2019年12月11日
人の流れに逆らって、人が少ない場所を目指して歩いていく。綺麗に整えられた向こうとは違い、物が繁雑に置かれている中で、友人は鉄の扉を開けた。非常口だろうか。
こちらを振り向きもせず、進むものだから、扉に書かれていた字を読むことなく、私も扉の向こうへと歩みを進めた。
階段だけが上下に伸びた空間で、足音が反響する。前を行く友人に遅れをとらないよう、私は急いで階段を駆け下りた。果てしなく続く階段が無い、床がある空間に下り立つと、もう地球の真ん中まで降りた気がするほどであった。
息を切らしつつ、友人について行く。彼女はまた現れた鉄の扉をノックした。
扉を開けたのは、見窄らしい男であった。乱れた白髪に黒縁の眼鏡を身につけた様は博士と言うに相応しいと感じた。友人は白髪の男と言葉を交わす。その間、私は扉の奥から聞こえてくる怒号にも似た騒音に怯えていた。大きな音は苦手である。
友人と男が話している間に扉の向こうで電話が鳴った。白髪の男は私たちはそのまま待機するよう言い、紙束を渡して来た。
受け取った紙束を私にも渡し、友人は階段に腰掛けた。彼女は案外、怖いもの知らずである。私はただついて来ただけの怠惰な人間である。
扉が閉まる直前、檻とその中で叫ぶ生物がいた。おそらく人型だろう。長髪を振り回し、檻を力の限り揺さぶっているのを見た。さっきの怒号はアレが発していたのだろう。
私はただ、友人について来ただけの人間である。人の流れに逆らって、階段を駆け下り、彼女の背中を追って此処に辿り着いただけの矮小な人間である。なので、未知のものを見ると当然、恐怖しか感じないのである。隣で資料を読み込む彼女のようには到底、なれない。
扉が閉じる。音はもう反響しなかった。
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