EPISODE 01 全てのはじまり
7日の入学式、そして8日の始業式から始まり、健康診断を兼ねた身体測定やら、部活勧誘期間やらも終わり、授業の方も1年では芸術系ぐらいしか選択科目がないということで、1年生の教室がある4階も、少しずつ落ち着いてきている感じがする。
そして、1年生・2年生は全員、原則として部活動参加という『文武両道』も学校方針の1つに従って、何だかんだと下校時間(通常は午後6時、冬場は午後5時半)まで、俺も含めた1・2年の大半の生徒が時間まで学校内のどこかに残っている、そういう生活に身体も慣れ始めてきたところだ。
俺と
ヲタク傾向のある俺と接点が無さそうに見えるのだが、いつだったかの席替えで席が近くなった時に、
そして、
だから最初、入学式の日にクラス分けに従って3組の教室に来た時、先に来ていた
「でも、なぜ
昼休み、3人で弁当を食べていた時、ふと気になったので尋ねてみる。
趣味とかといえば、俺や
「ん?俺は
弁当箱に入っているから揚げをつまみながら
「
「へぇ、ここの新聞部って、そんなに文章が上手い人が多かったりするのかい」
少し意外だという顔をしながら、
「上手いかどうかは分からん。でも、文章系のコンクールで入賞している先輩が多いというのは、勧誘の時の説明で聞いたっけ」
入学式の後の部活紹介の時、『若者の主張』みたいな真面目な論文、『ショートエッセイ』のようなやわらかな感じの文章、それらのコンクールで入賞しているとか何とか、そんなことを言っていたことは覚えている。
「
今度は逆に
「どうだろう。今のところは、秋にある新人戦に出ることが目標だから、そのことしか考えていないかも」
「そういえばさぁ」
一足先に弁当を食べ終えた
「
「
まさかと思ったけど、
「放課後、
「で、
「……はぁ!?
「そうじゃなくて」
あわてて「違う違う」と顔の前で手のひらを動かし否定する。
「先輩たちが聞いてくるんだ、
なんだそりゃ。部活で青春というよりは、彼女を作る方が優先ですか。
「で、同じ部活のヤツがいるなら、聞いておいてくれって」
「プライベイトな部分まで、立ち入って聞ける訳ないだろ」
新学期早々、上級生が下級生を物色してくるとは。まして、恋愛事情とな。
「でもさ」
食べ終わった弁当箱を片付けながら、
「俺の中学から来た奴らも、
一般的な男子高校生は、そういう評価をしているのか。
俺の中では、少なくとも
「知っていたら聞いておいてくれって。電車の中で連れに言われたこともあった」
他のクラスにも「あの子カワイイ」という女子がいたり、制服のリボンの色で上級生だと分かる女の子の中にも「綺麗な人だなぁ」と思う人はいるし、体育の時間、更衣室で着替えている時に、クラスメイトとそういう女子の話をすることもある。
しかし、そういう恋愛
「何か考えているの」
黙り込んだ俺を見て、
「いや、そういう対象にあの2人を思ったことがなくて、実感がないというか」
「
呆れた顔をする
「男子なら誰もがカワイイと思う、1組の
人の名前を覚えるのが苦手な俺でも、
「そういうものなのか」
「ああ、そういうものだ。だから、
「
「いいや」
速攻で否定しやがる、が。
「2人は悪い子じゃないというのは見ていても分かる。しかし、
キッパリ言い切った
「……という話があった」
「なるほどなぁ」
放課後、食堂脇にある花壇、そこにあるテーブル席に座ると、
部室に向かう前、飲み物とか買うために食堂に来るのも日課になりつつある。
女子2人はそれぞれ掃除当番ということで、先に食堂に来ていた俺のところに
「
出会ってまだ
「まぁ、そう思われるのは仕方ないよなぁ」
「だなぁ。さすがに、ガキの頃から一緒のヤツらは気にもしていないけどな」
「と言っても、誤解させたままというのも良くは無いよなぁ。俺たちは良くても、あの2人までそういう風に思われたくない」
