第9話

オレンジ色に輝く東京タワーを撮影して、ストーリー投稿した


あの時の俊もきっと、私が来るかどうか…賭けていたのかもしれない


私は今まで投稿は全くしたことがなく、

俊とはお互いフォローもしていなかった。

彼が目にすることがあるだろうか…。


0時になれば削除しよう


それで、彼が見なければ…

見たとしても、ここに来なければ、諦めよう

そう…決めた


Instagramを開いては閉じ

また、開き

21時、22時……

時間だけが過ぎていった


0時



…俊………さよなら


『I miss you』

と書いた東京タワーの写真を削除した


しばらく、その場から離れることが出来ず、動けなかった。

自然と流れてくる涙を初夏の夜風が拭ってくれる





遠くから彼の声??

嘘…

俊?




「柚希!」


「ほんとに?」


「はっはっ

俺も…あの、言葉…同じ…だから」


「え?見たの?」


「見たよ。見たらわかんだろ」


「どうして?」


「あぁー、もういい、そんなん柚希疎いから知らないよな。

俺、仕事で東京離れてたんだ。ここの写真見てすぐに飛んで帰って来た」


「…会いた…かった…」


彼の首に手を回して背伸びして、抱きついた。

声を上げて泣く私に呆れたように笑った


「ハハ、お前、泣きすぎだろ」


「グスッ、だって…

私、もう、何処にも行かない

ずっと俊の側にいるよ」


「柚希…」


「だから…」


「だから?」


彼の首から手を離して真っ正面から

しっかりと見つめた


「言ってもいい?俊…」





「愛してるって…言ってもいいですか?」





そう言った瞬間、俊の目が涙でいっぱいになった。

溢れないように彼は手の甲で口をおさえ、夜空を仰いだ


そして、口をギュッて結んで

うんうん、って頷くと、

同時に大粒の涙が地面にポタポタと落ちた



「愛してる、俊」


「柚希、ありがとう」


「…私は何度でも言う

おばあちゃんになってもずーっと言うよ 」


「俺も…柚希を…愛してる…」




大切な言葉をやっと伝えられた


数えきれない人の中であなたと出会えたのは運命

そして、Instagramという限られた世界で繋がれたのは奇跡


でも、それは、愛してると伝えたかった強い思いが起こしたことなのかもしれない



悲しく辛いことがあったとしても

いつか、顔を上げて進む力が幸せを手繰り寄せるんだろう



しっかりと握りしめたお互いの手の温もりを感じながら、街は夜明けを迎えようとしていた




東京タワーの灯りはいつしか消え、

その代わりに二人の心に小さく点り続ける




言えなかったアイシテル

聞けなかったアイシテル


伝えられた『愛してる』


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愛してるって言ってもいいですか? ノン❄ @non_non129

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