だって、ちゅーしたいんだもん!
青い空、白い雲。
夏という季節を全力でエンジョイしようとしている太陽の気概がありありと伝わってくる日差し。
「あっづい」
「あ、もう! 暑いって言った方が暑いのに!」
「だって暑いんだもん」
じりじりと照り付ける太陽に睨みをきかせるが、全く効果はない。
それならせめて、と背中に貼り付いている彼女をひっぺがえしにかかる。
「邪魔」
「やだー!」
全力で抵抗してくる辺り、コイツも太陽側の人間か……これは、私の味方は皆無だと見て良いのかもしれない。
「だいたい、暑い暑いってここ室内じゃん?! エアコン効いてんじゃん?! 暑い訳ないよね? むしろ快適だよね?」
「窓の外見てるだけでもう暑い」
「見なきゃいいじゃん!?」
ガバッと目の前に回り込んで来た彼女は、私の頬を両手で挟み、じっと目を見つめてきた。
あっ、背中が涼しい。これぞ快適。
ごめん太陽、あんたのせいじゃなかったわ。
「ほら、私見てれば暑くないでしょ」
「うん、背中から離れてくれたおかげで快適だよ」
「む。煽ってやがるな」
「煽ってねえよ」
不機嫌そうに頬を膨らませる彼女。
可愛いけど、ごめん。今はそういう気分じゃないし。
「つか日中な?」
「だから何? こないだ朝からキス魔発症したのはどこの誰?」
「…………だいたい、一人暮らしの女の家に長期間泊まってんなよ……」
「はい、話逸らしたーみっちゃんの負けですぅー」
「うるせえ」
「ぷ。相変わらずチョロいなぁ。そゆとこも好きだよ」
正面から見つめられた時点で、私の負けは確定していたのだ。
今更抗う意思もない。
部屋は涼しいはずなのに、彼女が触れているところだけが妙に熱い。
「体温高くね?」
「え? こっちのセリフなんだけど?」
どうやらお互い様らしい。
……もういい、分かった。
「そんなにキスしたいなら、たまにはそちらからどうぞ?」
「なっ、」
訂正。抗う意思はあった。
真っ赤になって口をパクパクさせる辺り、相変わらずピュアだよなぁと思う。
そこそこのことは言う癖に、行動に移せないタイプ。かわいそ。
「さ、どうぞ?」
ニヤッと笑うと、彼女は小さく「ケチ」と呟いた。
「いいもん」
ふいっとそっぽを向くと、拗ねたように再び頬を膨らませる彼女。
何だよもう。
狙ってんのか誘ってんのか知らないけど、私は絶対引っかからないからな……!
「へぇ、いいんだ? 分かった。飲み物入れてくる」
「えっ、ちょっと、待っ」
立ち上がった瞬間、Tシャツの裾を引っ張られたのを感じた。
「なに?」
ゆっくり振り返る。
あくまでも冷静に。平静を装って。
「い、行かないでっ」
「……なんで?」
彼女の頬は、これでもかと赤く染まり、目には涙が浮かんでいた。
「き、す、するからっ」
「…………ばぁか」
はい、今回も私の負け。
無理です。こんなん我慢する方がおかしいです。
彼女の前髪を搔き上げ、おでこにそっと口付ける。
「飲み物持ってくるから、待ってな」
唇にしないのは、せめてもの抵抗。
自分も例外なく顔は赤いんだろうな。くそ。
「み、みっちゃん」
「なに?」
「戻ってきたら、覚悟しててよねっ」
「ふっ」
真っ赤な顔で、全く威厳なんてないけど。
ま、多少は期待させて頂きます。私得だし。
「出来るもんなら、どうぞ?」
「わ、笑うなー!」
さ、顔でも洗って出直しますか。
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