第10話

「理空、ありがとう、ここでいいよ」


「真優…ちゃんと話しよう」


「うん…そうだよね

私…ズルいよね」



以前よりも少し狭くなった彼女の部屋だったけど、カーテンもソファもベッドも何もかもが真優らしい優しい色で揃えられていて、懐かしさが込み上げた


突っ立ったままの俺を見て彼女はクスリと笑う


「理空。どうぞ、座って」


俺はソファに腰かけた


少し間をあけて隣に座った彼女がゆっくり話始めた


「私……理空には会えないと思った。


あれから、たくさんオーディション受けて

少しは役がついたんだけどね、そこからパッタリ仕事がなくて、焦ってた。

周りの同い年ぐらいの子達は瞬く間に駆け上がっていってキラキラ輝いてた。

いくら、もがいても全然ダメで悔しくて…

自棄になってた

何だってしてやるって……


女として……汚い手を使った」



「真優…それって」


「そうよ

私は遠い空の下、一生懸命頑張ってる理空を裏切ったの

ねっ?酷いでしょ、酷いって言って」


「.....。」


「こんな私じゃ理空に会えないと思った」



顔を上げようとしない彼を見てもう一度言った



「私は……

理空に抱きしめてもらう資格はないの」



そう言った途端、彼は私を一気に押し倒し、真上から悲しい目で見つめると唇を塞ぎ、荒々しく服を脱がし始めた


「やめて」


抵抗する私の腕を押さえつけて強引に唇を這わしていく


「理空...やめて、お願いっ」


急に力が抜けたようにその場に座り込んで頭をくしゃくしゃとした彼は小さな声で言った



「俺…帰るわ」


私の顔を見ずふらふらと出ていった理空


外はさっきから冷たい雨が降り始めた



愛してる人の胸に飛び込むことの出来ない虚しさと何よりも彼の心を傷付けてしまった罪に息が苦しくて

涙が止まらなかった



理空の熱い唇の感触が愛しくて、

指で唇をゆっくりとなぞりながら声を上げて泣いた



激しい雨音が響く夜

切り裂かれたように心が痛かった




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