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トルファイ村の村長さんは、「ゲームに良く出てくる村長さん」だった。
え?何言ってるかわからないって?いや、ゲームの中でよく見かける、白髪に髭にローブに杖っていう見慣れたスタイルのおじいさんだったんで……。ドット絵とかでよく見る感じのデザインだった。テンプレなの?違うの?
そういや、この世界、女子はズボン穿かないのに、男にローブは有りなんですよね。意味わからない。だったら女子がズボン穿いても良くね?ワタシ、ズボン穿いてるだけで、性別不明者扱いされてるんですよ?いや、女官さんと同じ服で動き回れとか言われても、裾踏んづけて死亡フラグですけど!
…………多分ワタシ、最初にジャージ姿だった為に、小僧呼ばわりされてたんだろうな。今思った。そして、ワタシが女子だと自己申告したのに、侍従の衣装しか渡さなかったアーダルベルトにも、色々と事情をお聞きしたい。この世界、ズボンを穿いてる女子は、家庭の事情で男装してるとか、そういう重要な場合オンリーらしいんですが。
その設定、ゲームではあまり出てこなかったよ!でもそういや、女子キャラ全員、戦闘員もスカートでしたね!うん!
「ミュー、阿呆なこと考えてないで、村長に事情を説明しろ」
「……阿呆じゃないやい」
「村長、こいつは先頃から俺が傍に置いている参謀だ。未来を見通す英智を持っている」
んなもん持ってねぇよ。
お願いだからそこの獅子さん、真顔で大嘘言うの止めれ。そのしわ寄せ全部、ワタシに来るから。ホラ見ろ!善良な村長のおじいさんの視線が、「陛下が連れてるこの少年は誰だろう?」から「は?この胡散臭い少年が、参謀?」っていうのにクラスチェンジしてるじゃん!?思いっきり不審の眼差し向けられてるからね?!
お前そろそろいい加減に、初対面のヒトにそれぶちかますの止めよう?ワタシの知名度そんなに無いし、そもそも、そんなハイパーミラクル天才様なスペック存在しないからね?ワタシにあるのはただのゲーム知識。イベントになってたり、作中で語られたりしてる部分だけを記憶してるのであって、そんな、何から何まで知ってるとか思われるの心外!
「未来を見通す、ですか……?」
ほら、おじいさんが凄い困ってる!陛下の知り合いっていうので、取り扱いに困ってるじゃねぇの!ワタシも困るわ!なのに、何で一人で自信満々なんだよ。これだから王様っていうイキモノわ!!!
「そうだ。……ミュー」
じろりと横目で見てくるアーダルベルト。今の視線の意味を訳すならば、「腹括ってさっさと言え」でしかない。わかってるよ。ここで言わないっていう選択肢、ワタシには存在しないんでしょ!知ってる。ワタシが言わなかったって、アーダルベルトが暴露して、話がそのまま進められるんだろうからな!
「村長、この村では土砂災害が起ったことはありますか?」
とりあえず、本題にいきなり入るのは止めよう。ちょっと遠回りしてみよう。いきなりはいくらなんでも、インパクト強すぎるだろうし。このおじいさん村長がぽっくり逝っちゃったら非常に困る。
「土砂災害、ですか?いえ、今までそのようなことは……。我らは山と共に生きておりますので、そうならぬように日々注意しております」
「ですが、見たところ、山肌の露出が多いように思われます」
「それは……。……先日、材木の注文が相次ぎまして……」
大丈夫だと言っていた村長の顔が、曇った。それをワタシはちゃんと見た。隣でアーダルベルトも見ている。《いつもと違う状態》だということは、ちゃんと理解しているらしい。それなら少しは話がしやすいかもしれない。ホッと小さく息を吐き出した。
瞬間、早くしろと視線が飛んでくる。わかってる。わかってるから、アンタはもう少し、人の感情の機微を理解するべきじゃないかな!?このゴーイングマイウェイ男め!
