EPISODE 05 異変 II
「聞いてくれるかな」
「これから4人にしてもらいたいこと、その話をしたいのだけど」
落ち着いた声で話し始めようとする
「……あ、あの、ちょっといいですか」
「なぁに?
目の前に座っている『
「あの、お2人の名前の呼び方、
「あはは……そうだよね。わたしも未だに『
ニコッとして答えているその表情からは、『
「わたしもいいわよ。さっき
と、これまたアッサリと
「そりゃそうよね、わたしもこの役やる時ぐらいしか『
その言葉に、思わず笑い声を上げてしまう俺たち4人と
相変わらず、どこか達観しているというのか、俺には想定外としか思えない反応をしてくれる
「で、話戻して」
表情を引き締めた
「色々聞きたいことがあるとは思うけど、まずは、4人にして欲しいことから話をさせてね」
(何が始まるのだろう?)
俺たちと
「あれは……わたしたち!?」
一番最初に気づいた
「わたしたち」と
「……こんなふうに見えるんだ」
少し驚いた表情を浮かべながら映し出される自分たちの姿を見ている
「ここは、もしかして『
小さな声でつぶやく
左右に緑が
進行方向の先、川の
先輩たちの頭上より少し斜め後ろ、高さにして4~5メートルも無いところから映していた映像が、一瞬、俺たちの身体を包み込んだ気体と同じピンク色に変わったかと思うと、周囲の景色がそれまでの街路樹や南欧風な建物から一変していた。
頭上近くにまで降りてくるジェットコースターに回転木馬、植物園、毛の色が黄色ではなく白い「ホワイトタイガー」とかいう種類の虎……先輩たちの周囲を、家族連れや学生らしきグループたちが行き来し合っている姿が映し出される。
そして場面が変わってからは、それまでの俯瞰で撮影しているという感じでは無く、地面に立って目の高さか、それより少し高い場所から見えた景色になっている。
「
「えっ、ちーさま
「そうよ、わたしも初めて見るもの」
映像を見ながら
「ここって……」
「わたしたちが小さい頃に無くなった『ファンタジアランド』よ。ほら、陸橋を渡ると大劇場につながっているでしょ」
俺も親や親戚、
小さいながらも動物園や植物園があり、乗り物とかの施設も
しかし、俺たちが生まれる何年か前にこの地方を襲った大地震が原因で、本当はそれだけではないのだろうけど、結果的に、俺たちが生まれてすぐの頃に閉園することになったと耳にしたことがある。
そして、人混みの中を歩く先輩たち4人、周囲の人たちから何かジロジロと見られているということもなく、自然な感じでファンタジアランドの園内を歩いている。
最初は、初めて見るファンタジアランドの様子に気を取られていたのだけど、
「……あっ」
「ん?」
同じタイミングで声を上げた俺と
「やっぱり気づいていたのかい。
ニコッとしながら話しかける
俺たちだけではない、
先輩たちがいるこの世界はいったい『いつ』で、どうして先輩たちが違和感なしにそこにいるのかということに。
そんなことを思いながら再び動き出した映像を見ていると、映し出されている先輩たちはアラビア風のアトラクションの脇、その大きな遊具を
かなり長い長方形の魔法の
そして地面に着地したアトラクションからは、家族連れや学生グループなどの人たちが「興奮した」「怖かった」とか口々に言いながら降りてくる。入れ替わるかのように、今度はアトラクションに乗るのを待っているお客さんたちが、「楽しみ」「どんな感じなのだろう」とか言いながら係の人の誘導で次々とイスに座っていく。
そのアラビア風アトラクションから降りてくる人たちからは、口々に「怖かった」「面白かった」など感想を話している声とかも聞こえてくる。
そんな人混みの中に居た小学校高学年ぐらいの女の子たちやそのお母さんらしき人たち、その一団が先輩たちの横を通り過ぎようとした時、女の子たちの中から地面に何かが落ちた音が聞こえてきた。
「あ、落ちましたよ」
いち早く気づいた
「どうもすみません」
女の子のお母さんであろうか、駆け寄ってくる女の子の後ろを追うようにやってくると、
「ありがとう、お姉ちゃん」
ペコンと頭を下げた女の子は、それが彼女には大事なモノだったらしく、先輩の手から受け取った袋状のモノを丁寧に
「お姉ちゃんたち、ありがとうね」
その横にいた女の子が肩から
「これ、お礼です」
「えっ!?あ、ちょっと……」
戸惑っている
「
「うん?」
「これは……?」
「キャンディー……!?」
白い棒の上に丸いキャンディーが付いている、子供の頃から
「懐かしいなぁ」
取り出したキャンディーを見ていた
その時だった。
先輩たちがいる場所の奥、人混みの中からフードを被った人影みたいなものが現れると、小走りに先輩たちに近づいていき
「え、何っ!?」
その様子を見ていた俺は、一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。いや、俺だけじゃ無い、
「キャッ!」
小さな叫び声をあげながらバランスを崩す人影。何かにつまずいたような形でその身体がよろめいたところを、
