EPISODE 04 春合宿 II
「ふぅん、『ミネルバ』って『知恵や工芸、芸術に戦術の女神様』ってことなのか」
「ローマ神話で言う『アテナ』と同じ女神様じゃないのかという説もあるらしい」
朝食を済ませ会議室に来ていた俺と
ベットに倒れ込むように眠ったのが深夜0時半頃なのだけど、あの不可思議な空間での出来事でよほど体力を消耗していたのかもしれない、熟睡というか爆睡をしていて起きたのが朝7時半を過ぎてからだった。
聞けば
「しかし、『
少しぼやくような感じで
外見も話し方も、おそらくはその思考も、ベースとなっているのは『
(個人的には『
目の前で本人を見ているだけに、どうしても彼女が
「ところでさ、
「なんだよ」
「
「ああ……それか」
眠っている
「よくは覚えてないのだけど」
そう前置きして
俺たちと同じように薄いピンク色の気体に包まれたのは同じだけど、能力とかはどうなのだろう。彼女の口ぶりからは俺たち4人全員が魔法少女っぽい能力を持つようになったと思えるのだけど、本当のところはどうなのか今の時点では不明だ。
いずれにしても、詳しいことは『
「ところでさ」
「
机の上にある時計の時刻を見ると、午前8時50分前を示している。
バイキング形式だった朝食、会場となっているレストランが
エレベーターが混雑で遅れていて、もうすぐ2人揃って来るだろう……それぐらいの感じで俺たちは思っていた。
ガシャン。
「おはよう……って、あれ、
俺たちの予想に反して扉を開けて入ってきたのは
「あ、
「おはようございます。って、2人と一緒じゃなかったのですか」
俺も
「……って、朝ご飯はあんたたち4人一緒じゃなかったの」
「俺たちは
俺たちの顔を見て「ビックリした!」と言うような顔をしている。
今の言葉からすると、
「フロントの前で待っていたけど、
俺の言葉をフォローするかのように
合宿の予定では朝8時が集合時間だったのだが、昨夜のこともあったので女子2人が遅れてきても良いように8時10分頃までフロント前で待っていた。
しかし、
「ごめんっ。あたしはさっき起きたばかりなの。それで、みんなに謝ろうと思って
なんてこったい。『
どうして、
あと、直接この合宿には関係していないけど、現実には顧問の西尾先生の代わりみたいな感じになっている
とはいうものの、
「分かりました。2人のことは俺たちが確認します。朝食のバイキングが閉まってしまうので、
朝食のバイキングは、開いているのは10時までだったと思うが、レストランへの入場時間は9時過ぎまでだったような気がする。
「分かった、ご飯に行ってくる。2人によろしくね」
そう言葉を残し
と、その時。
「遅れてゴメン……寝坊した」
「ごめんなさい」
旅館の廊下を走ってきたであろう
「あ、あんたたちも寝坊したんだ。それで朝ご飯は食べたの」
扉の前で鉢合わせする格好になった
「朝ご飯、食べてないです」
「それより、原稿を書かないと」
寝坊した分朝ご飯抜きで原稿を書くつもりだったらしいが、
「私も今から朝ご飯食べに行くところよ。まだバイキングやっているから、しっかり食べないと良い作品は出来ないよ」
ぐいっと
「ちょ、ちょっと……
「う、腕が痛いです。行きます、行きますからぁ」
しっかりと握られた2人が叫んでいるが、
俺と
「……
少し呆然としたような表情で
「じゃあ、俺たちは先に作業を始めるか」
「そうだな。日数も限られているしな」
扉を閉じると、俺たちはそれぞれのブースで原稿作りを始めることにした。
「しかし2人共、よく食べるねぇ。朝、あんだけ食べてまだ足りないの」
平日の月曜日とは言え、連休中ためか家族連れの姿を見ることが出来る、昨日と同じスーパー銭湯内にあるフードコート。
テーブルを挟んで目の前には女子3人が座り、こちら側には俺と
その
「だって、お腹が空いているんだもん」
少し
「でも、あたしとしては
自分だけが食べているんじゃないとは言いたかった
「
当の
まぁ、俺たちも朝からガッツリと食べていたので、
「あ、ここにいたのですね、ちーさま
「1年生、頑張ってるぅ?」
食べている手を止めて声がする方向に顔を動かしてみると、2年生の女子の先輩2人が立っていた。
水着の上からパーカーを羽織ってジャージを履いてますという格好をしているので、水着着用が必須のスーパー銭湯にある温泉プールに来たのだろうか。
「あんたたち、来てたんだ」
「混んでいるので、あとで
「みんな、またね」
そう言い残した女子の先輩2人は、フードコートの人波の中に去って行く。
「あの子たち、混んでいるところに来なくてもいいのに」
苦笑いというのか「仕方ないなぁ」という顔をしている
