワタシのぐだぐだごろごろ生活に、貴方を付き合わせている方が申し訳ないです。本当に。優秀な近衛兵なのに、ニートの護衛とかさせて申し訳ありません。
うーん、健康のために、ランニングでもするかな。中庭結構広いし、軽くランニングとか。もしくは、ウォーキングでも良いな。運動不足で運動音痴なワタシがいきなりランニングは身が持たないだろうから、中庭を軽くウォーキングしよう!うん、そうしよう!
そうと決まれば、準備をしなければ。
服はまぁ、いつもの
靴も本当はスニーカーとかあれば良いけど、いつもの布靴で。革靴を履けと言われないだけマシですね。そもそも、この靴はワタシが我が儘申し上げて、中敷き代わりに布を大量に仕込んである。そのおかげで、普通の布靴よりも足に衝撃が伝わらない。まぁ、この世界の人たちは頑丈なので、こんな情けないことに
「ライナーさん、ワタシ、中庭でウォーキングしようと思うんですけど」
「うぉーきんぐ、とは何ですか?」
「あーえっと、ちょっと早歩きで延々と歩き続ける運動です。ランニングは走るので、体力の無いワタシにはキツイかなーと思って」
「それはわかりましたが、何故ミュー様がそのような鍛錬めいたことを?」
「け、健康のために!」
不思議そうなライナーさんに、ちょっとどもりつつもそう答えておいた。間違ってない。運動不足を解消するために、美味しいご飯のせいでちょーっと気になり始めた二の腕とか太ももとかお腹周りのために、あと、生活習慣病が地味に怖いから、という理由を諸々合わせたら、ちゃんと健康のためだ。間違ってない。大丈夫だ。
身体能力のスペックが高い
と、いうわけで、ライナーさんと一緒に中庭にレッツゴー。お供しますって言われたので、一緒にウォーキングすることになりました。ごめん。本職軍人さんに、こんなぬるい運動させて。でもワタシには、この、明らかに広すぎる中庭(だって、中庭だけで学校のグラウンドレベルの広さは余裕であるよ?)をウォーキングするだけでも、結構良い運動なんです。
意識して早歩きすること、30分。中庭の中央にある時計塔の時間がそれぐらいしかたってないので、間違ってないでしょう。うぁー。日頃の運動不足がたたるわー。たった30分、ガチでウォーキングしただけで、足が。足が、痛い……。
よく考えたらワタシ、遠方に出るときは馬(覇王様に強制的に同乗させられる)もしくは馬車だし、急ぐときは担がれてた。
そら、運動不足になるわ。ライナーさんまで、急いでるときは姫抱っこするからな……。アーダルベルトなんて、面倒だとか言って、説明もせずにヒトを担ぎ上げて、そのまま歩くからな。よく考えたらワタシ、荷物のように運ばれるのがデフォルトだった!なんてこった!
「ミュー様、飲み物を用意させましたので」
「……ありがとー、ライナーさん」
出来る男は本当に違う。
氷の入ったフルーツジュースを渡されて、なるべくゆっくり飲む。こう、冷たいのを一気にごくごくやっちゃうと、胃腸がびっくりするからダメだって言われた覚えがあるんだよね。まぁ、それでなくても、冷えたの一気飲みしたら、お腹壊しそうだし。あー、でも、このフルーツジュース、マジうめー。数種類入ってるミックスジュースだー。流石王城。出てくる食べ物は常に美味い。
待て。せっかく運動したのに、ここでまた美味に負けたら、ワタシ、カロリー消費プラマイゼロじゃね?!
いや、待て。大丈夫だ。だってこれは、フルーツジュース。果物を搾った、一番シンプルなジュースだ。きっとおそらく、砂糖の類は殆ど入っていない。この甘みは果物の甘みだ。大丈夫。美味しさの割にカロリーは低い。低いと思う!
あっぶねー。言い聞かせないと、息抜きのジュースすら罠に思えてくるわー。
そんな風にライナーさんと二人でジュース飲んでくつろいでいました。そしたら。
「なんだ、こんなところにいたのか」
「アディ?」
お忙しいはずの皇帝陛下が、ひょっこり現れました。どしたの?何か急用でも出来たか?こっちには無いぞ?暇なら遊んで、とは思うけど。
首を捻りつつもジュース飲んでたら、当たり前みたいにコップ奪われました。お前な、いつもいつも思うけど、ワタシの食べ物飲み物奪うの、いい加減にしないかな!?それ、ワタシの!ライナーさんが、ウォーキングを(ちょっとだけ)頑張ったワタシにって用意してくれた、ワタシのフルーツジュース!!
「何でアンタはそうやって、ワタシの食べ物や飲み物をかっさらうかな!?返せ!」
「美味いな。なんでこんな美味いのが俺の食卓には並ばんのだ」
「ヒトの話聞けよ!不服そうな顔するなよ!むしろ、今一番不服なのはワタシだよ!もう殆ど無いじゃん!?」
憮然としつつ文句を言うアーダルベルトからコップを取り返したけれど、中身はほぼ一口しか残ってませんでした!なんてことすんだよ!絶品フルーツジュースを味わってたのに!ひどすぎる!
あと、何でアンタの食卓に並ばないで、ワタシに差し入れられてるかなんて、ワタシが知るわけないだろう。料理長に聞いてくれ。……くっそー。美味しかったのに……。シュテファンにまた作って貰おう……。
「まぁ、それは良い。ライナー、詰め所で打ち合わせがあるそうだ。行ってこい」
「……ですが陛下、ミュー様の護衛は」
「いらん。俺が連れて行く」
「承知しました。それではミュー様、失礼します」
「あ、うん。ライナーさん、お仕事頑張ってくださいねー」
お辞儀をして去って行くライナーさんを見送る、ワタシとアーダルベルト。……っていうか、皇帝陛下が直々に伝言するとか、おかしくね?あと、普通に護衛役を引き継ぐとかも、色々間違ってない?エーレンフリートがいないのも、その打ち合わせとやらがあるからなの?ねぇ、それ、おかしくない?
いや、この
むしろ誰より護衛とかお目付役が必要なのはワタシだ。知ってる。非力。無力。むしろ吹けば飛ぶ。おうおう、魔物が普通に闊歩するこの世界で、ワタシ、安全なお城の中ぐらいしか一人で歩けないよ!なんてこった!下手したら、村人よりも弱いかも知れない!
え?村人に戦闘能力は無いだろうって?
あのね、こういう魔物が出てくる世界の村人さんというのは、農作業とかで体力ある+下級の魔物が出たら、農具で攻撃して追っ払うぐらいはしちゃうんですよ。つまり、ワタシの戦闘能力は、そこらの農民以下なのだ!……うん、威張ることじゃない。知ってた。
「とりあえず、お前に用がある。来い」
「どこへ?」
「お前の部屋だ」
……そう言ってから、当たり前みたいにヒトを担ぐの、止めねぇか?ヲイ。お前はワタシを荷物と勘違いしすぎだと思うんだが。なお、背中に頭が来るように担がれると、進行方向と逆向くから気持ち悪いと文句を言ったら、今度からは前向きに担がれました。担ぐのを止めるという選択肢は無かったらしい。お前他に対処方法無いのかよ。
文句も兼ねて鬣を引っ張ってみますが、非力なワタシが引っ張ったところで意味は無い。何遊んでるんだって言われるのがオチです。知ってた!
「そういやアディ、一つ聞きたい」
「何だ」
「この間、ワタシ大学生だったって話をしたときに、エーレンフリートもライナーさんも聞いてたよな?」
「そうだな」
「大学生が、19歳以上だって話も、したよな?」
「あぁ」
よし。ワタシの記憶は間違っていなかった。大丈夫だ。
だがしかし、それならば、どうしても納得いかない部分があるんだが。
「何でライナーさん、まだワタシのこと子供だと思ってるの?エーレンフリートは興味ないからスルーしたんだろうけど!」
そう、これだ。
あの会話を聞いていたなら、ワタシが19歳以上だと言うことは理解できるはずだ。それなのに、ライナーさんの中のワタシ、相変わらず15歳以下なんです!これ、どういうこと!?理解不能だ!
「ライナーの中でお前は、優秀なために年長の学校に通っている子供、になっている」
「ワタシは
「こっちの学舎では普通だ。優秀な人間はどんどん上のクラスに進む」
「だからって、ワタシの年齢、そこまでして子供だと思うの!?」
「仕方ないだろう。お前、どう見ても子供だからな」
「ひでぇ!」
知りたくも無かった事実でございました。……ライナーさん、何気に貴方もひでぇっす…。
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