変に誤解はされたくない。かと言って、今から急に接し方を変えてどうこうというのも違う気がする。
それに、俺たちが態度を変えたら変えたで、逆に疑うヤツが出て来るかもしれん。
「彼氏のフリをするというのも、それはそれで違うしなぁ」
そう言いながら机に置いたペットボトルを手に取ると、
「ところで、さ」
「なに」
空になったペットボトルをゴミ箱に入れながら、
「入学式の日、部室で
「……えっ」
一瞬、俺の中で時間が止まる。
「何か、驚きというか迷いというか、いつもの
手に持ったペットボトルのお茶を飲もうとして、途中まで上げていた腕を机の上に戻す。
「
「そっか……」
ありがたきは、幼馴染みでもある
その言葉を聞いて、俺も踏ん切りみたいなものがついた。
「分かった。良ければ聞いてくれるか、
「もちろん」
イイ笑顔でニコッと笑いながらも、視線で話すように俺に
部室で初めて
説明とかは、どちらかといえば俺が苦手な分野だ。どこまで伝わったのか分からない、しかし、
「う~ん、そうかぁ」
そう言ったきり、黙り込んでしまう。
「すまん。変な話を聞かせた。悪かった」
真剣に考え込む
「いや、これは大事な感覚じゃないのかな、
そう言った
「人の顔や名前を覚えるのが、どっちかといえば苦手な
「うん」
「でも、
「そこで、俺も行き詰まってしまって」
出会っているというのなら、どこで出会っていたのか。これまで何度も考えてはみたのだが。
学校、買い物に行く店やスーパー、最寄り駅、市役所駅のモール街、中心都市からオレンジ色の電車に乗り換えて向かう習い事教室、中心都市ターミナル駅にある巨大な本屋、ターミナル駅地下に広がる迷路のような巨大地下街……
自分の行動範囲で思いつく場所を頭の中で描いても、そのいずれの場所でも
「思い出すための手がかりが
「多分、そうだと思う」
手がかりが足りない、その通りだと思う。
しかも、その手がかりを探すキッカケというか、どこを探せば手がかりが得られるのか、そういうものすら浮かんでこない。
そして最後には、堂々巡りを繰り返してしまうのだ。
と、その時。
「お~い!
不意に肩を叩かれた俺たちは、声がする方向に顔を向ける。
そこには、「驚いた?」という問いかけをしている、いたずらっ子スマイルをした
「何、難しそうな顔をして向き合っていたの。ほら、部活の時間だよ」
そう言って、手に持っているレモン飲料のボトルを俺たちに手渡すと、
「今日は大切な話をするのだから、ちゃっちゃっと歩く!」
せき立てるような仕草をする
「あーっ、なんか恥ずかしいなぁ」
あまり目立ったことは、したくなかったのだけど。その気持ちは、俺だけではなく
「では」
「行きますか」
テーブル席を離れ、自分の荷物をそれぞれ手に持つと、背中に女性陣3名の視線を感じながら、俺と
「「「「合宿!?」」」」
1年生である俺たち4人、見事に?声をハモらせてしまった。
「そう、予定表にも書いてあったでしょ。
小学校の先生かのような口調で、
「期間は、1日の日曜日から予定では6日の金曜日まで。で、泊まるのは7日の土曜まで延長は出来るからね」
部活での冊子の発行が2月・5月・8月・11月の年4回、そのうち8月と11月は、日本で最も有名な創作系イベントに合わせるため、冊子と同時に映像や音楽が入ったメディアも出しているのだけど、2月と5月は文章やマンガといった「描く」ものが中心で、1冊の分量はそれほど多くはない。
時期や内容を見ると、2月は「卒業おめでとう」で5月は「入学おめでとう」という感じになるし、実際、部室にあった過去の冊子を見ても、そのような色合いが濃い内容になっていた。
また、家の事情で「どうしても、この日は参加出来ない」という時は、合宿から一時離れても良いことになっている。一応、未成年な俺たちが外泊をすると言うことになるので、入学の時、親に承諾書を書いてもらった記憶がある。
で、
