13

 時間はちょっとばっかり巻き戻って、ワタシがアーダルベルトの執務室に駆け込んだ、そのちょっと後。

 ライナーさんに各所への伝令へと向かって貰って後の話。



***********************************



 アーダルベルトは勿論、詳しい事情を聞きたがった。その隣にいた宰相のナイスミドルエルフさんも、勿論説明を求めてきた。わかってます。わかってますから、お願いだから、ナイスミドルの美貌で笑顔に圧力添えて先を促さないで、ユリウスさん!

 このユリウスさん、既に三人の皇帝陛下に仕えているという実績の持ち主の、敏腕宰相さんですよ。金髪碧眼という典型的なエルフの色彩に、目尻の皺さえ色気に変えてしまう圧倒的なナイスミドルの美貌の主です。エルフの寿命は三桁は三桁でも、数字がもっと多いので、この人何歳か聞くの超怖い。それでも素敵なヒトです。ゲーム中も、会話イベントで顔グラ出る度にファンが叫ぶほどのイケオジです。


 でも今は、「早く事情を説明して頂けませんか?(黒微笑)」って感じで、超怖いです。



「あー、カスパルの付き人の中に、魔法で変装してるテオドールがいる」

「……テオドール?」

「アンタの弟の、テオドール・ガエリオス皇弟殿下だよ」

「…………ほぉ?あの阿呆が、何でまた、我が城に足を踏み入れている?」

「いやだから、クーデターっしょ?」

 

 ワタシが言い切ると、アーダルベルトはため息をついた。その顔は、面倒くさいとか鬱陶しいとか、そういう感じの表情だった。うん、まぁ、仕方ないね。気持ちはわかるけど。ユリウスさんも似たような顔してるし。げんなりしてるね、お二人さん。


「…………通算3度目ぐらいか、ユリウス宰相」

「即位前のごたごたを含めるならば、5度目になるかと思われます、陛下」

「何故あの阿呆は理解せんのだ。己が俺に勝てるわけがないと、情けで生かされていると、何故理解できん」

「阿呆だからじゃない?」

「……ミュー、言い切るな」

「いやだって、テオドールって、ただの阿呆でしょ」


 ワタシ、そこは容赦しないって決めてるから。テオドールには本当に手を焼かされたからね。本当に。気づいたら反乱。気づいたらクーデター。気づいたら内乱を起こそうとする。お前、本当に国を治めるつもりがあるのか?と。民を思いやる気持ちなんか存在しないから、そうやって自分勝手にクーデター起こせるんだろ?とか思っちゃうんだもん。嫌いだ、あの阿呆。

 今回だって、カスパルにくっついてきて、城の中に入り込んで、あちこちに爆薬仕掛けたりするつもりなんだよ。おまけに、城から出た後には王都にも爆弾とか仕込むんだぜ。何考えてんの。自分が皇帝になりたいとか、そんな我が儘で迷惑かけてくれるなよ。どう考えたって、アーダルベルトの方が良い王様やってんだから、引っ込め小物ー!ってなりながらゲームしてたし。

 むぅーってしてたら、アーダルベルトがぽんぽんと頭を撫でてきた。ついでにユリウスさんも撫でてきた。待って、子供扱いしないで。ユリウスさん、ワタシ子供じゃないです。言おうとするとアーダルベルトが凄い眼で睨むので言えませんが、ワタシ、ワタシ、ちゃんと成人しているハタチのお嬢さんなんです!


「で、何であの阿呆とカスパル・ハウゼンが繋がってる」

「昔からの知り合い。カスパーのお父さんが出入りの商人だった頃に、テオドールと出会ってるんだよ」

「俺は知らんぞ」

「そりゃ、アンタは商人に興味を示すより、騎士団の鍛錬に潜り込んで暴れてただけだろ」

「……まるで見てきたかのような発言だな」

「……アディを見てたらわかるヨ」


 …………あ。ヤバイ。何かアーダルベルトの眼が、「お前、実はまだ俺に隠し事してるだろう?」っていう感じで睨め付けてくる。嫌だ。怖い。その獲物食らおうとする肉食獣モードの瞳止めて。普通に怖いから。嫌だ。食われる。骨までばりばりやられそうで怖い。

 その話は、また後日?また後日にしよう、アーダルベルト。今は、テオドールをどうにかしなきゃいけないんだから。そうだろう?


