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「これでも昔は結構、活動的だったんだよ。でもいつからだったかな……徐々に外に出るより、家にいる事の方が多くなってきてさ。誰かに誘われない限り、休みの日でもずっと家で過ごすようになったんだ」



それで今は外に出るにしても、栞里とが多くなったってわけ、と俺は最後にそうつけ加える。



「それはいわゆる、『ぼっち』というやつではないのかい?」


「違います」


「そうなのかい?」



本当に疑問そうな顔で、首をかしげる綾小路。


すぐ否定したが、反射的にそう言っただけで正しくは合ってる。


てかそこで天然発揮すんのかよ! 前から薄々感じてはいたけど、まさか天然の天然だとは恐れ入ったわ!



「……とにかくそんなわけだから……栞里としては、俺がどこか出かける予定を立ててるって聞いて、どうしてなのか疑問に思ったんだろ。活動的なガンガンいこうぜタイプだった俺が、完全受け身ないのちだいじにタイプになって、また元に戻った。そりゃまぁ、驚きもするわな……うん」



自分で言ってて納得してしまった。


栞里からすれば、俺が栞里を置いて誰かと一緒に出かけようとするのは、まさに珍しさの度合いを越えた出来事に違いないのだろう。


優曇華(うどんげ)の花――なんて言い方もあるが、そもそもその出来事は俺が誤魔化すためについた嘘なのだから、実現することはない。


大体、目の前でクレープの残りを口に放り込んで、もにょもにょと咀嚼しているこの天然は、今の話の『誰か』の部分が一体誰の事を指してるのか、果たして理解しているのだろうか?



「?」



いや、わかってない。


この顔は確実にわかっていない。


それか栞里のことだから、俺が誰かとどこかに出かけるという部分を抜粋しただけで、もしかするとそこまでは話していないのかもしれない。


……どちらにしろ、今の話はノーということで、帰ったら栞里にもそう言っておこう。


と、頭の中で結論を出し、綾小路の方に向き直ると――



「――ふむ。ならば、冬休みは僕ともどこかに出かけるとしようじゃないか」


「……へ?」



まっすぐな目で、そう言ってきた。


……いや、確かに……誰かに誘われない限り外に出ないって、さっきそう言ったばかりだけどさ……。



「そうと決まれば、早速予定を立てなければ! お腹も膨れたことだし、僕はこれから帰って冬休みの計画を練ることにするよ。では、さらばだわが親友よ! 栞里さんによろしく!」


「あっ、ちょっと待っ……」



俺の制止を華麗にスルーし、綾小路はいつからそうだったのかわからないいつもの上半身裸姿で、商店街を激走していった。



「……」



あまりに怒涛の流れすぎて、持っていたクレープのチョコがいつの間にか溶けきっていたことにさえ、今まで気づかなかった。


どうしてこうなったのかまるで見当がつかない。



「なんか……実現しない話が、実現することになった?」



口に出して、なんとなくだが理解する。


つまりはそういうことだった。


天然って怖い。俺はつくづくそう思った。



「……」



ふと周りを見ると、こっちを訝しんだ目で見ている何人かの人たちが目に入る。上半身裸で走っていった綾小路のスタート地点が俺の隣だったからだろう。


ポケットティッシュですっかりしおれてしまったクレープの周りをふきながら、俺は商店街をあとにした。



「……ま、別にいっか」



最後に出たのは、一聴すると諦めにも見える、そんな言葉だった。

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