きぃ……
きぃ……きぃ……。
風に戸が揺れる音がする。
熱を持った夏の風が頬を撫でる。
のどかな草原の中の石組の小屋。何もない板張りのベッドの寝心地は良くないが、小さな古い木戸とガラスのない開け放たれた窓の間を吹き抜ける風は、荒んだ心に命の喜びを教えてくれる。
きぃ……きぃ……。
風車の回る音がする。
粉引きをしていた老婆に問うと、これは全てお城へ持って行くものだと言う。
痩せた老婆は手持ちの袋からせっせと麦を流し込んでは、搗き終った臼から粉を掻き出していく。
その時、不意に見せた表情が忘れられない。
きぃ……きぃ……きっ。
巻き上げのハンドルの擦れる音が止む。止め金具を打ち込む音がする。私はベッドの上でうつ伏せになった。
聞こえてくるのは数多の人の声。嬉しそうな、祭りのような熱気のある歓声。
ゆっくりと目を開く。
そこには広場を埋め尽くす程の顔、顔、顔。そのどれもが生気に満ち、喜びにあふれている。
ああ、これ程までに待ち望んでいたのか。
「罪人の準備が整いました」
後ろから聞こえる無機質な声。誰かが頷き、立ち上がるのが感じられた。
「皆の衆。これが先日の革命の折、たった一人逃げおおせた国王のなれの果てぞ。しかと見届けよ」
民衆の声が一段と盛り上がった時、ぶつんという音と共にギロチンの刃が降ってきた。
後のことは何も知らない。
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