「……後でちゃんと説明しろ。逃げられると思うなよ」

「了解……」


 とりあえず納得してくれたみたいだけど、顔がまだ肉食獣モードなの止めて欲しい。ワタシを食べても美味しくないので。あ、そろそろ脱線から戻らないと、ユリウスさんの微笑みがマジで怖い。ごめんなさい。遊んでません。これがワタシたちの通常運転なだけです!


「とりあえず、少年時代のテオドールと出会ったカスパーは、彼に心酔した。んでもって、王都を追われた彼を匿って、密かに協力していた、と」

「今の今まで表に出てこなかったのは」

「ハウゼン家が代替わりしたのは、この数年だから」

「……なるほど」


 今までは、城にやってくるのは父親だった。それがカスパルになって、自由に動けるようになった。だから彼は、今回、こうしてテオドールを連れてきた。……何で今のタイミングだったんだっけ?あぁ、テオドールの我慢が限界値に達してたからだ。あの阿呆が、勝てもしないのに兄を引きずり落とそうと必死になってるわけだ。

 ゲームだと、これは、トルファイ村壊滅のあと、全国へアーダルベルトが視察に人員を割いている時期の話。城の警備がちょっと薄くなるからな。まぁ、トルファイ村は無事だったけど、各地に視察が行ってるのは事実で、実際今、城の警備はちょっと弱い。あくまでちょっとだけだ。


 というか、この歩く最終兵器ラスボスみたいな皇帝陛下を、誰が倒せるのか教えて欲しい。


 まぁ、今からでも先手を取ることは出来るでしょう。とっととテオドールを見つけ出して、カスパルも捕まえて、クーデターの全容をちゃんと話して貰わないとね。……たとえ大まかな内容をワタシが知っていたとしても、決定的証拠としては、自供をしてもらわないと困る。あと、色々と齟齬が出てるかも知れないし。

 えーっと、何か必要だったよなぁ。何だったっけ?テオドールは変装して潜り込んでるわけで、でもあの巨体(アーダルベルトと同じぐらいの体格の良く似た赤獅子)が目立たずに付き人に混ざるって、どうしてたっけ……?


「あ、魔法だ」

「は?」

「……何か、ございましたか?」


 ぽんと手を打って呟いたワタシを、二人は真っ直ぐと見てくる。うん、大事な案件忘れてた。テオドール発見のための大切な手段。どっちに聞こうかな?まぁ、どっちでも良いか!


「城内に、エタンド使えて目立たないヒトっている?」

「エタンド?何でまたそんな呪文が必要なんだ」

「だって、テオドールが魔法で変装してるから、それかき消して貰わないと」

「あぁ、なるほど」


 本来の姿ならば、テオドールはアーダルベルト同様に大柄な獅子なので、目立つ。そりゃもう、目立つ。そもそも、後ろ姿も顔立ちも、結構似てるのだ、この兄弟。それなのに、誰にも気づかれずにカスパルの付き人に紛れ込んでる時点で、変装してるのは当たり前。さらに、体格も変えるための魔法を使っているのだから、手の込んだことだ。

 ゲームの時は、パーティー内にエタンド使える術者を入れておけばおkだったんだけどなー。流石に、今のワタシに魔法は使えない。…そういや、パーティーメンバー見ないな。外見幼女ロリババアの魔導士も、腹黒眼鏡の神官も、成り上がり上等な剣士も、獲物大好物真性バーサーカー系狩人もいないな。……まぁ、それぞれが国の中で役職に就いてるから、ここだと皆さん仕事してるだけかな?


「エタンドは、我々エルフでしたら誰でも使えますね。ですが、目立たないというのはどういうことで?」

「テオドールに気づかれたら厄介だなーと思って。だから、目立たない一般人っぽいヒトに頼もうかと」

「ならお前、シュテファンの所に行ってこい」

「シュテファン?」


 確かにシュテファンはエルフだけど、彼は料理番じゃないの?と首を捻ったら、問題ないと言いたげにユリウスさんが頷いた。あ、そう。エルフにとって魔法は、一般教養と同じ扱いなんですね。っていうか、それなら、一国の宰相を三代分務めている貴方のスペック、どんな感じですか?むしろすっげー気になる。ステータス画面見たい。


「いえいえ。私は戦闘はからきしですよ。先代も先々代もそれをご存じですから、私は戦の時などは留守番でしたし」


 にっこりと微笑むユリウスさん。……いや、嘘だ。それが大嘘だって事は、ワタシ知ってるよ?