「だめだよぉ、こんなことしちゃ」
小さな子供を諭すような口調で、人影の正面に立った
で、いつの間にか人影の後ろには
「……っ」
何か言葉を発しつつ首を上下に動かす人影。すると、被っていたフードが取れて頭の部分が見えた。
髪の毛は肩に届くか届かないかぐらいで、パッと見では、先輩たちと同じぐらいの年代の女の子だったのだが。
「……あんたたちには、負けないからね」
そんな言葉を残しキャンディー泥棒の女の子は両腕を思い切り振り回し、隙を突いて女子2人の先輩を振りほどいたかと思うと、映像の手前方向に走り出したのだった。
先輩たちを捉えていたカメラもくるっと180度映す方向を切り替わったのだが、その時にはもう女の子の姿は見当たらなかった。
と同時に、ちょっとした騒ぎが起きたのだから、歩いている人たちとかに気づかれてもおかしくないハズなのだが、何事も起きていないかのように先輩たちの横を通り過ぎる人々。
「どうなっているんだ!?」
映像に映っている先輩たちもだけど、その場にいる人たちが余りにも自然に先輩たちを意識せずに歩いていること、それをどう理解すれば良いのだろう。
「驚かせちゃったかな」
「……じゃあ、説明するわね」
その声で視線を改めて目の前にいる
そう言って説明を始める
一言で言えば、俺たち4人は
そして当然のごとく、推理モノとかライトノベルとか言われる小説、あるいは謎解き系のマンガとかにもあるような、両親や友人といった俺たちの身近な人に知られずに解決するという、条件というか制限というかそういう縛りみたいなものがあるということだった。
その縛りが正しいかどうかは分かるはずもないが、個人的には「まぁ、そうだろうなぁ」と思える範囲のものだったりする。
が、しかし。
俺たちが解決しなければならない問題とやらについても、それが今現在の時間軸で起きている問題だけじゃない、『
その1つの例が、今、目の前で見せられた
「でも、移動した先の世界で問題を解決する、それで終わるハズがないよなぁ」
何気なくつぶやいた俺の言葉に、いち早く反応したのは
「その通りよ。よく分かったわね」
笑顔満面で答える
『
しかも、お約束という意味では『過去の世界の出来事は変えてはならない』という縛りもあるだろうし、実際、過去の世界に行き何かを変えたことで今の世界に変化が起きたとしても困るだけだろう。
『
それを言えば、今、俺たちがいるこの空間も『
そんな俺のことを見透かしたのか、
「なぁに
いや、普通は考えるでしょうに。
「安心して。
「確かに、そうじゃないことを願いたいですが」
今年16才になる高校1年生の俺たちに、
「でもね」
一呼吸置いて、真剣な表情をした
「あんたたちへの問題は、最後はあんたたち4人じゃないと解決出来ない問題なの」
「
ここまで黙って様子を
「映像の中みたいに、相手が1人ならまだなんとかなるかもしれないけど、これが大人数だったり、
「そういうことにはならないみたいよ。まあ、
尋ねてきた
四字熟語か何かで『
「それに、映像に出てきたようなお邪魔虫っぽい人は、その相手の得意なところで勝負するみたいだね。私たちもそうだし、
その言葉を聞いて俺たち4人、特に
「得意なところ?」
「あたしたち、まぁ身体を動かすことは
ここまで聞き役に徹していた
普段は快活な印象のがここまで黙っていたのも、もしかしたら『
「で、長くなったけど」
改まった声で
「あんたたち4人でちょっと見てきて欲しい場所があるので、今からその場所にに行って欲しいの。まぁ5分か10分で終わると思うので」
その言葉を聴き終えた瞬間、何度目かの
「……ん、ここは……!?」
空を見上げると太陽の輝きと青空が広がっていて、次いで視線を足下に移すと地面の右手方向に少しばかり影が出来ている。
青空に見える太陽と足下に出来た影、そして影が出来ている方向とその長さから考えると、今の時間は正午を少し回った頃になるのだろうか。
理科が苦手なハズなのに、こういう時に『
そして自分の背中側というのか、振り返って建物とは反対方向を見てみると。
片側1車線ずつの道路が十字形に交差した交差点と横断歩道、信号機が視界の中に入ってきた。反対側の歩道には民家やパン屋さんといった建物も見える。
「お、
急いで聞こえてくる方向を見ると、
「
「そうみたいだな」
隣りにやって来た
少し遅れて、
「で、ここは
改めて、目の前に見える建物を見直してみる。
高さは4・5階建てぐらいの建物なのだけど、横幅が軽く50メートルはあるだろう建物の中央部はアーチ型に
「もしかして、あの石像はキリスト教の聖母マリア様?」
ベールを被った女性が赤ん坊を抱いている姿になっている。宗教というものに詳しくない俺でも知っている、イエス・キリストを抱いた聖母マリアの石像であった。
アーチ型の凹みの一番下は建物の出入口になっていて、その出入口を
俺たちはその石像に向かうと、それぞれの正面部分には同じく石で彫られたネームプレートを確認する。
