ストロベリージャム

三河怜

ストロベリージャム

「そういうわけで皆、よく来てくれました」

 席を立って話すのは、アホ毛に特徴的なサイドテール、オーバーオールに身を包んだ少女、大谷成。

 ソファーや椅子に腰かけるのは五人の少女だ。

 ちょっと不思議なほんわか少女、太宰葉子。

 委員長のような分かりやすく真面目な、藤ヶ谷雫。

 負けず嫌いの櫛田クミコ。

 とっても頭の良い、春遠千夏。

 誰とでも仲の良く、絶賛初恋中の吉田小花だ。


  えーと、と話す内容を成は思い出して。

 「小花ちゃんの初恋を応援しようってことでその、集まりまし、た」

 「はいはい、少しお邪魔しますよ」

  そういってお茶とスコーンを持ってきてくれるのは私の叔父の和正おじさんだ。

  丸眼鏡と糸目でものすごく胡散臭そうだけどもパンを焼くのは上手いし優しい良いおじさんだ。突然の集まりにもかかわらずこうして家の居間を貸してくれている。いい人、だと思う。

「おじさんは黙ってて」

「はいはい、下の店にいるから何かあったら降りてくるなりスマホでよろしくね」

  ごゆっくりーと和正おじさんは出ていった。

「気を取り直して」

 こほんと、咳払いして話を勧めようと口を開く。

「このスコーンおいしいー」

「そこは聞くところだよ、葉子ちゃん」

 雫ちゃんの言葉で、とりあえず葉子ちゃんもこっちを向いたので強引に話すを進めようと決めて。

「小花ちゃんの恋を応援したいわけです」

「それは皆、知ってるけども成ちゃん、本一杯読んでるしなんとかならない?」

 千夏ちゃんの言葉に視線を泳がす。同時に小花ちゃんが深々とためいきをついた。

 言うのは恥ずかしいが仕方ない、と決めて。

「うん、ダメだったから皆を頼ろうという流れです」

 吊り橋効果やらお呪いまで試してみたが効果がなかった、というより小花ちゃんが動かないことにははじまらない。

 なので、その気にさせるほうが先というわけでこうして皆の力を借りるわけだ。

 話していると葉子ちゃんが再びスコーンをリスのように食べ始めたが気にしない。

 千夏ちゃんが挙手すればどうぞ、と発言を促す。

「小花ちゃんが、次郎おじさんのこと好きなのは知ってるけど、まず、どうしたいの?」

 その言葉に小花ちゃんへと皆が視線を向けた。

「そ、その……一緒に二人っきりでおでかけ、とか」

「つまりデートね」

 雫ちゃんの言葉に小花ちゃんは顔を赤くしてこくこく頷く。

「普通に誘えばいいのに。デートしよって」

「それが出来たら苦労しないよ」

「そうだよ!」

 千夏ちゃんが首をかしげると小花ちゃんとクミコちゃんが答えるがなんで、クミコちゃん席を立って力強く言ってるのか?

 こっちが見ていることに気づいてあわててクミコちゃんが座った。

「とりあえずノートに次郎おじさんについて調べてみたから見てね」

  中央に置かれたノートを回し読みする。クミコちゃんがすごい真剣なのはなんでだろう?

  そしてスコーン3個目に突入する葉子ちゃんに目を向ける。放っておくといつまでも食べてそうだ。

「葉子ちゃんは、その、好きな人いないの?」

「いるよ? パパとママ」

 きょとんとしている。うん、この子はこういう子だ。大事にしよう。

「うん、なんとなーくそんな気がしてたよ……じゃあ、葉子ちゃんのパパとママってどうやって仲良くなったの?」

「んー。どうだったかな。今聞いてもいい?」

 スコーン食べさせるよりはいいかもしれないと思ったので頷いておくと携帯電話を早速使い始める。

「あ、パパ? うん、今ね、成ちゃんちのおじさんちだよー、えへへースコーンがおいしいんだよー。 え? 何でかけたのか?」

 なんでだっけ? と葉子ちゃんがこっちを見ればノートを見せる、こくこくと葉子ちゃんは頷いて。

「デートの作戦会議? してるよーえ? こっちくるの? 大丈夫だよ? お仕事平気? あ、切れちゃった」

 ――なんかものすごく誤解されてる気がするけど大丈夫かな?

