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「……ふぅ。なんかうまくいかないな……」



とりあえず街を一通り見て回った後、駅近くのデパートに入った。


デパート内のベンチにもたれかかりながら、手洗いに行った栞里を待つ間、俺はこれまでの成果を言葉に出して嘆く。



「別に、会話そのものは変じゃないんだけどな……どうしても意識が抜けないっていうか。ああくそ、こんなことなら自覚なんてするんじゃなかっ……」



……うん。でもきっと、それは無理な相談だ。


近いからこそ気づかない……なんて世間ではよく言うが、近いからこそ気づくことだってある。


そして幼なじみという関係だからこそ、気づいてしまった時には、他の比じゃない全身を雷がつらぬくような衝撃があって。


たとえばそれは、贔屓目に見なくても、栞里が間違いなく同年代の中でも可愛い部類に入っていることだったり。そんなやつが、夏祭りに浴衣を着てきたらそれは間違いなく可愛いに違いなかったり。


さらに言えば、そんなやつがキャンプファイヤーの火が見える屋上で、俺のほっぺにキスなんてしたら……。



「うわああああああああああ!!!! だめだ、もう全くこれっぽっちも普通にできそうにねえええええええええ!!!!」



と、周囲の人たちから奇異の視線を浴びながら、頭をかきむしっていると、



「? なんだ、メール……?」



スマホを取り出して確認すると、綾小路からメールが届いていた。


ちなみに、文化祭でメルアドを交換してからというもの、綾小路からは毎日、何かしらのメールが届く。



『今なにをしている?』


『僕は筋トレの真っ最中さ』


『今日もサンプルを取るために、町を歩いてくるよ。もちろん狙うは小さな子供たちさ!』



……なんて、万が一警察にでも見られたら即逮捕されるに違いない文章を、返事なんて期待してないとばかりに俺に送りつけてきやがる。


サンプルというのが、他人から見た自分の肉体の出来だとか。そのサンプルを取るには、正直な子供に聞くのが一番だとか――そんな隠された事実は、日本の警察の方相手には、一切通用しないことだろう。


まぁ、だとしても変態だというのは変わらないけど。



「なになに……『進捗のほどはどうだ?』だって?」



進捗も何も、なにも進んでる気がしないんだが……。まぁでも、ここでネガティブな事を言うのもあれだから、自分を鼓舞するためにも前向きに書いて送ってみるか。



件名『問題ない』


『すべて順調だ。そう思いたい。けどヘタレな俺がそうしてくれない』


『幼なじみがこんなにも辛いものだなんて、俺知らなかったよ。……なぁ、それでもお前は俺がなんとかやれるって、そう信じてくれるか?』



「って前向きに書くつもりが、今までで一番ヘタレすぎること書いちまった!」



スマホが震える。返信が来たようだ。



件名『大丈夫だわが親友よ』


『僕は君を信じる。それだけだ、他に言葉はいらない』



「……くそっ、なんか普通にかっこいいじゃねーか!」



あいつのことだから、冗談じゃないのが文章からも伝わって、余計申し訳ない気持ちでいっぱいになる。



「でもそうだよな……元はといえば、なんとかやってみるって言ったのは俺の方なんだ。……いつまでも足踏みしてないで、いい加減なんとかしないと……」


「なんとかするって、なにを?」


「ふへえぇっ!?」



ぴょこんと、栞里の顔が俺の視界にフェードインしてくる。


本日二度目の高い声を上げてしまった……間抜けにもほどがあるだろ俺。



「ま、まったく……いきなり声かけるなっての、びっくりするだろ」


「? なんか匠がひとりでぶつぶつ呟いてたから。で、なんとかするってなんの話? 匠が部屋に隠してるエッチな本の場所がわたしに知られてること?」


「おい、ちょっと待て。どうしてお前が俺の所有物の場所を把握してるんだ?」



そっちの方がびっくりなんだが。果たしてこやつどうしてくれよう。



「知ってるわけないじゃん。てか匠もそういう本持ってるんだね。なんかわたし、安心したよ」



ちきしょう、誘導尋問ちきしょう!


……本当に間抜けすぎる俺だった。

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