希望としては1人あたり4ページは埋めて欲しいということだが、俺たちが担当するページ数の合計は応相談とのこと。
そして、合宿最終日の金曜日には、合宿場所から印刷所に出向き、営業時間内に入稿を済ませるという縛りもあったりする。
普通なら、ネットのファイル転送サービスを利用した入稿と、メディアに出力して宅配便で印刷所に送付する形での入稿で印刷所に原稿を届けるので、その都度印刷所の窓口まで持って行く必要は無いのだけど、新1年生には高校3年間お世話になる印刷所の人たちとの顔合わせ、そして印刷のやり方とかを勉強するという意味もあって、初めて作ることになる5月分の冊子については、実際に原稿を持ち込んで入稿まで済ませるのが部の方針だという。
だから、実際に原稿が制作可能な日数となると、印刷所に持ち込むための移動時間分が差し引かれるので、正味5日間プラスアルファぐらいとなるし、そこから逆算して、5日間で仕上げることが可能な原稿の分量となると、4人で合計32ページというのは、実際には結構ハードルが高いことになる。4人で16ページでも
「ま、今年に限っては、少なくとも3人経験者がいるから心配ないと、
俺と
姉貴よ、後輩である
「
「原稿を描いて、載せて
いつだったか、
出会ってまだ半月ちょっとなのだが、この2人が話している姿を見ると、どこか血の繋がった
「ん、大丈夫!?」
耳元に響く
「
「い、いえすみません。なんでもないです」
「本当ぅ?」
少し大げさにも思えるような感じで、
「ふ~~ん、分かった。意識がどこか別方向に行っているのかと思った。じゃあ、続けて説明するから聞いてね」
……その言葉に反省しながらも、姉貴たちが
一通り配るモノだけ配り終えた
大体の内容は
ちなみに、使い慣れているペンタブレットとかは、自宅から持ち込み可ということなのだが、部室にあるモノの方が使いやすいのなら、それを持って行っても良いとのこと。
渡された合宿の手引き書の冊子、まずは、合宿場所と印刷所の位置を確認する。
この両方の間がどのくらい離れているか、移動にどれだけの時間が掛かるのかによって、原稿の最終締め切り時間とか制作するペース配分が変わってくる。
こちらの方が気になったので、巻末に書かれている合宿所と印刷所の住所や名前を確認する。
が、印刷所については
そして、合宿所の名前を確認するのだけど、見慣れない名前が書かれていた。
「
「ん?
隣りから
古くから天然温泉や大きな滝、秋には
この老舗のホテル、家族で泊まりに行ったことは覚えているのだが、『
「なになに、何か気になることがあるのかなぁ」
俺たちの様子を見ていた
「ん~っ、『
「まぁ、いいか。原稿作りがメインだから、落ち着いて出来ればいいや」
「そうだよなぁ。ページ数とか考えると、準備万端にしておきたいな」
日程とか時間の割り振りとか、
「……
目を開くと、見慣れた
「朝早いけど、校門の前で寝るなよ」
両肩を
今日は5月1日の日曜日、朝の7時半過ぎ。
どうやら俺は、夢の中で数日前のことを
休日の学校内を突っ切る訳にもいかないので、裏口である東門から入るのを
まぁ、昨日の夜中過ぎまで、原稿の準備というか、素材データとか作っていたので、寝不足であることには違いなかったが。
「寝るのだったら、先生の車の中で寝ろ。風邪を引いても知らんぞ」
呆れた顔をしながらも、
5月といえども、周囲が山で囲まれている
「ありがとよ」
自分でジャケットのファスナーの位置を直すと、視線で正門前の道路を確認する。
「
ベンチの向い側、正門前にあるコンビニ方向にも、それっぽい女子の姿は見当たらない。
「時間的には、来ても良いと思うけどなぁ。7時45分集合で、今は35分過ぎだし」
左腕にはめた腕時計で、
「
部活の顧問でもあり、
電車でも最寄り駅から2回乗り換えた終点、
そんなことを考えていると、正門に続く坂道を歩いてくる人影、それが徐々に大きくなってくる。
「
