第11話 才能を左に置く

僕とヒリュウは、権利ポイントを温存する。つまり、休憩だ。見知らぬおじさんの言う通り、台本はヒーローショーにおいて重要な気がしてきた。何で今まで、僕とヒリュウは権利ポイントを無駄遣いしていたのだろう? そうだよ、シナリオだよ。オーナーは静かに口を開く。

「彼はかつて、天才と呼ばれたヒーローだった。彼は、理由も解らないままステージから去ったのだ」

ウスバはづけづけ言う。

「僅かな期間の間で去った天才少年。要するに、あの人は脱落者ですね」

オーナーはため息をついた。

「そうは言ってやるな。もしかしたら、その才能は再び光るかもしれん」

ヒリュウも続く。

「ウスバよ、本人には言わない方がいい」

おじさんは再びステージへと上がる。天才少年の挫折からのカムバック。通用するか、見せてもらうよ、おじさん。

おじさんはみんなに自己紹介をする。

「俺の名はオッサン。本名は遠い日に捨てた。俺は八年間以上、奪われた椅子を取り返すことを考えていたんだ。しかし俺は、ここで新しい椅子を作りたいと思う。疲労回復などケガ防止テクニックもトレーニングに繋がることを、オーナーは研究している様だな」

社員達は、パチパチと拍手をオッサンに送る。オッサンは恐らく、少年時代に高レベルの嫌がらせを受けていた。それでオッサンは、ヒーローという椅子に固執したんだな。僕とタイプは近いかもな、なあオッサン。

ウスバは、早くもオッサンと馴染もうとする。

「ねえ、オッサン。私は魔法刀をいつか名刀にするのがユメなの。だから、天才的なアドバイスをよろしく」

オッサンはしばらく考えて答える。

「魔法刀とはハゲトラが鍛えた一振だな。名刀とは名をはせた刀のことをいうと、俺は認識している」

ウスバは、少し嫌な顔をして言葉を返す。

「私はもっとユメのある名刀にしたい。というより、しないといけない」

オッサンは無表情で言う。

「ユメがあろうが、認知されていなければ、使い手が名刀と呼んでも一般には通用しない。ウスバは事情を抱えているということか?」

オッサンは今、シハイのことを思い浮かべていることだろう。シハイの刀は名がない。ウスバはシハイを尊敬している。ウスバは、伝説の悪役シハイにユメを見たのかもな。オッサンはみんなに言う。

「台本は俺が担当すると聞いている。台本を書くのは、七年ぶりぐらいだ。アドリブは好きにするがいい。台本には絶対という答えはないんだ。文句があるなら受け付けるよ」

「はい」

と、みんな。僕はとりあえず役を確認する。

「へえ、僕は病気をばらまくオニを演じるのかあ」

結構でかい役かも知れん。気合いを入れて演じてやるぜ。

ヒーローサイドでは、ヒリュウがオニキラーという主役に抜擢された。僕もヒリュウも主役クラスだ。決着をつけようぜ、ヒリュウ。ウスバはパズルナースという役だ。ふむふむ。人間の頭の中はパズルで出来ている、という設定だ。何だと! 悪役のオニは、パズルを狂わされた復讐者だ。オニもまた被害者だったというオチかな? 違うぞ。悪役のオニは、何と人々のユメを叶えるため、パズルを狂わす。自らの叶わなかったユメを、人々に託す。だがそれは筋違いだと、パズルナースとコンビを組む主人公ヒリュウは考える。つまり、オニは人々にユメは叶ったと勘違いさせている、イタズラ野郎ということだ。

プロレベルの台本ではないが、やみくもに戦っていた今までの僕達より、やりがいがあると思う。このシナリオでアピールすれば、僕はオーナーとの契約を延長できるはずだ。僕達は、このシナリオに権利ポイントを捧げた。今までよりは観客の興味を引けた気がする。

勝負だ、ヒリュウ! 僕は刀を持ったまま突撃する。しかし、そこにいたのはヒリュウではなかった! 知らないはずがない。ヤツはトップクラスのスターヒーロー『ヤグモ』だ。そして、ヤグモは僕達には興味なしだ。ヤグモの視線の先はやはりオッサンだ! ヤグモは言う。

