Episode.28:飽くなきデザイア
「ここは“会場”を統括する、いわば司令塔だ。あくまでも、管理は彼ら運営の人間がやる。私と君は、ここで彼らの様子を見ていればいいのだ」
モニターが三十二台、機器が多く並ぶ部屋。ここで行われる可能性のある物といえば、二つある。
人体実験か、人間遊戯か。
どのみち非人道的な事が行われる事は確実だろう。
あの喫茶店から、カーテンを閉められたまま数時間車を走らせて連れてこられた建物。外観は一切分からない上に、内情すらも分からない。
「暇な仕事だな、用心棒はいるのか?」
「そうだな、偶に気を病むのがこの中にいるのだよ……」
“男”の前には十人程の仮面をつけた人間達が、それぞれ忙しそうに歩いていた。書類を用意して、機器の調整をして、銃の調整をしている。
一人、こちらを向いている仮面の人間がいた。その手にはM9が握られている。
「本当に……本当に……俺は金が貰えるんだよな!」
「ああ、そうだ。労働には相応の対価を払うのが当たり前じゃないか」
「やっぱり信用できねぇ、ブッ殺してやる!!」
向けられる銃口、それに怯まず“男”は不敵な笑みを浮かべていた。
表情が見えない以上、躊躇なく仕事を遂行しなければいけない。
懐からグロックを抜いて、額に狙いをつける。そのままノータイムで人差し指に力を入れた。
「流石だ、一切の感情を入れずに仕事として処理する。今の一発に情報を詰められては読み取りがいがある物だ」
「それは、当たり前だ。ここには仕事で来ている以上、妥協は一切できない」
仮面の人間の死体は、袋に包まれてどこかに持っていかれていた。飛び散った液体は全て拭き取られ、また“会”の準備で忙しくなり始めた。
「今の彼は、結構大事な役だったのだがね……そうだ、君に頼みたい事ができてしまった……彼の代わりに参加者に案内をしてくれないか……?」
なるほど、気を病むとはこういう事だったか。それはそれで、確かに壊れやすくもろくもなるだろう。
彼の代わりに説明役を務める、それ自体は造作も無い。だが、“男”からしたら多くの情報を開示しなければいけないはずだ。そのような事をこの“男”がするのだろうか。
「心配はいらないよ、君にはルールを説明してもらうだけだ。それ以上の深いことはさせる気はない……」
紙と仮面を渡される。なるほど、これならば機密が漏れるようなことはないのだろう。“男”は葉巻を灰皿に置くと、ゆっくりとモニターに目を向けた。
モニターの向こうには六人の男女、年齢はそれぞれバラバラのようだ。性格もバラバラ、それでいて行動パターンも定まっていない。
「第一印象は実に大事だ、くれぐれも“人間らしさ”を出さないでくれたまえ」
得意な指示を受けつつ、俺はゆっくりと指定した場所へ向かうことにした。心は、一切痛まなかった。
***
「ここから出たいのであれば、選別し、選択し、そして貪欲になりなさい」
与えられたのはこの一言のみ。鉄仮面越しに様子を見るが、やはり戸惑いしかないようだった。俺はゆっくりとリボルバーの弾倉をスウィングアウトさせて、一発だけ装弾する。弾倉を戻して何回か回せば、古典的なロシアンルーレットの出来上がりだ。それを俺は机に置き、何事もないかのように立ち去る。
扉を閉め、数秒で怯えの声が聞こえた。
本当ならば犠牲なく終わらせたいところだが、それは今回は叶わない。早く仕事を終わらせる前に、色々聞き出さなければいけないのだ。
教えられた通りに“監視室”に戻る。どういう仕掛けになっているかは分からないが、かなり複雑な建物になっているようだった。
「かの“暗殺者”の薦めただけの才はあるようだな。見たまえ、彼らは既に互いを疑ぐり、互いを敵視している。何の関係もない筈だったのに、己の価値観という物差しを使って命の軽重を測っているのだ……」
“男”は意味ありげに呟きながら、傍らのグラスに氷を入れた。机の上には、輸入物の角瓶が置いてあった。
グラスに中身を注ぐと、“男”は香りを
「それは、君の主人もそうだろう……?」
「…………はい」
あの女のことを俺は全く知らない。だが、やって来た所業を考えれば間違いなく“男”の言う通りだろう。
彼女は何故暗殺者として存在しているのだろうか。無意味な殺人をするほどの狂気を彼女からは感じ取れなかった。ならば、一体何故彼女はこの世界に身を投じたのだろうか。
「そうだな、彼女の遍歴が知りたい、大体そんなところだろう」
「……何故、分かった」
“男”に全てを見透かされている感覚、話が通じるのに何も抵抗できないこの感覚に思わず吐き気を感じた。表情は一切かえてないはずだ、そう訓練されてきている。
「彼女は人間性と非人間性を兼ね備えている才女だ。私も私とて、そういう特殊な人間は興味があるのだよ」
「……俺がお前と似ているというのか?」
「いやいや、君がそう思うのならばそうなのかもしれないが、私は私の欲のままに生きている。知りたいことを知ろうとし、手に入れたい物を手に入れる。それが私の人生そのものだ」
“男”はまた一口飲んで、モニターを見る。モニターの中では、既に三人ほどがロシアンルーレットから抜けていたようだ。
筋骨隆々な男と、老婆と、理知的な少女。三人は誰が引き金を引くか話し合っているようだった。
「さて、少し面白くなって来たようだ。しばし鑑賞するとしようか…………くれぐれも君の考察を挟まないでくれたまえ……」
男はまた童心に返ったような輝きを、昏い瞳に
『い、よっしゃあああああ、俺も抜けたぜ、よしよし、生き残ったぜ俺はぁ!!!!』
割れる絶叫は筋骨隆々な男の物だった。子供のように飛び跳ねて自分の生が伸びたことを喜んでいた。残されたのは老婆と少女の二人。
しばらく無音の空間が広がる。理知的な少女は口角を震わせ息を荒くしている。
「…………六人中五人が生還、となれば次は……ふむ、ありきたりな展開だが、事実は小説よりも奇なりと言うではないか……」
理知的な少女の前にゆっくりとリボルバーが置かれる。彼女の目には涙が湛えられていた。
大体二十歳くらいだろうか、それくらいなのにもう死ぬことが確定していた。それはいくらなんでも堪え難い苦痛だろう。
『早く……早く撃てよ、お前の番だろ!!!』
『本当にごめんだけど……私たち終わっちゃったから……』
『これもしょうがない事だ……すまないねぇ……』
『君の分まで生きようと頑張るから、だから……』
『私達のために死んでよ……お願い……』
生還した五人が、口々に感情を露わにする。自分は既に安全なところに立っている、そう思って少女に石を投げていた。
少女はゆっくりとリボルバーを手に取る。それを持つ手は激しく震えていた。五人と同じく生きることを求めるその手を、俺は無感情に見ていた。
『やだ……やだ……ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ!!!!!!そんなのやだ、私が生きるんだ、わたしは!!!!しなない、しにたくなあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!』
轟音がスピーカー越しに聞こえる、壁にもたれて倒れるその体は────────筋骨隆々とした男のものだった。
少女は肩で息をしながら、男の体に銃を向けている。
「フフ……ハハハッ、そうかそうか、そうなるか、なるほど……生に
男の人間味のある冷酷な声は、“監視室”にやけに湿って響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます