第5話 観客

パレットさんは、最後の演技に力を込める。最後とは僕は言いたくない。でも当たり前に、誰でもヒーローショーは終わりを告げるんだよ。民間人を倒していくパレットさん。やられたふりをした民間人が笑っていた。

パレットさんは、仕事を終えた。

「ヒーローショーを演じる者も見る者も、パワーに憧れるだけではない。確かに残っているのだ、パワーというものがな」

僕は残念な気持ちで言う。

「終わってしまった……」

しかし、ウスバは指を指す。

「パレットの引退式は、これから始まる」

ウスバは寝ぼけているのか、かわいそうに。

ウスバは続ける。

「かわいそうな顔をしているアクイさん。あれが見えるかい? 最近パレットが経営している、そこそこ話題の演劇が始まるよ。その演劇は、ランクBの評判。悪役達にはあまり知られていないのね」

「何だって!」

と、僕はウスバの意外な言葉に驚く。

「知らなかった……」

と、ゴウとアオイの二人もびっくりしてるぞ。

パレットさんの姿はもうない。オーナーは涙を浮かべる。

「よくやってくれた、パレット。今から演劇が始まるのだな」

数人のおかしな格好をした男達が舞台に上がる。

「俺はヒーローショーのヒーローになりたかったんだ。カプセルの中で、俺は名刀を振るう」

「ユウキよ、ヒーローショーにパワーはない。俺の刀は切れないナマクラさ。ヒーローは名刀を扱うことが出来ない」

「ハゲトラさあ、俺は『観客』として絶大なる『パワー』を感じたことがある」

どうやらこの演劇のテーマは、伝説のヒーローユウキと鍛冶屋ハゲトラの物語らしい。

ヒーローショーにパワーはないと解くハゲトラ。まあ、演技だからしょうがない。そして、もう一人は伝説の悪役シハイ。

「ユウキと何度でも戦えるのは悪くない。パワーを捨てはしないぜ、ユウキ。俺とユウキ、互いにな」

力無き子供達の憧れは、安全なる世界・ヒーローショー。この演劇は、そう語っていた。

ウスバによると、この演劇を立ち上げたのはパレットさんだったな。パレットさんは何がしたいのだろう? ユウキは言う。

「今日も観客、大して来ないな」

ハゲトラも言う。

「ユウキさんがつまらない演技をするから、観客が減っていったのだ」

ここで、ウスバがすごく驚く。

「父さんの役の人、凄い美形よ。この演劇、無理があるわ!」

ウスバはどうでもいいところで、驚いていた。ウスバはハゲトラの娘だったよな。それより、演劇はどうなったかな。シハイは容赦なく民間人を斬り刻んでいく。刺激を求める一部の観客に支持されるヒーローショーへと、ユウキ達は成長した。ダークヒーローと化したシハイと、正統派のユウキのバトルは、盛り上がっていく。

そこに『パワー』はあるのか? というテーマの今日の演劇。力に憧れる者達は、力ある者達に憧れた、とのこと。ここは、ユウキよりもシハイに人気が集まる。出たー! 僕がロストさんから受け取った技、『コツコツ』だ。今、ユウキ役の人が披露したぜ、ヒーローだけに。権利ポイントはどうなってんた? ヒーローのユウキ、それに民間人達も忘れてはならない。悪役シハイ、脇役ハゲトラ!

ヒーローショーにドラマが生まれていく。

「これが、ユウキの言っていたパワーか?」

と、ハゲトラ。ユウキは呟く。

「いい線いってると思うが、何か違う気がする」

果たして、ユウキの求める物は見つかるのか! というシーンに入った。テレビではなく、ヒーローショーの舞台を見ている観客達。

僕は気がついた。

「ヒーローショーに、観客が参加しているということだ」

「そう言いたい演劇のようね」

と、ウスバの反応が薄い。ユウキは叫ぶ。

「かつての俺のように、『観客』達はみんなヒーローとなったのだ。俺とシハイのバトルは、それだけの魅力があるということだ」

ハゲトラは言う。

「ドラマでもない。俺の刀は、名刀にもならない」

ユウキはまた叫ぶ。

「勇刀は名刀だ! いくつもの名刀の可能性を秘めているのがヒーローショーだ。観客は『力無き者』ではなかったのだ。ハゲトラ、よく見ろ! 俺と一緒に戦ってくれている観客達の『パワー』は、本当の戦いに匹敵するほど凄い!」

