第7話

土曜日の早朝の電車はすいている。

端に座って、流れる景色を眺めてた。

眩しい朝日に照らされる自分が嫌だった


1人で大丈夫か?って聞く俊に

子供じゃないよって答えて、手を振った


見送る彼はどんな顔をしてたんだろう



最寄りの駅に着いて、ドアが開き

風が吹き込んだ瞬間、ふわりと鼻を掠めた俊の香り

涙がじわりと滲んだけど、下唇を噛んでグッと堪えた


直人はこんな私を見て何て言うのだろう

酷い女だって罵倒してくれてもいい。

大きく深呼吸して玄関のドアを開けた


静まり返ったリビングには直人の姿はなく、寝室を覗くとまだ眠っている。

ほっとして、物音をたてないようにシャワーを浴びた


出てくると、キッチンに立ってる彼の後ろ姿。

声をかけようとした時、笑顔で振り返って言った


「おはよ、柚。俺さ、昨日、飲み過ぎたよ~」


「へ?」


「いつ、帰って来たか覚えてないんだよなぁ」


「…あの」


「柚も遅かった?」


「直人…私ね、今、帰って来たの」




「……知ってるよ」


「そう…なんだ。昨日は…」


「言わなくてもいいよ」


「でも…」



「俺は…柚のどんな顔も好きだよ。

怒った顔も笑った顔も泣いた顔も

でも…その顔、

切なくて困った顔は嫌いだ。


いつか、俺がそんな顔させないぐらい、幸せにしようと思ってた」


「……。」


「でも、もう、無理だよ

柚…………別れよう」


「ごめんなさい、私が…悪いの」


「俺が自信なくなったんだ。

柚は悪くないよ」


「それは違うよ」


「違わない

きっと、柚希のこと幸せにしてくれる人がいるはず」


「直人…」


「もう、やめよ。

はは、俺、最後までかっこいいだろ?

そうさせてくれよ」


「かっこいいよ、グスっ、かっこよすぎるよ」




一緒にここを出ていこうって決めた

それぞれ、違う場所で始めようって。



「直人…ありがとう」


「柚…ありがとうじゃなくて、ちゃんとサヨナラって言って」


「うん、サヨナラ」


小さく頷いた彼の唇が瞼に微かに触れて

頭をポンポンとして背を向けると振り返らず歩いて行った


悲しく微笑んだ彼は

いつだって、私の心に寄り添ってくれた

最後まで…


やっぱり、ありがとうだよ

いっぱい、いっぱい、ありがとうだよ

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