少し息をハァハァさせながら、黒いキャリーバッグをベンチに立てかける。
「おはよう、
「おはよ。朝から元気だな」
「元気じゃないよ、
そう言い残し、
「
「まぁな、親を起こすのもアレだし、自分でトーストとかハムエッグとか適当に作った。という
「姉貴
姉貴もどこかに出かけるらしく、「アンタの分も作ってあげる」って言っていたっけ。で、姉貴
手に持った小袋の中には、ペットボトルの紅茶に野菜のサンドウィッチ、そして蒸しパンが入っている。そういえば、昔から蒸しパンが好きだったよな、
「本当、好きだなぁ。蒸しパン」
「美味しいから、いいじゃない」
小袋をベンチの上に置き蒸しパンの袋を取り出すと、「えいっ」と開けるや否や笑みを浮かべながら食べ始める。
「ハムスターがひまわりの種、手に持って食べてるみたいだな」
「何よ、それ」
突っ込みを入れる
何も食べずに坂道を登ってきたのでは、腹が空くのも当然というものだ。いつもなら何かしら反論する
「もうすぐ時間だけど、
と、俺はふと気づいた。
「なぁ、
部活が始まってこの3週間余り、下校する時は俺たち1年生4人一緒だったりする。で、坂道を下った先、メイン道路沿いにある商店街と交わる交差点、そのアーケードのところまで行ってから解散という形だ。
そこから先、4人それぞれ別方向に向かうので、
「ん……池から少し下、幼稚園が近いって言ってた」
このリバーハイツ、簡単に言えば、南北である縦が長い
そのメイン道路から北に向かうのは基本的に登り坂となり、反対に南に向かうのは下り坂という地形だ。
また、
商店街から西に向かって徒歩で5分ほどの場所、メイン道路のほぼ真ん中辺りにその北端が接する形で広がっていて、池のほとりは雑木林に囲まれていたりする。
ちなみに、俺の家だけでなく、
「あれ、2人共
野菜サンドも食べ終え紅茶を飲み干した
池のほぼ真下、道路2本分隔てた区画に幼稚園の表示があって、そこから少し左、池の南端からだと斜め左下あたりを、
「あたしも直接
昭和の高度成長期、
で、商店街やスーパーはおろか、メイン道路もまだ完全に出来上がっていない本当に最初の頃、
「商店街からも結構遠いよな、それにずっと登り坂だ」
「でも、時間が時間だし……」
と言いかけた俺は、視線の先にだんだん大きくなる人影を確認する。
「あ、来た来た。よかったぁ」
「遅れてごめんなさい」
校門の前に到着して、息を切らせながらもぺこんと俺たちに頭を下げる
「いいよいいよ。とりあえず、コンビニで何か飲み物でも買っておいで」
「ありがとう」
指定の集合時間、7時45分を過ぎて50分になろうとしていたけど、冊子に書いてあった出発時間が午前8時なので、風紀委員でもなければそう気にする問題ではない。
「眠気覚ましに、俺も何か買ってくる」
それにしても、起きてから1時間は過ぎているのに未だ眠気が取れる気配がない。それどころか、この調子だと本当に車の中で寝てしまいそうだ。
目で「行ってこい」と語る
「あ、
「まだ眠気が取れなくて」
清算中の
本当は、ブラックコーヒーとかが良いのかもしれないが、朝から続けてコーヒーというのは胃に悪そうなので、ペットボトルに入った濃いめの緑茶をチョイスする。あと、鮭のおにぎりでも買っておこうか。
レジを済ませると、入口の前で
「ん、どうかしたの」
「早かったね」
俺が店を出るのに合わせて、
「あ、これ濃いお茶でしょ、
「言うほど
手に持った袋の中を見た
部室でも、俺たちだけでなく先輩たちにも話しかけたり質問する姿をよく見かける。そういう点でも、
「眠気覚ましに、そのお茶、わたしも飲んでみようかな」
「苦いと感じても、俺は責任持てないよ」
最初は無口な方だと思った
2人でそんな話をしながら正門前に戻るが、先生と
「そろそろ時間だよね」
時計の時刻は午前7時59分、あと1分で合宿の出発時間だ。
ガシャン……ガタガタガタン。
アーチ型の屋根で
