東雲さんは俺に詰め寄り、はだけたワイシャツとちらりと覗く艶やかな肌を見せつけた。


 触るって……え、いいの? まだ手を繋ぐことも、腕を組むことも、抱き着くこともしてないのに……本当に、いいの?


 これって青春かな? 青春だよね? こんな形でも、俺の求めていた、大いなる青春だよね!


「そ、それでは、お邪魔します……」


 もはや思考は彼女の胸部で埋め尽くされ、どんな催眠よりも強力な強制力が俺の右手を揺り動かす。


 そっと近づいた俺の右手が、初めて女の人の胸を……もん


「だぁあああああああ!」


 あらゆる煩悩を払拭するため、頭から軽く血を流すことも厭わず屋上のコンクリートの上にダイブした。


 やっぱり違う。なんか違う! 俺が求めていたのはこうじゃない。


 鈍い痛みがぼんやりとした頭を覚醒させ、まともな意識で彼女を見つめた。


 東雲さんは大きい瞳を丸く広げて驚いている。


「俺は……俺は! 東雲さんと二人で、いろんなところに行ったり、自転車を二人乗りして河原沿いを走ったり、雨の日は一つの傘の下で肩を寄せ合って歩いたり……喧嘩して、泣いて、それでも二人笑い合って、絆を深めてやっていきたいんだ。胸を触る……なんて、とっても魅力的ではあるけど、それは俺の青春とは違う! 俺は、ただ純粋に恋をしたいだけだ!」


 言った。言い切った。緊張で呼吸もままならなかった俺は、一つ深呼吸して心を落ち着ける。


 もしかして、今俺は東雲さんに対してとても失礼なことを言ってしまったのかもしれない。


 だが、俺は別に淫らな生活を送りたいんじゃない。青春ってやつを一度でも経験したいだけなんだ。ここだけは譲れない。


 東雲さんの様子を見る。


 彼女は信じられないといった顔で、話し始めた。


「本当に、私の胸とかじゃなくて、私自身が、好きなの?」


「うん……東雲さんさえよければ、付き合って欲しい」


「それは、でも……うん、わかった。確かに君は他の男子とは違うみたいだから……君にだったら、教えてあげる」


 そう言って、東雲さんは一息つくと、唐突に制服を脱ぎ始めた。

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