 確かに、ユリウスさんは宰相で、非戦闘員として、有事の際はお城でお留守番だ。ガエリア帝国の皇帝陛下は、代々武闘派。武闘派じゃなくても、戦争が起こったら自分が最前線で戦うのは普通だと思ってる。そんな王様に、お留守番を任される人間が、ただの無力な文官なわけないじゃないですか?

 ……実際、先々代の統治下で色々ごたごたがあったとき、「よしわかった。俺が前線で大暴れして城を開けるから、お前囮としてここにいろ。で、やってきた敵は根こそぎ潰しといてくれ!」みたいな要求に対して、「それなら、罠を揃えて完璧な状態で迎え撃って、壊滅させておきますね☆」って請け負ったの、貴方ですよねぇええええ?!詐欺だ。ナイスミドルのイケオジエルフ宰相様は、若い頃は結構血の気が多かったし、敵に回したらマジで殺されるタイプの危険人物ですよ。ワタシ、知ってる。


 ……怖いから言わないけどね?



「それじゃ、ワタシはシュテファンに話をしてくる。……あ、あとアディ」

「何だ」

「ひょっとしたらワタシが危ないかも知れないから、一応助けに来てくれると嬉しい」

「危ないことをするのか?」


 戦えないお前が?という感じの瞳で見られたので、とりあえず頷いた。「それならエレンも連れてけ」とか平然と言ってるけど、絶対ドアの外で話聞こえてたら、エーレンフリート驚愕の表情してるからね?あいつ本当にアンタ至上主義ですし、ワタシのこと常に不敬罪で牢屋にぶち込みたそうだよ?そんなヒトを護衛に付けるとか、結構イイ性格してるよねー。

 でも、正直、ライナーさんとエーレンフリートだけじゃ、不安だ。

 あの二人が無能だとは言わない。近衛兵として、古参として、アーダルベルトに仕え続けてきているあの二人が、無能なわけがない。近衛兵には階級がなくて、彼らは一兵卒扱いだけど、騎士団にいたら普通に団長クラスなのは知ってる。見てたらわかる。

 でも、その二人でも、足りない。

 だって、テオドールはアーダルベルトと同じ獅子だ。犬のライナーさんと狼のエーレンフリートじゃ、基本的な力が違いすぎる。技術を駆使した戦闘ならば互角に持ち込めても、単純に物理的な腕力勝負になったら、分が悪い。そんなの、誰が見ても明らかだ。実際、ゲームでテオドールを抑えこんだのは、アーダルベルト本人だし。


「テオドールが暴れたら、きっと、一番にワタシを標的にするし」

「……するな。あの阿呆なら、お前に行くな」

「うん。この非力でか弱い乙女のワタシに、遠慮無く攻撃ぶちかましてくると思う。特に、作戦全部見破られて、正体暴露された諸悪の権化だってわかってるから、余計に」

「乙女はともかく、確かにお前は非力でか弱いからな」

「ヲイ、そこはちゃんと乙女も認めろよ」

「断る」

「てめぇ……」


 鬣を引っつかんで睨むワタシに対して、アーダルベルトは平然と言い返した。なんて失礼な男だ。ハタチのお嬢さんを捕まえて、乙女だと認めないとか、お前本当に間違ってるだろ。あとユリウスさん、お願いだから穏やかに微笑みながら、微妙に首傾げるの止めて下さい。アーダルベルトの真っ向否定より、貴方の疑問符ハテナマークの方がダメージ大きいです。


「わかった。テオドールが俺に気づいて逃げぬようにタイミングを計って、助けに行ってやろう」

「おー、期待して待ってる。来てくれなかったら恨む」

「安心しろ。お前は俺がちゃんと護ってやる」

「うん」


 さらっとこういうことが言えちゃうのが、アーダルベルトが王様って感じだよね。弱者は全部ちゃんと護るって感じ。ありがとう。確かに護って貰えて嬉しい。けど、何か微妙にもやもやするのは何でだろうね?ワタシが弱いのは仕方ないことで、そっちをアーダルベルトに頼るのは当然なのに。



 まぁとにかく、テオドールとっ捕まえる作戦、決行しましょうかね?


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