ハゲトラは静かに語る。

「勇刀は俺の初めての名刀なのだな」

ここでまた、ウスバが驚く。

「父さん役の人、意外と父さんの仕草を研究している!」

どうでもいい! シハイも言う。

「ユウキと観客は一緒に戦っているから、俺はパワー負けしたのか……」

ユウキは首を振る。

「シハイも感じているのだろう。これは『ユメ』だと。悪役もまた、観客を魅了する。シハイは悪役として、観客のパワーを受け取ったのだ」

「次はもっと大きなパワーを、俺は観客と一緒に作る。カプセルから出ても、ユメから覚めないほどのパワーをな。ユウキに次は負けん」

と、シハイは気合いを入れる。

ユウキは突っ込む。

「ヒーローは悪役に負けないように出来ている」

「そんなもの、ひっくり返してやる。俺の方がユウキより人気があるのだ」

と、シハイ。

大人が子供になれるのが、ヒーローショーなのかもしれない。一時のユメを人は見る。僕は、このままこの演劇が終わると思っていた。しかし、違った。観客達は騒ぎだす。

巨大スクリーンに、本物のヒーローショーが映し出されたのだ。映っていた光景は信じられないもの。民間人の一人が、ユウキの刀さばきを全てかわす。ユウキは少し怒っている。

「悪役の情報に騙され、ヒーローが狂う場面だ。真面目にやれよ、シガンだっけ? 当たってくれないとヒーローショーが盛り上がらない。有名な民間人役のシガンとはいえ、許されないぜ」

あの民間人の変わり者といわれたシガンだな。ユウキの刀はシガンに通用しないのか。シガンはユウキに言い返す。

「刀がもろにヒットしたら、ヒーローショーが成り立たないとビビってんのはテメーだ、ユウキ。本気のヒーローが出来ないなら失せろ。勇刀ほどの刀でも、キサマは『名刀』に出来んのか!」

ユウキの目は、本気になった。

「後悔すんなよ」

と、ユウキが踏み込むが、シガンは難なく回避する。そして、シガンは帰り支度を始めた。

「まだ脅えてんだよ、ユウキ。本気のユウキはこんなもんじゃない。ヒーローショーを舐めてんだよ、ユウキはな」

シガンの言葉に立ち尽くすユウキ。

「観客は本気の演技を求めているってかよ」

なんのためらいも持たないシハイとは、ユウキはタイプが異なる。シガンはそれを、本気の役ではないと言う。ユウキとシハイの戦いの中で、悩み続けるハゲトラ。

「これがパワー!」

足りていないのはパワー。つまり、観客の満足度だ。ユウキも、それを支えてやれないハゲトラも悩んでいる。

この演劇のタイトルは、『名刀の伝説』だ。ウスバはこれをヒントに、魔法刀へパワーを送るとささやいた。伝説と書いて『しゅんかん』と読ませているぞ。スクリーンの中で、ユウキとシハイは成長していく。

勇刀はシハイを捕らえた。これは危ない。名刀勇刀はヒーローショー用にシフトしているが、切れ味がないわけではないらしい。傷を負ったシハイは、表情をも変えずにユウキと戦う。ユウキの方もためらわない。観客達は大声援を送る。

「これは名勝負だ!」

「シハイ様、ユウキを倒してー!」

「これは名刀だ」

数々のパワーが、観客から舞台の役者達へと送られる。

ハゲトラはつぶやく。

「切れない刀など名刀ではないと、俺は思っていた。だが、勇刀のこのパワーは凄い。ユウキは俺の刀を本当の名刀にしてくれた。名刀とは使い手が導くものだ。今、俺は自分がいい仕事をしたと実感している」

最後に映ったのは民間人のシガン。

「俺はもう、ユウキの刀をかわす自信がないよ。当たることしか俺は出来ない。名刀誕生の瞬間を、俺は見ているんだな」

この日以来、観客はカプセルのことをヒーローショーと呼び始めたとのこと。カプセルにはユメがあるかい?




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