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そんなわけでいきなり時間を持て余すことになった俺たちは、とりあえず親メンバーが着くまで文化祭を適当に回ることになった。


ちなみにここから去る前、電話したあとに持ったままだった俺のスマホを見て、



『はっ……そういえば僕は君の携帯のアドレスを未だに知らないぞ! わが親友よ、君はこの由々しき事態を一体どう思う!?』



……なんて、綾小路がいきなり詰めよってきた事実もあるにはあるが……俺のスマホを貸して、綾小路が直接アドレスを自分の携帯に打った結果、二人は無事メル友になったというそれだけの話である。


それ以外に特に語ることもない。



「じゃあ、まずは軽く腹ごしらえでもするか。学校着いたら一度電話くれって言っといたし、それまでに屋台まわるだけまわってみようぜ」


「うん、そうだね……」



どこか乗り気じゃない物言い。


おそらく綾小路への申し訳ないと思う気持ちが、食欲より圧倒的に勝っているのだろう。



「なんだ、まだ気にしてるのか? でもその代わり、二日目は俺たちが代わりに働くっていう条件で変わってもらったんだし、それでおあいこってことになっただろ。なら今日はそれに甘えさせてもらうことにしようぜ。あとで綾小路に差し入れでも持っていってさ」


「……うんっ、わかった。なら今日は遠慮なく文化祭を楽しむことにするよ。気遣ってくれてありがとうね、たくみ?」


「……お、おう……」



なんで俺が感謝されるんだ?



「ふぅ……安心したらなんかお腹すいちゃった。匠、まずは外に出よ? 他の出し物を見ようにも、まずはなにか食べないといけないしね」


「他の出し物って……どうせ全部、食べたり飲んだりするだけのところだろ?」



もちろんっ、と言って栞里は満面の笑みを見せる。


しなくてもいい心配と、しなければいけない心配を解決して……これからようやく本当の意味で、俺たちの文化祭ははじまるのだ。






案の定、それからはとにかく食べてばかりだった。


その小さな体のどこにそれだけの量が入るんだと、俺は栞里に何度か聞いてみたのだが。



「カー〇ィ理論です」



なんて意味の分からないことを言うので、それ以上は深く追及しなかった。


屋台をほぼ全部コンプリートすると、次は校舎の中に展開された喫茶店をまわりはじめる。


普通の喫茶店として店を開いているものもあれば、俺たちのクラスのようにろくでもない要素をプラスした喫茶店もあった。


メイド、執事、男装、お化け。


……こうして見ると、俺たちに負けず劣らずのゲテモノが揃っているな、と思う。


しかし一方で、女装男子疑惑はともかく、男装ならもしかすると大丈夫だったんじゃないかと思わなくもない。


というか、我慢できず栞里に聞いてみた。



「せやね」



即答だった。



「でもそうなっちゃたものは仕方ないしね。あるがままを受け入れるのも人生の常だとわたしは思うよ」



男前だった。







「ずずっ……。う~ん……お茶と和菓子のコンビは、この世の何物にも負けない至高の組み合わせだと思うな~」


「いやまぁ……たしかにその通りなんだけど」


「どうかしたの匠?」



俺は持っていた湯のみを置いて、隣に座る栞里に向き直って答える。



「いくらなんでも食べすぎじゃなかろうか。あと遅い」


「食べるのが?」


「親が来るのが」


「電話はまだ来てないの?」



言われて、スマホを確認する。


メールが二件来ていた。一件は俺の母親からで、もう一件は綾小路からだ。


とりあえず母親の方を開けてみると、そこには件名なしで、



『栞里ちゃんのご両親と話し込んでて遅れちゃった☆ あと少しで着くでごわす(*^-^*)』



と書いてあった。


……少しだけイラッとする文面だが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。メールが届いたのは今さっきみたいだし、そろそろ学校に着く頃だろう。


綾小路のほうも一応、開いてみることにする。


『なんとかやれているぞマイブラザーブラザー』



おそらく続けて入力してしまったんだと思うが、そうじゃなくて、本気でそう入力しているかもしれないと考えてしまうのがあいつの恐ろしいところだ。



「……電話は来てないけど、もうじき着くってメールが届いてた。今から校門にいけば、おそらくタイミング的にちょうど合流できると思うけど」


「ならそろそろいこっか。まだ少し食べ足りないけど、どうしてもの時はあとでもう一度茶道部〈ここ〉来ればいいんだし」


「これで食べ足りないとか、甘いものは別腹ってのにもほどがあると思うんだが……」



しびれた足を我慢しながら正座から立ち上がり、俺たちは茶道部の甘味処をあとにした。


その時、「匠、携帯鳴ったんじゃない?」という栞里の言葉に、俺はポケットにしまった携帯を再び取り出す。


送り主は綾小路からだった。件名は『マイブラザー』だったので、文面を開かないまま、俺はそのまま携帯をポケットの中に戻したのだった。

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