「へえっ、ゲートの開け閉めって自動なんだ」
目の前で動いていくゲートを見ながら、思わず言葉が出てしまう。自動で開いていくゲートを、受付の外に出てきた警備員さんが見守っている。
俺たちがいるベンチとは反対側、そこには屋根の支柱と一体となった受付の建物があって、警備員さんの
「ん、日曜日も運動部は部活をするのか」
「どこかと試合でもするのかなぁ」
吹奏楽部以外、日曜日に文化部の部員が学校に来ることはまずあり得ないのだが、運動部だと他校との交流試合とかで
ゲートが完全に開いたのを確認するかのように、待っていた自転車の一団が校門を超える姿が確認出来た。
その時だった。
正門から続く道路の途中、駐輪場に向けて左折する生徒の横を黒の大型車(ミニバンというのか?)が通り過ぎ、ゆっくりとした速度で正門に向けて近づいてくる。警備員さんの横で一時停止をした後、再びゆっくりと正門を超えて校内から出てくると、斜めというか、左折するような形で俺たちのいるベンチの前に停車する。
校内に車が入っていくのならまだしも、逆に校内から現れたということで、俺たち4人、何が起きたのか理解出来ていなかったのだが。
「おはよう。みんな、
開いた助手席側の窓から、安心したかのような
それでもまだ、事態が把握出来ていない俺たちなのだが、
「……
いち早く立ち直った
車の横にあるスライド式のドアが開くと、車内の中央から後ろにかけて座席が2列あって、その後ろには、荷物を積み込めるスペースが見える。
荷物スペースに俺たち4人分の荷物を置くと、前に
俺たちが座ったことを確認した西尾先生は、ドアを閉めて車を走らせ始めた。
「驚かすつもりはなかったんだけどなぁ」
「
「でも、なんで先生は校内にいたのですか」
「宿直も兼ねてかな。学校が長く休む時、部活に出てくる生徒たちに対応出来るように、交代で泊まり込むこともあるんだよ」
夏休みや冬休みにような連続して休みが続く日には、部活とかで学校に出てくる生徒に対応するため、常駐する警備員さんの他に先生たちが交代で泊まり込みをすることがあるのだとか。
「そうなんだ。で、
「あんたたちに渡す上級生の作品データを作っていたの」
2年生の先輩たちが期限ギリギリまで作っていたので、学内のサーバーに保存しておく分とメディアにして俺たちに渡す分、その2つを作るのに土曜日の放課後では終わらなかったとかで、朝の6時半過ぎに学校に来て続きをしていたという。
「ちゃんと先生に許可証を出してあったから、裏門の警備員さんが通用門を開けてくれたよ」
「……ん、
正門ではなく裏門からという言葉を聞いて、思わず俺は尋ねてしまう。
「あれっ、言ってなかったっけ。昭和団地だよ」
昭和団地というのは最寄り駅より電車で北に向かって2つめの駅、その東側に広がる大規模開発団地のことで、リバーハイツとほぼ同時期に開発が始まったこともあり、昔から
確かに、
正門前で俺たちを乗せて出発した車は、東西を結ぶメイン道路まで下っていくと東に向きを変えた。
このリバーハイツから外に出るには、東側を南北に走っている国道に出るか、西側を同じく南北に走っている県道に出るかのどちらかを通ることになる。
が、国道沿いには私鉄の最寄り駅があることや、国道を南へ5分程度行った場所には大型スーパーやロードサイドショップが集まっていること、また、南方向に15分程度走ると都市高速の出入口があることから、少なくとも縦断道路より東側に住んでいるのなら、東側の国道に出る人がほとんどではないのかなと思う。
入学式の前日に訪れた携帯ショップや、ショップの後に家族で行った定食屋も、この国道沿いにあったりする。
そして、普段の日曜日の朝がどんな状態なのかは知らないけれど、今日に限って言えばメイン道路はそこそこ混雑していた。
混雑していると言っても、渋滞で長い時間止まっているという訳ではなく、普段の日曜日よりも車の数が多いとか、赤信号で止まっている時間がやや長く感じられるという程度ではあるが。
