先生とお姫が2人になると
「先生、……怒んないでくださいね?」
そんな断りの後、そっと唇に触れたそれはあまりにも柔らかく、まるで、そう。
マシュマロのような……。
「いやいやいやいや、少女漫画かよっ!?」
びっくりして仰け反った私は、ぶつかった机に手を突き、口元を押さえる。
「んー、どっちかって言うと青年漫画ですかね。ご馳走様でしたっ。美味しかったですよ」
語尾に音符でも付きそうな軽で喋る彼女は、ペロリと舌舐めずりをした。
……実に楽しそうだが、キスなんかそもそも学校でやって良いことじゃない。
「青年漫画って、エロいだけじゃないの?」
「なっ! バカ言わないでくださいよ! 少女漫画の方がエロいですぅー。青年漫画は案外純粋なんですから」
案外純粋、ね。 なるほど。一理ある。
独断と偏見で構築された意見を交換しつつ、私は考える。
「まぁ、ひとつ言えるのは、キミが純粋さのカケラもないってことかな」
「ばっ、」
「事実でしょ?」
現に、私にキスしたんだから。
茶色に染めた髪が、夕焼けに照らされて金色に輝いて見える。
校則違反だと何度注意しても直らない、だけど確かに、綺麗な髪。
「先生が悪いんですよ?」
仄かに赤く染まった頬を隠そうともせず、彼女は私を見上げる。
静かに歩み寄ってくる彼女に、後退りしようとして後がない事に気付く。
「ま、待って」
「あんまりにも魅力的だから」
「ちょ、バカっ」
「はいはい、どーせあたしはバカですよー」
ほぼゼロ距離で笑われ、無性に恥ずかしくなる。
……なんで私が、相当歳下のこの子にこんなことされてんだろう。
「せんせ、もっかい良い?」
「ダメ」
「して欲しそうな顔してるけど?」
柔らかな声が耳を擽り、鼓動が早まって行くのが分かる。
「っ!? そ、そんな訳」
「ふふっ、焦った顔も可愛い」
本当に、本当にやめてほしい。
何よりも心臓に悪い。 私が早死にしたら、確実にこの子のせいだ。
「あたしらがこんなに仲良いの知ったら、みんな何て思うだろうね?」
「べ、別に自然でしょ。問題児と生徒指導部の教員だし、放課後に生徒指導室で指導してるうちに、」
「キス?」
「……はしないだろうけど」
「ふふ、あたしの勝ちだね」
彼女の指先が、そっと頬に触れる。
「しょうがないから、したげるよ」
そう言うと、柔らかく、照れたように微笑んだ。
「んっ、……しょうがないって、なんだよ」
唇が離れきらないうちに呟く。
「んじゃあ訂正。やりたいから、やるね?」
「なんか語弊招きそうっ?!」
「片仮名変換やめてください」
机に突いていた手に、そっと彼女の手のひらが重なる。
「……せんせ、好きだよ」
「髪、黒に戻したら考えてあげてもいいけど?」
「あーもう、いっつもそればっか! 今日は頑張ってキスしたのに! まじ雰囲気台無し。……え、なに微笑んでんの」
「ふふっ、内緒」
まぁ……卒業して、キミの気持ちが変わらなければ。
気長に待っとくよ。可愛い可愛いお姫様。
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