 そんなことをしているうちに雫ちゃんがみんなのアイデアをまとめてくれた。



 作戦その1 とりあえず私が。 立案者 櫛田クミコ

「自分で言えないなら他の人に言ってもらって頼めばいいじゃない。っていうわけ」

 クミコちゃんの提案にたしかに、いいかも、と周囲から声が上がる。

「そこで、代役として私がいこうと思うわけだけども文句はないわね?」

 周囲の様子を窺うと一人、額にしわをよせる小花ちゃんがいる。

「ねえ。クミコちゃん」

「何?」

「変な事考えてないわよね?」

 刺すような小花ちゃんの言葉に、クミコちゃんを視線を逸らす。

 ――これは、まずいパターンだ。

「べ、別に考えてないし」

「そう、それじゃあ、別の人に頼んでもいいわね?」

「ん、それは……」

「困る事あるの?」

「どうして、そういう言い方するの?」

 空気がギスギスしはじめる。最近、何故かこういうことが多い。

「じゃんけんしよう! じゃんけん!」

「そーだね。勝った人がいくってことで!」

 雫ちゃんと千夏ちゃんさすがの対応力で皆でジャンケンをする。

 その結果は、私だ。

 何故か、クミコちゃんに恨めしいような視線で見られている。そこまでこだわることなの?

 おじさんから借りたスマホのアドレス帳に常連客として入っていたので電話をするとほどなくして出た。

『もしもし? 大谷さんですか?』

「あ、すいません、えっと大谷成です」

『成ちゃん? どうしたのかな?』

 次郎おじさんは私から見るとイケメンというわけではないが、すごく話しやすい相手といった感じだ。

 ――どうして、好きになるのだろう?

 そんなことを思いながら話を続ける。

「えっとなんかあったわけじゃなくて、そのお願いがあるんです」

『お願い? 小花のことかな?』

「まあ、そうなんですけど……その」

 ノートに素早く小花が日程を書いて教えてくれてそれを見て頷き。

「あの、年末って空いてますか?」

『ん、特に予定はないよ』

「その小花ちゃんが、次郎おじさんに大事な用があるみたいで。あのあの、本人からは話しづらいらしくて……」

『そうなのかい? ちょっとよく分からないけど日にちはあけておくね?」

「ありがとうございます、あとで説明しますね」

「いつも小花ちゃんとあそんでくれてありがとう」

「いいえ! こちらこそです!」

 約束を取り付ければ電話を切る。その様子を見れば小花ちゃんは安心したようでため息をついた。

 とりあえずは作戦成功だ。


作戦その2 やっぱり女の子の魅力引き出すならJK

「ここは私の出番でしょとういわけでお姉ちゃんのメールが来て……」

 それを見て、何とも言えに表情を千夏ちゃんは浮かべた。

 皆でスマホでそのメールの内容を見れば首を傾げた。

”ー⊂丶)ま、イヒ米庄レよぁま丶)ιナょレヽτ″若、ナτ″月券負っιょ、手米斗王里τ″女孑力了t°─」レι⊃⊃、才包、キ着レヽナニ丶)ιτξ@気レニ、ナせちゃぇ!”

 それ以降は仕事とだけ簡潔に書かれて終わっている。これ以降の返事はしばらくは時間がかかりそうだ。

 なんというかギャルというのはなりたくないなーと思っていたけど、芙雪お姉ちゃんを見てると案外いい人もいいかもしれない、と思っていたがこのメッセージを見て考えを改めようかと思ってしまう。

「何語だろう?」

「……ギャル文字だよね?」

「お茶貰うねー」

 一人自由だがそれはさておき。これをなんとかしなければならない。

「千夏ちゃん、分かる?」

「ある程度かなー……」

「辞書で調べてどうにかなるかな? 漢字あるから」

 ノートを広げて雫ちゃんがまとめ、残りが知恵を絞る形だ。

 とりあえず分かる部分から推理していく。分かるのは化粧、勝負、手料理、女子力、抱き着く事を割り出して繋げていく。

 芙雪お姉ちゃんなら、どう結ぶか?千夏ちゃんが分析し、皆で絞り出した結果。

「最初のはとりまだからとりあえず、化粧を……なしで若さで勝負、手料理で、女子力アピールしつつ抱き着いて……これで意味は通るね」

「あ、小花ちゃん、顔真っ赤―」

 葉子ちゃんが今から湯気が出そうなほど真っ赤な小花ちゃんを見て笑えば小花ちゃんがクッションを葉子ちゃんへと飛ばすが大きく外してクミコちゃんに当たり、戦いがはじまる問題ない、葉子ちゃんがやめて、と言えば止まるだろうから放置だ。

 初恋相手に手料理して抱き着く。まだ、私には少ししか分からないけれど、想像を絶するほど困難なんだろう。

「けど、ラッキーだね」

 にっと千夏ちゃんが笑みを浮かべた。その意味は分かる。

 ――ここには、手料理を作れるスペシャリストがいる。



 そんなわけで皆で和正おじさんの前に行くと思いがけない人物がいた。

「あ、おとーさんだ」

 にぱーと、見るものを和ませる笑みを葉子ちゃんが見せるとカウンターはさんで入口側にいる葉子ちゃんのお父さん、太宰治さん(有名なあの人とは関係ないらしい)がいた。治さんは葉子ちゃんを見ればほっと一息ついて。葉子ちゃんの前までやってきて。

