第3話 名刀ではない
あのウスバという少女は、観客にもかかわらず『シハイ』を知っているのか! そして、憧れている。僕達悪役にとって、シハイはヒーローよりもヒーローだ。圧倒的パワーで、シハイは戦場を駆け抜けた。ユウキの仲間と一緒に、目立つスタイルとは正反対だった。
ユウキさえも追い詰めるシハイのパワーに、当時の少年達は熱狂したらしい。僕とは世代が違うが、それぐらい知っているぞ。シハイはかつて、ライバルがいてこそヒーローショーで目立つことが出来ると言っていたらしい。
そのシハイでさえ、若手時代は有名ではなかったという。シハイの求めたものは、シンプルな力強さとオーバーアクション。そしてユウキにそこを突かれ、敗北した。それでもシハイは目立っていたと、元少年の大人達は語る。ウスバはそれに憧れていたと言ったのに、シハイとはスタイルが違うぜ。バトルスタイルが、似ても似つかない。
「魔法少女の登場だ。ハゲトラの刀『魔法刀』の餌食になるがいい」
ノリノリでバカなことを言い始めるウスバ。魔法刀とやらは本物だ。とても派手なレインボー達が踊り出す。ウスバは、頭の中もレインボーなはず。ウスバはこちらを見た。
「そこのアクイという少年! 『私の』ヒーローショーへ招いてやろう。キミはきっと魔法の意味を知ることが出来る。何故なら、ロストの託したユメこそキミだからだ!」
僕は不覚にも挑発にのってしまった。後で後悔することも知らずに……。
「ウスバだっけ。あんた、ロストさんのことをどれだけ知っているというのだ? 名刀に助けられるだけの勘違い少女に告ぐ」
ウスバはニヤリと笑う。
「ハハハ。これのどこが名刀だ? 勘違いにも程がある。いるんだよねー、ハゲトラの刀ってだけで、名刀だと思っているヤツ。なに! アクイくんには見えているというのか、私の未来が? この『魔法刀』が本当の意味で名刀となる日を」
僕は突っ込む。
「何一人芝居してんだ、クソアマ! ウスバの未来など見えん」
ウスバは手招きをする。
「名刀とは、職人ではなく使い手が導くもだと、父さんは言っていたよ。私はいつか、この魔法刀を名刀にしてみせる。つまり、職人は刀使いに才能を授けるということだ」
確かに、名刀と呼ばれる物は、使い手も名のある者が多い。そう言いたいのだろう、ウスバ! というより、僕も金とオーナーからの信頼を得たい。どうする? 突っ込む! ウスバはオーバーアクションの強打で対抗する。僕は、ロスト先輩のコツコツを使いながらチャンスを待つ作戦でいこう。
そして次の瞬間、僕は気がついてしまった。これがウスバの魔法の正体。こんなもの魔法じゃねえ。僕はウスバに聞く。
「シハイはユウキより本当は強かったのか?」
ウスバも質問に答えてくれる。
「手加減していたのはユウキも同じだ」
これが真の強者達のテクニックだ。つまり、全力では戦わない。だってこれ、ヒーローショーだし。どういうことかというと、ウスバはオーバーアクションをしているように見えるが、力を抜いている。つまり、僕にダメージはない。更にいうならば、ウスバは敵を倒さないことによって長時間行動し、『観客』達を楽しませている。
だがここで、注意が必要だ。長く戦ってアピールしても、『観客』達は飽きてくるのだ。ウスバの細腕に力が加わってくる。ウスバはノックアウトを狙ってきているぜ。そうはさせるかよ!
「いい読みだ」
と、まだ余裕のウスバだ。
僕の次の行動は、コツコツとロストさんの技を当てていくことだ。一撃必殺のタメアタックは、権利ポイントの消費がでかいからな。しかし、ウスバとかいう少女は、頭は少しは切れるらしいな。僕の行動はみんな読まれている。
ここにきてウスバは少し苦しい。
「コツコツってかわせないわけ? 見ただけで判断するのは危険ということね」
どうやらウスバは、コツコツに耐性がない。初めて見た技なのだろう。僕とウスバの対決は、白熱を帯てくる。ここだ、タメアタックだ! ウスバも大技を狙ってくる。僕の刀は魔法刀に阻止された。
「いくぞ!」
と、二人同時に叫ぶ。ここで決着のはずだ。ロストさんのコツコツがなければ、僕はここまでウスバと戦えなかったよ。
んっ、何処からか声が聞こえた。
「失せろ!」
また、聞こえる。
「失せろと言っているのだ」
うるさい声だな。僕は集中しているっていうのに。て、この声の主はオーナーじゃないか。僕ははっきりと言う。
「オーナー、白熱のヒーローショーを何故止める?」
オーナーもはっきりと言う。
「白熱しとるのはアクイとウスバの二人だけで、観客は白けてんだよ! いつまでつまらん争いをしとる。自分より観客を楽しませてこそのヒーローショーだ」
ウスバも言う。
「ワンパターンの攻撃が長引き過ぎたわね。魔法の種類も増やすことが、私の課題と言えるわ。いつかシハイのような名刀に魔法刀をつづりたい。魔法刀は、まだ名刀ではないの。アクイの刀とポテンシャルは違っても、現在意味は同じよ。つまり、ハゲトラの刀、魔法刀であっても、まだ立ち位置はそこらで売っている刀と同じことよ」
僕にも疑問があった。ウスバに聞いてみるか。
「ウスバよ、観客とは何者なのだ? 凄い技術を持っているけど」
ウスバは面倒くさそうに答えてくれた。
「観客ってのは、ただの一般市民よ。それよりも、カプセルの中の人々の方が、私達観客にとって不思議よ」
どうやら、カプセル人と観客の接点は謎ということか。いつの時代に分かれたのだろう? 僕には興味のないことだった。
そして次の日の悪役達は悪を演じる。ウスバの声が聞こえる。
「名刀のための生け贄となりなさい、民間人! 早くやられないと痛い目にあうわゃ」
「なんでウスバがここにいる?」
「魔法刀を名刀にするため!」
「そこじゃねえ」
「悪役の使っていた名刀は格好いい」
悪役会社にウスバは入社したらしい。観客でありながら、ウスバは悪役だ。面倒な日々が続きそうだ。ロストさんの贈り物が、ウスバではないことを祈る。ウスバはこちらを観察し始めた。
「アクイのオリジナルタメアタックって、どこかで見たのよねえ」
ウスバのことより、今日は観客は来ないのか? ハズレの日もあるさ。ウスバはいきなり微笑む。
「アクイは私の言う通り動きなさい。そうすれば、観客は私達に釘付けよ」
「ふざけるな! 僕が目立たないじゃないか」
「いえいえ、アクイは名刀の生け贄として名が残るわ」
オーナーが叫ぶ。
「ヒーローショーを成功させるには、一体感が必要だ。連携しろ! アクイとウスバは心構えから間違っている」
「はーい。解りました」
と僕とウスバ。
「アクイは誰に何を贈る? それともアクイは、最後の悪役なのか。俺が見届ける」
何処からか、ロストさんの声が聞こえた。それは、僕の耳がおかしいのさ。こんなところにロストさんはもういない。
とにかく、賑やかなウスバの魔法刀を名刀に数えさせてなるものか。僕とウスバは、相性がいいのか悪いのかよくわからん。とにかく、クビはごめんだぜ。
今日の仕事が終わったところで、呼び出しがかかる。どうやら、このオーナーとしては、大きいヒーローショーが始まるらしいな。
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