「単刀直入に申し上げます。来月、予想外の大雨が降り、アロッサ山は崩れます」
「……は?」
「その時の土砂崩れによって、このトルファイ村は全滅するのです」
なるべくしんみりと言ってみた。真面目な顔して言ってみた。机の上に、肘を突いて、手を組んで、その上に顎を乗せて、目を半分伏せて、シリアスめな低い声で言ってみた。誰だ、そこで「ダ○ープラグを……」とか言い出したの。違う。イメージは確かにしちゃったけど、違うんで!
村長さんは絶句していた。そりゃするでしょう。ごめんよ。ワタシも、いきなりこんなこと言われたって、信じられない。でも、事実だから仕方ない。……少なくとも、ワタシの知っている《歴史》では、コレが《正しい》未来だ。
「村長、突拍子も無いことに聞こえるかもしれんが、ミューの言葉は事実だ。つい先日も、辺境の村への傭兵崩れの襲撃を《予言》してみせた」
だから、《予言》と言うでない。
アーダルベルトに言われたって、信じられるわけがない。ただ、信じて貰わなくても、やっておかなければならないことが、ある。でも、それを切り出すのはワタシじゃない。ワタシの権限じゃ無い。そういうのは、アーダルベルトの仕事だ。
「今は信じていなくても構わん。ただ、山崩れへの対策だけは行いたい。……協力を願えるか?」
「……陛下の仰せでありましたら、我らは従うのみでございます」
「かたじけない。近日中に手配をしよう。村の者達にも、山の状態に気を配るように伝えて欲しい」
真面目な顔で、真面目な内容を、真剣に話しているときのアーダルベルトは格好良い。ゲームで何度も見てきた、ワイルドイケメンな皇帝陛下だ。こういう姿しか知らなかったら、普通にイケメン相手にキャッキャうふふできたんだろうけどなぁ……。
生憎、ワタシの前に居るときのアーダルベルトはただの悪友モードだ。お前のどこにそんなもんが搭載されてたのか、小一時間ほど問い詰めたいわ。開発スタッフそんなこと言ってなかったぞ?
「ミュー、具体的な日付はわかるか」
「……ん。6月15日。14日の夜から大雨が降り続いて、そのせいで地盤が弛む感じで」
「だ、そうだ。まだ一月以上先の話だが、警戒だけはしていて欲しい」
村長さんはもう、頷くしか出来なくなっていた。ごめんよ、おじいさん。でもワタシもアーダルベルトも、この村を救いたいだけだから。それだけはわかって欲しい。
それからしばらくアーダルベルトと村長さんが話をしていた。ワタシはその隣で、置物のように二人の話を聞いていた。時々アーダルベルトに言われて、ちょろちょろと話をする程度。だってワタシに出来ることなんて、その程度。ゲーム知識をちょろっと口にするぐらいしか、できないよ。
話が終わって外に出たら、ライナーさんを始めとする護衛の皆さんが揃っていた。盗賊退治は無事に終わったらしい。縄に繋がれてる盗賊さんたち、結構派手にボコボコにされてますねぇ。ま、仕方ないだろう。犯罪者にはそれに相応しいお仕置きが待ってるのが、世の常だし。
「盗賊はコレで全部か?」
「はい。全員捕まえました」
「よし。ならば王都まで連れ帰り、処罰を与えよ」
「はっ」
敬礼する護衛さん達。……アレ?皆さん馬だけど、もしかして、盗賊達引きずっていくの?歩かせていくの?ボッコボコにしたのに?うわぁ、ひでぇ。キツそう。でもまぁ、人様に迷惑かけたんだから、仕方ないよね。
うん?ってことは、帰りはゆっくりですか?!アーダルベルトの馬に強制的に乗せられるのはわかってるけど、アレと一緒に帰るなら、ゆっくりになるんじゃね?ひゃっほい!落馬の危機が減った!
「お前が何を考えているのかはわかるが、違うぞ」
「何ですと?」
「あいつらはゆっくり帰すが、俺はすぐに戻る。仕事があるからな」
「…………ワタシもあっちと一緒に、ゆっくりお馬に揺られて帰りたい……」
「却下だ」
デスヨネー。
知ってた。それぐらい知ってた。そうやって別行動させてくれるような優しさがあるなら、そもそも、ワタシをこんなところに連れ出したりしないよねー!ちくせう!わかってても辛いよ!またあの恐怖と終わった後の痛みと闘うのかよ!正直まだ股関節痛いよ!