ちなみに、最初に『ちーさま
その
「先輩たち、2人だけで来た……ってことかなぁ」
「いや、
「だよねぇ。ボディーガードがいないと、あの子たちも来ないでしょ」
俺の問いかけに
確かに、大型連休で人が多い温泉プール、女の子2人というのはさすがに無防備すぎるか。しかし、男子の先輩たち2人も一緒に来ているのなら取りあえずは安心だと思う。そう思いながら残りのランチを食べ終えることにしたのだった。
昼食後、午後の作業に入る前に
「明日の夜の時点で、それぞれの原稿が半分は仕上がっているようにしてね」
「「「「はい」」」」
と返事を返したのはいいけれど、マンガ組の俺と
「で、
「今日は午後も部屋で勉強よ。絵の先生のところには明日行くから」
なんというのか「それがどうしたの」という感じで答える
午後の作業は午前と同じように各自が黙々と進めていくという感じだった。午前中は朝10時前だったか、
作業中は耳栓代わりにつけているヘッドフォン、パソコンに
昨日よりはペンタブレットにも慣れてきたことと、4ページ分の下書きを前もって準備してきたことが役立ったのか、俺の方は1ページ目から順調に描くことが出来ている。背景とか効果は極力後回しにしているというのもあるのだけど、先にキャラクターだけでも4ページ分描き上げることが出来れば、残りの目処が立ってくるという感じだ。
午後4時過ぎの休憩時間も、4人それぞれが飲み物を飲んだり菓子を食べたりしたのだけど、昨日みたいに何か話をするという訳ではなく、それぞれが自分の作品世界に集中しているように見えた。多分、俺も他の3人からはそう見えているのだろう。
集中して描いていると、どうも時間が流れていくのが速く感じる。
ヘッドフォンからキンコンキンコンというやや大きめな警告のアラーム音が聞こえてきた時には、時計は既に夕方の6時半を
作業を止めてブースを出ると、
「何の本を読んでいるのですか」
他の3人も同じようなタイミングでブースから出てきたのだけど、いち早く気づいた
「ああ、みんな集中していたんだね。ちょっと待ちくたびれたよぉ」
と言いながら、本の題名部分を俺たちに見せるように手を動かす。見ると何年か前にアニメ化された作品の原作小説で、確か、高校1年生しかいない部活で文集を作るみたいな話だった気がする。
「晩ご飯前にあの子たちが差し入れ持ってくると思うから、それを受け取ったら晩ご飯に行きましょ」
昼に会った先輩たち、そういえば差し入れがどうとか言っていたっけ。
そこそこ体力を使い果たしていた俺たちは、クーラーボックスから飲み物を取りだして飲んだり、机の上に置いてあるポテトチップスなどを適当に食べて、先輩たちが来るのを待つことにした。
隣りでは
そんなことをしていると、
「お待たせぇ、差し入れ持ってきたよ」
「原稿、予定通りに進んでいるかな」
と言っているのだけど、2人が持っているのは私物らしき布製っぽいバッグだけで、差し入れっぽいものは見当たらない。
「あ、先輩、こんばんは。差し入れって……」
いち早く気づいた
「今、持ってくるから」
明るく「大丈夫、大丈夫」と手をヒラヒラ動かしながら言う
「ほら、来たわよ」
「やっぱり、あんたたち4人で来てたんだ」
バウムクーヘンをかじりながら
「ちーさま、こんばんは」
「こんばんは」
段ボール箱を会議机の横に置いた男子の先輩2人、
最初に
身長は俺たちと同じぐらい(175センチ)で、パッと見ると『メガネ男子』という言葉が似合うのだけど、昔から走ることが得意らしく短距離の100m走や長距離の1500m走だけでなく、高校では4kmを走る持久走でも速いタイムを取っているとか。
後から来た
「先輩たち、温泉プールでずっと泳いでいたのですか」
「泳いだ後、リクライニング室で1時間ぐらい昼寝をして、風呂に入ってからフードコートで食事をしてきた」
受け取った段ボール箱を開けて中身を確認しながら尋ねてみると、
俺と
「ねぇ、
「時間があればとは思うのですが」
不意に
「気分転換に入ってくるといいよ」
「リクライニング室にあるソファー、気持ちよくてイイ感じに昼寝できるよ」
「だからといってあっくん、時間ギリギリまで眠るのはダメだよ」
「原稿の
ペットボトルに入った緑茶を飲み干しながら、
「じゃあ、わたしたちは帰ります」
「……へえっ、このお菓子の選び方は
「そうなんですか!?」
そんな話をしながら、時間も時間なので俺たちは晩ご飯が出来ている大広間に向かうことにした。
晩ご飯(今日は焼き魚がメインの料理だった)の後に風呂に入り、夜8時過ぎから作業を再開したのだけど、今夜は
なぜかって?
