「あの、本当に、私なんかで、いいんですか?」


 彼女の口からぽつりと漏れ出た声は、俺の予想とは違っていた。


「っえ?」


 驚きのあまり、顔を上げて見つめると、恥ずかしさからか両手で瞳を隠し、指の間からちらちらと彼女は俺の様子を伺っている。


「だって、私、お喋りとか、下手だし。多分、誰かを好きになんてなっちゃったら、独占欲とか強くなっちゃうだろうし。気分が上がっちゃうと、何も考えられなくなっちゃうし……」


 もじもじと体を揺らし、おそるおそる喋り出す東雲さん。


「い、いやいやいや! ぜんっぜん大丈夫! そんな小さい欠点なんか軽く吹き飛ばせる程、東雲さんはすっごい優しいし、そういうところに俺は惚れたから無問題だよ!」


「そうかな……私、優しい、のかな?」


「そうだよ! 東雲さんの優しさがあれば、砂漠みたいに乾いた心も、一瞬にしてオアシスさ!」


 両手を広げてオーバーリアクション。冷静に見つめると相当痛いことになっている俺だったが、東雲さんは顔をくしゃくしゃにして、


「にへ~」


全ての男子を極楽へ送る最上の笑顔を俺に向けるのだった。


 え、何これ。何この子めちゃくちゃ可愛いんですけど! 本当に俺と同じ人類なのかなぁ!


「東雲さん! 東雲さん! 鬼可愛い!」


 普段出さない声量で東雲さんを褒めちぎる。東雲さんは照れ隠しなのか「そんなことないよぉ~」と言いながら手をぱたぱたとさせる。


 彼女の一挙一動全てが愛らしく、俺のテンションが昇り竜の如き力強さで上昇し、体内の血液の巡りが倍ぐらい早くなったように感じる。


 心臓の鼓動はバクバクと音を立て、今不用意に口を開けたら、中から色々な臓器が元気よく飛び出していきそうだった。


 この勢いならイケる! 俺に生涯初めての彼女ができる!


 さぁ、こい! 東雲さん、俺はいつでも君の返事を受け止めます!


 期待が膨らむ俺の様子を見て、彼女は決意の炎を瞳に宿し言った。


「……で、本当は、私のどこが好きなんですか?」

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