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「はぁ、はぁっ、はぁ……。なんとか振り切れたか……」
なりふり構わずあちこち走り回り、最終的に校舎棟の一階までやってきた。
これだけ遠回りをすれば平気だろう……と思いきや。
「待ってくれわが親友よ。そう逃げなくていいじゃないか」
「うわっ、全然ふり切れてないっ!?」
何故だか上半身裸のクラスメイト……綾小路が、荒ぶった変なポーズを取りながら目の前に立っていた。
てか今さらだけど、結局お前が学校でまともに服着てたのって春先の数週間だけだったな。少し前の体育大会だともはや……いや、思い出すのはやめておこう。
「ふっ、休憩時間に廊下を歩いていたら目の前に君たちの姿を見つけてね、声をかけようと思っていたところだったのさ。
だが、なにやら二人は取り込み中。これは声をかけるかかけまいか……そう悩んでると、わが親友である君が、栞里さんの頭に手を置いたではないか!
これはもしや相当に込み入った事情なのでは……と思いつつも、ここで声をかけるその勇気こそが、僕たちの真の友情の試金石になるのだと……」
「長いわ! あと後半なに言ってるのか全然わかんねぇよ!」
荒ぶったポーズのまま、ふふっ……と頬を赤らめる綾小路。意味が分からない。そして素直に気持ちが悪い。
だがそれを口に出して言うとコイツは何故だか喜ぶので、俺は苦虫をかんだような表情だけで、間接的にその気持ちを伝えることにした。
「あ、もしかして話終わった?」
隣を見ると、俺と綾小路のやり取りを微笑ましい表情で眺めている栞里がいた。ちなみに手は俺と繋ぎっぱなしだった。
なんとなく気恥ずかしさを感じながら、俺はそっとその手を放した。
「ああ、ひとまず話は終わったよ栞里さん。僕たちの友情という名のマッチングコミュニケーションがね!」
「そっか。うん、ならよかったよー」
お前、絶対意味わかってないまま会話してるだろ。
「綾小路くんも休憩って言ってたよね? お客さんの入りは相変わらずな感じ?」
「盛況も盛況、未だ落ち着くところを知らないって感じかな。ピークはもう過ぎ去ったみたいだが、栞里さんや僕が抜けたことで結果として忙しくなってしまっているようだ」
「うーん、それは大変そうだね……。でもわたしも綾小路くんも朝からずっと働きっぱなしだったし、労働基準法だと6時間以上働くと休憩がいるし……」
……いや、なんか真面目そうな話してるとこ悪いんだけど……俺はこの、そこはかとなくカオスさがにじみ出る場から一刻も早く抜け出したんだが……。
「そういえば、君は他のクラスの偵察に行っていたのだったな。どんな感じだった? 僕たちのクラスに比べて」
「……え? あ、えっと……どこもたいして人は入ってなかったな。まぁ、やってること比べたら当然なんだろうけど」
急に話をふられて、あわてつつも俺は冷静に綾小路に言葉を返す。
「なるほど……なら多少、客入りが悪くなっても、学年上位に関してはひとまず心配ないといったところかな。実のところ、声をかけようとしたのはその事を訊くためでもあったのだよ。まあ、正直な事を言えば、その事が2、単に友である君と話したいだけという理由が8といった割合だが」
もちろん友というのは君もだよ、と綾小路は栞里にむかって補足する。
栞里もありがとー、とか返すのはいいが、そんな雰囲気を作られるとさっき逃げた俺がバカみたいなので勘弁願いたいものである。
「と、いつまでもこうしてるわけにもいくまい。ようやく取れた休憩だ、この間に少しでも文化祭を見て回らなくてはね」
「え? お前、もしかして本当にそれを訊くためだけに、俺たちに声かけたのか?」
「なぬ? わが親友よ、もしかして君は僕と一緒に文化祭を回りたいのかい?」
「……」
せめて服を着るならそう思う気がしないでもない……が、なんか微笑して「ふっ」とか言ってやがるし。ていうか、上半身裸は一般来場者がいる今日に限ってはやめておいた方がいいんじゃなかろうか。
――なんて注意は、この格好のまま女装喫茶で働いていた時点でするべきだったのだと思うが、なんか途中から受け入れられていたみたいなので、やっぱり特に心配はないと思う。
多分。
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