俺たち4人、それに
その続きがあるとしたら、作業が終わってからだろうという『暗黙の了解』というのか、お互いに決めた訳ではないのだけど、俺たち全員そのように思っていたのだろう。
作業の邪魔にならない時間となると作業が終わってから寝る前までの時間しか空いていないという事実もあるのだけど、心にモヤモヤした何かが残ったままというのも精神衛生上よろしくない、ならば早めに解決したいという気持ちが俺の中にあったのも事実だ。
そして多分
作業自体は順調というのか、明日の晩までには原稿の半分は仕上がりそうという目処が立っただけでも、俺自身としては「よしっ!」と少し安心できた部分だったりする。それでも夜10時を少し過ぎた時間までかかってしまったが。
「遅かったな、
会議机の前にあるイスに座って、
「
「順調……だけど、最後のイラストのカットが心配かも」
「了解。万が一の時は手伝うわ」
クーラーボックスからペットボトルのレモン水を取り出すと、空いているイスに座ってから飲むことにした。程良くレモンの香りがするのが心地良く感じられる。
ボトルの半分位まで一気に飲んだところで、
「あっ、
ブースから出てくるや否や「疲れたぁ」と大きく伸びをする
「みんな、お疲れ。
「ありがとう
兎にも角にも、4人全員の月曜日の作業はここで終了ということになった。
そして、作業が終わったと言うことは。
「また体力を使う時間が来るのかぁ、もう慣れたけどね」
どこか悟りを開いたかのような、そんな風にも思える
「ところで
「なんだい、
「
「『
少し考え込むかのような表情をすると、
「何というのかなぁ、自分であって自分でない感じかな。夢の中で何かしているというのか、自分が不思議な力を使って動き回っている時はしっかり覚えていたハズなのだけど、『
と
この
そんなことを思っていた時、
「ん……あれっ」
「小銭入れ……」
電車やバスに乗るときに使うICカード位の大きさの小銭入れ、色は赤いチェック柄というのか小銭入れにしてはお洒落かなという感じにも思える。中が膨らんでいるということは、何か入っているのだろう。
「誰か落としたの」
「……石!?」
小銭入れの口が開いた状態でその中を俺たちに見せてくれた。
俺や
「もしかして、2年生の先輩たちの持ち物では。ほら、晩ご飯前に
ということは、俺たちや
もし
どうして魔法みたいな摩訶不思議な力を持つようになったのが、俺たちや
ここまで来ると
ま、ここでうだうだと考えても仕方が無いことには違いないのだが、どうも心の中がモヤモヤするというか、これらの疑問をハッキリとしたいという気持ちが俺の中にあるのも事実だ。
「大事な物だったら、探しに来るとかするよな」
口が閉じられた小銭入れをつまみ上げながら
「うわっ!?」
薄くはない小銭入れの中から紅色の輝きみたいなものが発せられている。
「……これって
そのテレビアニメの中でしか見ることが出来ないような図形が目の前で描かれていくのを、「何が起こるのだろう」という思いで俺たちは見つめるしかなかった。
紅色の輝きで描かれた魔方陣、その円自体からも光が柱のように
次の瞬間。
昨日の夜と同じように、目をつぶっても光が感じられる位の
「……何が起こった」
まぶしさが消えた時に目を開けてみると。
ロンドンに住んでいる有名な私立探偵が活躍していた19世紀頃の西欧風な部屋、部屋というよりは広間と言った方が良い大きさの部屋の中に俺たちはいた。
片側は窓になっていてそこから光が入ってくるのだけど、日中なのだろうか、カーテンとかも無いその窓から部屋の奥まで陽が差し込んできている。
そして、陽が差し込んできている部屋の中央部分には、紅色の輝きを保っている
「そこに、誰か居るの」
と同時に、部屋の中にアンティーク調のソファーや机、ランプなど家具類が形作られていく。
そして、家具類がひとしきり揃った頃、輝いていた光の柱が消え
輝きが消えたのと同時に、
「
「
口調もどこか
立ち上がって俺たちの方に向き直った『
「はじめまして。あなたたち4人のリーダーとなる
部活の時とか、今日の昼間とかに接している
「じゃあ
「はい、
多分、
しかし、ここは魔法か何かの力で作り出された異空間とも言える場所であり、女子高生にしか見えない2人は、神様たちに仕える
「あ、さすがにお茶の1つもないのは味気ないよね」
机の上に置いた杖をチョンチョンとつつくと、机の上に人数分の紅茶の入ったティーカップと、中央に小皿に盛られたクッキーが現れた。宗教的な装飾をされているようにも見える杖が、それこそテレビアニメの魔法少女たちが使っているスティックみたいにも思えてくる。
「みんな、大丈夫よ。味わって食べてね」
率先するかのように
俺たちも思い思いに紅茶を飲んだりクッキーを食べたりして、少しばかり緊張感みたいなモノが無くなったのを見計らって
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