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「綾小路、マシンの方は任せたぞ」



普段から肉体がどうとか脱ぎ散らかしては筋肉美を披露しているのだから、こういうことは専売特許だろう。



「任せたまえ。僕が君のために彼女へと続く唯一つの架け橋を作らせてもらうとしよう」


「さぁ、準備はできましたかー? 3問答えられた方から先の競技に進めますので、ランニングの方はどうぞ走ってください!」



放送部の合図とともに低い音を立てて、ランニングマシーンもといトレッドミルが動き出す。


最初はゆるやかに、しかし確実にスピードに上がっていくその挙動に、ああ、確かにトレーニングをするにはあれはいいかもなと思った俺だった。


今後そんな機会は一切訪れないだろうけど。



「はぁっ、はぁっ、ひぃっ、ひぃっ」


「では第1問! お店にはない季節はなーんだっ?」



よしっ。


はじまっていきなり息切れを起こしかけている綾小路が心配だが、これくらいなら問題ない。



「秋!」


「はい、正解!」



どうやら他のタッグを組んだ連中も、この辺りは難なく答えることができているらしかった。



「では、第2問! 1マイルは1.6km。じゃあ1シーマイルは何kmでしょうかー? 小数点第三位までお答えください!」


「へぇっ、へっ、へぇえっ、うぇっ」



ヤバイ! 綾小路がもう限界だ! てか限界早いなお前! しかも、いきなり地味に難しい問題だし!



「えーっと、えーっと……1.852kmだ!」


「おっと、一組だけ正解者がいたようですねぇ」



ふぅ、何とか記憶から手繰り寄せた数字はまちがっていなかったらしい。とりあえず答えてみるものだ。



「綾小路、あと一問だからな……」


「ま、まかせたまえっ……っ」



自慢の肉体とやらは、スタミナとは何ら関係なかったらしい。いや、でもそうだとしてもここまでしてくれるなんて……綾小路のためにも、この勝負、絶対に取らせてもらうっ!



「第3問! アリが10匹います。そこから連想される言葉ってなーんだっ?」


「おぇっ、うぅっ、ぶっ、ぃょっ……」



今にも倒れてしまいそうな、もはや気持ちだけで何とか耐え凌いでいる綾小路には本当に頑張ってもらった。心からそう思う。


そして、そんな死にかけの知り合……友人に向けて、俺は最高の言葉が送れると思った。



「回答をどうぞ!」


「ありがとう!」







「さあ、競技も残すところ、あと一種目となってしまいました。選手のみなさんも既にかなりの疲労が身体に襲い掛かっているように思われますが、最後の種目は借り物競争です!」



戻ってきたグラウンドに設置されていたテーブルの上のボックスに腕を突っ込む。ここに記されていたお題のものを持ってゴールすれば、この長い長い競技からもようやく解放されるんだ。


周りもぞろぞろと集まり始めている。あまりゆっくりはしていられない。


ここでの運は、おそらくそのままゴールへと直結する。



「簡単なのこい……!」



そう強く願って、取り出した紙切れには――



「……えっ?」



そして、次の瞬間には――俺は急いで来た道を逆走していた。

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