6

俺は、とにかく行動的な子供だった。


学校では、休み時間になるといつも外で遊んでいたし、それは家に帰ってからも変わらない。


時代錯誤の田舎小僧よろしく、虫取り網をもって家を飛び出した俺は、ふと隣の家に目をやった。


……引っ越してきてからここ数日、あいつの姿を見かけたことはなかった。


学校では同じクラスに転校してきたから、厳密には毎日、顔を見ているわけだけど。



『……』



さっきドアを開閉する音が聞こえたから、多分家には帰ってきているのだろう。


あいつのお父さんとお母さんは、いつも夜にならないと帰ってこないし、それまであいつは外にも遊びにいかず、家でひっそりと大人しく過ごしているのだろうか?


学校でも、誰かと話してる姿を見たことはない。


転校してきてまだ数日だが、クラスに馴染めないというよりは、馴染もうとしないように見える。


……少し気になって、俺は小さな体で、囲い越しにそいつの家をのぞき込んだ。



『ん、んんーっ……見えない……っっ……』



当たり前だ。こんな位置からではなにも見えるはずなかった。


俺の家とそいつの家は、ただ隣り合ってるだけだから、中を覗こうとしても、玄関側から庭先に回り込むしか術はない。


だが、そんなことをしたらいくら子供とはいえ、ただの不法侵入だ。そんなことは、子供心ながら理解はしていた。


でも、どうしても気になってしまう。それはおせっかいだとか、興味心だとか……そういうのとはまったく違う感情で。



『よろしくね、匠くん。栞里も今度、匠くんと同じ小学校に入るから――よかったら仲良くしてあげてね?』



ただ俺は、そう――挨拶に来たうちの一人である、あの女の人の言った言葉が、なんとなく頭の隅をよぎってしまったから。


あと、せっかくだし遊びに誘ってみようと思っただけ。どっちかと言うと、こっちの方が理由としては大きい。


当時の俺は、おそらく、そこまで深く考えてはいなかったのだ。



『……よし』



ピンポーン……。


インターホンを鳴らして、ドアの前で待ち続ける。


待ち続ける、の言葉通りに、しばらく経っても中から人が出てくる気配はなかった。


はぁ、とため息まじりにドアを再度一瞥し、踵を返した瞬間――がちゃりと、背後からドアの開く音がした。



『(……あ)』


『……』



ドアから出てきた少女は、自分の方へ振り向く俺のことを、怪しい目で観察していた。


だが俺は、そんな視線なんてどうでもいいと。気になんてしないと。


ただ自分の言いたい事だけを、目の前の少女に言ってのけた。



『……一人になるな。外には、もっと面白いことがいっぱい転がってるんだから――』

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