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「起立、礼。では、これでHRを終了する。……次会うのは年が明けてからの人が多いだろうが、くれぐれも問題を起こすんじゃないぞ? 学生たるもの、節度を保って……」


「ひやっほおおおおおうううううううこれで明日からは遊び放題だあああああああああああああい!!!!!」


「予備校いかなきゃ」


「ふふっ……これでようやく、学校という精神的拘束から解放される……この日をどんなに待ちわびた事か。思えばあれは夏休み最終日。僕は涙を呑んで、次に来たるべき冬休みを遠く待ち焦が……」



12月も後半に差し掛かったころ。


教室で今年最後のHRが行われて、その解放感から、クラスメイトが各々のコメントを口に出していた。


締めの言葉をさえぎられた担任はため息をついていたが、その表情はどこか嬉しそうだ。そんな生徒たちの姿を見て、若いっていいなとかそんな事を思ったりしたのかもしれない。


で、そんな中、俺はと言うと。



「……昼飯どうするかな……」


「呼んだかいわが親友!?」


「呼んでませんので、ひとまず今日のところはおかえりください」


「なにを言う! 今日帰ると、次会うのは来年になってしまうではないか! そんなの僕の我慢が持つわけないだろう!?」


「我慢ってなんだよ。てかさっき、学校という精神的拘束から解放されるとか言ってたけど、年明けたら逮捕とかやめてくれよ。恥ずかしくて学校名出せないじゃん」



すると、綾小路は声を震わせながら、何故だか自分の目頭を押さえ始めた。



「……くうぅー…! まさか、君が僕の心配をしてくれるなんて……! 僕は今ほど、自分がこの世に生まれたのをうれしく思った事はないぞ! 友情の証として握手をしてくれまいか!」


「そんな皮肉にまみれた友情、俺は嫌だな」



騒々しい綾小路とのやり取りを終え、鞄の中に机の物を詰め込みながら、俺は教室の時計を見上げる。


……12時を少し過ぎた辺り。やっぱり、帰る途中でどこかに寄ってくか? さすがに家帰ってカップ麺だと味気ないしな。


けど、一人で定食屋なんかに入るのはちょっとばかし抵抗があるというか。まぁ、あまり行ったことないからよくわかんないだけなんだけど……うーん、どうしよう……。



「なにをそんなに悩んでいるんだい? とにかくまずは帰るとしようじゃないか。考え事は歩きながらでもできる」


「おう、そうだな。そんじゃ帰るとするか」



そう言って鞄を持ち、俺は教室を出た。


綾小路の言った通り、悩むのは歩きながらでもできる。定食屋は少し厳しいかもだが、それも帰りながら考えればいいか。







なだらかに続く下り坂をこえ、住宅街に差し掛かったあたりで、隣を歩いていた綾小路が急に思い出したように口を開いた。



「そういえばさっき、君は教室で昼ご飯がどうとか呟いていたね? もしかして、これからなにを食べるか、それでさっきからずっと悩んでいたのかい?」


「……」


「む? どうした、そんな目で僕を見て」


「なんか普通に一緒に帰ってたけどさ」


「うむ」



俺は立ち止まり、同じように足を止めた綾小路の方に向き直ると、



「俺、お前と帰るの何気にはじめてなんだが。なんか違和感がもの凄い」


「……ふっ」



綾小路は、真実を明かされたラスボスさながら、何故だか目をつむって不敵な笑みを浮かべる。正直意味がわからない。


まぁ、強いて言えば……春先に不本意ながら一緒に帰ることになった事実はあるにはあるが、結局のところ、あれは俺が栞里の補習の様子を確認しにいった事でうやむやになったはずだ。


だから、本当の意味で一緒に帰るのはこれがはじめてということになる。



「そう、これはあえて言わないようにしていたのだがね………。つまるところ、これは君と僕が真の意味で親友という関係になるための、いわばそういった壁を乗り越えたという……」


「オッケイ、全部理解したぜ。話はそこまでだぜ」



長くなりそうなのがすぐにわかったので、早々に会話をぶった切る。


そもそも疑問を浮かべたのは俺の方なのだが、よくよく考えれば、今までこいつと一緒に帰らなかったのは単にタイミングが合わなかっただけだろう。


綾小路は放課後になると大抵、誰かと話していたりする。


時にそれはこいつの見せかけの筋肉につられた部活連中からの勧誘もあるが(てかほとんどそれかもしれない)、それが理由で今までなんとなく一緒に帰るということがなかったという、ただそれだけの事だった。



「しかしまぁ、本当のことを言えば、君とこうして帰れるのは嬉しいことでもある。栞里さんが先に帰った事や、その結果、君が昼をどうするか考えないといけなくなったことも含めて、今日はなにもかもタイミングが合ったということだろうね」


「……あれ? もしかしてお前、それがわかってた上で俺を誘ったのか?」



もちろん、と綾小路はキメポーズよろしく、自分の髪をかきあげながら言った。



「まぁ、わかっていたのはそれだけで、君が昼になにを食べるつもりなのかは今から知ろうとしていたところだが。で? これからどこか食べにでも行くつもりなのかい? もしよければ、僕もついていっていいだろうか?」


「……」



綾小路が今言った通り、今日は栞里は職員室に用事があるからといって、俺に先に帰るよう朝からそう言っていた。


待っている必要がないのは、HRが終わってすぐ栞里が教室を出ていったのもそうだが、『ごめん、お昼はなんとかしてね?』――と事前に聞いていたのが一番の理由だ。


なので俺は昼になにを食べるか、道中ずっと考えていたのだが、結局こうして決められずにいた。これも今まで栞里に全て任せきっていたからだと、今さらながら思い知らされる。



「……ああ、わかった。でもまだ何食べるかは決まってないんだ。一応、さっきからずっと考えてはいるんだけど」


「ふむ、ならまずは外で食べる事を前提に、あらかた店をチョイスしようではないか。それも歩きながら決めていこう」



綾小路は歩みを再開すると、どこか悠然とした態度で住宅街を進んでいく。その光景に変わらず違和感を覚える俺だったが、今は何も言わず、ただ黙って綾小路の後をついていくのだった。

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