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「まずはトラック10周4kmマラソンだあ! ウォーミングアップ代わりの中距離走に何人の男たちが勝ち残るのかぁッ!」



……き、きつすぎぃ……。


次々と倒れていく男たちの巨漢を飛び越えながら走り抜く4kmはさながら障害物走だ。一周を90秒ほどで走るペースも辛いが、このジャンプして着地という動作がなかなかに身体に響く。



「はぁっ、はぁ、日頃から走っておけばよかった……っ」



何とか先頭集団に食らいつきながら、俺は己の怠慢さをぼやいた。







「おっと、今度は二人三脚だあっ! これは非情な競技だッ! 敵である相手とタッグを組まなければいけないこと、運動能力の違いなど、あらゆる面を把握したうえで慎重にペアを選べなければ、一気に優勝が遠のくぞぉッ!」


「くそっ、こんなん誰と組めばいいんだよ……」



メンバーを探すため、慌ただしく周囲に視線を動かしていると、



「僕はどうだい?」


「お、おまえは……」



そして、頼もしいその声の主の正体に……俺は度肝を抜かれる事となった。



「ご名答! 生きる天然記念物、綾小路命とは僕のことだよ! そして、またの名を競技荒らしのヴィーナスと呼ばれている」


「って、またお前かよ! なんか今日の出番多くないっ!? それと夏には屋台荒らしのヴィーナスとか言ってなかったか!?」



って、何を真面目にこいつの相手をしてるんだ俺は! そうしている間にも、他の奴らはどんどんスタートしていってるっていうのに!


そんなツッコミを心の中で繰り返す俺に反して、綾小路は冷静な様子だった。手のひら側が上を向くようにして作られたその拳には、足を結ぶためのロープが握られている。



「さて、ここからが本番だ。栞里さんのことを助けるのだろう?」


「おまえ……」


「ふっ、感動に咽び泣くのはあとにしよう。僕たちの友情を前にすれば、こんな些細なことは貸し借りに値しないさ。それに、栞里さんは君が一番でゴールするのを今か今かと心待ちにしているはずだろう?」


「……おう」



すげぇ身勝手な話かもしれないが、今だけはこいつがとも……知り合いで良かったと不覚ながら思った。



「って、お前のその汗だらけの身体のどこを掴んで走ったらいいんだッ!?」



結局、綾小路の身体から分泌されたヌルヌル(という名の汗)を我慢しつつも、俺たちは無事ゴールにたどり着くことができた。


……なんかいろいろな意味で泣きそう。







二人三脚から解放されると、俺たちはグラウンドから抜け、校舎前にやって来ていた。



「さあ、お次はクイズ&ランニング! 今お組みになってるペアの方と協力してクイズに答えてもらいますよ! ですが、解答するのはお一人だけです! もう一人には走ってもらいます!」


「トレッドミルのお出ましか……!」



妙に気合の入った物言いで、綾小路は目を見開く。その視線の先には、なんだかどこかで見たことのある大袈裟な機械が数台並べられていた。



「トレ……なんだそれ?」


「いわゆるランニングマシーンのことを指す正式名称さ。おそらく、あれを片方が走って、もう片方はクイズに答えるという形式を取っているのだろう」



あ、なるほど。何かのテレビで似たようなシーンを見たことがあるような気がする。


ランニングマシーンで走る方はその走行距離で解答時間を稼ぐわけだ。その稼いだ時間を持ち時間として使って、クイズに答えるのがゲームの主旨なんだろう。

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