23

「……」



まぶたを開く。


窓から差し込む太陽の光が顔に当たって、自然と目が覚めた。



「……今何時だ?」



枕もとの時計を確認すると、時刻は6時半。いつもよりだいぶ早い。まだ目覚ましも鳴っていない。



「……起きるか……」



布団から出て、支度をする。


まだ少し頭はボーっとするけど、二度寝するほどでもない。


……寝つきがよかったんだろうか? あんな夢を見てたのに?



「……おはよう」



部屋を出る際、誰ともなく挨拶をする。


そのままの姿勢で目線だけを窓の外に向けると、よく見知った隣の家の壁が、まるで新築のように視界に映った。







「……」



朝ごはんを食べ終え、余った時間をただ無為に過ごす。


お袋もすでに仕事で出ていったし、こんな静かな朝を過ごすのは久しぶりだ。



「……あ、携帯」



そろそろ家を出ようとしたところで、携帯を自分の部屋に置きっぱなしだったことを思い出す。


別に必須なわけでもないが、無いなら無いで不便なのは変わりない。


時間もまだあるし、思い出したのなら取りにいくべきだろう。







「メールは……って、来てるわけないよなそんなの。……いや、来てるっ?」



部屋から携帯を取りにいった後、玄関先で軽くメールをチェックする。


いつもの綾小路からのメールだ。あいつ……なにもこんな律儀に毎日メール送ってこなくてもいいってのに。しかも最近は数が増えてるし。


今年に入ってから一体、何度あけおめメールを見たことか……。



「……っ」



メールを確認するのと同時、ふと思い立って、無駄な行動を取ろうと指を動かした。


――連絡帳の確認。携帯を持った日から今日に至るまで、そこに新たな連絡先が登録されたのは、今まで指を数えるほどしかない。


そしてその中に、俺の身近な人間が三人いる。一人はお袋、もう一人は綾小路。そして最後の一人は……。



「……なんてな。最後の一人なんていねーよ」



携帯をしまって、鞄を持つ。


少し早いが、そろそろ家を出よう。ここにいたところで、なにもしない事ぐらいしかやることがない。



「いってきます」



誰ともなしに言って、いつものように家を出る。


目端にうつる、ほんの数メートルの距離に隣接している見知った家。


その誰の気配もない家の庭先を必死に目に入れないようにしながら――俺は、朝の閑散とした通学路をひとり歩くのだった。







「……」



足を動かして、ただ前に進む。


一月の中頃、季節は冬のまっただ中。防寒具を装備したとして、どうあっても寒いのは変わりない。


寒さを感じないように、俺はただ無心に、足を前に動かす作業を続けた。



「くそっ。やっぱもう少し、家であったまっといたほうが良かったかな…………ん?」



ふと立ち止まり、学校へと伸びる道の先を眺める。


曲線を描くようにしてそこにある、舗装された通学路。


アルファベットのCの形で例えられるその坂道は、登校してくる大多数の生徒にダメージを与え、別名、死のスクールロードと呼ばれているとかいないとか……。



「……まだ時間、あるよな?」



とまぁ……そんな話は今は置いておいて。


なんというか今はその、少し時間も余ってるようだから……多少寄り道して時間を潰すのもいいかなって。


そんな風に思うんだ、俺は。



「よしっ」



さっきまで無心で動かしていた足は、いつの間にか意思をもって動き出していた。

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