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その日の午前の授業が終了する。本庄はシャーペンと消しゴムを筆箱に仕舞い、さらにその筆箱と大学ノートを鞄に仕舞って席を立つ。周りの人たちが口々に
「腹減った~」
とか、
「よう姉ちゃん、食事でもどうだい」
だとか、食事に関する話題ばっかり口にする中、本庄は一切食事について考えなかった。
というのも、朝の草間の一言が気になって仕方がないのである。
――もう寝ろよ、なぜ寝なければならないのか。朝、起きたばかりじゃないか。
なんだかよくわからないまま西脇と合流し、本庄はテシガワラの研究室へ向かう。
テシガワラの研究室は大学の端にある。本来学生が行くような場所ではないはずなのだが、ほぼ毎日のように二人は通っている。
それなりに広さのある大学内をひたすら歩き、漸く端に到着すると、中からテシガワラの呻き声が聞こえてきた。
扉を開けて中を確認すると、頭を抱えてうずくまるテシガワラの姿があった。
西脇はすっと一歩踏み出し、テシガワラの肩に手をかける。それに気付き振り返ったテシガワラは一瞬修羅のように青ざめてから、震える手で机に置いてあったマグカップを手に取り、それを飲んだ。
「や、やあ。」
テシガワラはそういうと、マグカップを置き、机の上に何故か置いてある蠟燭を少しだけずらして、その奥にあった一冊の本を手にとった。テシガワラはその本を西脇に手渡すと、西脇だけを寄せて、こう言った。
「どういうことだ、話が違うじゃないか。」
もちろんその声は本庄にも聞こえていたのだが、そのとき本庄はまた朝の草間の一言について考えており、その音は右の耳から左の耳へ通り抜けていた。
西脇は、本をぺらぺらの捲り、途中一度だけ捲る手を止め、その頁をさらっと読んでいたが、それが終わったらすぐにテシガワラに本を返してしまった。
二人の話が終わったタイミングで本庄も漸くこちらに帰ってきた。
「本庄、ちょっと、身体をチェックさせてくれないか。」
テシガワラはそう言って本庄の方へ寄ってきた。本庄は、別に構いませんよ、と言って、テシガワラの指示通り、椅子に座る。
テシガワラはまず、本庄の身体に触れたり、握手をしたり、いろいろ試しているが、これといった成果はなかったようで、残念そうな顔をしてからまた、マグカップを手に取り、飲み物を口に含んだ。
その後、研究会帰りの草間とも合流し、三人はそろって駅に向かう。草間は道中、ずっと本庄のことをチラチラと見やり、本庄は視線に気付きながらも、それを無視していた。やはり西脇はすべてを悟ったような、そんな目で、ずっと本庄のことを眺めていた。
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