青春はいつだって恋熱暴走~オーバーヒート~

フルティング

青春開始のカウントダウン

「す、すすす好きです! どうか俺と、付き合って下さい!」


 男子生徒連中から大人気の学園アイドル、東雲(しののめ)ねこりに向かい、学校の屋上で俺こと春野拓郎(はるのたくろう)は腰を九十度に折り曲げて叫んだ。


 雲一つない青空から差し込む、容赦のない太陽光の熱に汗を落とし、彼女からの回答に胸を膨らませながら緊張の一時を待つ。


 彼女が息を飲む音が聞こえた。そんな些細な音が聞こえるくらい、屋上は静かだった。


 誰にも邪魔されない、彼女と二人っきりになれるチャンスを設けるため、朝の八時に彼女をここへ呼び出したかいがある。


「どうでしょうか! ……だめ、ですか?」


 東雲とは同じクラスだが、今まで一回も会話したことはなかった。


 遠目から見て、他の女子と楽しそうに笑う姿だとか、時たま窓際に手をついて可憐に空を見上げる仕草だとか、誰も水をやろうしない花壇に水をあげる優しさだとか、そういったところに俺は好感を抱いていた。


「えっと、その、あの……」


 腰を折り曲げたまま彼女の様子を伺うと、恥ずかしがっているのか断る理由を考えているのか、視線を彷徨わせてどこか落ち着かない素振りを見せた。


(やっぱり、駄目か……)


 付き合えたら大層楽しい生活が待っているのだろう。だが、正直、俺は断られることを承知で告白していた。


 俺には何も取り柄なんて無かったから。


 朝は気怠く起きて、ふらふらと登校、授業は居眠りで帰りは部活もやらずにぶらぶらして家帰ってクソして寝る。


 いわゆるドクソつまらない男子高校生っていうやつで、同じような生活を繰り返す日々をだらだらと過ごしていただけの目標の無い人間だったからだ。


 キラキラと輝いて見える彼女とは大違いなのは自覚していた。この後の展開も大いに予想ができた。


 ……でも、それでいいんだ。俺は拳を握りしめて彼女の言葉をじっくりと待つ。


 断られて、心がズタズタに傷ついたっていい。学園の美少女に告白して玉砕するなんて、凄い青春してるじゃないか。


 そうさ。俺は、俺は……!


――思い切って、青春を楽しみたいんだ!

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