「ん、ここにいる人って、戦国時代の人だよな」
彫られている名前を目にした俺は、自然と言葉を漏らしていた。
出入口の左右に1人ずつ置かれていたのは、1人は戦国時代末期のキリシタン大名としても有名だった武将、もう1人は別のキリシタン大名の妻にあたる女性の石像であった。
「キリスト教の教会……でも、なぜここなのだろう」
「一番最初にここに来たのが
しかし、意味も無く
「見学の方ですか?よかったら、こちらにどうぞ」
出入口のある方向から、教会のシスターらしき人に声を掛けられた。
「ありがとうございます」
元気に返事をする
「お、おい、
「いいじゃない、行ってみましょうよ」
戸惑う
シスターも俺たちがやってくるのを待っているみたいなので、建物中央にある出入口から建物の中に入ることにした。
案内されて建物に入り、ロビーと思われる天井が低い場所を通り抜けた先、そこにも扉があったのだが、その奥にある扉をシスターが開けてくれて、「どうぞご覧下さい」と進むように促されたので入ってみると。
「ひ、広い」
「大きい」
俺たち4人共、思わず声が出てしまうぐらいに驚いた。
建物の奥に向けて延々と続く座席、その先には説教台というのか、神父らしき人が話をするであろう演台があったり、高い天井とか左右に見えるステンドグラスで出来た窓とか、飾りっ気のない外観からは想像も出来ない中のだった。
そして正面の奥に見えるのは、編み物で出来た大きな絵というべきだろう、和風な着物を身に
また天井方向を見上げると、演台(説教台というのかも)の上の方には大きな木製で出来た十字架があり、キリストが
床にしても内装にしても綺麗に磨かれた大理石で出来ていて、床にある大理石には何か模様のようなものも描かれている。
正面左右にも、編み物で出来た絵画が掲示されていたのだが、左側の絵画には外国人の神父と共に戦国武将らしき人物が船に乗っている姿、右側には室内で手を合わせて神に祈りを捧げている戦国時代の姫君の姿が描かれていた。
おそらくは、絵に描かれている2人が玄関前にあった石像の人物なのだろう。
「……
視線が向けられたように感じたので、その視線の方向に顔を向けてみると、視線の先に見えた
(正面……何かあったのかな?)
その
おそらくはこの建物に入った人が目にする和装をしたマリア様の姿だったが、何かひっかかるというか、記憶にあるようなないような……そういう想いが心の中に浮かんでくる。
「何か思い出したのか」
「思い出すじゃないけど、何かひっかかるというかモヤモヤするというか」
「……そうか」
問いかけてきた
しばらく建物内部を見学ルートに沿って移動し、最後まで一緒に案内をしてくれたシスターにお礼を言ってから教会から出てきたのだが。
「ところで、今は『いつ』なんだろう?」
ここに来てから気になっていることを口に出してみる。
俺たちが元々存在している時代と同じ時間軸なのか、それとも
俺と
今ここで判断するにしても、材料というか手がかりが少なすぎる。そう思った俺は、ふと目に留まった掲示板のある壁面に
そこには教会からのお知らせやポスターが何枚か貼られているのだけど、順番にそれら掲示物を確認していくと、その中の1枚に『XX年度、礼拝予定表』との文字。
どうやら、この教会で行われる礼拝(「ミサ」というのだろうか?)の予定を信者さんに伝えるためのものらしい。
「9年前……なのか!?」
予定表に書かれていた年号は、俺たちが小学校に入学した年号を示していた。この予定表が正しいのなら、俺たち4人は少し前の過去に飛ばされたことになる。
「あ、写真もある……」
横から聞こえてくる
「どれどれ……っと、
俺を呼ぶ
そこには、キリスト教に入信するために信者となる人が受ける儀式の様子とか、祭壇で黒い服装をした神父さんが何か話をしている姿とか、この教会内部にある部屋で開かれたらしいクリスマス・パーティーの写真とかが貼られている。
教会でのクリスマス・パーティーなのだから、サンタクロースが登場しないかと言えばそうではなく、しっかりと赤と白でコーディネイトされたサンタクロースが、子供たちに囲まれて何か小さな紙袋を手渡している写真もあったりする。
サンタクロースも、確か、モデルとなった人物はキリスト教で「聖人」として
「へえっ、クリスマス・パーティーかぁ。うちらも、小学校の頃まではしていたね」
少し懐かしそうな感じで写真を見ながら話す
確かに、小学校の時は俺たちの親同士も仲が良かったこともあり、3家族合同のクリスマス会とかをしていた記憶はある。
具体的に何をしていたのかとかは、今ではすっかり記憶から消えているが、「パーティーをした」ということは俺も覚えているし、多分、そのことは
そのクリスマス・パーティーを撮した写真を見ようと、
「やっと会えた。久しぶりね」
俺たち4人に向けて呼びかけているのだろう、女性の声が背中から聞こえてきた。
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