「付き合うのか?」

 いきなりの一言に葉子ちゃんはきょとんして、すぐに笑って。

「ちがうよー付き合うのは小花ちゃんだよー」

 それを聞くと治さんは私たちを見て、和正おじさんへと視線を移す。どういうことだ、という睨むが、和正おじさんは困ったような笑みを浮かべた。

「とりあえず、娘さんたちとお茶にします?」

 ――いや、おじさん、私たちに任せないで。

 という一幕が合って。

 小花ちゃんは和正おじさんとパン作りに。私たちは再び居間へと戻る。

 当事者不在のまま作戦会議(友達のおじさんを含む)が始まった。なんだこれ。

作戦その3? 先達に聞け!  立案者 太宰葉子?

「おとーさん、あのね。小花ちゃんがね。次郎おじさんとデートしたくて頑張ってるんだって、どうすればいいかな?」

「……」

 あ、治おじさん、すごい困ってる。

 このおじさん、見た目は怖いが葉子ちゃんにはとても甘いということは知っている。

 ここは下手に突っ込むより、葉子ちゃんに任せるべきだろうと周囲に目配せすれば頷いた。

 小花ちゃんがいない間に話を進めるのも、どーかとも思ったが、まあいいや。

「おかあさんに聞け。そういうことは」

「じゃあ、おとーさんはなんでおかーさん好きになったの?」

 葉子ちゃんが上目遣いで可愛らしく小首をかしげる。男子ならイチコロだろうその仕草に治おじさんは視線を横へと背けた。

「向こうが話しかけてきただけだ……」

「それだけで好きになったの?」

 そこから葉子ちゃんの質問攻めによって様々な情報が引きずり出される。

 馴れ初めの話からはじめてのデートの事。

 そこから結論を出す。

 ――押しも重要である、と。


 

作戦その4 やっぱりいざというときの助けは必要! 立案者 藤ヶ谷雫

「ほぼほぼ完ぺきな作戦だと思うけど、いざというときの備えは必要だと思うのよ」

「っで、おじさんを呼んだと」

 雫ちゃんが連れてきた一華おじさんが片手を振った、とりあえず、どうも、と挨拶する。

「それに、ほら、アジト的なものがあると盛り上がるし」

 雫ちゃんが付け加える、そっちが本音な気がするけども、

「おじさん、年末はどうせ暇でしょ? 手伝って」

「いや、まあいいんだけどさ……うん。俺は何をすればいいのかな?」

「小花ちゃんと次郎おじさんのデートの追跡するの。ほら、小学生だから足で追ったりするの難しいし、小学生だけど歩いていると危ないし、保護者代理!」

「すいません、来てもらえると助かります」

 雫ちゃんがいった事は確かに分かる。どうせ暇だといういい方は酷いけども。

「なんというか賑やかだなぁ」

「あの、本当にいいんですか?」

 頼んでおいてなんだがそう聞いてしまう。

「んー子どもが一生懸命だと何となく応援したくはなるものだから。多分、皆そうじゃない?」

「……そういうものですか?」

 話しているうちにクミコちゃんたちが車の中探索しよーとキャピングカーの中に入っていく。

「一緒に行かないの?」

「作戦、まとめたいから、後で、です」

 一華おじさんは、本当にふらふらしてて生活大丈夫だろうか、と子ども的にも心配だ。ふらふらする生活は楽しいだろうけどお金とか大変そう。実はすごい人なのかな? とか考えるけど失礼そうなので結局聞けていない。今度話すことがあったら聞いてみよう。

 

 

 作戦も無事? 決まって解散となる。父と母も帰ってきたようなので帰り支度をしておじさんの車の後部座席に乗り込む。

「なんか今日は妙に気合入っていたね」

「友達のためだもん、それに初恋って大事なモノなんでしょ? よく分からないけど」

「まあ、そうだね。いずれ成ちゃんもするんじゃないかな?」

 エンジンをかけて、おじさんの家を出発する。大体三十分もすればつく筈だ。

 ――いずれ、自分も恋をする。

 とても実感は湧かない。クラスの男子はどうにも子どもっぽくて、大人と付き合おうとは、とても思わない。

 色んな物語を読んでもいまいちよく分からない。男の人と接して、その人の事しか考えられないということなんてない。

 そこで納得した。

 ――ああ、だから小花ちゃんを応援してるんだ。私が知らないものを知りたいから。

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ストロベリージャム 三河怜 @akamati1080

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