「オッサンと名乗るのは止めろ。同世代の俺もおっさんということになってしまう」

「それは出来ない相談だ」

と、オッサン。ヤグモは両手を上げる。

「俺は喧嘩をするためにここへ来たのではない。オッサンとやらなら、この暗号を解くことが出来るか? 『才能を天秤の左側に置く』というメッセージが俺の所に届いた。ならば、右には何が当てはまる?」

オッサンは表情を変えない。

「本当は聞くまでもないのだろう、ヤグモ。言うのが怖いか?」

シハイグループのジョーカーとまで言われるヤグモが震えている。そこまで恐ろしい暗号なのか? それに対し、オッサンは余裕の態度だ。オッサンは答えを言わぬままに、会話を続ける。

「この暗号を送っているのは、間違いなくこの悪役会社に勤めていたロストという人物だ」

あのロスト先輩が何のために? オッサンは何故か理解出来るんだよ! そして、ヤグモ自身も感ずいていた。そもそも、何故才能を左に置く必要があるんだよ? まてよ、右にくるものは、左にある才能と同じ重さのものではないのか? つまり、バランスがとれているということではないか? ロスト、ロストって失うってことですか!

ロスト先輩の声が聞こえる。

「ハズレだよ、アクイくん。みんなも久しぶりだね。また会えたよ。俺の名は、配達マスターロスト。実体のある物なら、大抵の物は運べるぜ、キング」

キングと呼ばれたのは、伝説の悪役シハイだって! どうなってやがる? ウスバも驚きを隠せない。

「シハイ様がどうして? 偽物だったの?」

バランスを秤にかけるという暗号だったのかよ。ということは、バランスを崩すことが、ロスト先輩には可能ということだ。しかし、どうやって才能のバランスを崩すのだ?

キングはハッキリと言う。

「キミ達は、俺達マスターによって観客集めが目的の作られた人形なんだよ。だが、ユウキという名の人形は強かった。俺はユウキをライバルと認めているさ」

ウスバはキングに問う。

「シハイ様と、まだ呼んでもいいの?」

答えたのはキングではなかった。

「俺はドールマスターのダーク。シハイの器を作ったのは俺様だぜ。ついでにヒリュウもな。カプセルとは、人形の住む町だ。思い出せよ、アクイ」

「何を思い出せばいい?」

と、僕。ダークはニヤリと笑った。

「アクイもドールマスターだろうがよ。忘れるな」

ヤグモは、恐れていたことをついに口に出す。

「マスターなら、俺達の才能をある程度いじれるということかよ?」

「そういうことだ」

と、キングはうなずく。そして、磨き上げた実力もバランス次第ってか。ゴウとアオイも青ざめている。落ち着いているのは、オッサンとオーナーの二人だけだ。

オッサンはキングに向かって言う。

「何を恐れる必要がある。俺達がカプセルの人形だとしても、普通に生きて来れた。俺の場合、普通ではないかもしれないけどな」

キングはオッサンに興味を持つ。

「なかなか出来のいい人形だ。オッサンと言ったか? 俺達マスターは、テリトリーいわば縄張り争いしてんだよ。ジャッジはお客様だ。一般市民ということだ」

オッサンは、何かに気がついた。

「そういうことか。才能のバランスを取りつつも、多彩な人形達を使役する。俺達人形とマスター達の目的は同じ……ということだな」

キングはオッサンに問う。

「ヒーローショーは何のためにあると考える、オッサン?」

オッサンは答えをとっくに用意していた。

「まずは、収入と観客を満足させることだ。ユメがないと思うなら、俺とそいつはタイプが違う」

そいつとは、観客のことだ。そして、観客の考えもたくさん存在する。そこでダークは言う。

「俺達マスターの願いは、ヒーローショーを守ることだ。カプセルに限らず、多くの娯楽が世界にはあるらしい。優劣の問題ではなく、その娯楽の一つにヒーローショーが数えられればいい。結局は、マスターと人間が協力してヒーローショーを成功させたいだけなんだ」

僕はダークに言う。

「ダークは見るのも演じるのも、ヒーローショーが好きということが伝わったよ」

「こんなものは認めない!」

その言葉と同時に、ウスバは魔法刀を抜いた。ハゲトラが僕の頭から離れない。テリトリーではなく、純粋な心こそ、僕が失ったものだったんだ。記憶が僕に溢れてくる。








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