琥珀
「おいで」
手を引かれて入った彼の書斎は薄暗く、埃の臭いがした。
分厚いカーテンを引き開けると、夕暮れの優しい光が品の良いドールハウスのような室内に差し込んだ。
壁一面の本棚。窓を背にした広い机。机と入り口の間にはテーブルが一台。その上には大きな模型が置かれている。
「見てごらん」
模型はこの家の精巧な箱庭だった。
木々に囲まれた大きな庭に白い西洋風のお洒落な家。凝り性の彼らしく箱庭の向きも合わせており、今いる二階の奥の部屋には、同じように柔らかな夕日が差し込んでいる。
その中に動く物が見えた。
よく見ると、それは人形のよう。今の私と同じ白のブラウスに暗い緑のロングスカートで、同じように部屋の真ん中で何かを覗き込んでいる。
「綺麗だろ」
恍惚とした彼の声は、しかし隣からではなく、天井のさらに上から聞こえてくるようだった。
「この箱庭は君にふさわしいようにと思って、端正込めて作ったんだ。気に入ってくれたかな」
ええ。
「それは嬉しいよ」
天井が開き、上からどろりとした飴色の液体が流し込まれる。夕日と同じ色の液がゆっくりと固まり、私の時間は永遠になる。
「ああ、綺麗だよ」
天上を戻し、彼が窓の外から覗き込む。その隣には同じように覗く私の姿。
その顔には先程までの無邪気な笑顔はなく、少し寂しそうに、懐かしむかのように箱の中の私を覗いていた。
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