だんだんと車内がエアコンで暖かくなってくると、朝早かったこともあるのか、運転している先生以外、顔を下に向けて眠り始めていた。
窓側に座っていた俺も、寄りかかってくる
次に俺が目が覚めたのは、車が登り坂を走っていると感じられた場所だった。
窓の外を見ると、緑色の木々が道路の脇を埋めているので、
「これ、どこを走っているのですか」
こちらも目を覚ましたらしい、
「お、起きたのか。裏道をショートカットして温泉に行く途中だ」
あっけらかんとした感じで先生は答えてくれる。その自然体のような話し方、確かに『仏の
先生が言うには、国道に沿って一度南に出て大回りするよりも、温泉の西に位置し桜の名所でもある
その分、道路には曲がるカーブが多くて、身体が左右に揺らしていくことになるのだけど、寝起きの身体にはちょうど良い振動みたいな感じだったりする。
「ほれっ、着きました」
温泉街に入って少し走らせた所に、目的地である
先生の声を聴いて車外に出て、目の前にある建物を確認する。
「着いたぁ~~っ!」
真っ先に声を上げたのは、やはりというか
この旅館、簡単に言えば、スーパー銭湯を中心に温泉旅館と温泉療養施設が両側から挟むような形になっていて、旅館部分を改築した時に名前を『
以前の旅館の名前を聞いてみると、「ああ、何か聞き覚えがある」という感じだったりもする。
先生が旅館のフロントで宿泊手続きをしている間、従業員さんたちが俺たちの私物を運んでくれたのだが、合宿で使うプリンターとかは俺たちで手分けして持って行くことになり、2往復して指定された会議室に持ち込むことが出来た。
が、さすがは温泉旅館と言うだけことはあるのか、会議室の前に『私立
しかも、フロントからは土足ではなくスリッパを履いてカーペットの上を歩くことになるのだから、俺だけでなく
会議室から戻ってくると、先生から4人それぞれに部屋のカードキーとスーパー銭湯用の小ぶりのカードを渡されたのだった。
旅館にも大浴場はあるのだけど、温泉についてはどちらに入っても良いのだそうな。
「じゃあ、俺は一旦帰るからな。事故とかケガとかだけは気をつけるように」
先に宿泊費の精算とかを済ませると、駐車場の方に歩き出す先生。なんでも、合宿期間中はご家族でこの旅館に泊まるとかで、迎えに行くためにご自宅(市役所駅の近くだそうな)まで戻るのだという。
「毎年のことだから、いいんじゃない」
そう言ってのけるのは
「あれっ、
1年生だけの合宿なのに、
「わたし?わたしはここで受験勉強よ」
自信満々に答える
「さて、会議室の配置とか先に片付けちゃいますか」
先生を見送った俺たちは
「これで問題なく作業できるわよ」
やり終えたという満足そうな顔をして話す
「で、
余ったLANケーブルを片付けながら
1年生である俺たち4人はここで初めて聞くことになるのだけど、
このことは上級生の先輩たちや先生方は知っていたのだけど、「美術部に入部して美術だけしか知らないというのは嫌だ」という
そして、その絵画教室の先生が関係する美術展が、
「ん、わたしは一度部屋に戻ってから、先にご飯に行くわ」
俺たちに説明をし終えて、会議室から出ようとする
「あの、食事、出来れば一緒に食べませんか、朝と晩だけでもいいので」
「多分、あたしたちも相談とかすることが出てくると思いますし」
「お願いします」
「一緒に食べてください」
ここは女子2人に合わせて、俺たちも深く頭を下げるのだった。
「……あんたらには負けるわ。ご飯、一緒に食べましょ」
どこかホッとしたようにも見える
「じゃあ、4人も部屋に戻って準備して。フロントの前で待っててね」
こうして、俺たち4人の合宿は始まったのだった。
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