当たり前みたいに、襟首引っつかんで、持ち上げられた。止めて。それ止めれって言ってる。ワタシ荷物じゃ無いし。確かに、持ち上げて貰わないとアンタの馬には乗れませんけど!だからって、毎回毎回、ワタシは猫の子じゃねぇのよ!?
「お前、もう少し食った方が良いんじゃないか?いくら何でも軽すぎるぞ」
「失礼な!標準体重だから!」
「何が標準だ。あまりにも軽すぎる。……あぁ、アレか。筋肉が足りないのか。一緒に鍛錬するか?」
「全力でお断るわ!!!」
何という恐ろしい、悪魔のような誘いを口にするのか!こんな武闘派レッツゴーな獅子の
だいたい、乙女の体重をどうこう言うなんて、デリカシーの欠片もありませんね!なんて失礼なヤツだ。確かにワタシは女子らしくないかもしれないが、これでも性別はちゃんと女子だからな!そこら辺忘れんなし!
「…………。……あぁ、お前、女だったな」
「今思い出したのか!?」
「いや、その格好でその言動だろう?女性らしい要素がどこにもないから、つい忘れる」
「口調はワタシの自業自得だとして、この服装はお前が選んだんだろうがぁああああ!」
「だが、動きやすいだろう?侍従の格好」
「えぇ、動きやすいデスケドね!この世界でズボンが男子限定だって知ってたら、ワタシもちょっとは考えたわ!」
文句を言っても華麗にスルー。叫ぶワタシを無視して、アーダルベルトは当たり前みたいにワタシを馬に乗せた。嫌だ。この馬大きいから、乗っけられると高すぎて怖い。落ちる、落ちる。必死に馬の首にしがみつくワタシは悪くない。だってこいつ、他の馬より二回りぐらい大きいんだもん!
普通の軍馬がポニーに思えるレベルって、どんなんだよ!?
いや、それぐらいのサイズじゃ無いと、アーダルベルトが乗れないんだろうけどね?わかってる。それはわかってるけど、その上に乗せられている状況だと、ワタシは色々と辛い。だって、うっかりバランス崩して落っこちたら、即死するよ?死ねるよ?死にたくないじゃないですか!
落馬の恐怖と戦いながら馬の首にしがみついてたら、アーダルベルトがひらりと跨がってきた。んでもって、ぐいーっとワタシの身体を引っ張り寄せて、左腕で丸太もどきシートベルト完成です。……あぁ、これで帰るんだ。安全は確保されたけど、圧迫感パネェです。腹が、苦しい……。
「落ちるなよ?」
「……落とすような走りするなよ」
「善処する」
「善処じゃなくて!」
古今東西、運転とか操縦とかに付いてくるのは、「安全第一!」の精神じゃ無いのか!?乗馬だって同じじゃ無いですか!ヒトが乗ってるんだから、安全を考慮するのは当たり前のこと。なのに、何で面倒くさそうなの!
「ミュー」
「
「戻ったら対策を練る。手伝え」
「……うい」
耳元でぼそりと呟かれた言葉に、素直に頷いた。トルファイ村を護るためだ。アーダルベルトに仕事を押しつけたワタシとしては、出来ることはちゃんと手伝いたいと思ってる。たとえ、出来ることが少なくても。この村を、無くしたくない。その気持ちは一緒だと、思うから。
「と、いうわけだ。急いで帰るぞ」
「それはそれで嫌だぁあああ!」
見えないけど、今絶対、すっごいイイ笑顔してるだろ!?ワタシがアンタの馬術に振り回されてるの知ってて、そんな悪魔の宣告みたいなことするの?!鬼?鬼なの?鬼が憑依してるんじゃないの?ねぇ?
王城に帰還した時のワタシが、完全に魂が抜けてたと皆が言うけれど、ワタシは絶対に悪くない!
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